テレダイン・レクロイは、高性能オシロスコープで強みを持つ。3年ほど前からミッドレンジやローエンドの製品群も相次ぎ投入し、事業の拡大を狙う。特に、3相モータ制御システムの開発/評価用途に向けた8チャネルの高速、高分解能オシロスコープが注目を集める。テレダイン・レクロイ・ジャパンの代表取締役を務める原直氏は、「市場動向にも機敏に対応していく」と話す。
――2014年の事業環境や業績はいかがでしたか。
原直氏 最終的な数値は集計中だが、2014年第3四半期(7〜9月)までの状況では、2013年の実績に比べてわずかながら上回っている。3年ほど前から、新製品の投入を積極的に行ってきた。その効果もあって、徐々にではあるが売り上げの拡大につながっている。特に、ミドルレンジのオシロスコープとして、分解能が12ビットの製品を2011年5月に業界で初めて発表した。当時、主流であった8ビット分解能の製品に比べて、割高感もあり用途は限定されていた。ところが、2012年10月に発表した「HDO4000/6000シリーズ」は、8ビットの製品と同等の投資金額で済むようになり、12ビットの製品が多くのアプリケーションやユーザーに浸透していった。
――2014年6月には分解能が12ビットで、アナログ入力を8チャネルまで増やした、周波数帯域が最大1GHzのオシロスコープ「HDO8000シリーズ」を発表されました。
原氏 HDO8000シリーズは、顧客から高い評価を得られた。製品発表が会計年度の途中であったにもかかわらず、受注は好調で、2014年の業績拡大にも貢献している。顧客は年度ベースで設備投資の予算を計上するのが一般的で、優れた製品であっても実際の購入は次年度となるケースが多い。新製品を発表してすぐに受注に結び付くことは、まれである。推測だが、別の製品購入のために計上されていた予算を、HDO8000シリーズの購入に充当してもらえたのではないだろうか。
――HDO8000シリーズが顧客から高い評価を受けている大きな理由は何ですか。
原氏 一言でいえば、8チャネル対応で高分解能のワンボックス型オシロスコープということだ。3相モータの波形観測には4チャネル製品を2台用いるか、モジュラー形式のオシロスコープを拡張して測定するしかなかった。HDO8000シリーズは、8チャネル分の入力をワンボックスで実現しているため、投資効率に優れ、設置場所も省スペースで済む。3相モータの制御システムとは別な用途でも、『多チャネル入力』は購入理由として挙げる顧客が多く存在することを製品の販売を通じて感じている。
HDO8000シリーズがターゲットとしている顧客は、パワー半導体チップメーカーを始め、このチップを搭載したモータ駆動システム/モジュールや、EV/HEV、燃料電池車を手掛けるメーカーなどの設計/開発部門である。パワー半導体チップのテスト装置メーカーも含まれる。これらの市場は日本企業が強みを発揮している領域でもある。
――ローエンドの新製品発表も相次いでいますね。
原氏 3年ほど前から、継続的に新製品を発表してきた。ローエンド市場に向けた製品群としては、「WaveSurfer 3000シリーズ」や「WaveSurfer 10」、「WaveJet Touchシリーズ」などがある。これまで、レクロイとしてあまり注力してこなかった製品領域でもある。しかし、オシロスコープ市場のなかで最も需要の大きなボリュームゾーンとなっていることも事実だ。この市場でシェアを獲得することができれば、事業規模を拡大することができる。
ただ、機能面で競合他社との差異を打ち出すことはとても難しい。こうした中でレクロイは、ユーザーインタフェースにこだわっている。操作/表示部にタッチパネル機能を採用するなど、ハイエンドモデルの機能を継承することで、使い慣れた操作環境を提供していく。
――ハイエンドモデルでは、次世代の光通信技術開発に欠かせない製品を発表されました。
原氏 ハイエンドモデルがターゲットにしている市場は、大きく分けて次世代光通信向けと大容量ストレージ装置などに採用される高速のインタフェース規格PC向けである。2014年11月には、最大100GHzの帯域と240Gサンプル/秒のサンプルレートを達成したオシロスコープ「LabMaster 10-100Zi」を発表した。次世代の超高速光通信システムや、広帯域電子部品、基礎科学の研究/開発などに向けた製品である。これらの技術に関わる企業や研究開発部門は限られているが、総じて堅調に推移している分野でもある。
――継続的に新製品を投入するきっかけとなったのは何ですか。
原氏 2012年8月にテレダイン・テクノロジーズがレクロイを吸収合併して、テレダイン・レクロイとして再出発した。それ以前から新製品の開発に取り組んでいたので、直接的なトリガーになったわけではないが、吸収合併により新製品の市場投入が加速されたのは事実だ。
――新体制となって、その効果は形となって表れてきていますか。
原氏 基本的にビジネスユニット単位で事業を展開しているため、少なくとも日本市場においては、今のところ大きな変化はない。テレダインは防衛関連の分野で認知度が高く、日本でもその分野からオシロスコープの問い合わせはあったが、経営戦略として直接的なシナジー効果は今のところ不明である。日本でも、当面はレクロイのビジネスユニットを中心に展開していくことになるだろう。
ただ、先端技術の開発においては、シナジー効果を期待している。テレダインのR&D部門が開発してきた先端InP(インジウムリン)系デバイスを、オシロスコープに応用していくために旧レクロイの技術者と共同開発を行っている。InP系の高速トランジスタ素子を実用化するまでにはまだ時間を要すると思うが、これを製品化できればハードウェア性能をさらに高めた、世界最高レベルの測定器を提供し続けていくことが可能となる。
――2015年に期待する製品とその取り組みをお聞かせください。
原氏 1つは、HDO8000シリーズを中心としたミッドレンジのオシロスコープによる、新規ユーザーの開拓である。HDO8000シリーズは、これまでレクロイがアプローチできていなかったモータ制御システムの分野などに対しても、波及し始めている。経済産業省が進めている「モータのトップランナー化」も、HDO8000シリーズビジネスの追い風となる。さらに、HDO8000シリーズ向けの「モータドライブパワー解析ソフトウェア」も用意している。2014年10月に発表しており、現在はβ版を用いてフィールドテストが行われている。2015年1月には正式版のソフトウェアがリリースされる予定である。
このソフトウェアをHDO8000シリーズと組み合わせて用いることで、三相モータの特性評価/解析と制御システムの波形観測を、1台のオシロスコープで行うことが可能となる。制御システムの出力波形とモータ挙動に関するデータを関連付けて確認することができる。モータ制御システムのデバッグツールとして活用すれば、システム設計に不具合が生じた場合でも、その原因追求を容易に行うことができる。
日本ではHDO8000シリーズに関して、EV関連の企業から最初の引き合いがあった。自動車以外でも、ロボットや電車、エレベーターに洗濯機などさまざまな用途に三相モータが応用されている。エレクトロニクス企業をメインユーザーとしてきたレクロイにとって、メカトロニクス企業など、新規ユーザーの開拓につながる可能性が高い製品でもある。
――ローエンド製品の展開はいかがですか。
原氏 引き続きローエンド製品にも注力し、新製品を武器にシェア拡大を狙っていく。ハイエンドモデルも含めて、統一されたユーザーインタフェースによる使い勝手の良さなどを顧客に訴求していく。製品の認知度を高めるために専門展示会への出展や媒体への広告など、あらゆる手段/手法を検討していきたい。
――2015年の事業見通しはいかがでしょうか。
原氏 2014年初頭は為替レートが1米ドル=100円だったのが、今や120円の円安となっており、ドルベースではとても厳しい状況だ。しかしながら、2015年も円ベースでは2014年を上回る業績を残したい。継続的に新製品を投入してきた結果、市場競争力のある製品がそろってきた。その上、『モータのトップランナー化』などに向けた業界の取り組みは、事業を拡大するチャンスとなる。ただ、投資マインドは、積極的な企業とそうでない企業との温度差が広がりそうだ。こうした市場動向に対して、いかに機敏に対応していくかがビジネス拡大のカギを握ることになろう。
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提供:テレダイン・レクロイ・ジャパン株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2015年2月12日