ChatGPTは怖くない 〜使い倒してラクをせよ:踊るバズワード 〜Behind the Buzzword(18)(1/11 ページ)
ある日突然登場し、またたく間に世間を席巻した生成AI「ChatGPT」。今や、ネットでその名を聞かない日はないほどです。このChatGPTとは、一体何なのか。既に数百回以上、ChatGPTを使い倒している筆者が、ChatGPTの所感をエンジニア視点で語ってみたいと思います。
「業界のトレンド」といわれる技術の名称は、“バズワード”になることが少なくありません。“M2M”“ユビキタス”“Web2.0”、そして“AI”。理解不能な技術が登場すると、それに“もっともらしい名前”を付けて分かったフリをするのです。このように作られた名前に世界は踊り、私たち技術者を翻弄した揚げ句、最後は無責任に捨て去りました――ひと言の謝罪もなく。今ここに、かつて「“AI”という技術は存在しない」と2年間叫び続けた著者が再び立ち上がります。あなたの「分かったフリ」を冷酷に問い詰め、糾弾するためです。⇒連載バックナンバー
「文章嫌い」を劇的に変えた、あのマシン
私は、文字を書くのが嫌いな子どもでした。
小中学生の頃に強要された「漢字の書き取り」は拷問でした。ですから、「大工」という漢字を、毎日100文字書いて、提出していただけでした。右の書取りノートを見ただけで、今でも、嘔吐感が込み上げてきます。
私は、文章を作るのが嫌いな子どもでした。
「毎日の日記」の記載と提出に至っては、何を書いて良いのか分からずに、毎日、以下の3行フレーズを、『てにおは』を変えて提出するだけでした。
今日は、天気だった。
今、お風呂から上って、いい気分だ。
明日もいい天気かな
上記の「大工100文字」の書き取り、そして、「3行お風呂日記」を毎日提出していましたが、別段教師から叱責されたことはありません。私だけでなく、教師の方も『こんなもの、どーでもいい』と考えていたことは明らかでした ―― このようなくだらない無駄が、対象をいろいろ変えながらも、高校卒業まで続きました。
ところが、この私の、『文字を書くのが苦痛、文章を作るのが嫌い』を、一瞬にしてひっくり返すものが登場します ―― ワードプロセッサ(ワープロ)です。
私の記憶の中にある最初のワープロは、液晶画面に10文字しか示せず(本当)、自分が、今、原稿のどの辺を書いているかは、その液晶上のビュー画面に切り替えて確認するしかない、というものでした。
『確か、購入したのは大学の1年生の秋だった』という記憶と合わせて調べてみたところ、多分、そのワープロは、右図(東芝JW-R10)であったと推認されます。
なぜ私が、当時の最高級の機械(ワープロ)を使えたかというと、パソコンショップの店員をやっていたからです。『自分が使えないものは、お客様には売れない』と思いましたので、パソコンショップで、マニュアルと首っ引きで、使い方を勉強していました。
そうしているうちに、そのパソコンショップの広告やら、商品説明のラベル(今でいうところの”ポップ”)の作成なども頼まれるようになりました。
そして、私は、店員割引価格で購入したJW-R10によって、人生のシンギュラリティポイントを迎えることになります ―― 第2の江端の覚醒です。
覚醒後の私は、大量文章製造マシンと化します。自分が思考する速度で、そのまま文章が書けることに驚き、頭の中を全部文章で書き出す勢いでした。しかしながら、その道のりは険しいものでもありました。
大学在学中、私はワープロで書いた手紙を友人に出して、友人から「思いが伝わってこない」と非難されました。大学に「ワープロで作成した実験レポート」を提出した時には、大学教授からは『手書きレポートしか受理しない』と言われ、ワープロの文章を、再度手書きに書き直しました(本当)。
しかし、大量文章製造マシン・江端はくじけません。会社に入社後には「日立こぼれ話」という内部暴露コラムを、定期的に友人や親類に『紙に印刷』して『郵送する』という、(今になって思えば、手紙を受けとった人には随分な迷惑な)行為に及びます*)。
*)未公開の「日立こぼれ話」 総計456話は、私の退職後に、一斉公開予定です。
その当時、電子メールを使える人はごく一部の人間でした。電子メールを使う人は、『オタク』と言われて、世間から石を投げられる存在だったのです。しかし、私は大量文章製造を止めようとは思いませんでした ―― ラクだったからです。
そして、今回のコラムの趣旨は、この『ラクは正義である』です。
編集担当Mさんからの、1本のメール
こんにちは、江端智一です。
ご報告が遅れましたが、私、2022年10月、社会人大学院に入学しました。その動機や経緯や詳細については、おいおいお話させていただきたいと思いますが、社会人と大学生の両立は、私の想像を越えた世界でした。どういう世界かというと、『激務で、入院がスコープに入ってくるくらい』でした。
まだ、半年しか経過していませんが、既に大学院の入学を後悔し始めています。しかし、皆さんに語るべきネタは格段に増えました。この大学のネタだけで2〜3本くらい、コラムが書けると確信できるレベルになっています。
そういう背景があり、EE Times Japanの編集担当のMさんに事情を説明し、『倒れますか? 書きますか?』という感じの『恫喝(どうかつ)』『ご相談』をさせていただき、私の執筆の頻度を調整していただいています。
ところが、先日、Mさんから、珍しく、以下のメールが届きました。
江端様
お世話になっております。
次回以降の原稿につきまして、ご相談です。
「お金に愛されないエンジニア」の続きも読みたいのですが、「踊るバズワード 〜Behind the Buzzword」として、ChatGPTを取り上げていただけないでしょうか。
ChatGPTはまさしく「バズワード」になっていて、技術的な優位性と社会的な問題点とが、毎日のようにアップデートされ、カオスになっていると感じます。この辺りで、江端さん視点で語っていただきたいのです。
一度、江端さんにChatGPTのテーマを取り上げていただく、ということが重要なので、結論が「よく分からん」「興味がわかない」などでも構いません。
ご検討いただけますと嬉しいです。よろしくお願いいたします。
編集担当M
このメールを見た瞬間、
―― やはり、来たか
と思いました。
最近、NHKのニュースでも、ChatGPTについて毎日のように報道されていますし、新聞ではトップニュース扱いです。そして、これまでのAI技術のアプリケーションとしては、最も多くの人に使われていることは間違いありません。なにしろ、こんなラクなインタフェースで使えるAI技術のアプリケーションは、人生でもめったに出会えるものではありません。
例えば、「江端智一について教えて」と入力するだけです。こんな感じで。
このMさんからのご依頼は、私にとっても「渡りに船」のお話でした。
私は、こちらの連載「Over the AI ――AIの向こう側に」において、ちゃんとした根拠と自分なりの検証結果を用いて、”AI幻想論”を繰り返し主張し続けてきました。
しかし、このChatGPTと出会ってからは、『もしかしたら、私の"AI幻想論"は、壊れたのかもしれない』という、疑問(というか恐怖)を感じました。何しろ、本当の人間が、私の質問に応えているかのように感じられたからです。そして、実際にこのChatGPTを仕事や大学の勉強に使い倒しており、その便利さに、今なお、驚き続けているからです。
「非常に優れたメンター、またチュータが、私の横に座っているかのような安心感」は、これまでのAI技術にはない経験で、私の”AI幻想論”を激しく揺らしていたからです。
ですので、前々から、『ChatGPTについて、チャンスがあればちゃんと調べて理解したい』と、と思っていたのです。
現時点で、ChatGPTは、課題山積の成長過程にあるAI技術であるのは事実です。例えば、上記の「江端智一について教えて」に対する4月29日のChatGPTの回答は以下の通りでした。
この「江端智一」なる人物が、α世界線、β世界線、はたまたシュタインズゲート世界線の江端智一なのか、私には分かりません*)が ―― ともあれ、
―― 今日も、ChatGPTは、盛大に、私を爆笑させています。
*)関連記事:「「シュタインズ・ゲート」に「BEATLESS」、アニメのAIの実現性を本気で検証する」
それでは、始めたいと思います。
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