近距離無線用半導体デバイスを手掛けるNordic Semiconductorは、事業規模を急拡大させている。2012年に発売したBluetooth Smart用デバイスが好調で売り上げをけん引。このほど、そのデバイスの上位製品を発表し、Bluetooth Smart用デバイスでのシェアを拡大する構えだ。同社アジア太平洋地区担当セールス&マーケティングディレクター Ståle Ytterdal氏に、新製品の概要や、今後の製品開発戦略などについて聞いた。
――事業の概況を教えてください。
Ståle Ytterdal氏 当社、Nordic Semiconductorは、近距離無線用ICに特化したファブレス半導体メーカーです。ここ数年、売上高は順調に拡大しています。例えば、2014年の年間売上高は、1億6700万米ドルで、2013年比34.3%増と大幅成長を遂げました。2015年1〜6月の売上高についても、前年同期比で27.1%増と高い成長を維持しています。
――好調の要因はどのように分析されていますか。
Ytterdal氏 2012年に発売したBluetooth Smart SoC「nRF51シリーズ」によるところが大きいです。
それまで、Bluetooth Smartの機能を搭載する機器は、Bluetooth Smart用RF回路を搭載した専用ICを、マイコンなどホストデバイスに追加して搭載することが基本でした。しかし、nRF51シリーズは、Bluetooth Smart用RF回路とともに、CPUコアとしてARM Cortex-M0コアやフラッシュメモリを搭載することで、ホストデバイスの役割も果たせる性能、機能を備えました。言い換えれば、nRF51シリーズ1つで、Bluetooth Smart対応機器を構成できるようになったわけです。
nRF51シリーズにはもう1つ大きな特長があります。それが「SoftDevice」と呼ぶ独自のソフトウェア構造です。
ご存じの通り、無線に関するソフトウェアは大変複雑です。無線規格や各国の電波法に準じて開発し、認証を取得しなければなりません。そのためには、無線に関する専門知識が不可欠です。この難易度が高いという無線の課題を解決するために開発したのが、「SoftDevice」でした。
簡単にいえば、通信プロトコルなど無線の認証に関わるソフトウェア層と、アプリケーションソフトウェア層を完全に切り離し、別個で開発できる技術です。この技術により、無線通信領域は、当社で開発し、認証を取得した状態で機器を開発するユーザーに提供することが可能になりました。ユーザーは、アプリケーション部分に専念でき、認証取得のための知識、手間が一切不要になりました。
――nRF51シリーズのユニークなコンセプトが市場に受け入れられたのですね。
Ytterdal氏 はい。nRF51シリーズは、無線通信デバイス市場のゲームチェンジャーになりました。スマートフォンのBluetooth搭載が当たり前になる中で、Bluetooth対応機器開発のハードルを大幅に下げたnRF51シリーズは、無線と無縁だった企業や、スタートアップ企業、個人でもスマートフォン連携機器を開発できる環境を生み出しました。玩具やウェアラブル端末、センサー端末など多種多様なスマートフォンアクセサリー機器が登場しました。今もなお、nRF51シリーズの開発キットの販売の伸びは、衰えていません。
――nRF51シリーズに続く、新製品の予定はありますか。
Ytterdal氏 2015年6月に、nRF51シリーズの上位製品となる「nRF52シリーズ」を発表しました。既にβ版のデバイスを使ったプレビュー開発キットを提供している段階です。
――nRF52シリーズについて詳しく教えてください。
Ytterdal氏 nRF52シリーズも、市場に変化をもたらすゲームチェンジャーになり得る画期的なBluetooth Smart SoCだと自負しています。nRF51シリーズよりも、大幅に性能が向上した上に、低消費電力化も実現できているからです。
――どの程度、性能向上を図ったのですか。
Ytterdal氏 特徴的なのが内蔵したCPUコアです。ハイエンドマイコンにも採用されるARM Cortex-M4Fを搭載しました。このコアは、DSP処理、浮動小数点演算命令にも対応する高性能コアであり、センサーからの出力信号や音声の処理なども十分に行えます。ですので、より幅広い領域でホストマイコンなく、nRF52シリーズだけで機器を構成できるようになると考えています。
――高性能コアを生かすためには、大容量のメモリの搭載も不可欠です。
Ytterdal氏 nRF52シリーズは、メモリやペリフェラルの集積度を上げるために、TSMCの55nm 混載フラッシュプロセスを採用しました。ちなみに、nRF52シリーズがTSMCのこのプロセスを使った最初のデバイスであり、最先端のプロセスを適用したといえます。
nRF52シリーズの最初の製品として提供する「nRF52832」は、512Kバイトのフラッシュメモリ、64KバイトのSRAMを搭載しています。なお、CPUコアの動作速度は64MHzです。
――ペリフェラルはいかがですか。
Ytterdal氏 I2C、SPI、UARTといった基本I/Oは当然として、DSPによる音声処理用途を見越し、I2SやPDMも搭載しています。アナログI/Oも10ないし12ビットのA-Dコンバータを8チャンネル、各種コンパレータ、PWMも搭載し、多くのセンサーやモーターを接続できます。I/O以外では各種タイマの他、Bluetoothのペアリング用途としてNFC-A Tag機能を搭載している点も特長でしょう。
――高性能でかつ、多機能ですが消費電力はいかがですか。
Ytterdal氏 先ほどもお話しした通り、消費電力が小さいことが、nRF52シリーズの大きな特長です。
消費電力を抑えるには、デバイスを動作させないことが最も有効です。ですから、nRF52シリーズは、可能な限り、動作の必要のない部分は動かさないというコンセプトで低消費電力化を図っています。
――具体的に、低消費電力化技術を教えてください。
Ytterdal氏 最も分かりやすいのが、動作モードです。一般的にマイコンなどのデバイスは、動作する回路ブロックの範囲に応じて、細かく動作モードが設定されています。最適な動作モードを選べば、消費電力を抑えられるわけです。しかし、細かく動作モードが定義されていても、必ず、不要な部分も起動してしまうということが生じるでしょう。加えて、動作モードが何段階もあれば、最適なモードを選択し、プログラミングすることも面倒になります。
そうした中で、nRF52シリーズの動作モードは2つしか存在しません。オンモードとオフモードの2つだけです。
nRF52シリーズは、基本的に動作が必要ない限り、回路ブロック単位で自動的にアイドル状態に入ることが標準的な動作になっています。ですから、いつでもクロックを供給できるアイドル状態になるオンモードと、全ての回路ブロックにクロックの供給を停止するオフモードの2つのモードだけで事足りるのです。面倒なプログラムなしに、自動的に最小限の回路ブロックだけが起動し、そして動作が終われば自動的にアイドル状態に戻ります。ですから常に最小限の消費電力で済みます。
――他にも、低消費電力化させるための技術はありますか。
Ytterdal氏 たくさんあります。nRF51シリーズにも搭載した機能ですが、あるペリフェラルで起きたトリガから、別のペリフェラルを動作させるといった処理を、CPUコアを介さずペリフェラル間で行うPPI(Programmable Peripheral Interconnect)を強化して搭載しています。同様に消費電力の大きいCPUコアを動かさずに、ペリフェラルが直接、メモリにアクセスできる「EasyDMA」も各ペリフェラルに持たせています。
またメモリに関しては、64kバイトのRAMを4kバイト単位で16分割させたセパレートRAM技術を採用しています。16個のRAMがあると考えれば分かりやすいと思いますが、メモリ保持電力も最小限で済むわけです。ちなみに16分割されていることで、複数のペリフェラルがRAMに同時アクセスできるメリットもあり、性能面でも優位性のある技術でもあります。
他にも、内部電源のDC-DCコンバータとLDOレギュレータを、動作状況、すなわち負荷の大きさに応じて自動で切り替える機能なども搭載し、開発負荷を増やすことなく、消費電力を最適化できる技術を搭載しています。
そうした結果、EEMBCのマイコン/DSPの性能ベンチマーク「CoreMark」で、90CoreMark/mAという値を達成しました。この値は、競合製品の2倍に相当し、極めて電力効率が高いデバイスだと自負しています。また、電力効率だけでなく、性能そのものも210CoreMark以上とどの競合よりも性能が高いですので、nRF52シリーズの優位性を理解してもらえると思います。
なお、RF部も省電力化されており、受信時、0dB時送信時の消費電流は5.5mA、+4dB送信時でも7mAとなっています。
――nRF51シリーズの特長だったSoftDeviceには、nRF52シリーズも対応しているのですか。
Ytterdal氏 はい、もちろんです。nRF51シリーズで開発したソフトウェア資産は、そのままnRF52シリーズで使用できます。また、これまでnRF51でアプリケーションを開発されているお客様も、そのソフトウェア資産を継承することができます。
その上、nRF52シリーズは、無線通信領域のソフトウェアスタックを強化しています。
nRF51シリーズでは、Bluetooth v4.2スタックを、セントラル、オブザーバー、ペリフェラル、ブロードキャスターの各種のロールごとに用意していましたが、nRF52シリーズでは、1つのスタックで4種のロールに対応するマルチロール対応にしました。
さらに、接続リンク数は最大8本まで対応し、ワイヤレスチャージャーが最大8台のモバイル機器と通信することが可能です。コネクションインターバルも6パケット仕様のスタックであり、現状のBluetooth v4.2では最速の通信が行えます。
nRF51シリーズ同様にマルチプロトコル対応で、Bluetooth Smart以外のも、ANTや2.4GHz帯独自プロトコルのスタックを搭載することも可能です。
――プロトコルスタックを含め認証済みの状態で手に入れることができるのですが、それでも開発に不安を感じるユーザーも多いと思います。サポート体制はいかがですか。
Ytterdal氏 当社日本オフィスのメンバーや、販売代理店の担当者からサポートサービスを提供するとともに、nRF51シリーズから立ち上げた開発者向けコミュニティサイト「DevZone」にnRF51/nRF52シリーズに関するさまざまな情報が集約されています。
DevZoneは、月間2万5000人のユーザーがアクセスし、登録ユーザー数は過去20カ月で7倍に達するなど、多くのノウハウが集まっています。開発する中で起こった問題や疑問に解決策が幅広く網羅されています。残念ながらコミュニティサイトは英語版のみとなりますが、日本のユーザーの多くも、困ったことがあればまずはDevZoneを検索し、それぞれの課題を解決しているようで、好評です。
――nRF52シリーズは現在、β版デバイスを使用したプレビューキットを出荷されていますが、正式版の発売時期はいつごろでしょうか。
Ytterdal氏 正式版、量産版は、2015年12月の出荷を予定しています。ただ、スタック部と完全に分離されているアプリケーションの開発は、既に提供しているプレビューキット上で先行開発が可能で、これを後日の正式版のハード/スタックにそのまま移植でき、いち早く量産へ移行することができます。
なお、量産を予定する2015年12月には、東京と大阪の2カ所でnRF52シリーズに関するさまざまな情報を紹介するセミナー、イベントを開催する予定です。
――今後の製品開発予定を教えてください。
Ytterdal氏 nRF51シリーズと同じように、nRF52シリーズでもさまざまなメモリ容量、価格帯の製品をラインアップしていきます。また1〜2年後には、細かな性能向上を図ったアップグレード版nRF52シリーズも提供する計画で、常に進化させていきたいと思っています。
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提供:Nordic Semiconductor ASA
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2015年9月30日