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「新しい資本主義」をエンジニア視点で考えてみる「お金に愛されないエンジニア」のための新行動論(8)(1/9 ページ)

今回は「新しい資本主義」について考えてみます。きっかけは嫁さんの「新しい資本主義って何だろうね」というひと言。これを調べていくと、「令和版所得倍増計画」なるものの実施が絶望的に難しそうであることが明らかになってきました。

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今回のテーマは、すばり「お金」です。定年が射程に入ってきた私が、あらためて気づいたのは、「お金がない」という現実でした。2019年には「老後2000万円問題」が物議をかもし、基礎年金問題への根本的な解決も見いだせない中、もはや最後に頼れるのは「自分」しかいません。正直、“英語に愛され”なくても生きていくことはできますが、“お金に愛されない”ことは命に関わります。本シリーズでは、“英語に愛されないエンジニア”が、本気でお金と向き合い、“お金に愛されるエンジニア”を目指します。⇒連載バックナンバー



「新しい資本主義」って何?

 事の始まりは、NHKの「ニュース7」を見ながら夕食を食べていた時の、嫁さんの、この一言でした。

 ―― 『新しい資本主義』って何だろうね

 私は、嫁さんの問い掛けに応えることができませんでした。

 国会での首相の答弁、『成長と分配』という言葉は、私には、義務教育で教え込まれてきた『所得の再分配*』』と同じことに聞こえましたし、その再分配をどうするかは(原則として)国会で審議して、政府がコントロールする、という意味では ―― 私自身『一体何が新しいんだろう?』と思っていたくらいです。

*)税金制度と社会保険制度のこと。納めた金額に関わらず、誰でも国や地方から公平にサービスを享受できる。

 「お金に愛されないエンジニア」である私にとって、『新しい資本主義』は人ごとではありません。なにしろ、日本国政府がコケたら、私の老後もコケるのです。そして、政府がコケても、政府は責任を取りません ―― なぜなら政府とは、名目上、国会(つまり私たち(の代表))が承認したことを実施する「単なる装置」にすぎないからです。そもそも、政策の失敗で、行政機関の官僚が罷免された、なんて話は聞いたことがありません―― 「大臣官房付に異動させる人事(筆者のブログ)」というのはよく聞きますが。

 ともあれ、私たちは、政府の決定に逆らうことはできませんし、政府がコケて、それで私たちが大損害を喰らったとしても、それに抗議しようが、デモをしようが、基本的に損害を取り戻すことはできません。

 もちろん、膨大な時間とお金(多くの場合、その損害額以上のお金)をかけて裁判を起こして、謝罪を勝ち取れる場合もありますが、(『絶対に怨念を晴らす』という執念でもない限り)コスト的に見合いません。

 例えば、“リーマンショック”の最初の「引き金」を引いたのは、FRB(連邦準備理事会)の「金利の引き上げ決定」ですし*)、日本のバブル崩壊も、日銀(日本銀行)の「金融引き締め政策の決定」ですが ―― FRBも日銀も、私たちに目に見える形では責任を取っていません(まあ、損害の規模からいっても、個人が責任を取れる内容ではありませんが)。

*)関連記事:「日本最高峰のブロックチェーンは、世界最長を誇るあのシステムだった

 では、あの時、どういう対策が取れたのか ―― バブル崩壊の規模をもっとソフトランディングさせる方法はなかったのか? と、バブル崩壊の被害者の一人である私などは思ってしまうのです(ちなみに、そのような「ソフトランディング」のノウハウは『なかった』そうです(参考)。

 つまるところ、私たちは「政府の失策については、一方的な被害者になることが運命づけられている」のです。

 『新しい資本主義』なるものが、どのような結果になるのか、それは神のみぞ知る、ではありますが、政府に巻き込まれて私たちがコケる時に、『仕方ないなぁ』と苦笑で納められるかどうか、という一点において ―― たとえ、通り一遍の上面(うわつら)な内容であったとしても、理解しようとすることには意義があると思うのです。



 こんにちは。江端智一です。今回の「お金に愛されないエンジニア」は、究極の他力本願として、政府の政策『新しい資本主義』を調べてみる、をやってみたいと思います。

 本来、このコラムは、江端が「あそこに投資して、今月は、こんなひどい目に遭った」とかいうような、江端の悲惨な投資の進行形を、読者の皆さんがニマニマした顔で楽しむ、という筋立を考えていました。

 ところが、今は、「どこぞの大国が一方的に戦争をしかける」し、それに関連して「国内の物価がシャレにならないレベルで高騰している」し、「見たこともないような円安をリアルタイムで見せつけられている」しで ―― 正直、今、動くのはとても怖い。「火事場は儲けのチャンス」と言われますが、私は、投資に関しては完全無欠のド素人です。火事場にいれば「燃やされる側」である、という程度の自覚はあります。

 というわけで、今回も、火事場から離れた場所でできることで、嫁さんや私だけでなく、多くの人が知りたいと思っている(と、私が思っている)「新しい資本主義」を、私なりの方法で調べることにしたのです。



 本論に入る前に、以前、私が、20回(1年8カ月)にわたって連載してきた、政府の政策「働き方改革」に関するお話をさせてください(初回はこちら)。

 その概要一覧が、こちらです。

 今回、この「働き方改革」に関する政府の総括、あるいは、中間報告書みたいなものを、探してみました。各省からバラバラの進捗報告(『こんな風にがんばっています』)はあるのですが、全体を取りまとめた報告書が見当たりません。基本的には「働き方改革」を言い出した(言い出したのは、安倍元首相?)総務省がリリースすべきだと思うのですが、私は見つけられませんでした。

 というか、政府のどの省庁もそうですが、言い出しの勢いはいいんのですが、きちんとした(数値を使った定量的な)総括をしません。そもそも、「働き方改革」に関する各省からのバラバラの報告にしても、政策前と政策後の数値による比較が ―― これは、おおげさでなく ―― 本当に1つも見つけられなかったのです。

 そういえば、この連載をしていた時も、「数値」で目標を出していたのは「障がい者就労」の分野だけで、後は全く数値が登場していなかったなぁ、と思い出しています ―― 日常的に上司から「費用対効果」を「数値」で尋ねられる運命にある民間のサラリーマンエンジニアとしては、とてもうらやましいです。

 仕方がないので、今回は、私の主観を、以下にまとめてみました。

 働き方改革が、中間報告も総括もできていない理由は、「コロナ禍」だからと思っています。

 新型コロナウイルス感染症は、

(1)わが国の働き方改革で見えなかった部分を数倍〜数百倍も拡大して、
(2)全く進まなかった分野を、10〜20年単位で加速しました。

 現時点で、政府はもちろん、有識者も、ざっくりした総括ができない理由は「コロナが、なかなかいい仕事してくれたんだよ」とは、口が割けても言えないから、と思っています。ですので、ここは、一つ私が、矢面に立ちましょう。

 まず、私の独断と偏見で全体を網羅し、可能な限り『乱暴』に評価してみました。

 各論を述べると、それだけで、今回のコラムが終わってしまいますので、私にインパクトを与えた事項を3つほど語りたいと思います。

 まず「(A)女性の自殺率のアップ」です。主な理由は、コロナ禍における女性の就労状態の劇的な悪化です。これは、『女性の経済的な自立が難しい日本』を顕著に示したなぁ、と思っています。

 また、「ティーンの自殺率のアップ」は、完全に私の想定外でした(参考:東京新聞)。私は、リモート学習によって、いじめなどの状況が改善されるので、自殺率は下がると予想していました ―― 私の見解は甘かったのです。

 私も、コロナ禍中に『現場を理解していない上からの(むちゃな)仕事の指示』で、うつ病傾向になってしまったので、心療内科を予約しようとしたのですが、『2カ月待ちです』と言われ、唖然(あぜん)としたのを覚えています。

 「(B)不採算部門ばっさり」は、「コロナ禍の中、製薬会社のセールス部門が、ばっさりと切られた」というニュースを読んだことがきっかけです。原因は、「コロナ禍でも売り上げが下がらなかった → セールス部門は、(今の規模で)必要か?→不要」というロジックらしいです。

 コロナ禍は、私たちがやりたくてもできなかった社会実証実験を、サクっとやってみせたという点において、評価でき、かつ、恐怖の対象でもあったのです。

 ちなみに、地方移住&就労が加速した、という点は、(私は)良い評価としました。

 「(C)ITリテラシーの強制向上」も、私には予想外でした。コロナ禍のリモート学習で、学校現場が大混乱になる、と予想していたからです。生徒(子ども)の方は心配していませんでしたが、ITリテラシーのない教師が大量に発生して、社会問題化、果ては『PTAや生徒から、リモート授業ができない教師の解任を要求する声』に発展すると思っていました ―― が、そのような話は、(私は)聞いたことがありません。

 つまるところ、やりゃあ、できるんですよ、リモート授業くらい ―― 特に自分のクビがかかっていれば、教師だって、死に物狂いになって勉強しますし、多分、若手の教師や、必要ならば生徒にも頭を下げたでしょう。リモート環境は、場数を踏めば、なんとかなるものです(ここが、”英語”との決定的な違いです*))。つまり、できたのだけど、やらなかった、ということであり、それをコロナ禍が、力づくでやらせた、ということです。

*)「「英語に愛されないエンジニア」のための新行動論」連載一覧

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