航空宇宙分野で培った高信頼技術などを駆使した電源ICを中心に、幅広い市場で拡販を進めるインターシル。強みを持つパワーマネジメントの中でも、今後の鍵となる言葉として掲げるのが“賢いデジタル電源”だ。「顧客のサービス向上につながる“賢いデジタル電源”を提供し、急速に進むIoT(モノのインターネット)化に貢献する」と、同社日本法人社長の大久保喜司氏は語る。
――2016年の業績について教えてください。
大久保氏 2016年第1四半期(1〜3月)の業績は、世界全体で1億2930万米ドル。コンシューマーとコンピューティング分野のプラットフォームビジネスや、車載向けビジネスの成長で、前期比2%増の成長となった。
コンシューマーとコンピューティング分野は前年同期比8%増となり、全体の36%を占める。全体の64%を占めるインフラと産業機器(車載や航空宇宙含め)分野は、前期比4%増となっている。同年第2四半期も成長を見込んでいる。
――日本市場での取り組みはいかがですか。
大久保氏 日本市場では、1年前の社長就任時から進めてきた販売代理店との拡販キャンペーンにより、インフラ、産業機器、アミューズメント、車載機器において新規顧客が大幅に増えている。これにより、2017年は前年比15%以上の売り上げ増を見込んでいる。
具体的な取り組みとして、注力製品については日本で積極的に報道発表し、拡販資料の日本語化を行い、市場から見たインターシルの存在感向上に努めてきた。
また、ブロードベース顧客に対しては、オンライン販売や業界に特化した代理店と提携する必要が出てきている。そのため、さらにパートナーを増やしていく可能性もある。
――今後注力していく分野はどこでしょうか。
大久保氏 当社は2013年にNecip SayinerがCEOに就任して以降、電源分野に注力してきた。革新的なIPと高精度なアナログで設計される電力効率の向上に重点を置いたパワーマネジメントに強みを持つ。強みを持つパワーマネジメントの中でも、これから鍵となる言葉として掲げているのが、“賢い電源”である。
例えば、工場やデータセンターなど電源が落ちてはいけない機器の電力を監視し、その電圧、電流、温度データから落ちない電源を構成して、顧客のサービス向上につながる“賢い電源”の提供に注力する。特に、デジタル電源に注力し、急速に進むIoT(モノのインターネット)化に貢献していく。
――デジタル電源は、コストが高い印象があります。
大久保氏 一般的にデジタル制御は、より正確な電流検出を行おうとした場合、高速なA-Dコンバーターが各フェーズに必要になり、価格やサイズが高くなってしまう傾向がある。また、A-D変換の過程で、遅延が発生するといった課題もある。
当社は、「Synthetic Current Control」という独自の技術を用いて、デジタル電源の課題に対応した。同技術は、各フェーズのインダクター電流を予測し、その情報をもとに各フェーズの電流制御を行う。これにより、アナログと同等の応答性を実現するとともに、高速なA-Dコンバーターが不要のため、コストとサイズへの影響を低減した。
――“賢い電源”の中で、注力する製品を教えてください。
大久保氏 1つは、上記のメリットで紹介したCore電源向けのデジタル・マルチフェーズ・コントローラー(DMP)とスマート・パワーステージ(SPS)のチップセット。既に主要Coreチップサプライヤーとレファレンスを進めており、サーバなどで採用が進んでいる。
2つ目は、2016年3月に発表した単層デジタル・ハイブリッドDC-DCコントローラー「ISL68200/ISL68201」だ。ISL68200/ISL68201は、当社「R4」変調技術の採用で、補償回路不要の制御ループと業界最高クラスの過渡応答特性を実現した。不揮発性メモリも不要のため、必要な外付け部品はコンデンサーと抵抗のみである。FPGA、ASICアプリケーションや通信ネットワーク機器、サーバなどのPOL用電源に向く。
PMBusインタフェースも備えており、無償で提供する開発ツール「PowerNavigator」と組み合わせることで、テレメトリー(遠隔監視)による状態監視が可能となっている。
――デジタル制御の製品も充実していますね。その他の電源製品で注力するのは。
大久保氏 電源モジュールである。こちらはアナログとデジタル両方取りそろえており、ラインアップが充実してきている。2016年5月には、シングルチャンネルDC-DC降圧電源モジュール5A品「ISL8205M」と3A品「ISL8202M」を発表した。高い電力密度と最大95%の効率が最大の特長である。
両製品ともに、指先に乗るような小さいサイズ(4.5×7.5mm×1.85mm)で、プリント基板の裏面に直接実装できる。コントローラー、MOSFET、インダクター、受動部品を集積した包括的な電源モジュールで、システム設計の簡素化に貢献する。例えば、PCI-EXPRESSのような、低背仕様のアプリケーションに最適である。
また、入力電圧の電圧低下ロックアウト、過熱保護、ヒカップモードの過電流保護など、異常な動作条件下において安全動作を確保する保護機能も搭載している。
電源モジュールは他にも、最大80A出力の「ISL8273M」や、入力電圧範囲が10〜80Vの「ISL8216M」などのデジタル・モジュールを展開している。最大100A出力の製品も現在、開発中で、かなり広範なニーズをカバーできる体制が整っている。
――デジタル電源以外の注力製品を教えてください。
大久保氏 USB 3.1/Type-C規格に対応するIntel IMVP-8用昇降圧バッテリーチャージャーIC「ISL9237」を2016年2月に発表した。
USB Type-Cは全ての機器をつなぐ標準インタフェースである。データ転送だけでなく、従来規格よりもはるかに大きい電力の双方向給電をサポートする。USB Type-Cポートのデフォルト電圧は5Vだが、プラグイン接続した機器とのネゴシエーションによって、12V、20V、または相互に取り決めた電圧を、相互に取り決めた電流レベルで伝送可能である。
ISL9237は、バックブースト回路を内蔵し、Intelが推奨するタブレットPCやノートPC向け高効率電源アーキテクチャ「Narrow VDC(NVDC)」に対応している。OTG(On-The-Go)機能を搭載し、5V出力リバース降圧モードもサポートした。これにより、USB3.1、Type-Cコネクターで接続された機器間で、双方向の受給電ができる。
――重点を置く車載市場に向けた注目製品を教えてください。
大久保氏 2016年6月に、レーザー走査型車載ヘッドアップディスプレイ(HUD)システム向けドライバーIC「ISL78365」を発表した。4つのレーザーダイオードを駆動できる4チャンネル品で、チャンネル当たりの最大出力電流が750mAなのが特長だ。
現状のHUDは、液晶プロジェクション技術を使い、ハガキ大の小さな情報表示にとどまっている。しかし、レーザー走査型は表示領域を大きくでき、実際に見えている道の上に大きく進行方向を示す矢印を表示するなど本格的なVR(仮想現実)を実現できる技術だ。これまで、車載向けの高い信頼性を持つレーザードライバーICが存在しなかったが、ISL78365は、車載信頼性規格「AEC-Q100」を取得した。レーザー走査型HUD普及の起爆剤になると期待している。
――今後の抱負をお聞かせください。
大久保氏 この1年で、数ある電源ICメーカーの中で、インターシルの製品を使えば何ができるのか、どのような価値を生めるのかを、代理店も含めて顧客にプロモーションできるところまで知識共有することができた。今後は、そうした知識ベースを顧客提案に反映させ、より一層、顧客の製品開発に貢献したいと思っている。
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提供:インターシル株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2016年9月21日