電源の設計は複雑になり、一部のアナログマスターを除く多くのエンジニアにはますます避けたいものになりつつある。しかし、多くのエンジニアと電源の距離を一挙に縮める画期的な電源ICが登場した。煩雑な電源設計を、ソフトウェアで簡単、自由に設計できるようになる。
電源設計は、日増しに難しくなってきている。
FPGAやSoC(System on Chip)は高性能化とともに動作電圧が1.0V近くまで下がってきた。逆に動作電流は増大してきた。低電圧/大電流を高精度に供給するには、これまで以上の技術力が必要になる。さらにこうした先端デバイスでは、少しでも消費電力を減らすために、デバイスごとの個体差に応じて電源電圧を変える「ASV」*1)や、動作状況に応じて電源電圧を調節する「DVFS」*2)といった技術を搭載しており、電源制御はかなり複雑化してきている。
*1)ASV:Adoptive Supply Voltage
*2)DVFS:Dynamic Voltage Frequency Scaling
しかし、全てのデバイスが低電圧/大電流駆動化されている訳ではない。フラッシュメモリやインタフェース用ICなどは、これまで通り3.3V電源で駆動する。そのため、エンジニアが用意しなければならない電源の系統は増えている。例えば、FPGA/SoC用の1.2V系、DDR2 DRAM用の1.8V系、フラッシュメモリ用の3.3V系など、5V以下の低電圧領域だけでも3つの系統が必要なケースがほとんどだろう。
複雑で、かつ、規模も大きくなっている電源設計をさらに難しくしている要素がもう1つある。電源設計のためのリソースだ。設計開発の効率化のため、時間面、人員面で余裕のない開発現場が増えてきている。その中で、“できて当たり前”であり、直接的には製品の競争力につながりにくい電源設計には、コスト/リソースをかけたくないのが本音だろう。アナログ技術を十分に把握してないであろうデジタル設計エンジニアでも、電源設計を強いられるケースは多くなっている。しかし、先に述べたように、複雑、大規模化する電源は、決して誰もが設計できる領域ではない。
こうした状況に対し、電源について詳しくないエンジニアやアナログを苦手とするエンジニアでさえも、“高精度で高機能な小型電源を簡単に作れる”をコンセプトに生み出された電源ICがある。「MB39C031」だ。
MB39C031は、2チャネルのDC-DCコンバータと1チャネルのLDOレギュレータの計3チャネルを1つのICに集積。1つのDC-DCは、1.0〜1.3Vの範囲で最大1.4Aの電力を供給できる。もう1つのDC-DCは、1.2〜1.95V(最大0.6A)、LDOは2.8〜3.3V(最大0.25A)が供給可能。1つのICで、例に挙げたような先端SoC+DDR2 DRAM+フラッシュメモリというような構成のシステムの電源をまかなえる。
もちろん、この電源ICを実装するだけで電源が完成するわけではない。電源設計で煩わしいのは、電源ICの設定や位相補償回路など電源IC周辺回路の設計だ。
一般的な電源ICの出力電圧は、抵抗を外付けし、その抵抗値で設定する。そのため、設計途中に出力電圧を変える必要があれば、抵抗を付け替える必要がある。どのエンジニアにとっても、手間の掛かる部品の取り換え作業は避けたいところだ。
実は、MB39C031は出力電圧をソフトウェアだけで設定できる『プログラマブル』なのだ。マイコンからI2Cインタフェース経由で、出力電圧を変えることが可能だ。出力電圧の変更は、設計時だけでなく、動作時にもリアルタイムで変更できるため、先端SoCなどで採用されるDVFSなどにも対応できてしまうわけだ。
出力電圧以外にも、I2C経由でチャンネルごとの電源立ち上げ、立ち下げ順を決めるシーケンス制御やソフトスタート時間をソフトウェア設定できる。
なお、ソフトで設定を変えられる電源自体は、マイコンやDSPをベースにしたデジタル電源の登場で珍しいものではないかもしれない。しかし、MB39C031はそれらマイコン/DSPベースのデジタル電源とは一線を画した「誰でも簡単に扱えるアナログ電源」といえるのだ。
デジタル電源のソフトは、複雑なプログラムを必要とする場合が多いが、MB39C031の場合、マイコンから単にI2C経由でレジスタを変えるだけと極めて単純だ。しかも、この単純なソフトウェア設定さえ行わずに、任意の出力電圧が得られる仕組みさえある。
MB39C031は、IC内に出力設定抵抗を内蔵している。この内蔵抵抗の抵抗値は工場出荷時に設定されるため、あらかじめ任意の出力電圧に設定された状態で入手できるのだ。
面倒な設定作業を行わず、決められたわずかな外付け部品を追加するだけで、電源回路が完成する――。MB39C031が「誰でも簡単に扱えるアナログ電源」であるゆえんだ。
もちろん、プリセットの値から変更が必要になった場合は、ソフトウェアで変更できる。
なお、MB39C031は、出力設定抵抗とともに設計が面倒な位相補償回路も内蔵した。そのため、MB39C031を使用して電源回路を設計するのに必要なのは、入出力コンデンサと出力平滑用インダクタが各チャネルに必要なだけだ。しかも、MB39C031のDC-DCコンバータのスイッチング周波数は、3MHzと高速。そのため、コンデンサ、インダクタともに小型、低背のチップ部品が使用できる点も特長だ。
実際に、MB39C031を使って電源回路を組み上げた場合の実装面積は、89.4mm2。これは、高集積型の競合電源ICと比較しても、2/3以下のサイズだという。
性能面も、電源ICとしてトップクラスの水準を保つ。変換効率は、1.0〜1.3V出力のDC-DCで91.1%(ピーク時)、1.2〜1.9V出力のDC-DCで94.1%(ピーク時)を誇る。制御方式も、PWM固定モードと、低負荷時の電力損失を抑えられるPFM方式を併用したPWM/PFM自動切り替えモードを選択できる。
アナログ回路に詳しくないエンジニアでも、小型/高性能な電源システムを簡単に構築できるMB39C031。スパンションでは、このMB39C031を使った電源設計を、さらに手軽にする開発環境も用意している。それが、オンラインシミュレーションツール「Easy DesignSim」だ。
Easy DesignSimは、富士通セミコンダクター時代から多くのエンジニアに活用されるシミュレーションツール。電源の入出力電圧/電流条件に応じた周辺部品/周辺回路の選定がオンライン上で自動で行える。さらに、オンライン上で設計した電源回路の動作をシミュレーションすることができ、負荷応答特性や起動/停止時の波形、AC解析、効率などをグラフィカルに確認することができる。オンライン上で、組み上げた理想の電源回路の部品をそのまま、部品販売商社に注文、購入できる機能まで備えている。
スパンションでは、MB39C031の発売とともに、Easy DesignSimにMB39C031のシミュレーション機能も追加。MB39C031を手に入れる前に、オンライン上で、MB39C031の利便性を仮想体験することも可能であり、ぜひ試してほしい。
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提供:Spansion Inc.(スパンション)
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2014年5月2日
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