安価でクリーンなリチウム抽出技術を手掛けるNovalith:電池の需要増で環境対策が急務(2/2 ページ)
電気自動車(EV)の普及に伴い、リチウムイオンバッテリーの需要も増加している中、電池の製造に関連する環境対策は急務になっている。オーストラリアのスタートアップNovalith Technologiesは、リチウムイオン電池製造が直面する課題解決の一端を担う技術を手掛けている。
現行手法の問題点
TDK Venturesによると、Novalithが開発した技術は、あらゆる種類のリチウム電池駆動製品のコスト効率を高められるだけでなく、電化社会のアプリケーションや材料調達プロセスにおいて確実に生態学的なメリットを実現することが可能だという。電池製造で使われる、“汚染をまき散らす材料”のサプライチェーンについては、論争を呼ぶ問題となっており、電化への動き全体に対する主要な批判対象とされている。
既存の製造手法は、時間やコスト、環境への影響などの面で困難に直面している。標準的な技法としては、以下のものがある。
- 従来型の鉱石採鉱:リチウムを含有する鉱床を探し出すためには、多大な労力を要する昔ながらの作業が必要
- ブライン抽出:地下や鉱さい池などにたまった液体堆積の中に溶解しているリチウムを、大量の水と化学薬品を使用して回収する
TDK Venturesによると、いずれの手法も、膨大な時間とインフラ初期費用を要するという。
Achyuta氏は、「現在業界で行われているのは、オーストラリアから中国にスポジュメン濃縮物を輸送し、従来のリチウム化学処理(硫酸処理)を適用するという方法だ。焙焼や酸浸出を行い、面倒かつ時間のかかる不純物除去処理によってシリカやマグネシウム、カルシウムなどのさまざまな不純物を除去してから、ろ過や精製を行い、ソーダ灰を追加して炭化させ、分離と転化を行う」と述べる。
このプロセスは、膨大な量の化学物質や試薬を使用する上、炭素排出量やエネルギー消費量も多く、有害な副産物や鉱さいが発生し、大量の固形廃棄物を埋立処理する。それに対してNovalithの手法は、はるかにシンプルなフローシートで、二酸化炭素を回収し、水を再利用し、有害な副産物が生じることもない。また、バッテリーグレードの炭酸リチウムや水酸化リチウムを高速かつ高コスト効率で製造することができる。Novalithの技術を既存プロセスと比較した場合の大きなメリットとしては、処理/装置関連のコストを50%以上削減可能であることや、水の使用量を90%以上削減できること、有害な大型廃棄物が出ないこと、リチウム化学物質精製量1トン当たりの排ガス量を半分未満に削減可能であることなどが挙げられる。
TDK Venturesは、Novalithの開発プロセス全体を通して、技術マイルストーンや、商業化への進展、将来的な資金調達、企業としての成長など、全面的なサポートを提供していくとしている。
Achyuta氏によると、その一環として、開発チームの構築や、主要人材の採用、マーケティングや法務でのサポート、さまざまなビジネスけん引力やパートナーシップ構築などのチャンスを紹介するといったサポートの他、トップクラスのベンチャーキャピタルによる次の投資ラウンドでの資金調達を支援し、開発チームや企業が次なるレベルへ加速するための戦略も支援していくという。
【翻訳:滝本麻貴、田中留美、編集:EE Times Japan】
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