アナログ・デバイセズは、デバイス単体にとどまらずモジュール、ボード、さらにはシステムレベルでの価値提供を行う“More than Silicon”を掲げ、各種ソリューションの構築を加速している。「特にこれから大きな市場を形成するであろうIoT(モノのインターネット)領域は、完成度の高いソリューションを必要としている。当社のコア技術をベースに、価値あるソリューションを構築、提供していく」と語る日本法人社長の馬渡修氏に技術/製品開発戦略について聞いた。
――2016年度も後半に差し掛かりました。今年度のここまでのビジネス状況を教えてください。
馬渡修氏 前半は、前年業績とほぼ横ばいで推移している。日本国内に限れば、為替影響もあり、前年比ややマイナスといった状況だ。
用途別でみると、自動車やヘルスケア向けは堅調な状況が続き成長している。一方で、無線を中心にした通信インフラは新規設備投資が一段落した状態で大きな伸びは見られない。その結果、業績はフラットな傾向になっている。
今後を見通しても、市況が急激に改善する要素は乏しく、当面は現在の状況が続くとみている。
――そうした経済環境下で技術/製品開発戦略を見直す必要はありますか。
馬渡氏 大きく見直す必要はない。基本的にはこれまで通りの戦略を実行していく。
アナログ・デバイセズでは、まず、コア(核)となる基盤技術を開発する。具体的には、コンバーターやRF、アンプ、センサー、パワー、DSPなどだ。そして、これらの“コア技術”をベースに、高性能な汎用製品やアプリケーションに特化したASSP製品といった応用製品を展開する。この開発の流れは、今後も変える必要はないだろう。
応用製品を展開するターゲットとしては、成長領域である自動車やヘルスケアに加えて、IoT(モノのインターネット)にも重点を置きつつある。IoTは、これまで当社が手掛けてきたコア技術以外にも、ソフトウェアやアルゴリズムといった要素まで含んだ統合的なソリューションが求められる。そうしたIoTに必要な要素全てを自社で抱えることは難しいため、パートナーシップの強化に取り組んでいる。パートナーの技術や製品を取り込み、アナログ・デバイセズとして、モジュールレベル、さらには、もっと上位レベルのシステムを構築して、IoT向けソリューションとして提供しつつある。
このようにICのみならず、モジュールや、ボード、さらにはシステムまで提供するという「More than Silicon」という概念は、IoTに限らずあらゆる応用分野で展開している。
――IoT向けソリューションとしてはどのようなものがありますか。
馬渡氏 フィールド試験に着手するなど製品化が見えているものも含めると、「スマート農業」「ビルディングオートメーション」「遠隔患者モニタリング」等に加え、「物質分析」「駐車場管理」「アスリートマネジメント」といったユニークなものがある。いずれもソフトウェアやアルゴリズムまで含めた包括的ソリューションをアナログ・デバイセズとして提供できるようになっている。
例えば物質分析ソリューションは、LEDによる近赤外光を物体に当て、その反射を検知することで、どのような物質でできているのかを割り出すもの。ほとんど見た目が同じの白い錠剤の成分を見分けるといったことができる。非常に小さなモジュールにソフトウェアアルゴリズムが実装されており、スマートフォンでも分析結果が見られる画期的なものだ。
実はこのソリューションは、センサーからの信号を高精度に処理するアナログフロントエンドこそ当社製品で構成しているが、ソリューションの鍵となるセンサーとアルゴリズムについては、パートナーのConsumer Physics社が開発したものだ。Consumer Physics社から独占販売権を取得し、アナログ・デバイセズとしてソリューションを提供している。
このように「More than Silicon」として提供するために、有力な技術を持つ企業と連携しており、場合によっては、買収するなどの投資も行う。2016年3月に買収したSNAP Sensor社もその1例だ。
――SNAP Sensor社について詳しく教えてください。
馬渡氏 SNAP Sensorは、CMOSイメージセンサーと画像処理アルゴリズムに強みを持つビジョンセンシング技術専門企業だ。彼らのビジョンセンシング技術では、イメージセンサーで捉えた画像から効率よく認識したい物体の特徴点を割り出すことができる。暗い場所でも物体認識が行えるなどの利点もある。特徴点だけ抽出、保存すれば、画像保存で抱えるプライバシー問題も解消され、より幅広い用途で画像認識システムの利用を可能にする技術だ。
このSNAP Sensorの技術と、アナログ・デバイセズの高精度なアナログ技術、さらには低消費電力DSP技術を組み合わせることで、ユーザーがすぐに使用できるソリューションを構築できるようになる。既に開発済みの画像処理評価用プラットフォーム「BLIP」との相性も良い。
――「BLIP」とはどのような製品でしょうか。
馬渡氏 BLIPとは、「Blackfin Low Power Imaging Platform」の略で、当社のDSP「Blackfinプロセッサ」ベースの開発ボードを中心に構成する開発プラットフォームだ。Blackfinが得意な画像/音声処理など複雑で高度なアルゴリズム処理を必要とする機器を“低消費電力かつ低コストで実現する”をコンセプトにしている。「SNAP Sensor+BLIP」としての本格的な展開はこれからだが、BLIPとしては、さまざまなIoTシステムでの利用が始まっている。例えば、画像認識で駐車場の占有状況をモニターし、ドライバーに空きスペースを知らせるシステムを開発したが、これは英国の技術コンサルティング企業 ケンブリッジコンサルタンツ社と共同で、BLIPを活用して実現したものだ。ナンバープレート認識機能を組み合わせれば、自動決済を行ったり、駐車した場所を見つけることもできる。
――IoTを中心に、「More than Silicon」を掲げたソリューションの開発、提案を行っていく上で、販売/サポート面でも従来と違った取り組みが必要になります。
馬渡氏 More than Siliconでは、われわれがユーザーにとって価値のあるソリューションを企画し、発信していかなければならない。そのために2015年から、日本法人内に事業セグメント横断型のIoTマーケティングチームを新設した。展示会などのイベントを通じわれわれのIoTソリューションを発信するとともに、そこで得られた市場の声を生かして、次のソリューション開発へとつなげていく活動を行っている。売り上げに貢献するには時間を要するかもしれないが、今後、徐々にではあるが立ち上がっていくであろうIoT市場のニーズをきちんと捉え、売り上げが計上できるよう強化を続けていく。
――コア技術の開発状況を教えてください。
馬渡氏 アナログ・デバイセズのコア技術は、自然界の事象を捉え、処理するための技術。IoTにも不可欠な技術であり、より正確に自然界の事象を取り込むための精度やスピードが要求されている。そうした要求に沿った技術開発を進めている。
その結果、ゼロドリフトで従来よりも35%以上ノイズ性能を実現した超高精度オペアンプ(型番:ADA4522)や、プログラマブルゲインアンプを備えた24ビットデータ・アクイジションSoC(型番:AD7770など)といった独自の特長を備えた製品を投入することができている。
フォトカプラを使用しない独自デジタル絶縁技術「iCoupler」(アイカプラ)も着実に進化し、絶縁を図りながら電力を供給できるデバイスや、絶縁型カレントセンスアンプやIGBT駆動用デバイスなど、iCouplerに機能を付加した応用製品も数多く生まれてきている。最近では、iCoupler技術をベースに、高速インタフェースであるLVDSを直接絶縁できるLVDSデジタルアイソレータ「ADN465xファミリー」を製品化した。恐らくLVDSを扱える高速性を初めて備えた絶縁デバイスだろう。データセンターをはじめ、産業分野でもLVDSは広く使われるようになっており、これまで複雑だったLVDSでの絶縁を、ADN465xファミリーを使うことで簡単に実現できる。市場からも「画期的製品」として高い評価をいただいており、かなり期待している製品だ。
――2016年7月にリニアテクノロジーの買収を発表されました。
馬渡氏 まだ株主や当局の承認を待つ段階だが、順調に進めば2017年上半期に買収手続きが完了する見込みだ。アナログ・デバイセズ、リニアテクノロジーが共に追求してきた卓越した技術開発力に加え、業界をリードする両社の製品ポートフォリオは極めて補完性が高く、1+1=2以上の相乗効果を生み出すことを期待している。
統合によって、データコンバーター、パワー・マネジメント、アンプ、インタフェース、RFおよびマイクロ波製品に至るまでの高性能アナログ製品業界における世界のリーダー企業となり、日本のお客さまの課題解決にますます貢献していきたい。
IoT時代の過酷な産業環境下での性能・信頼性を向上させる絶縁方法とは? 課題を解決するLVDSデジタル・アイソレータ
あらゆる場所で計測や制御が行われ、従来をはるかに上回る速度や精度が求められるようになった昨今、広く使われ始めたのがLVDSという高速インタフェース。高速データ伝送や長距離データ伝送が可能な上、EMI(電磁波干渉)を低く抑えられるもので、高性能のコンバーター、高帯域幅のFPGAやASICのI/Oとして使われている。このLVDSインタフェースに絶縁機能を追加すれば、データ量の多い高速・高精度機器や制御機器のシグナルチェーンを絶縁できるようになる。
本稿では、各種絶縁方式の特長を比較した上で、課題を解決するソリューションとして最大データ・スループット・レートが600Mbps、70psの超低ジッタを実現したLVDSデジタル・アイソレータを紹介する。
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提供:アナログ・デバイセズ株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2016年9月21日