EV(電気自動車)やHEV(ハイブリッド車)などの次世代自動車を開発する手法として、メカニクスとエレクトロニクスの設計を連携させた新しいモデルベース開発が注目されている。ナショナルインスツルメンツ(NI)とメンター・グラフィックスは、それぞれのツールを連携させることで可能となるエレメカ混在システム設計ソリューションを紹介した。
最新の自動車は、1980年代に比べると電子化の比率が格段に高まっている。自動車の安全性、快適性の向上と環境への対応を図るため、パワートレインやシャーシ、ボディなどの高度な制御および情報通信などの用途で、エレクトロニクス技術が適用されているからだ。
自動車における電子化の進展はマイコンの搭載数量が1つの目安となっている。自動車1台に搭載されるマイコンの個数は、1980年に8個程度であったが、2000年には30個を超えた。車種によっても異なるものの最新の高級車では100個前後に達するものも少なくない。同時に、マルチコア化など、マイコン1個当たりの性能向上も進んでおり、搭載個数の増加以上に、電子化の比重が高まっていることは明らかである。日本ナショナルインスツルメンツでプロダクト事業部テクニカルマーケティング テクニカルマーケティングエンジニアを務める天沼千鶴氏は「マイコンの搭載数の推移をみても自動車の開発において電子部品が重要なパーツとなっていることが分かる」と話す。
さらに、EV/HEVでは、二次電池の充放電とモータの制御を軸としたパワーエレクトロニクス技術に関連する開発がカギを握っている。
こうした傾向は、自動車の開発工程にも変化をもたらしている。既に自動車業界ではモデルベース開発が一般的に行われているが、最近はこれまでのメカニカルな制御に加え、エレクトロニクス制御も含めたモデルベースのシミュレーションを行うなど、電気的要素がより重要な開発項目となっている。
NIでは、モデルベース開発を支援するための検証プラットフォーム「NI LabVIEW」を提供している。「グラフィカルシステム開発を可能とするもので、3000種類の計測、制御用ハードウェア/ソフトウェアを組み合わせ、さまざまな製品テストに最適な装置を構築することができる」(天沼氏)のが特徴だ。
モデルベース開発におけるテスト工程は大きく4つに分けることができる。「MIL(Model in the Loop)」、「RCP(Rapid Control Prototyping)」、「HIL(Hardware in the Loop)」および「Test Cell」である。特に、手戻りをなくすために、各工程で検証(テスト)が繰り返し行われる。例えば、エンジンと電子制御モジュールが設計検討段階で、いずれも実機(試作機)がない場合、モデルを使って検証が行われる。また、実機とモデルを組み合わせて検証が行われることもある。最終的に全てのハードウェアが完成すれば、機能的な動作試験に加えて、衝突や騒音のテストなども実機を用いてテストされることとなる。
これらのテスト工程では各種のプロトタイプやモデルが必要となる。例えば、RCPとしてはディーゼルエンジンECUやFC/EV、AT/CVT、電池用途などのECUプロトタイプなどがある。HILS(HIL Simulation)では、HEV用モータや車体部品、AT/CVT、ABS/EPSなどが用意されている。
「これまで単体部品メーカは、完成した部品を使ってシステムレベルの動作テストを行おうとしても、実機に実装しないと動作検証ができなかった。HILSを用いることで、他社が開発しているモジュールなども含めて全てのハードウェアが完成する前でも、車両全体の動作シミュレーションを行うことができる」(天沼氏)というメリットがある。
さらに、環境に優しい自動車を開発するには、電気の変換効率向上や軽量化など省エネにも配慮した回路設計が必要となる。その一例として天沼氏は「NIではモータ特性を重視してモデリングすることを考えてきた。モータ駆動部では、回路系やIC系の特性も重要である」と指摘する。
例えば、電圧式をFPGAモータモデルに変換し、そのFPGAを搭載したハードウェアをモータコントローラとしている。また電磁界解析ソフト「JMAG」によって、さらに精度を向上している。JMAG-RTモデルは、理想モデル(教科書モデル)では表現できなかった形状や材料の特徴を詳細に捉えることができるため、より実際のモデルに近くなるという。モータHILSでは、IGBTなどの影響も無視できなくなり、アナログ回路の精度がシステム性能に大きく関係するからだ。
設計環境とテスト環境について、「これまでの設計とテストの現場では、携わる設計者や使用するツールも全く異なり、文化も違っていた」とメンター・グラフィックス・ジャパンでテクニカル・セールス本部Advanced System Platformグループのマネージャーを務める三木研吾氏は、開発の現状をこう語る。これに対して、新しい開発環境では設計とテスト工程が融合されることとなる。「これまで分かれていた、これらの環境を融合することで、シーケンシャルからコンカレントな開発プロセスへと移行することができる。これによって開発効率は高まり、開発期間を短縮できる」と続ける。
その一例として、アクセルペダルから、コントローラ・アクチュエータ、電子スロットルに至るシステム設計について概要を紹介した。この中で、エレメカ混在システムの設計ソリューションとして「NI LabVIEW」と「SystemVision」の連携が有用であることを示した。
SystemVisionは、アナログ/デジタル混在回路の記述に適したハードウェア記述言語「VHDL-AMS」をベースとし、メカニクス、エレクトロニクス、ソフトおよび制御の領域を仮想的に統合するモデリング/シミュレーション・プラットフォームである。より詳細な解析を行うためにはSPICEモデルが好ましいが、解析に時間がかかり過ぎる。早く結果を求めたい場合には、VHDL-AMSモデルを用いることで演算負荷を軽減し、処理速度を速めることができる。
自動車業界ではVHDL-AMSの標準化が進められている。デジタル回路に加えてアナログ回路の記述が可能なためである。特に、自動車の制御システムを含めたパワーエレクトロニクスの分野でVHDL-AMSの採用が進んでおり、ドイツ自動車工業会ではVHDL-AMSによる自動車部品のモデル供給も始められている。
SystemVisionは、NI LabVIEWと共存することで新たな設計手法を確立することが可能となる。三木氏は「抽象度の高い検証からアナログ精度を追い込んだ解析まで対応できるソリューションであり、テスト環境を考慮したシステム検証を実現するツールである」ことを強調した。
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提供:日本ナショナルインスツルメンツ株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2012年2月25日
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