産業機器をはじめとしたあらゆる機器で、省エネ/高効率を実現するとともに、使いやすいインテリジェントな電源デバイスが求められている。そこで本稿では、これまでにない新たな価値を生み出す“インテリジェント・パワーデバイス”と言えるパワーマネジメントIC、LEDドライバを紹介していこう。
全ての電子機器には必ず、電池やコンセントからのAC電力など、デバイスを駆動させるために必要な電力が供給される。その電力を電子機器で使える形に変換する役目を果たすのが電源デバイスである。電源デバイス自体の役割は単純だが、電子機器そのものの良しあしを決定するキーデバイスである場合がほとんどだ。
電源デバイスの特性、例えば変換効率はモバイル機器では、駆動時間を大きく左右し、産業機器などでも、省エネ性能が機器としての評価を決定づける要素となる場合も少なくない。
時代の流れとともに機器の低消費電力化、省エネ化ニーズはますます大きくなるばかりで、変換効率を高めるだけではニーズに応えられなくなりつつあり、稼働していないデバイスへの電力供給を抑制するなどの新たな制御機能を付加することが電源デバイスにとって必要となってきている。
同時に、モバイル機器はもちろんのこと、産業機器においても小型化や低コスト化に向けた要求は非常に多い。さらに、機器の処理能力の向上に伴った低電圧、大電流駆動デバイスの登場などにより、より電源回路の設計は困難になってきている。そのためシステムの電源ブロック電源回路設計を容易化するためのソリューションを求める声も昨今、急速に高まっている。
電源を変換して供給するだけの単純なデバイスは、影が薄れ、これまでにない価値を付加するような“インテリジェント・パワー”が求められる時代となっているのだ。
こうした“インテリジェント・パワー”のニーズにいち早く応え、これまでにない新しい電源デバイス開発を積極的に展開しているのが、スパンションだ。
スパンションは2013年7月、デジタルカメラなどのモバイル機器や通信/OA機器などに向けたカスタムのシステム電源ICなどで定評のあった富士通/富士通セミコンダクター(以下、富士通)からアナログ事業を買収した。パワーデバイス市場は、インテリジェント化が進み、新たなビジネスチャンスがあるとの判断からの買収であり、買収以後、積極的な投資を行いインテリジェント・パワーデバイスの強化を行っている。
強化方針は明確で、通信/OA機器向けなどで培った多チャンネルのシステム電源技術、モバイル機器で養った昇降圧変換技術といった富士通時代からの独自コア技術が生かせる領域で、新規性を発揮できる製品を投入することだ。具体的には、得意とする「産業機器、OA/通信機器向けのパワーマネジメントIC(PMIC)」と、新たに市場が立ち上がりつつある「通信対応型LEDドライバIC」「エナジーハーベスティング用PMIC」の3製品分野をターゲットにしている。3製品分野ともに、インテリジェント・パワーが強く求められている典型的な分野でもある。
産業機器、OA/通信機器は、電源回路が複雑化、高度化が顕著な領域だ。メインデバイスともいえるFPGAやASIC、ASSPが微細プロセスを採用し、最近では1.0V未満の低電圧に対して数Aという大電流を駆動するようになっている。さらにこうした大規模なLSIでは、動作に応じて駆動電圧を変えて低消費電力化を図る技術が導入され始めている。一方、大規模なLSI周辺を固めるメモリやペリフェラルデバイスは、3.3Vや5Vといった電圧で動作するため、それらに応じた電源ICを用意する必要もあり、自然と電源回路規模が増大してしまう傾向にある。
そこで、スパンションは、多チャンネルDC-DCコンバータ技術を駆使し、1つのICで大規模LSIからメモリ、ペリフェラルデバイスへの電源供給が行えるPMIC「S6AP412A/413A」「MB39C031」などを展開する。これらのPMICは、1.0V系、3.3V系、5.0V系の3系統の電源供給が行える多チャンネルPMICであるだけでなく、“高精度で高機能な小型の高集積電源回路を誰でも簡単に作れる“をコンセプトにしたインテリジェントな機能を多く持っている。
例えば、各チャンネルの立ち上げ/立ち下げを決めるシーケンス制御がソフトウェアで設定できる「プログラマブル機能」だ。これらのPMICは、I2Cインタフェースを持ち、マイコンからI2C経由でレジスタを変えるだけで、シーケンスを変更できる。シーケンス以外にも出力電圧やソフトスタート時間なども同様にソフトウェアで変更可能。なおかつ変更は動作時にも行えるため、デバイスの個体差に応じて電源電圧を変える「ASV(Adaptive Supply Voltage)」や、動作状況に応じて電源電圧を調節する「DVFS(Dynamic Voltage and Frequency Scaling)」といった先端デバイスに搭載される低消費電力制御方式にも対応できる。
こうしたソフトウェアによるシーケンスや出力電圧などの変更は、DSPなどを使ったデジタル電源でも実現できるが、高度なソフトウェアプログラミング技術が必要だ。レジスタ変更のみで実現できるS6AP412AなどのスパンションのプログラマブルPMICとデジタル電源のどちらが誰でも使える電源ICであるかは明白だ。またI2Cインタフェースを持たない電子機器に対しても、ハード端子でシーケンス設定をすることが可能で、ソフト/ハードを組み合わせた自在なコントロールが可能となる非常に使いやすいデバイスだ。
なお、スパンションでは、産業機器やOA/通信機器などに向けたPMICとして、前述のPMIC「S6AP412A/413A」「MB39C031」に加え、より特定のデバイスにターゲットを絞り、使いやすさ、性能を追求した製品の展開も行っている。2014年9月には、ザイリンクスのARMコア搭載FPGA「Zynq-7000 All Programmable SoC」(以下、Zynq7000)をはじめとしたデバイスに最適な製品群に新たにPMIC「MB39C50Xシリーズ」を投入した。
最大25Vの入力電圧から最大20Aの大電流を基準電圧±1%、負荷安定度±0.3%という高精度で供給可能。Zynq7000などFPGA/プログラマブルSoCに要求される性能と電源供給の要件を満たす。過大電流が流れる危険性をモニターし、過大電流が流れる前にシステム側にアラート信号で知らせ、適切なシステム保護動作を行い、余分なマージン設計を不要としシステムの信頼性も向上させる電源ブロックの最適化設計を可能とするインテリジェントな電源管理機能も搭載している。
高度なソフトウェア知識なしに、インテリジェントな機能を実現するというコンセプトは、スパンションのLEDドライバ製品にも共通している。
LED照明市場は、白熱灯や蛍光灯といった従来照明を置き換える時期から、LEDならではの機能を生かした付加価値照明の普及期に入りつつある。特に、消費電力の削減や、ユーザーに対する使い勝手の良さが求められる街路灯やビル/工場照明など業務用照明分野では、センサーと連動するなどした周辺環境に応じた調光/調色などを実現する高付加価値LED照明へのニーズが特に高まっている。
こうした高度な調光、調色を実現するためには、照明操作パネルやセンサーと照明を結ぶ制御用通信が必要になる。こうした照明制御用の通信規格として、「DALI」(Digital Addressable Lighting Interface)や「DMX 512」などが登場している他、家庭用などではスマートフォンなどと連携できるBluetoothなどの通信機能が照明に搭載されようとしている。
ただ、DALIなどの通信機能を照明に取り込むには、マイコンなど通信用デバイスが新たに必要になる上、通信プロトコルなどを実装する必要がありソフトウェア/通信ノウハウが不可欠だ。これまで、通信技術とは縁遠かった照明の設計現場では、制御用通信機能導入への障壁は高くなる。
そこでスパンションは、そうした照明制御用通信の代表格となりつつあるDALIの通信プロトコルを内蔵したLEDドライバIC「S6AL211A31」を製品化した。プロトコルがハード実装されているため、ユーザーはプログラムを行う必要は一切ない。もちろん、通信の知識なども要らずDALI対応照明を実現できる。
なお、S6AL211A31は0.1%〜という超深調光/調色性能を持つ他、得意の高集積化技術を使って従来は外付けだったLDOなどの部品を取り込むなど、DALI対応だけでなくLEDドライバとしての基本性能、機能も充実している。スパンションでは、今後、DMX 512やBluetoothの通信プロトコルを実装したインテリジェントLEDドライバも相次いで製品化していく計画だ。
スパンションは、プログラマブルPMIC、通信機能搭載LEDドライバICなど、ユニークなインテリジェント・パワー製品を実現してきた技術力をベースに、新たな市場を生み出しつつある。その市場とは、エナジーハーベスティング(環境発電)市場だ。
エナジーハーベスティングとは、身の回りにありふれている光や熱、振動、電波などのエネルギーを、電力に変えて、機器を動作させようという技術。M2M(マシン to マシン)システムで多用されるであろうワイヤレスセンサー端末などを、定期的な交換の必要があるバッテリーではなく、エナジーハーベスティングで駆動させようと研究開発が盛んに行われている。これにより本当の意味でのバッテリーレス、充電レスが実現でき、産業用途においては人の立ち入りが困難な危険な環境等でバッテリー交換のためのシステム停止等なくワイヤレスセンサーによるモニタリングを行うことができるようになるのである。
メンテナンスフリーの機器を実現するエナジーハーベスティングだが、発電できる電力が極めて小さく、かつ、不安定という大きな技術課題がある。この課題を克服するために、様々なメーカーが光や熱といった環境エネルギーからより多くの電力を作り出せる高効率発電素子の研究開発に取り組んでいる。それと並行し、発電素子からの“限られた電力を有効活用するための技術”の追求もまた行われている。
“限られた電力を有効活用するための技術”には、主に2つの方向性がある。1つは、低消費電力のマイコンや無線モジュールなど小さな電力でも動作するデバイスの開発。もう1つは、発電素子からの電力を制御し、マイコンや無線モジュールといった負荷へ効率的に電力を供給するPMICの開発であり、スパンションのアナログ事業部門もこのエナジーハーベスティングに特化した専用PMICの開発に積極的な投資を行っているのだ。
エナジーハーベスティング用PMICは、扱う電力が小さいがゆえに、かなり高度な技術力が要求される。発電素子からの貴重な電力を無駄にできないため、PMIC自体の消費電力を極限まで抑えた高効率な電力変換技術が必要なだけでなく、不安定な入力電力の変動への追従といった技術力も問われる。幅広い用途で使用されるPMICの中でも、最も技術力が試される市場の1つといえるだろう。
その中でスパンションは2014年6月に、「MB39C811」「MB39C831」という2つのエナジーハーベスティング用PMICを製品化した。MB39C811は、太陽光や室内光から発電する光発電素子と、振動から発電する振動発電素子の2つの発電素子からなるハイブリッド構成のシステムを想定して開発された2入力対応の降圧型ICだ。昼間は光発電素子、夜間は振動発電素子からなど状況に応じた発電素子を選択し、より安定的に動作するエナジーハーベスティング端末を実現できる。無負荷時の自己消費電流は1.5μA(無負荷時)、550nA(入力=2.5V UVLO時)と抑えている。
MB39C831は、単セル・多セルの太陽電池、または熱電発電素子を使ったエナジーハーベスティングシステムに適した昇圧型IC。わずか0.35Vという低電圧で起動し、最低0.3Vから、3.0〜5.0Vの電圧を供給する。無負荷時の自己消費電流32μA。リチウムイオン電池への充電電圧/電流保護機能を内蔵し、バッテリーへの電力供給時もデバイスの追加が不要だ。さらに家庭用ソーラーシステムなどにも用いられる太陽電池の最大電力点に追従してDC/DCコンバータの出力を制御する機能「MPPT」も内蔵し、極めて高い効率で電力を取り出すことができる。
MB39C811とMB39C831は、無負荷時の自己消費電流が低く、より安定した電力を得られるような工夫がなされているが、それだけでエナジーハーベスティングシステムの電源回路を設計するのは難しいだろう。電力を安定させるため、PMICの前段/後段にキャパシタを設ける必要があり、そうしたキャパシタの容量を決定するのは、一定のノウハウが必要になる。スパンションでは、こうしたPMICの周辺を含めた電源回路設計を支援するための施策として、オンライン回路設計ツール「Easy DesignSim」の1機能として、エナジーハーベスティング電源回路設計ツールを公開している。同ツールを使えば、発電素子や負荷に合わせた最適な電源回路を短時間で構築できる。
また、MB39C811やMB39C831と、環境発電素子、スパンション製低消費電力マイコン「FM3ファミリ」、無線モジュールを組み合わせた開発/評価用スターターキットも用意している。スターターキットには、バッテリーレスのBluetooth Smart Beaconタグとして動作するものもあり、多彩なエナジーハーベスティングシステムを開発できる環境が整っている。
このようにスパンションは、産業機器をはじめとしたあらゆる機器で電源のインテリジェント化が進む中で、多彩な機能を搭載しながら、より多くの技術者にとって使いやすいPMIC、LEDドライバを製品化している。またここでは紹介しなかったが、スパンションは、より高水準の信頼性、品質が要求される自動車向けのパワーICも展開している。今後は、自動車市場で培った技術も積極的に応用して、インテリジェントながら、より高い信頼性/品質を兼ね備えたインダストリー市場向けパワー製品の開発も行っていく方針で、“インテリジェント・パワー時代”をリードする新しい製品が続々と登場するだろう。
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提供:Spansion Inc.(スパンション)
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2014年12月11日
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