NVIDIAの「GPU祭り」はまだ序章? 生成AIブームは止まらない:湯之上隆のナノフォーカス(76)(5/5 ページ)
NVIDIA製GPUの需要が高まる“GPU祭り”は、今後どうなっていくのだろうか。本稿では、AI(人工知能)サーバの出荷台数のデータを読み解きながら、NVIDIAの“GPU祭り”の行く末を予想する。
本格的な生成AIブームはこれから到来する
ここまでをまとめてみよう。DIGITIMES Researchのレポートによれば、ChatGPTクラスの生成AIの開発と稼働が可能なハイエンドAIサーバは、2024年にサーバ全体のわずか3.9%しか出荷されない見通しである。この出荷台数は、CSPの需要を全く満たせていないと考えられる。
ということは、2023〜2024年のNVIDIAの“GPU祭り”は序章に過ぎなかったといえる。従って、本格的な生成AIブームはこれから到来することになるだろう。その根拠を以下に示してみよう。
図10は、米国半導体工業会(Semiconductor Industry Association、SIA)が公開した用途別半導体市場とその将来予測である。SIAによれば、2030年に世界半導体市場は1兆ドルを超える。
そして、2030年時点で、最も規模が大きい市場はComputing&Data Storageである。この中には、PCとサーバ(もちろんハイエンドAIサーバも)が含まれるが、PCの出荷台数が飛躍的に増大するとは考えにくいことから、サーバがその多くを占めるだろう。
そして、Wired Communicationは、データセンタ向け半導体を意味する。ということは、2030年に、Computing&Data Storage(3300億ドル)+Wired Communication(600億米ドル)=合計3900億ドルが(PCを含む)データセンタ向け半導体であり、これが世界市場で最も大きな規模を占めることになる。
もう一つ、図11に示したデータセンタ市場とその展望を見てみると、2022年にChatGPTが公開されて以降、データセンタ市場は右肩上がりに増大すると予測されている。そして、データセンタには、Network Infrastructure、サーバ、ストレージの3要素から構成されているが、2023年から2029年にかけて、サーバとストレージが、それぞれ約2倍に成長する予測になっている。
このように、(ハイエンドAIサーバを含む)サーバ用半導体が世界市場の最大規模を占めるようになり、データセンタ市場も拡大していく。
最後にもう一度繰り返す。これまでのNVIDIAの“GPU祭り”は前夜祭だった。本格的な生成AIブームはこれから到来する。
お知らせ
2024年12月10日(火)13:00〜16:30に、サイエンス&テクノロジー主催のセミナー『23-24年のNVIDIAの“GPU祭り”は序章に過ぎない−これから訪れる本格的な生成AIブームとその羅針盤−』を開催します。詳細はこちらをご参照ください。
筆者プロフィール
湯之上隆(ゆのがみ たかし)微細加工研究所 所長
1961年生まれ。静岡県出身。京都大学大学院(原子核工学専攻)を修了後、日立製作所入社。以降16年に渡り、中央研究所、半導体事業部、エルピーダメモリ(出向)、半導体先端テクノロジーズ(出向)にて半導体の微細加工技術開発に従事。2000年に京都大学より工学博士取得。現在、微細加工研究所の所長として、半導体・電機産業関係企業のコンサルタントおよびジャーナリストの仕事に従事。著書に『日本「半導体」敗戦』(光文社)、『「電機・半導体」大崩壊の教訓』(日本文芸社)、『日本型モノづくりの敗北 零戦・半導体・テレビ』(文春新書)。2023年4月には『半導体有事』(文春新書)を上梓。
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