スパンションは、新しいハイエンド車載マイコンファミリ「Spansion Traveoファミリ」を発表した。CPUコアには、“グローバルスタンダードコア”として自動車市場でもニーズが高まる最新ARMコア「ARM Cortex-R5」を採用。スパンションの誇るフラッシュメモリ技術とペリフェラル技術を組み合わせた最先端の車載マイコンとして展開していく。
SoC(System on Chip)に続いて、マイコンの世界でも、“CPUコアといえばARM”という時代が到来して久しい。そして、いよいよ車載マイコンでも「ARMマイコン」の時代が幕を開けようとしている。
2014年5月19日、スパンションは新しい車載マイコン製品群「Spansion Traveoファミリ」を発表した。CPUコアに「ARM Cortex-R5」を搭載する32ビットRISCマイコンであり、「車載で初めてCortex-R5を搭載したマイコン」としてARMも認めている製品ファミリだ。
家電や産業機器などに向けた汎用マイコンの領域で、ARMコアをCPUに搭載したARMマイコンが急速に普及してきたのとは対照的に、車載マイコン市場では、マイコンメーカー各社が独自に開発したCPUコア、いわゆる「オリジナルコア」を搭載したマイコンがまだまだ主流だ。
では、なぜ車載マイコンでARMコアの搭載が進んでこなかったのか。その答えは明確だ。
車載マイコンは当然ながら、汎用マイコンよりも高い安全性、信頼性が要求される。そのため、市場での“実績”が重視される。マイコンのコアとして歴史の浅いARMコアよりも、歴史の長いさまざまなオリジナルコアが重宝されてきたというわけだ。
だが、いよいよ車載マイコンでもARMコアを採用する動きが活発化してきている。その理由はいくつかある。
まずは“実績”だ。ご存じのように汎用マイコン分野では、ARMコアは主要なCPUコアの1つに数えられるまでになり、その実績は申し分ない域に達しつつある。その汎用分野でのARMコアの実績が高い安全性、信頼性が要求される車載分野でも認められつつあるのだ。
さらに車載分野でARMコアの採用を後押しするのが、車載マイコンで処理するソフトウェアの規模の増大だ。
肥大化するソフト規模の中で、1度開発したソフトは可能な限り流用したい。可能であれば、外部リソースを活用した開発や、外部からソフトの調達を行いたい。しかし、ソフトはCPUコアごとに構成を変えなければならないし、開発ツールも違ってくる。流用性、汎用性という観点からメーカーごとに異なるオリジナルコア搭載マイコンよりも、複数のマイコンメーカーが“スタンダードコア”として同じCPUコアを搭載したマイコンを提供する方がユーザーとしては何かと便利になってくる。
これらの要因から、車載マイコンでも“スタンダードコア”を求める声が大きくなっている。そしてその“スタンダードコア”として、汎用マイコン/SoCの領域で既にその地位にある“ARMコア”に白羽の矢が当然のように立っているのだ。
こうした車載市場の“スタンダードコア=ARMコア”を求める声に、いち早く応えたのがスパンションだ。「3〜5年前から欧州の自動車/電装品メーカーからARMコアを搭載したマイコンの開発要請があり、カスタム品として『ARM Cortex-R4』を搭載したマイコンを開発し供給を行ってきた」という。
そして、スパンションは、「開発ツールベンダーやソフトベンダーなどで構成するエコシステムが充実しているARMコアに対し、車載分野での期待感は徐々に高まっている」との理由から、これまでのオリジナルコア「FRコア」の上位に位置するハイエンドコアとしてARM Cortex-R5を採用することを決定。このほど同コアを搭載するTraveoファミリの製品化に踏み切った。
Cortex-R5は、デュアルコア構成が可能であり、高性能、リアルタイム、安全が必要とされる車載用途のようなアプリケーションに最適化されたCPUコアだ。動作周波数1MHz当たり1.66DMIPSの処理性能を誇り、FPU(単精度/倍精度演算命令対応)やキャッシュを搭載することもできる。命令フラッシュ、メインRAMをTCM(Tightly Coupled Memory:密結合メモリ)に直結できるため、キャッシュがなくても高速にプログラムを実行できる。その他、メモリ保護ユニットやECC、パリティエラー検出訂正などもサポートし、信頼性の高いシステム動作が行えるという特長がある。
Traveoファミリは、このCortex-R5の搭載だけでなく、さまざまな特長を併せ持つ。その1つが「ARMコアプラットフォーム」の採用だ。このARMコアプラットフォームは、ソフトウェア開発に影響を及ぼす、CPUコア周辺のバスや基本ペリフェラル(周辺機能)を固定したものであり、Traveoファミリの製品同士であれば極めて高いソフトの流動性を実現できるようになる。「同じARMコアのマイコンでも、内部バスや基本ペリフェラルの違いで大きなソフトの変更が伴う場合もあるが、Traveoファミリの各製品は共通して、ARMコアプラットフォームを使用するため高い水準でのソフト流用性を保つことができる」という。
Traveoファミリでは、“フラッシュメモリメーカー・スパンション”が誇る高性能フラッシュメモリ技術「eCT(embedded Charge Trap)フラッシュメモリ」も今後、積極的に搭載していく方針。「近い将来には、55nmプロセスや40nmプロセスを導入しながら、eCT技術を採用し6M〜8Mビットの大容量フラッシュ内蔵品もラインアップする計画」という。
さらにTraveoファミリの大きな特長となるのが、旧富士通/富士通セミコンダクター時代から脈々と蓄積してきた充実のペリフェラル群を生かした特色ある製品展開だ。Traveoファミリの第1弾製品である「MB9D560シリーズ」にもその特長が存分に生かされている。
MB9D560シリーズは、ハイブリッド車(HEV)/電気自動車(EV)の動力モータ制御用として開発されたマイコンだ。HEV/EVシステムでは、主動力モータやジェネレータ(発電用モータ)と2つのモータを制御する必要がある。これまでは、両モータともに高度な制御が要求され、これまでは2つのマイコンを使用しそれぞれのモータ制御していた。それに対し、MB9D560シリーズは最高200MHzで動作するデュアルコア構成のCortex-R5の性能と、スパンションのモータ制御用ペリフェラルを組み合わせることで、2モータを1マイコンで制御することを可能にした。
モータ制御演算は、常に演算処理を行う必要がある上、処理自体も複雑で、CPUに大きな負荷を掛ける。そこで、MB9D560シリーズでは、モータ制御演算の一部をハードウェア化した「モータ演算アクセラレータ」(MVA)を2回路搭載し、CPUへの負荷を大きく軽減することで2モータ制御対応を可能にした。MVAは、モータの3相電流を取得するA-Dコンバータ起動に同期し、RDCの角度演算、3相電流正規化、3相2相直流変換、PID制御、電流/電圧変換、2相3相交流変換といった各種モータ制御演算が実行できる。「ハードウェアアクセラレータだが、さまざまな制御アルゴリズムに対応できるよう最適な範囲でのハードウェア化を行っている他、MVAの各機能を選択的に使用できるような柔軟性も備え、さまざまな制御アルゴリズムに対応できる」という。
さらにMVAには、モータ制御システムに不可欠な異常診断機能も盛り込んでいる。モータ制御での異常をリアルタイムに検出でき、これまでCPU演算や外部システムで実施していた異常診断を、モータ制御演算同様、CPUに負荷を掛けることなく実施できる。搭載する異常診断機能としては、入力信号に対する3相和診断、トルク/磁界電流診断、RDC振幅/角度診断など。異常検出時には、CPUを介さずにモータPWM出力を停止することもできる。スパンションでは、「機能安全規格ISO26262対応として、MVAの診断機能を用いることにより常時モータ制御での異常検知が可能となり、モータ制御システムで要求される安全レベル実現に向けた安全施策として大きく貢献できる機能」と説明する。
MB9D560シリーズは既にサンプル出荷中であり、2014年11月末の量産開始を予定している。スパンションでは、MB9D560シリーズに続く、Traveoファミリを開発しており、順次、製品化を実施していく予定だ。
そのTraveoファミリの開発例として、2014年5月21〜23日にパシフィコ横浜で開催される自動車技術専門展「人とくるまのテクノロジー展2014」では、車載LAN規格「CAN」(Controller Area Network)を拡張した「CAN FD」(Flexible Data Rate)のコントローラを搭載したTraveoファミリ製品の参考出品を行う。「CAN FDコントローラを内蔵したマイコンは業界初」とし、2014年内のサンプル出荷開始を目指している。これ以外にも、車載向けで多くの実績を持つグラフィックス処理コアを搭載した製品などさまざまなTraveoファミリ製品の開発を行っている。
なお、スパンションは「人とくるまのテクノロジー展2014」で、Traveoファミリ第1弾製品のMB9D560シリーズの動作デモを公開する他、コア依存のないシミュレーションが行えるモデルベース開発ツールやメータ/クラスタ向けグラフィックスコントローラ製品の展示を行う予定だ。
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提供:Spansion Inc.(スパンション)
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2014年6月20日
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