メモリ需要の拡大が続く自動車、産業機器、医療機器などの市場に向け、サイプレス セミコンダクタ(Cypress Semiconductor)が、新たな価値を提供するさまざまなメモリ製品を相次いで投入している。そこで、今回は、サイプレスの最新メモリ製品のいくつかを紹介する。
メモリへのニーズの多様化に応じ、さまざまな付加価値、機能を備えた“スマートなメモリ”を提供する――。
サイプレス セミコンダクタ(Cypress Semiconductor)は、メモリ需要の拡大が続く自動車、産業機器、医療機器の3市場それぞれのニーズ、トレンドに応じて、新たな価値を提供するメモリ製品の投入を継続的に行っている。直近でも、自動車や産業機器市場で要求の強い高信頼、長期安定供給というニーズを満たす新たなNOR型フラッシュメモリ(以下、NORフラッシュ)や、体内埋め込み型医療デバイスなどに向けた超低消費電力RAMを開発、投入している。ここでは、こうした新たな価値を提供するサイプレスの最新メモリ製品を紹介したい。
サイプレスが手掛けるメモリ製品は、多岐にわたる。1982年の創業時から展開するSRAMをはじめ、nvSRAM(不揮発性SRAM)、F-RAM(強誘電体メモリ)といったRAM製品だけでなく、旧スパンション(Spansion)からの流れをくむフラッシュメモリ製品まで、DRAMを除く主要な組み込みシステム向けメモリをラインアップ。他に見当たらないだろう品ぞろえに加えて、各メモリ製品で世界トップクラスの実績を誇っているという点もサイプレスのメモリ事業の大きな特長だ。その代表例が、NORフラッシュだ。
NORフラッシュは、NANDフラッシュに比べてデータ保持信頼性が高く、読み出し速度が速いといった特長を備え、プログラム格納用やブート用メモリとして、高速起動を要求される自動車用途や信頼性を要求する産業機器などの市場で根強い需要がある。一方で、NORフラッシュはその構造上、NANDフラッシュに比べ、大容量化が難しいという欠点を抱える。
これに対し、サイプレスでは独自のメモリセル構造「MirrorBit」を有し、NORフラッシュの大容量化をリード。MirrorBitは、一般的なセル構造であるフローティングゲートよりも、記憶容量密度を高めやすいチャージトラップ構造を応用したもので、メモリセルの小型化と同時に、メモリセル当たり2ビットのデータを記憶する「2ビット/セル」のNORフラッシュ製品を実現している。
自動車や産業機器市場で拡大を続けるNORフラッシュ需要に対し、サイプレスは大容量化で応えるとともに、自動車や産業機器市場で要求される安全性、信頼性を一層高いレベルで満たすことのできる新たなNORフラッシュ製品も投入している。2019年後半から量産を開始する予定の「Semper NORフラッシュ ファミリ」(以下、Semper)だ。
Semperは、「機能安全規格である『ISO26262』および、『IEC 61508』に基づいて設計、開発したNORフラッシュ製品」(サイプレス セミコンダクタ MPD マーケティング本部 品田唱秋氏)とし、ISO26262で定められる自動車安全性要求レベル「ASIL-B」に準拠している。ASIL-B準拠には、セーフブート機能などさまざまな自己診断機能を実現することが必須になるが、SemperはCPUコア「Arm Cortex-M0」を搭載し、メモリ単体で各種自己診断機能を実現する。
機能安全規格適合には、各種テストを実施し、各種文書を用意する必要があるが、Semperは、ASIL-Dへの適合を前提にした各種テスト結果と文書が用意されている。品田氏は「通常のフラッシュメモリ製品が提供しているのは、故障モード影響診断解析(FMEDA)に関する文書程度で、従属故障文書(DFA)やSEooC(Safety Element Out of Context)といった文書はユーザーで作成する必要がある。その点、Semperは、準拠するASIL-Bはもちろんのこと、ASIL-Dへの適合を前提に、設計、テストを行い、規格適合に必要な文書一式もそろっている」と語る。
Semperには機能安全規格対応に並ぶ大きな特長として、メモリを複数の領域に分割し、長期間のデータ保持を重視する領域と、書き換え回数を重視する領域に使い分けられる機能を有している点が挙げられる。「EnduralFlexアーキテクチャ」と呼ぶこのメモリ領域の使い分け機能を使用して、“長期間のデータ保持を重視する領域”を設ければ、その領域でのデータ保持期間を25年間に延長することが可能だ。
逆に、書き換え回数を重視する領域と設定すれば、その領域を活用して、メモリセルへの書き込み回数を平準化するウェアレベリングを実施。512Mビット容量の領域を使用すれば最大128万回、1Gビット容量の領域を使用した場合には最大256万回まで書き換え回数を増やすことが可能である。一般的なNORフラッシュの書き換え回数は10万回程度であり、こうした書き換え耐性は画期的だ。「ユーザーは、書き換え重視領域とデータ保持領域を自由に設定できるため、1つのSemperで多様な用途に対応できる」と語る。
Semperは、既に512Mビット容量品と1Gビット容量品のサンプル出荷を開始し、2019年後半から量産を開始する予定。さらに256Mビット容量品、2Gビット容量品もラインアップする予定で開発を進めている。
対応インタフェースは、最大400Mバイト/秒(400MB/s)の読み出し帯域幅を実現できる最新のインタフェース規格「eXpanded SPI」(xSPI)をはじめ、xSPIのべースになったサイプレス独自インタフェース「HyperBus」や「クアッドSPI」など。動作電圧も1.8Vに加え、3.0Vにも対応する。
「自動車市場では、車載情報機器やクラスタに加えて、自動車の周囲を監視するカメラやレーダーなどのECUでも、エンジンスタート直後に起動する高速ブートが要求されるようになり、NORフラッシュ需要が拡大している。信頼性を重視したSemperは多くの引き合いを得ている」とする。
さらに品田氏は「Semperは産業機器用途でも、多くの引き合いがある」と付け加える。「多くのフラッシュメモリ製品は、製造プロセス更新頻度が高いため、供給保証期間が3年前後になる場合が多いが、CypressのNORフラッシュでは、Cypressの製造開始から最低10年間の供給継続を保証するプログラムを実施している。そのため、最新NORフラッシュ製品であるSemperは、今後10年以上の継続供給が保証されているため、長期安定供給を求める産業機器市場でも高く評価されている」と明かす。
サイプレスでは、F-RAMでも特長ある新製品「Excelon F-RAMファミリ」(以下、Excelon)の量産を2018年末から順次開始している。
F-RAMは、多くの市場実績を持つ“不揮発性RAM”だ。書き込み速度が極めて速い上、書き換えに要する消費電力が低く、ほぼ無限の書き換え回数を誇るといった特長から、機器の動作履歴やセンサー取得データを時系列で記憶するデータログ用メモリとして、さまざまな用途での活用が広がっている。
サイプレス セミコンダクタ リージョナルマーケティング シニアマネージャーを務める早瀬昭司氏は「データログ用メモリは、かつては、揮発性のEEPROMとデータ退避用のバッテリーを組み合わせて実現したり、nvSRAMを用いたりするケースが多かった。F-RAMであれば、シンプルな回路構成かつ、低消費電力で、電池交換の必要のないデータログ取得を実現できるため、F-RAMの大容量化の進展に伴い置き換えが進んできた」という。さらに、「EEPROMなどに比べ格段に書き込み速度が速く、ほぼ書き込み遅延がない。そのため、自動車であれば事故の瞬間の画像を残す、産業機器であれば、いわゆる“チョコ停”の瞬間のモーター回転角を記録するというように、システムが止まる最後の最後までのデータを確実に記録できるメモリとしても評価され、さまざまな用途で需要が増している」という。
このように他のメモリを置き換え、需要が伸びるF-RAMの可能性をさらに広げる新世代F-RAMとしてサイプレスが開発したのがExcelonであり、F-RAMの特長をさらに高めている。
書き込み遅延がほぼゼロと言える432Mビット/秒(432Mbps)の高速書き込みを実現。書き換え回数は1014回(100兆回)、データ保持期間100年を保証し、競合のF-RAM製品と比べても高い信頼性を誇る。さらに、多様化するF-RAMへのニーズに応えるべく、それぞれ特性が異なる「Excelon Ultra」「Excelon Auto」「Excelon LP」という3つの製品シリーズをラインアップしている点も、Excelonの特長になっている。
Excelon Ultraは、産業機器用途などに向けた汎用的な製品シリーズで、既に4Mビット品、8Mビット品の量産を開始している。
Excelon Autoは、自動車用途に向けた製品シリーズで、AEC-Q100のグレードEに相当する温度範囲−40〜+125℃に対応した製品などを展開する。
Excelon LPは、3つの低消費電力モードを備えた製品シリーズだ。最も低消費電流な「ハイバネートモード」時の消費電流は0.1μA以下であり、バッテリー駆動機器に向けシリーズだ。Excelon LPについては、書き換え回数は、1015回(1000兆回)を保証している。
「特にExcelon LPは、消費電力が極めて小さく、無限に限りなく近い書き換え回数により、バッテリー容量が限られるウェアラブル機器や、交換が難しいペースペーカーなど体内埋め込み型医療機器との相性が良い。既に、海外では体内に埋め込むさまざまな医療端末での採用が決定している」と語る。
なお、Excelonは、全シリーズともに、1.8〜3.6Vの広い動作電圧範囲を実現。容量も、順次ラインアップを増やし、2Mビットから最大16Mビットまでをカバーする予定だ。
メモリ市場で35年の歴史を持つサイプレスは、非同期SRAMでも世界トップシェアを誇る(2018年第4四半期/IHS社調べ)。その非同期SRAMにおいても、市場変化に合わせ製品展開を続けている。サイプレスは、さまざまな製品分野向けに幅広いSRAMメモリをラインアップしているが、最近新たに超低消費電力ECC機能付き非同期SRAMのサンプル出荷を開始した。
前出の早瀬氏は「ますます高まる高信頼性への要求に応える新しいMoBL SRAM Family with ECCは、アクセスタイム45ナノ秒の性能をスタンバイ電流わずか8μAで実現しながら、シングルビットエラーと訂正用のECC回路を搭載している。加えて、シングルビットエラーの検出を知らせるError Indication (ERR) ピンを含んでいることで、競合他社製品にはない高信頼性を提供する」と話す。
8Mビットから64Mビットまでラインアップしているこのファミリは、産業機器やモバイル医療機器を対象としており、16Mビット品のサンプル出荷をこのほど開始した。量産は2019年第3四半期中を予定している。
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提供:サイプレス セミコンダクタ
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2019年10月10日
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