STマイクロエレクトロニクスは2014年、革新性の高い製品ポートフォリオをさらに広げ、市場を上回る成長を目指す。本社エグゼクティブ・バイスプレジデントで日本・韓国地区を統括するマルコ・カッシス氏は「2014年はポジティブな要素が多くある。製品/技術、顧客との接点の強化を通じてどこよりも速く成長する」と抱負を語る。
――2013年を振り返っていただけますか。
マルコ・カッシス氏 2013年は、下期から市況が軟化傾向に入り、当初の予想よりも伸び悩んだ。特に第3四半期は自動車を除く多くの分野において市場が軟化し、アジアのハイエンド・スマートフォンも減速傾向となった。WSTS(世界半導体統計)による12月発表の市場予測では、当社の製品領域の2013年の市場成長率は前年度比−2.0%となっており、厳しい市場環境だった。
ただ、第3四半期のSTの売上に関しては、ワイヤレス製品部門を除いた場合、前年同期比3.9%増となった。特に、車載用製品が堅調に推移した他、MEMSや汎用マイクロコントローラ(マイコン)も好調を維持できた。
――2012年12月に新戦略を発表されましたが、進行状況はいかがですか。
カッシス氏 2013年は新たな戦略に基づき、イノベーションの継続と財務パフォーマンスの改善という2つの課題に全社で取り組んできた。
携帯電話機用ベースバンドプロセッサなどを手掛けていた「ST-エリクソン」に関しては、ワイヤレス市場の構造変化に対応するため、エリクソンとの合弁を解消し、8月には分割処理を終了した。営業経費や製造コストの削減に対する取り組みは順調に進んでいる。
その一方で、当社は新たな事業戦略を打ち出した。新戦略では、MEMS、パワー半導体、車載用半導体などからなる「センス&パワーとオートモーティブ製品」と「エンベデッド・プロセッシング ソリューション」の2分野に注力するが、いずれも2015年までに年平均4%を超える成長が見込まれる分野でもある。ST-エリクソンの合弁を解消しても、われわれのビジネス機会は多く、十二分に成長していくことが可能だ。
そして合弁解消によって、旧ST-エリクソンの研究開発リソースの再配置を行った結果、特にアプリケーション・プロセッサやマイコンなどの先端デバイスを扱うエンベデッド・プロセッシング ソリューション部門の研究開発力が拡充された。2014年以降はより強力なイノベーションを生み出せるだろう。
――厳しい市場環境の中、車載製品、マイコン、MEMSなどの売上が好調な要因はどこにありますか。
カッシス氏 先進的な製品、優秀で熱意ある従業員がそろっていたことはもちろんだが、継続的にイノベーションを提供できたことが成長に結び付いているだろう。
例えば、当社はCPUコア「ARM Cortex-Mシリーズ」を搭載した32bitマイコンをいち早く発売したが、その後、多数の競合企業が同様のARMコア搭載マイコン分野に参入してきた。その中で、当社は先駆者としてのアドバンテージを生かし、Cortex-M3からM0、M4と対応コアを増やすことで、製品ラインアップを拡充してきた。同時にこれまでの経験から、ARMコア搭載マイコン・ファミリ内でのハードウェア・ソフトウェア互換性を確保し、非常に豊富なファームウェア・ライブラリを提供するなど、優れた開発エコシステムを提供することで、他社を引き離してきたと考えている。自動車分野についても、バイポーラ、CMOS、DMOSの各プロセスを組み合わせた「BCDプロセス」など各種先端技術で先行し、IHS iSuppliの調査によると車載用半導体市場で世界第3位の地位を築いている。ちなみに、STが手掛ける車載用半導体分野に限ったシェアであれば、世界2位だ。
――日本での自動車向け半導体ビジネスの状況はいかがですか。
カッシス氏 日本に限っても、当社が対象としている車載用半導体市場でのシェアは3位。スマートパワー製品や車載インフォテインメント用ICなどが好調で、今後は車載用マイコンの拡販によりそのポジションをさらに強化していく。また、競合他社の多くが製造面での外部委託比率を高めているが、STは自社の生産能力で賄えている。加えて、生産拠点のデュアル/マルチファブ化が実現できており、信頼性や安定供給という点も日本の自動車産業からの評価につながっている。
――迎えた2014年ですが、どのような1年になるとお考えですか。
カッシス氏 個人的には、“市況は回復すべき!”と思っているが……。市況を正確に予測することは非常に困難だ。
そのため、ビジネスについては、市況に関係なく、どこよりも速いスピードで成長するようにしていかなければならない。そのためには3つのことに取り組む。1つ目は、より良い製品、技術を他社よりも速く開発すること。2つ目は、より多くの顧客との接点を強化していくこと。2014年は、主要な大手顧客だけでなく、マスマーケットにも積極的に展開していきたい。そして、3つ目は、「どこよりも速く成長する」という強いモチベーションを社員が持つこと。そのためにもポジティブな経営を行っていく。
昨今のデザイン・イン/デザイン・ウィン案件を見ても、状況は改善されてきており、ポジティブな要素が多い。
――2014年、特に成長を期待しているアプリケーションはありますか。
カッシス氏 2013年同様、自動車向けは期待できる。特に、日本は円安傾向にあるのでさらなる飛躍が見込める。また、ウェアラブル/ヘルスケア機器も期待したい。STはMEMSセンサから信号処理用アナログ、低消費電力マイコンなど必要な製品を幅広くそろえており、ビジネス機会は多い。セキュリティ分野でも、ブランド保護からバンキング領域、NFC(近距離無線通信)など幅広いアプリケーションで、当社が得意とするセキュリティ技術が生きてくるだろう。その他にも、省エネ関連需要が強いパワーデバイスの需要増も見込め、期待できる部分は多い。
――より速い成長を実現するには競合他社との差異化が不可欠です。
カッシス氏 さまざまな面で差異化を図っているが、特に、技術面での強みを打ち出していきたい。
代表的な例が、完全空乏型SOI(FD-SOI:Fully Depleted Silicon-on-Insulator)と呼ぶ新しいプロセス技術だ。現在生産を開始している28nmのプロセス・ノードでは、バルクCMOSに比べて動作周波数を30%高められる。言い換えれば、同じ性能で消費電力を30%以上抑えることが可能だ。さらに、0.6Vといった低電圧駆動にも対応し、高性能と低消費電力を両立できる有望な技術だ。セット・トップ・ボックス向けをはじめとしたASSPや各種ASICへ展開していく。同時に20nm以降のFD-SOIの開発も進めていく。20nm以降は、FinFETなどの複雑なプロセス導入も検討されているようだが、FD-SOIはシンプルさを特徴としているプロセスのため、より高い優位性が期待できる。
その他にも、SiCパワーデバイス技術や、ピコプロジェクタ向けミラーデバイス、センサといったMEMS関連技術など、多くの独自性のある先進技術がある。
――日本では、マイコンやパワーデバイスなどの分野で競合他社が多く存在しますが、日本法人としての2014年の独自戦略などありますか。
カッシス氏 市場競争は世界中に存在し、日本だけのことではない。繰り返しになるが、日本でも、高性能と低消費電力を両立する先端技術を使った製品を提供していければ、成長を実現できると考えている。
現在、世界シェアトップとなったMEMSセンサも、もともとは日本のメーカーが強く、STは後発だった。当時、日本の競合他社は車載向けに軸足を置いていたが、STは民生にフォーカスし、ビジネスを広げ、現在の地位を確立することができた。マイコンやパワーデバイスなど他の製品でも、高い技術力と幅広いポートフォリオを持ち、顧客との接点を強めることでビジネス規模は大きくできる。
当社は現在、製品別組織ではなく地域を重視した体制にしている。日本でも、市場や顧客に応じた製品とサービスを今後もより一層提供していく。
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提供:STマイクロエレクトロニクス株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2014年2月13日