「インテリジェント・プラネットの実現」というビジョンを掲げるAdvantech。システムインテグレーター(SI)などが「IoTクラウドサービス」を実現していく第3フェーズの本格スタートに向けて、2018年は大規模なイベントを計画している。Advantech日本法人の社長を務めるマイク小池氏に、2018年の事業戦略などについて聞いた。
――2010年に、IoT(モノのインターネット)ビジネスへの戦略転換を表明し、さまざまな取り組みを行ってこられました。
マイク小池氏 「インテリジェント・プラネットの実現」というビジョンを実現するため、2010年より3つのフェーズに分けて取り組んでいる。第1フェーズとして、エンベデッドプラットフォーム(ハードウェア)を充実してきた。その1つに産業用PCがある。IoTを実現するためのコアとなる部分でもある。当社の産業用PCは多くのユーザーに利用されており、2017年版の市場調査報告書では32%の市場シェアを獲得した。前年に比べると約3ポイントの上昇となる。
産業用PCは、用途によって求められる性能や機能が異なる。このため、従来のIntel製CPUに加えて、ARMアーキテクチャの最新プロセッサを搭載したコンピュータボードも用意した。IoTに最適なコンピューティングソリューションをこれからもタイムリーに投入していく。
――2015年以降は、第2フェーズとしてハードウェアとソフトウェアを統合した「IoT SRP(Solution Ready Platforms)」の提供に力を入れてこられました。
マイク小池氏 当社は「テクノロジーイネーブラー」である。IoTビジネスを成功させるため、さまざまな企業と戦略的パートナーシップを結んできた。日本法人だけでも2017年は多くの企業とパートナーシップを締結した。
例えば、IoTでARMソリューションの活用促進を目的に発足した「Linux&Androidアライアンス(ELAA)」、IoT向け無線通信規格「SIGFOX」の普及を目的とした京セラコミュニケーションシステムとの戦略的パートナーシップ締結、無線技術とAI開発で強みを持つ日本ラッドとインダストリアルIoT分野での協業、4K電子黒板「BIG PAD」と4Kデジタルサイネージでシャープと協業など、多くの案件を2017年に発表した。
さらに、FA機器とITシステムの連携/協調を容易にするソフトウェアプラットフォームの構築と普及を目指す団体「Edgecross(エッジクロス)コンソーシアム」も、当社や三菱電機、オムロンなど6社が幹事会社となって設立した。
――2017年には、「Advantech IoT47 プロジェクト」がスタートしました。
マイク小池氏 このプロジェクトは、日本の地域に密着しIoTで活性化することを目的に活動を始めた。地方47の自治体を訪問し、私自身が講師となって会社の戦略を説明し、IoTデバイスやソリューションについて、デモを交えながら具体的に紹介している。
2017年は金沢を皮切りに、長野や東京、静岡、山梨、横浜などでイベントを実施してきた。2018年も引き続き行う予定だ。2月の三重からスタートし、2〜3年かけて全国主要都市を訪問したいと考えている。
――2017年の業績はいかがでしたか。
マイク小池氏 半導体関連装置向けの産業用PCを筆頭に、医療機器向けやデジタルサイネージ関連製品の需要が好調だ。2017年の売上高は2016年に続いて前年比2ケタの伸長となった。これらの領域では、エッジ側で収集したビッグデータを上位のクラウド側に取り込み、解析/分析した結果をいかに活用するかが、ユーザー側で大きなテーマとなっている。こうした背景から、引き続き大幅な需要の伸びが期待できる。
――2018年の事業方針を教えてください。
マイク小池氏 2018年11月1〜3日に中国・蘇州で大きなイベントを開催することになった。「Advantech IoT Co-Creation Summit in Suzhou」と名付けたこのイベントは、全世界から3000人の来場を見込んでいる。当社にとっては過去最大規模で行うイベントになる予定だ。第3フェーズは、SIerなどが「IoTクラウドサービス」を実現していく段階となる。この催しを、第3フェーズのキックオフミーティングだと位置付けている。
イベントの詳細はこれから明らかにしていくが、日本からもパートナー企業やSIer、IoT化に取り組む一般ユーザーなど、多くの人にぜひとも参加してもらいたい。そして、第1フェーズや第2フェーズで実現してきたIoTデバイスやソリューションを会場で確認/理解し、IoTの実現に挑戦してもらいたい。
この他、2018年1月には「Microsoft IoT in Action」などのイベントも予定されている。ここに私がパネラーとして参加し、Advantechが目指している方向性などについて説明する予定だ。当社はMicrosoftのグローバルIoTバリュードパートナーの認定を受けている。日本では、EmbeddedとAzure CSPの正規販売代理店としても活動している。
当社のミッションは、インテリジェント・プラネットの実現に向けて、「今後のコンピューティングはどうあるべきか」を顧客に提唱し、最適なIoTプラットフォームを提供していくことだと考えている。
――第3フェーズにおける共創のイメージをもう少し分かりやすく教えてください。
マイク小池氏 IoTソリューションの実現に向けて、パートナー企業との戦略提携などを視野に入れている。そこで中心となるのが、収集したデータをクラウドサービスで活用するためのソフトウェアプラットフォーム「WISE-PaaS」である。当社は、テクノロジーイネーブラーとしてIoTプラットフォームを提供する会社である。IoTソリューションを実現していくのはあくまでもパートナー企業であり、当社はそれに必要な技術を支援していく。
WISE-PaaSも進化を続けている。詳細はまだ明らかにできないが、分析結果の表示機能や、それらを一目で把握できるようなユーザーインタフェースの改善、人工知能(AI)技術との連携など、従来の機能を拡張した「WISE-PaaS 2.0」のコンセプトも固まってきている。
――WISE-PaaSはどのような用途で活用されていますか。
マイク小池氏 WISE-PaaSはIndustry4.0関連での導入が圧倒的に多い。第3フェーズも、これらの用途から活動が本格的に始まるだろう。日本市場でも、世界市場とほぼ同じスピードで、WISE-PaaSの導入が進んでいる。
――2018年の市況をどのように見ていますか。
マイク小池氏 いよいよ大きなイベントが控える2020年が近づき、国内ではさまざまな投資がさらに活発になるだろう。さらなる飛躍を目指して2018年の事業計画を策定した。2018年はIoT Co-Creation Summitの開催も予定している。IoTに関連する新たなビジネスをスタートさせる、絶好のタイミングだと考えている。
――日本市場における新たな取り組みなどはありますか。
マイク小池氏 日本では市場におけるカバー率の課題がある。日本法人は現在、東京と名古屋、大阪の3カ所に拠点を設置している。2012年に比べて事業規模は約3倍に拡大し、従業員は2倍となった。それでも、潜在需要から見れば、十分にカバーできているとは言い切れない。これを踏まえて、全国の顧客をサポートできるようチャネルパートナーの開拓などに取り組みたい。
DMS(Design Manufacturing Service)事業も継続して強化していく。医療機器やゲーム機器、FA機器などの分野で、日本における需要は拡大している。一般的な製造受託のEMS(Electronics Manufacturing Service)とは異なる。当社が提供するDMSの価値は高い設計力であり、顧客にも認めてもらっている。台湾のリソースを最大限に活用することで、日本企業が世界市場に進出していくきっかけとなるだろう。当社は、日本企業と世界市場をつなぐゲートウェイの役割を担うことができる。
――スマートシティーやコネクテッドカーに向けた需要も期待されています。
マイク小池氏 Industry4.0やスマートシティーの分野では、エッジコンピューティングが注目され、実際に導入も進んでいる。当社はこの領域に、新たなコンセプト「EIS(Edge Intelligence Server)」を提供している。EISはWISE-PaaSに接続するためのソフトウェア「WISE-Agent」を組み込んだIoTゲートウェイである。これを用いることで、各種クラウドサービスへの接続が容易となる。
また、4Kディスプレイを用いたデジタルサイネージ向けコントローラや、大型バスや農耕用トラクター、鉄道車両などに向けた産業用PCを提供している。基地局向けのソリューションなども用意している。
2016年6月には、ワイヤレスIoTセンサープラットフォームのオープン規格「M2.COM」を、ARMやBoschらのパートナーと連携して提唱した。マイコンや無線通信機能、センサーインタフェースをパッケージ化したもので、センサー端末を容易に開発するための共通基盤となる。これをベースに超低消費電力ネットワーク規格「LoRa」やWi-Fiなどに対応したM2.COMモジュールを用意した。これらが装置に実装され、WISE-PaaSの環境でインターネット接続されることになる。
2018年には、「マシンツーインテリジェンス」というコンセプトも新たに登場する予定だ。詳細は明らかにできないが、装置がそれぞれ知能や知性を備えて正しく機能するようになる。これにより、ゲートウェイ装置を介さずに装置同士がコミュニケーションを行うことが可能となる。リアルタイム性や高度なセキュリティが要求される処理や制御などを装置間で全て実行することができるため、上位のクラウド側に送信するデータ量を最小限に抑えることができる。
EISシリーズや産業用PC、M2.COMモジュールなどをベースとしたソリューションにより、さまざまな形態で人やモノがつながる環境をこれからも提案していきたい。
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提供:アドバンテック株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2018年2月15日