再生可能エネルギーの不安定さを補う蓄電池として現在一般的なのは化学バッテリーであるリチウムイオンやNAS電池だ。しかしこれらの化学バッテリーよりも寿命が長く環境耐性のある機械式バッテリー「フライホイール」が注目を浴びている。しかし、フライホイールは価格/電力効率面で課題を抱え、実用化が思うように進んでいない。その中で、半導体デバイスからパワエレシステムまでを扱うサンケン電気が、その総合力を生かして、実用性に富むフライホイール蓄電システムをこのほど開発した。
パワーエレクトロニクスの総合メーカー――。
サンケン電気と言えば、“半導体”をイメージする読者が多いだろう。事実、サンケン電気にとって、パワー半導体事業は売上高の過半を占める主力事業だ。
しかし、サンケン電気の主力事業は、半導体だけではない。半導体事業と同様に長年にわたり実績を積み重ねてきた2つの主力事業が存在する。半導体/電子部品を組み合わせたスイッチング電源などのパワーモジュール(Power Module)を展開するPM事業と、UPS(無停電電源装置)やパワーコンディショナーといったパワーシステム(Power System)を手掛けるPS事業の2つ。電源/パワー分野でデバイスからモジュール、そしてシステムまでをカバーする総合メーカーとして、サンケン電気は成長を続けてきているのだ。
そして今、サンケン電気は、パワーエレクトロニクスメーカーとして、世界共通のニーズである『エコ/省エネ』を実現する技術開発に注力し、国内外を問わず広く社会に貢献することで、さらなる飛躍を図ろうとしている。
半導体、モジュールの各フェーズでエコ/省エネに貢献する先端技術を開発し、さらにそれらの技術/ノウハウを結集して革新的なパワーシステムを提供しようとしている。その1つが、超長寿命を誇り高い効率を実現する蓄電システムだ。
蓄電システムのニーズは世界的に広まっている。特に国内では、2011年の東日本大震災以降、急速に蓄電システムの導入、検討が進んでいる。
蓄電システムの利用シーンはさまざまだが、特に需要が伸びると予想されているのが、太陽光発電など再生可能エネルギー発電システムと商用電力系統を連系する際に必要になる電力平準化用の蓄電システムだ。
再生可能エネルギーは、天候などに左右され発電量が大きく変動し、不安定だ。この不安定な再生可能エネルギーを系統と直結すれば、系統も不安定になり社会に大きな影響を与える。そこで、再生可能エネルギーを接続した電力系統に、蓄電システムを持たせ、一時的な発電量の低下を蓄電した電力で補うなどして、安定化させるのが、電力平準化用の蓄電システムなのだ。再生可能エネルギーを系統と連系させる場合に、蓄電システムを備えることが義務化される流れにあるうえ、電力の小売り自由化などに伴う一層の再生可能エネルギーの普及とともに、需要が増す見込みだ。
この電力平準化用の蓄電システムには現状、リチウムイオン電池やNAS電池が用いられる。これらの電池は、電力平準化用途以外にも広く使用され、入手しやすく、比較的コストが安いからだ。しかし、逆を言えば、電池としての特性、性能としては、電力平準化用途には不向きだ。
リチウムイオン電池やNAS電池といった電池は、どちらかと言えば、数日〜数週間といった長時間、電力を蓄える用途に向く。一方で、電力平準化用途では、長時間、電力を蓄える必要がない。再生可能エネルギーの発電量が低下しても、数分〜数十分後には、系統側が供給電力量を増やすことで安定化を図れる。そのため、電力平準化用蓄電システムは数分〜数十分間、電力を蓄えるだけでよいのだ。
短時間の蓄電で済む代わりに、急速な電力変動に追従するため、電力の出し入れ(充放電)は急速に行う必要がある。この急速な充放電という面でも、リチウムイオン電池やNAS電池は不向きだ。
加えて、リチウムイオン電池やNAS電池は、化学反応を利用した電池であり、充放電を繰り返すことで劣化するため、寿命の問題がある。充放電回数の多い電力平準化用途では早く劣化し、寿命は5〜10年での交換を余儀なくされる。20年以上の寿命がある再生可能エネルギー発電システム自体の寿命に追い付いていない。その他、高温/低温に弱いなどの課題もある。
急速な充放電に対応し、20年以上の長寿命で、高温/低温にも強いバッテリーこそが、電力平準化用蓄電システムに最適なバッテリーだ。そこで、注目を集めているのが、機械バッテリーであるフライホイールだ。
サンケン電気も、リチウムイオン電池による蓄電システムの開発の傍ら、フライホイールに古くから着目。このほど、独自性のあるフライホイールによる蓄電システムを開発した*)。
*)長岡パワーエレクトロニクス株式会社・長岡技術科学大学との共同開発
フライホイールとは、電力などのエネルギーを回転エネルギーに変換して蓄えるバッテリーだ。仕組みは、電力でコマのようなホイールを回して、エネルギーを蓄えるもの。いわばモーターと同じ原理を用いる。エネルギーを取り出す時は、モーターの逆、つまり発電機の要領で回転ホイールから電力エネルギーを得るわけだ。
フライホイールの最大の利点は、急速な充放電が行える点にある。電力の入出力レート10C以上と極めて高く、その応答性も高速だ。さらに機械式であるが故に、周囲の温度の影響もほぼ受けず、充放電による劣化もない。ホイールの回転を支える軸受を摩擦のない非接触型にさえすれば、半永久的な寿命が実現できる。
しかし、フライホイールを充放電する際の電力変換器は、電解コンデンサや冷却ファンなどの寿命部品が存在するため、電力変換器の長寿命化を図らなければならない。
化学電池の場合、直流(DC)電力しか蓄電できないため、AC-DC変換が必要だ。AC-DC変換には原理上、容量の大きなコンデンサすなわち、経年劣化を伴う電解コンデンサを使わなければならない。アルミ電解コンデンサであれば、長くても寿命は10年程度で、電力変換器自体の交換が必要になる。
一方で、モーター/発電機を応用した仕組みのフライホイールは、交流(AC)電力を直接、蓄電、出力できる。AC-AC変換だけで済むのだ。そのため、9個の双方向スイッチのみで電解コンデンサなしに、AC-AC変換が行えるマトリックスコンバータが使用できる。かつては、大量のスイッチ制御が困難だったが、最近では高性能制御LSIが登場し実現可能になった。
急速な充放電に対応し、20年以上の長寿命で、高温/低温にも強く、ほぼ完璧な電力平準化用途向けバッテリーと言えそうなフライホイールだが、克服しなければならない課題が、大きく2つある。コストとエネルギー効率だ。
ホイールの回転は、時間を経れば、空気などの抵抗により回転数が落ちる。これがフライホイールのエネルギー損失の大きな要因だ。この損失を減らす方法としては、ホイール部を真空状態にしたり、摩擦が生じやすいホイールの軸受部分を超伝導で浮上させたりする方法が検討され、一部実用化試験も始まっている。しかし、真空装置や超伝導装置は、規模が大きく、メンテナンスも必要になる。そして何よりも高コストになる。
これに対し、サンケン電気では、リチウム電池など化学電池による蓄電システムの開発と並行して、30年ほど前から長岡技術科学大学などと共同でフライホイールの研究を実施。ピボットベアリングというオイルを使用した非接触型軸受によるホイールを開発した。非接触型のため、摩擦が少なく、低損失でかつ、軸受としての寿命も半永久的というメンテナンスフリーを達成。さらにコストを抑えるために、真空状態を作らずに、ヘリウム封止状態で動作させる構成とした。
真空装置や超伝導装置がないことにより、コストを大きく抑えられる他、システムサイズの小型化も可能になった。その利点を生かし、サンケン電気では、直径70cm程度の小型フライホイールを開発した。
今回の開発を中心となって進めた、サンケン電気パワーシステム本部パワーマーケティング統括部の加藤康司氏は「小型フライホイールは、電源システムで培ったネットワーク制御技術を応用し最大4000台まで協調運転可能だ。そのため、3MWhまで蓄電できるシステムを構築できる。これにより1kWh未満の小容量用途から、超大容量用途まで、1つのモデルのフライホイールで対応でき、コストメリットを発揮できるようになる」とする。
もう1つの課題、損失に関しては、電力変換器の効率を高めることで、冷却ファンレスの実現、そして、蓄電システム全体としてリチウムイオン電池並みの効率実現を目指した。
もともと、AC-AC変換のみのフライホイールの電力変換は、電力変換回数が1回と、化学電池のAC-DC-AC変換の2回よりも少ない。そのため、変換効率を高めやすいメリットがある。それに加えて、電力効率を最大限に引き上げるべく、次世代パワーデバイスであるSiC(炭化ケイ素)-MOSFETをスイッチング素子に用いた。SiC-MOSFETは、従来のSi(シリコン)-IGBTに比べ、オン抵抗が低く、スイッチング速度も高速という高効率を実現しやすいスイッチング素子だ。
この高効率のSiC-MOSFETだが、これまでにない高いスイッチング周波数でも使用可能なため、従来型の設計ノウハウだけでは、最大限その性能を引き出しにくい。エンジニアの経験則に頼りがちなパワー回路設計分野にとっては、未知の領域での設計は厄介だ。試作を繰り返し、効率を最大化しつつ、コストに直結するシステムサイズを最小化できる点を求める作業を強いられることになる。
これに対し、サンケン電気は、エンジニアによる経験則ではなく、シミュレータ上で、最適な点を求める設計手法の開発に着手。効率解析、熱解析を同時に行いバランスの取れた最良の点をPC上で求められるシミュレータを開発した。
このシミュレータにより、SiC-MOSFETのスイッチング周波数を25kHzにすることで、最大効率、最大電力密度を得られると割り出したという。実際にマトリックスコンバータを試作した結果、ほぼ最良のスイッチング周波数だったことを確認したという。
このシミュレータ開発も手掛けた加藤氏は、「シミュレータは、他の電源回路の設計にも適用できる。従来の設計手法よりも、数カ月単位で設計時間を短縮できる」と胸を張る。
独自シミュレータを使いSiC-MOSFETの性能を最大限引き出した結果、マトリックスコンバータの電力変換効率は最大98.6%を達成。フライホイール蓄電システム全体として、リチウムイオン電池による蓄電システムと同等以上の変換効率83%を達成した。
フライホイールは、コストと効率という2大課題を解決したように見えるが、残念ながら、そうではない。マトリックスコンバータに用いたSiC-MOSFETが非常に高額であり、蓄電システム全体で比較すると、リチウムイオン電池システムよりも高価になってしまう。
サンケン電気執行役員でパワーシステム本部パワーマーケティング統括部長を務める伊藤茂氏は「コストの安いSi-IGBTを用いても一定の効率が得られる。実際、お客さまのニーズに合わせ、Si-IGBTを使ったフライホイールの蓄電システムも、化学電池の蓄電システムも販売している。しかし、メガソーラーや風力発電など大規模な再生可能エネルギー発電システムは、メンテナンスに行きづらく、環境の厳しい、山の中などに設置される場合も多い。多少、効率が劣っても、メンテナンスフリーの利点を優先して、リチウムイオン電池よりも、フライホイールを選択するケースは多い」とみており、実際に多くの引き合いを得ている状況だという。
ただし、理想は、SiC-MOSFETを用いながら、低コストを実現することだ。実現できれば、電力平準化用蓄電システムにふさわしいフライホイールの普及が加速し、ひいては、サンケン電気が目指すエコ/省エネでの社会貢献度が高まるからだ。
ちなみにSiC-SBD(ショットキーバリアダイオード)を製品化したサンケン電気では、SiC-MOSFETについても開発を進め、近く製品化できる見通し。Si-IGBT並み価格のSiC-MOSFETの実現は、そう遠くはないかもしれない。
サンケン電気は今後も、フライホイール蓄電システムやSiCデバイスのように、最先端のパワーエレクトロニクス製品を、半導体からモジュール、システムまでの各フェーズで提供し、さらなる社会のエコ/省エネ化の実現を推し進めていく方針だ。
不安定な太陽光発電の大量導入に備え、蓄電素子を用いた系統電力の安定化装置が求められている。サンケン電気は蓄電システムの20年以上の寿命を実現すべく,電解コンデンサが原理的に不要なマトリックスコンバータと,半永久的な寿命を持つフライホイールを用いた蓄電装置を開発した。
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提供:サンケン電気株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2015年11月14日
不安定な太陽光発電の大量導入に備え、蓄電素子を用いた系統電力の安定化装置が求められている。サンケン電気は蓄電システムの20年以上の寿命を実現すべく,電解コンデンサが原理的に不要なマトリックスコンバータと,半永久的な寿命を持つフライホイールを用いた蓄電装置を開発した。
再生可能エネルギーの不安定さを補う蓄電池として、化学電池よりも寿命が長く環境耐性のある機械式バッテリー「フライホイール」。しかし、価格/電力効率面で課題を抱え、実用化が進んでいない。半導体デバイスからパワエレシステムまでを扱うサンケン電気が、その総合力を生かし、実用性に富むフライホイール蓄電システムを開発した。
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