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“砂漠の中からひと粒のダイヤを探す”、ビッグデータの価値を引き出すデータ集録NIWeek 2014現地リポート

「ビッグデータ」という言葉が注目されるようになって数年。モバイル機器やSNSの普及もあり、日々、膨大な量のデータが生成されるビッグデータ時代が始まっている。だが、単なる大量のデータからは何も生まれない。情報から“本当の価値”を見つけるための鍵として、ナショナルインスツルメンツ(NI)は「正確に時間を同期させたデータ集録」を挙げる。データ集録と時間同期の技術に長年注力してきた同社は、これによって、ビッグデータに限らずあらゆる規模のデータから新しい発見を見つけ出すことができると強調する。

» 2014年09月02日 00時00分 公開
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IoTで加速するビッグデータ時代

 ここ数年、世の中のトレンドを示す新たなキーワードとして「ビッグデータ」が急速に注目を集めるようになっている。ビッグデータの特徴は、単にデータの量が膨大というだけではない。メタデータとも呼ばれる数値や文字列などの構造化データや、音声や動画、文章などの非構造化データなどデータの種類が多いことも特徴だ。

 さらに、データの蓄積を加速させているのが、モノのインターネット(IoT)の他、FacebookやTwitterに代表されるSNS(Social Networking Service)である。Cisco Systemsは、インターネットに接続される機器が2020年には500億個に達すると予測している。ナショナルインスツルメンツ(NI)のテクニカルカンファレンス「NIWeek 2014」の基調講演に登壇したインテルのSegments and Broad Market Division Internet of Things Groupでジェネラルマネージャを務めるJim Robinson氏は、「冷蔵庫や洗濯機といった家電など、かつては個々に稼働するのが当たり前だったあらゆる製品が、ネットワークに接続され、大量のデータを生み出している」と話す。また、Facebookは2012年の時点で、毎日500テラバイトを超えるデータが処理されていると明かした。

モノのインターネット(IoT)は、データの蓄積を加速する

 膨大な量のデータの利点としてまず挙げられるのは、統計における有意性だ。単純に、データ量が多いほど「有意である」という結論は導きやすくなる。NIWeek中に開催されたサミット「Big Analog Data Systems」のテクニカルセッションでは、ロールス・ロイス Controls & Data Servicesのシニアプロダクトマネージャを務めるNick Ward氏が、同社の航空機用エンジンの不具合を見つけるためにビッグデータを活用していることを説明した。

 ロールス・ロイスは、航空機のエンジンに約100個ものセンサを搭載し、振動や油圧、温度、スピードなど約20項目の性能パラメータをリアルタイムでモニタリングしている。不具合を検知するとその状況がエンジニアに報告され、問題の機体が着陸する空港に整備担当者が派遣される。モニタリングにより、ロールス・ロイスのデータセンタには1日当たり約9 Gバイトのデータが送られてくる。「データが多ければ多いほど、不具合を見つけられる確率は高くなり、適切な段階でアラートを検知して対処できる」(Ward氏)。

ロールス・ロイスは、航空機用エンジンの振動や油圧などをモニタリングし、独自に開発したソフトウェアで解析、不具合を見つけ出している。画像は、「Big Analog Data Systems」のテクニカルセッションで説明された、不具合を検知するまでのデータ解析フローである

 だが、あらゆる分野で、ロールス・ロイスのようにビッグデータを活用することは容易ではない。ビッグデータからどのように価値を引き出すのか。それが最も重要な課題になっている。

“同期”が鍵に

 その課題に答える鍵の1つとして、NIのCEOであるJames Truchard氏は「正確な同期」を挙げる。同氏はデータを価値のある情報に変えるためには、分散しているデータを集録する際に、時間の同期をより正確に取っていくことが重要だと強調する。例えばIoTの世界では何百、何千という端末やセンサによってセンサネットワークが構築されてデータが収集される。だが、「いつ」集録したデータなのかを正確に把握できなければ、モニタリングもライフログも何の意味もなさない。

NIのCEOを務めるJames Truchard氏 「ビッグデータの時代には、長期間にわたって蓄積したデータを“情報”に変えることができるようになる」と語る。NIは、ビッグデータを「Big Analog Data」と呼ぶ。データの多くは、振動、温度、音声、電圧などアナログデータだからだ

 NIはデータ集録の分野には長年注力していて、中でも時間同期の技術は最も得意とするところでもある。独自に開発した、時間同期の機能を強化したバスインタフェース「PXI Express(PXIe)」もその一例といえる。同インタフェースを搭載しているモジュール式計測器「PXI」は、数百チャンネルものデータをナノ秒単位で同期する性能を持つ。

 PXIは、NASA(米航空宇宙局)が行っているスペースシャトルの修復実験にも採用された。この実験は、宇宙に近い環境を再現して行うために圧力と室温を厳密に制御する必要があった。そのため実験室全体に熱電対が設置され、データ集録システムが扱うアナログ信号の数は500チャンネルに上ったという。NASAは、このデータ集録システムをPXIと、PXIeに対応したモジュールで構成し、500チャンネルの信号を100 μs以内で同期して測定することに成功したという。

 NIWeek 2014の基調講演では、Jacobs Technology Groupが、PXIを使用したシステムの例として飛行機の主翼のひずみを複数の箇所でモニタリングするデモを披露した。主翼にはロードセル、加速度センサ、ひずみセンサが搭載されていて、アクチュエータを用いて主翼を動かす。実際の機体では測定ポイントが2万箇所近くになる場合もある。こうしたケースでもPXIを複数台使用して、同期を取りながらデータを集録できる。

3層のソリューション

 また、NIは、ビッグデータから有用な情報を得る方法として3層から成るシステムの構築を提案している。データを集録する第1層「センサ/アクチュエータ」、そのデータを解析する第2層「システムノード」、データを保存しクラウドなどで共有する第3層「ITインフラ」である。NIは第2層向けに、モジュール式計測器「CompactDAQ」やPXIなど、第3層向けには、データの読み込みやリポート作成を支援するソフトウェア「DIAdem」などをそろえている。これらの製品を全てシステム開発ソフトウェア「LabVIEW」で連携し、プログラミングやデータのやり取り、操作を行えることが強みである。

NIが提案するビッグデータを解析する3層ソリューション 「CompactDAQ」や「PXI」は、データ集録を行う第2層「システムノード」で使われる

データ集録の意義――“発見”に導く

 もちろん、ビッグデータのように大規模なデータを収集するだけがデータ集録ではない。NIのDAQ製品のディレクタを務めるChad Chesney氏は、「データ集録は、Jacobsの事例のように大規模なもの、研究室の実験台で行うような小規模のもの、野外で行うものに分類できる。ただ、規模に関係なく全てに共通することは、データ集録によって何らかの発見を生み出すことだ」と語る。

 例えば、Lloyd Industriesは、アメリカンフットボールなどのスポーツ向けに、頭部への衝撃を緩和するヘルメットのプロトタイプをNIWeek 2014で披露した。実は、このヘルメットの開発にも、時間同期に強いNIのデータ集録システムが生きている。

 Lloyd Industriesの創設者であるJohn Lloyd氏によれば、頭部への衝撃には、ヘルメットに対して直線方向に加わる衝撃と、ヘルメットが左右に回転することによって加わる衝撃の2種類があるという。従来の技術では、前者は解析できるが後者をうまく解析することは難しかった。Lloyd Industriesは、ヘルメットを2 mの高さから落下させ、その衝撃を加速度センサ、角速度センサ、力センサ(フォースセンサ)によって計測するテスト装置を開発した。そのデータ集録にCompactDAQを採用し、直線的な衝撃と回転による衝撃のデータを同期させることで、頭部への衝撃を低減するアメリカンフットボール用ヘルメットのプロトタイプを開発できたという。Lloyd氏は、「従来は直線的な衝撃と回転による衝撃の間に遅延が発生し、同期がうまくいかなかった。だがCompactDAQを使うことでこの問題が解消された」と説明する。プロトタイプでは、回転による衝撃を50%減らすことに成功している。

 Centers for Disease Control and Prevention(米国疾病予防管理センター)によれば、米国では脳振とうなど脳に衝撃が加わる脳損傷が毎年160万から380万件発生していて、そのうち約30万件はアメリカンフットボール選手が試合中や練習中に受けたものだという。Lloyd Industriesのヘルメットは、命にも関わる脳損傷の発生率を抑えるとして期待を寄せられている。

Lloyd Industriesが開発したアメリカンフットボール用のヘルメット NIWeek 2014では、ヘルメットを落下するテストのデモを披露した(左)。センサからのデータを全て正確に同期する(右)ことで、回転による衝撃を低減するヘルメットを開発できた

 NIが、データ集録において時間同期とともに重要視しているのが、ハードウェアの小型化と堅ろう性の強化だ。データの集録は、実験台の上から大規模な試験場まであらゆる場所で行われる。過酷な環境でデータを収集するケースもあるため、サイズと堅ろう性は、性能とともにユーザが最も気にするポイントになっている。

 NIWeekでは、小型化と耐環境性をさらに進化させた製品CompactDAQ「cDAQ-9132」「cDAQ-9134」が発表された。データ集録時に外部のPCを必要としない、スタンドアロン型の製品となる。動作周波数が1.33 GHzのIntel Atom3800デュアルコアプロセッサと不揮発性メモリ、信号調節機能、I/O、SDカードスロット(ストレージ)を備え、OSにはWindows Embedded 7または「NI Linux Real-Time」のいずれかを選択できる。スタンドアロンで動くCompactDAQはこれまで8スロット製品しかなく、4スロットのスタンドアロン型はこれが初めてになる。

4スロットのスタンドアロン型「CompactDAQ」 最もシンプルなデータ集録システムを構成できるCompactDAQは、さまざまな場所に持ち込めるよう小型化のニーズが強い。4スロット品を開発したのも、「もっと軽く小さく」というユーザの声に応えたものだ

 cDAQ-9132/cDAQ-9134は、コストの削減にも大きく貢献する。NIによれば、データ収集に必要なコストの17〜27%はハードウェアをつなぐケーブル接続関連が占めるという。スタンドアロン型にしたことで、別途PCを用意したり、PCと接続したりする必要がなくなる。さらに、cDAQ-9134はCAN/LINポートを内蔵しているので、モジュールを用意しなくて済む。これらによって低コスト化を実現している。加えて耐衝撃性(最大50 G)、耐振動性(5 G)も向上、動作温度範囲も−40〜70 ℃に拡張している。

 大量のデータを集めるだけなら誰でも可能だ。だが、そこから有用な情報を見つけることは、砂漠の中からほんの一握りの宝石を探すに等しい作業である。膨大なデータを、時間軸を同期しながら集録することは、ビッグデータから“真の価値”を引き出し、より良いモノづくりのための1つの解になるだろう。


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提供:日本ナショナルインスツルメンツ株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2014年9月30日

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