ナショナルインスツルメンツが本社を構える米国のテキサス州オースチンで毎年8月に開催する同社最大のテクニカルイベント「NIWeek」。その大きな見どころの1つが展示会だ。広大な会場にはNIの他、同社のアライアンスパートナー(顧客要件に応じたカスタムシステムを構築するインテグレータ企業)や、LabVIEWプラットフォームに対応するツールやモジュールを提供するサードパーティベンダー各社がブースを構え、最新の製品や事例が所狭しと並ぶ。今回の「NIWeek 2011」では、日本の出展企業が集合した「ジャパンパビリオン」が設けられ、世界中から集まった参加者の注目を浴びていた。本稿では各社の出展内容に加え、NIの展示から見逃せないデモも紹介しよう。
「THIS SHIRT SAVES JAPAN」 ――― NIWeek 2011のジャパンパビリオンの一角には、こうプリントしたTシャツが掲げられていた(図1)。その傍らにはモジュール式計測器の空シャーシ。2011年3月11日に発生した東日本大震災の復興支援を呼び掛ける募金箱だ。募金の記念品としてプリントTシャツを進呈するという。シャーシの中には折り重なった米ドル札。世界中からNIWeekに集まった参加者が日本に寄せる気持ちに、日本からの参加者として感謝でいっぱいになる。
しかしジャパンパビリオンに世界からの参加者が足を運ぶのは、募金だけが目的ではない。このパビリオンにブースを構えた日本企業各社が、いずれも世界に類のないユニークな製品を出品しているからだ。その出展社の顔ぶれは、オリエント ブレイン、計測技研、シキノハイテック、松浦電弘社である。
日本ナショナルインスツルメンツの取締役 システム事業部 営業統括本部長を務める五味直也氏は、「日本には、世界に誇るべき優れた技術が数多くある。そうした日本の技術を世界に届けたいという思いから、今回のジャパンパビリオンの設置を推進した」と語った。
それでは早速、各社の出品を見ていこう。
オリエント ブレインは、大阪府吹田市に本社を置き、各種の映像システムを手掛けるメーカーで、近年は工業用監視システム向け機器にも注力している。その同社が今回出品したのは、防爆性を備える工業用監視カメラだ。水素雰囲気をはじめとする爆発危険場所に設置して、安全の監視などに使うことができる。「日本は先進国であるにもかかわらず、残念なことに近年、労働災害の発生件数が増える傾向にある。それを何とか減らしたいという思いで開発した」(取締役会長の南出弘治氏)。
同社は以前からさまざまなタイプの防爆カメラをラインアップしていたが、今回出品したのはそれらの中でも際立った特長を備えた3機種だ(図2)。1つ目は、世界市場においても他社の追随を許さない小型化と軽量化を実現した機種で、カメラを収めた円筒状の筐体の外形寸法が直径77mm×長さ198mmと小さく、重量が1.2kgと軽い。型名は「RD-211HD」である。市場にある他社の防爆カメラに比べて、1/3以下のサイズだと説明している。カメラ部には、光学系が1/3インチ型のプログレッシブ走査式CMOSセンサーを採用した。画素数は1920×1080画素。フレーム速度はMotion JPEGで25フレーム/秒、MPEG 4で30フレーム/秒、H.264で30フレーム/秒。12Vの直流電源で動作する。2つ目は、赤外線サーモカメラに防爆性を持たせた機種「XIR-1000シリーズ」で、同社によればこのようなカメラは「日本ではこれまで製品化の例がない」という。2011年5月に販売を開始している。
3つ目は、画像処理機能を内蔵した品種で、これを同社は「スマート防爆カメラ」と呼ぶ。型名は「XD-500-IT」。同社が日本ナショナルインスルツメンツと共同で開発を進めており、2012年の発売を目指す。画像処理ボードを日本NIが開発し、その供給を受けてオリエント ブレインが防爆カメラに組み込む。円筒状の筐体の外形寸法は直径115mm×長さ270mm。カメラ部の仕様は上述のCOMSセンサーの他、各種の画像処理用カメラを搭載する予定。画像処理ボードは、1.66GHzで動作するIntelのAtomプロセッサの他、1Gバイトのメインメモリや、2GバイトのSSDを搭載し、外部インタフェースとしてRS-485や4〜8チャネルのデジタルI/O、1G/100M/10Mビット/秒対応イーサネットを備える。同社では、先の防爆赤外線サーモカメラにも、この画像処理ボードを搭載した製品を同時に発売する予定で、世界に類のない製品になる見込みだとしている。
オリエント ブレインによると、防爆カメラにこのように画像処理の機能を内蔵するのは世界でもこれまでになかった試みだという。「これまでの防爆カメラでは、ホストシステム側で画像処理に対応する必要があり、数十台といったオーダーのカメラを接続すると、ホストシステムの処理能力を超えてしまう。そのため結局、モニターを並べてカメラの映像をそのまま映し出し、それらを人の目で監視するというのが実情だった。スマート防爆カメラを導入すれば、カメラ自体が画像処理に基づいて危険を察知し、アラームをホストシステムに通知するという仕組みを構築でき、安全性を高められる」(同氏)。
今回のNIWeekへの出展でオリエント ブレインには、開催地である米国の他、英国やイタリア、中国、韓国などからも多くの引き合いがあったという。
計測技研は、計測制御機器や画像処理ソフトウェアの研究開発を手掛ける企業で、栃木県塩谷郡に本社を構える。今回出品したのは、HILS(Hardware in the -Loop Simulation)向けの汎用入出力モジュールだ(図3)。NIが提供する計測/制御ハードウェア「NI FlexRIO」用のアダプタモジュールであり、NI FlexRIOのもう1つの構成要素であるFPGAモジュールと組み合わせて使う。両モジュールを接続した状態でPXIシャーシに収容して利用する。ハイブリッド自動車や電気自動車のモーターや、再生可能エネルギー源を対象とする制御やシミュレーションに向けて開発した。
アナログの入力と出力をそれぞれ12チャネル、デジタルの入力と出力をそれぞれ16チャネルずつ備える。特長は、同じボードにアナログ入力チャンネルとアナログ出力チャンネルが搭載されていることにより、集録、演算、出力という制御ロジックを高速で行えることだ。また、デジタル制御において同等のことができる。スペックとしては、アナログ入力で6チャネル同時に100Mサンプル/秒、もしくは12チャネル同時に50Mサンプル/秒と、多チャネルのデータを高速に取り込める。電圧範囲も差動で±12Vと広い。「NI FlexRIOは、FPGAボードに演算アルゴリズムをハードウェア化して実装でき、非常に高速の処理が可能だが、NIが提供する既存のアダプタモジュールは、汎用性を意識した仕様のため、特定のアプリケーションに特化したモジュールへのニーズがあった。当社が開発したこのアダプタモジュールを使えば、そのようなニーズに応えることができる」(同社の説明員)。計測技研も以前にアナログとデジタルの入力がそれぞれ2チャネルしかない機種を製品化しており、それを市場に投入したところ、アナログとデジタルの出力を備えた機種を求める声が寄せられ、それが今回の機種を開発するきっかけになったという。
松浦電弘社は、石川県野々市町を拠点とし、工場など各種プラントの電気制御システムを手掛けている。今回は、3次元電界測定システムを見せていた(図4)。自動車メーカーからの引き合いが多いという。「モーター駆動の電気自動車では、ガソリン車に比べて車内が静かになり、FMラジオのノイズが耳につきやすくなった。その原因が配線なのかECU(電子制御ユニット)なのかと探る用途などに使われている」(代表取締役社長の松浦隆弘氏)と説明する。
NIのPXIシャーシ1台で実現しており、電界プローブから供給されるアナログ信号を集録して3軸ベクトル演算を実行して電界強度の3次元分布を可視化するとともに、ロボットアームを制御し、プローブの位置を測定ポイントに移動させることで測定の自動化を実現している。「電界は、磁界に比べて測定が難しい。当社の他にもドイツのメーカーが電界測定システムを販売しているが、価格は2倍程度と高い」(同氏)。
今回の展示では、ブースを訪れた大手半導体ベンダーのエンジニアから、次世代ITS(Intelligent Transport Systems、高度道路交通システム)に向けたミリ波利用の自動車衝突防止システムの研究開発に使いたいという声が寄せられたという。
シキノハイテックは、LSI設計サービスを提供する他、半導体の検査装置などを手掛ける企業で、富山県魚津市に本社を置く。今回出品したのは、NIが提供するPXIシャーシに収容して使える高精度直流電源/測定ユニット(いわゆるソース/メジャーユニット、SMU)で、チャネル数が8チャネルと多い「SHT-0101-100」だ(図5)。各チャネルが±20V、±100mA(最大2W)の4象限動作に対応する。測定時の最大サンプリング速度は200kサンプル/秒。半導体のテストなどに使える。
8チャネル機ながらも、フォームファクタはPXIの3Uシャーシの2スロットに収まるサイズである。単一シャーシ(8スロットの場合)に4ユニット収容すれば、32チャネルを確保できる。ユニット同士を同期させて動作させたり、シーケンス動作させたりすることも可能だ。同社ブースの担当者によれば、「これまで市場に流通していたのは2〜4チャネルの機種がほとんど。しかも動作範囲は±10Vや±15Vにとどまっていた」という。すなわち展示品を使えば、容積当たりのチャネル数を大幅に増やせる上、動作範囲も拡大することが可能だ。来場者からはチャネル密度の高さを評価する声が寄せられたという。その他にも同社の担当者によると、計測器メーカーが供給するベンチトップ型のSMUとは異なり、このモジュール式SMUを利用する場合はLabVIEWを使ってユーザーが独自のテスト用アプリケーションソフトウェアを開発し、SMUと同じPXIシャーシ内のコントローラで実行できるというメリットもあるという。また、同社は、NIなど他社から販売されている豊富な種類の計測・制御用PXIモジュールと組み合わせ、特定の用途に絞ったテスターを構築し、コストを抑えたテストソリューションも提供している。
NIのブースでは、テーマごとに展示をまとめた「自動テスト/データ集録」や「組み込みモニタリング」、「ビジョン」、「ロボティクス」などのゾーンが設けられていた。ここでは、それらのうち「RF&ワイヤレス」ゾーンで注目を集めていたデモを紹介しよう。高周波の設計とテストを緊密に連携させる試みである。NIのグラフィカル開発ツールである「LabVIEW」と、同社が最近買収して子会社化したApplied Wave Research(AWR)の無線通信システム設計ツール「Visual System Simulator(VSS)」を連携させて、無線基地局のパワーアンプICを評価してみせた(図6)。
2社のツールの連携とはこうだ。LabVIEWのグラフィカル関数ブロック(VI)を直接、VSSにインポートして、VSSのシミュレーション環境で利用できるようになる。また、VSSを使ったシミュレーションの結果と、LabVIEWで実際に測定したデータとの相関をとることが可能だ。高周波の計測データを、設計フローに容易に組み込めるようになるという。
今回は具体的な事例として、LTE規格に対応する携帯電話の基地局用パワーアンプICを次のようにして評価した。まずLabVIEWを使って、LTE規格のベースバンド信号を生成するVIと、同信号を解析するVIをあらかじめ記述しておく。それらをVSSに読み込んで、そのシミュレーション環境で生成VIの出力をパワーアンプのビヘイビアモデルに入力し、そのモデルの出力を解析VIにつなぐ。こうすればVSS上で、パワーアンプの出力ポートにおける変調精度(EVM)やスペクトラムといった特性をシミュレーションすることが可能だ。
さらに、このVSSの環境から、高周波のHIL(Hardware in the Loop)テストを実行する。先ほどと同じ生成VIがLabVIEW経由でNIのベクトル信号発生器(VSG)を駆動し、実際の信号を出力して実物のパワーアンプICに供給する。その出力信号をNIのベクトル信号アナライザ(VSA)で受けて、やはりLabVIEW経由でVSS上の先ほどと同じ解析VIに入力する。そしてこの解析VIが、パワーアンプICの実測データに基づいて上述のシミュレーションと同じ項目を求める仕組みだ。
このようにして得られたシミュレーションと実測の結果を比較すれば、設計通りの特性が得られているかどうかを評価できる。この機能を実装した新ツールは、2011年後半に正式発表する予定だという。
ここでは紹介しきれないが、他にも会場には、世界でも類のない提案や、他社の追随を許さない製品の展示、先進的な取り組みを見せるデモがあふれていた。
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提供:日本ナショナルインスツルメンツ株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2011年9月30日
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ナショナルインスツルメンツが本社を構える米国のテキサス州オースチンで毎年8月に開催する同社最大のテクニカルイベント「NIWeek」。その大きな見どころの1つが展示会だ。広大な会場にはNIの他、同社のアライアンスパートナー(顧客要件に応じたカスタムシステムを構築するインテグレータ企業)や、LabVIEWプラットフォームに対応するツールやモジュールを提供するサードパーティベンダー各社がブースを構え、最新の製品や事例が所狭しと並ぶ。今回の「NIWeek 2011」では、日本の出展企業が集合した「ジャパンパビリオン」が設けられ、世界中から集まった参加者の注目を浴びていた。本稿では各社の出展内容に加え、NIの展示から見逃せないデモも紹介しよう。