STマイクロエレクトロニクスは2015年、「MEMS & センサ」「スマートパワー」「車載用製品」「マイクロコントローラ」「デジタル製品」の注力5分野での一層のビジネス拡大を目指す。本社エグゼクティブ・バイスプレジデントで日本・韓国地区を統括するマルコ・カッシス氏は「われわれは他社にはない独自の技術アプローチによってイノベーションを起こすことに集中している。2015年も、技術革新で注力5分野それぞれに新たな価値を提供したい」と抱負を語る。
――2014年の事業を振り返ってください。
マルコ・カッシス氏 ひと言でいえば、良い結果を出せた1年だった。
当社は、2012年末から「MEMS & センサ」「スマートパワー」「車載用製品」「マイクロコントローラ(マイコン)」「デジタル製品」という5つの成長分野に集中する戦略を採用しているが、2014年はいずれも良い方向に進むことができた。
――2014年後半から市況が軟化しているとの見方もあります。
カッシス氏 世界的に市況は2014年秋以降、少し下降気味のようだが、そのこと自体は驚くことではない。またIMF(国際通貨基金)が2015年の世界経済成長率として3.8%のプラス成長を見込んでいるように、決して悲観するような状況ではない。
いずれにしても、われわれが世界市況をコントロールすることは不可能だ。だから、われわれは市況に左右されず、技術革新を実現して価値のある製品を5つの成長分野で提供していくことに集中していく。
――注力する5つの成長分野ごとに2015年の事業方針をお教えいただけますか。まず、車載用製品に関してはいかがですか。
カッシス氏 車載市場は堅調な市場であり、2014年同様、売り上げは堅調に推移する。幸い顧客と設計レベルで密なコミュニケーションを図ることができ、市場でのシェアアップを実現できている。Powerアーキテクチャベースのマイコンやスマートパワー・デバイスといった車載用製品により、2013年の世界市場での車載用半導体シェアは第3位*1)だった。
*1)出典:IHS社
2015年も、車載市場に対してわれわれがやるべきことは変わらず、数年先を見据えて新しいアプリケーション分野への提案を強化することに尽きる。車載情報機器向けSoCとしてARMベースのAccordoファミリや、アクティブセーフティ向けのレーダー用デバイスやイメージセンサといった比較的新しい製品群が好調であり、継続してビジネス拡大を図る。
――日本市場での車載ビジネスの状況はいかがですか。
カッシス氏 日本でも堅調なビジネスとなっており、海外同様に安定した成長を維持している。
特に日本市場では、先の東日本大震災以降、1つの製品を2つ以上の工場で生産するダブルソースを求める顧客が多い。その中で多くの競合メーカーは、ファブレス、ファブライト化を進め、ファウンドリ(半導体受託製造専門企業)に頼ったデュアルファブ体制を構築する傾向が強いようだが、当社は原則、自社工場を軸にした明確なデュアルファブ体制を構築しており、当社の強みになっている。
――汎用マイコン分野も国内に有力な競合が存在する分野ですが、事業の状況はいかがですか。
カッシス氏 汎用マイコンは、2014年、非常に良い成果を見せている分野だ。好調の要因は、幅広いポートフォリオを構築できたことだろう。当社は、汎用マイコンとして、いち早くARMコアを採用した「STM32」を量産化し、製品数を広げてきた。現時点で8シリーズ、30プロダクトライン、550品種以上というポートフォリオが整っている。
実は2007年、当社の汎用マイコン(セキュア向けマイコン含む)市場での世界シェアは11位だった。そこから飛躍的にシェアを上げていき、2013年には2位*2)にまで達した。
*2)出典:IHS社
汎用マイコンでは大口顧客とともに、(量産規模が中小規模の)マスマーケットも重視しており、幅広いポートフォリオと充実した開発サポート体制によって、マスマーケットの多様なニーズに応えることができたことがシェアアップにつながったと分析している。
今後も、継続して製品数を強化していく。2014年9月には、ARM社のマイコン向け新CPUコア「Cortex-M7」の発表に合わせて、世界で初めて同コア搭載マイコン「STM32F7」をリリースできたことでも、当社の開発力の強さを理解してもらえるはずだ。
――マイコンの開発力はどのように強化されてきたのですか?
カッシス氏 2013年にエリクソンとの合弁を解消した携帯電話機用ベースバンドプロセッサなどを手掛けていた「ST-エリクソン」の開発リソースの多くをマイコン開発部門に投入した結果、大きく強化されている。セキュアマイコン領域でも、ST-エリクソンで培われた高周波回路設計ノウハウを生かし、競争力あるNFCコントローラなどを製品化できており効果が表れている。
――高いシェアを誇るモーションセンサなどMEMSデバイス関連ビジネスの2015年の戦略をお聞かせください。
カッシス氏 2014年9月に当社のMEMSセンサの累計出荷数は50億個を突破し、現状1日400万個にも及ぶ規模で生産を行っている。こうした出荷数、生産数を増やし続けてきた背景には、新しいMEMSデバイスを開発するとともに、新しい用途を開拓し続けてきた経緯がある。参入当初、市場ではMEMSセンサは車載用途向けが中心だったが、われわれはモバイル機器やゲーム機といった民生用途に着目し、市場を創ってきた。加速度、ジャイロといったモーションセンサに加え、近年では圧力センサ、タッチスクリーン・コントローラ、MEMSマイクロフォンといった製品領域に参入して着実に採用実績を伸ばしている。そして、新デバイス、新用途への挑戦は続けており、新たにUV(紫外線)センサやMEMSミラーデバイス、温湿度センサなどを開発し提案を進めている段階だ。
いずれのデバイスも、独自性の強い技術を用いて革新的な性能を実現しており、たとえ後発の分野でも、シェアを獲得できる強い製品力がある。
例えば、圧力センサは、従来の競合製品は直径200μm前後の穴が空いたデバイスで圧力を検知していたが、当社の圧力センサは、直径20μmの穴で検知が可能だ。そのため、防水・防塵性に優れているという特長がある。UVセンサについても、シリコンベースではなく、シリコンカーバイド(SiC)ベースで20倍の感度を持つ製品を実現しているなど、他社とは異なる技術アプローチで、新たな付加価値を持った製品提案が行えている。そうしたこともシェア獲得につながっている。
これまでは、静電容量技術をベースにしたデバイス開発がほとんどだったが、2015年はこれに加えピエゾ/圧電素子技術を駆使したアクチュエータデバイスなどを投入する予定だ。
――パワーデバイスに関してはいかがですか。
カッシス氏 パワーデバイスでも、低耐圧から高耐圧まであらゆる製品を扱うポートフォリオが強みになっている。既に1200V耐圧のSiC-MOSFETやSiC-SBDといった製品も投入するなど、開発ロードマップに沿った順調な開発が進んでいる。
パワーデバイスとマイコン技術を連動した、スマート照明向けのLEDドライバやワイヤレス給電用コントローラなどのソリューションも競争力があり、2015年に期待できる製品になっている。
――デジタル製品に関しては、収益改善に取り組んでこられましたが進捗(しんちょく)はいかがですか
カッシス氏 製品構成を見直し、カスタムLSIや、STB/ゲートウェイ用SoCなどに集中する体制へと変えたことで、収益性は大きく改善してきた。特に、システムLSI向けの最新プロセス技術である完全空乏型SOI(FD-SOI:Fully Depleted Silicon-on-Insulator)は、低コストで低消費電力の先端システムLSIが製造できる技術として市場からの評価が高く、カスタムLSIの受注増を後押しするものとして期待している。
28nm FD-SOIについては、サムスン電子と製造協力関係を構築し、2015年からは当社だけでなくサムスンからも同プロセス採用製品を調達できるようになる。28nmの次の世代である14nm FD-SOIについても開発は順調だ。
――2015年は、IoT(モノのインターネット)市場の立ち上がりが期待されている中で、マイコン、センサ、パワーデバイスを持つSTにとってビジネス機会は大きいように見えます。
カッシス氏 もちろんIoT市場は、広大であり、大切なマーケットとして重要視している。低消費電力マイコン、バラエティに富むセンサに、Bluetooth Low Energy用RFICといったコネクティビティ製品、アナログ・デジタル変換を行うアナログ・フロントエンドIC、低消費動作を可能にする電源ICなど、IoTに必要な半導体をフルカバーできている。
加えて、全てのモノがインターネットでつながるようになれば、セキュリティ技術の重要性も増す。セキュアマイコンを含めて、STの持つセキュア技術が生かせるだろう。IoTに限らず、通信対応の進む自動車などについても同じことがいえる。
また、2015年の期待のアプリケーションという意味では、ロボット分野にも期待している。ロボットはいずれ生活の一部となり、欠かせない存在になると注目している分野で、多数の半導体デバイスを必要とする。STは、多くのロボットに必要なマイコン、センサ、パワーデバイスといったデバイスを幅広く提供できるメーカーであり、積極的にロボット分野に取り組んでいく。
――あらためて2015年の抱負をお聞かせください。
カッシス氏 冒頭にも申し上げたように、われわれには世界市況をコントロールすることはできない。できることは、技術革新を起こしていくことに尽きる。STには、他社とは異なる技術アプローチで、新しく、他にない製品を生み出す体制が整っている。2015年もより多くの革新的な製品を提供していくことが目標だ。
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提供:STマイクロエレクトロニクス株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2015年2月12日