Intersil(インターシル)は1967年に設立された。2017年は50周年という大きな節目を迎える。同社はパワーマネジメント技術を中心に、さまざまな技術革新に取り組み、半導体業界に足跡を残してきた。2017年上半期中には新体制となり、新たな第一歩を踏み出す予定だ。インターシル日本法人社長の大久保喜司氏に、2017年の事業見通しや注力製品について聞いた。
――直近の業績はいかがですか。
大久保喜司氏 2016年第3四半期(7〜9月)の売上高は、全世界で1億3900万米ドルとなった。これは前期比で4%増加、前年同期比では8%の成長となる。部門別ではC&C(Consumer&Computing)が前期比6%増(前年同期比9%増)、I&I(Industrial&Infrastructure)が前年比2%増(同8%増)となった。I&Iの中でも車載向け事業は、前年同期に比べて16%増と大きく成長した。売上総利益率は60.7%(非米国会計基準)、営業利益率は25.7%(同)となり、いずれも当社が期初に想定した目標値を上回った。
――日本市場における取組や状況を教えてください。
大久保氏 2015年4月から日本代表と東南アジア/インド地区担当を兼務している。それ以来、拡販活動の活性化に心血を注いできた。例えば、注力マーケットとポテンシャルパートナーに対する積極的な拡販、主要代理店との連携強化、ターゲット市場や顧客に対する迅速なプロモーションなどである。
具体的には、これまで多くの実績を持つコンピューティングやディスプレイ、車載、宇宙航空及びゲームといった分野に加え、産業機器や通信インフラ機器、電源モジュール、医療機器、計測機器などの市場において、各トップ企業に対する拡販活動を積極的に展開してきた。現在のトップ10顧客も引き続き重要視していくが、次世代トップ10になりうる企業の獲得に向けて、新規顧客の開拓に注力している。
――日本における活動の成果について、いくつか教えてください。
大久保氏 1つはサーバ、ストレージ装置向けのデジタル電源ビジネスである。日本の大手3社が提供する「Intel VR13プラットフォーム」に、当社のDMP(デジタルマルチフェーズコントローラ)とSPS(スマートパワーステージ)をチップセットにした製品が採用された。決め手はデジタルパワーによる設計、デバッグの効率化、電力密度向上と高効率化。
2つ目は電源モジュールである。アミューズメント機器やFPGAボードのリファレンスデザイン、通信インフラ装置などの2017年モデルに採用が決まった。決め手となったのは少ない部品点数で大電流への対応が可能なことと、放熱性が改善されたことである。
この他、最大100Mビット/秒など高速伝送が可能でノイズ耐性にも優れたRS-485トランシーバーICや、車載用アラウンドビューシステム向けビデオデコーダーIC、USB Type-C対応昇降圧バッテリーチャージャー、OLED(有機発光ダイオード)向け電源管理用ICなどが、主要顧客に採用された。
――2017年の全社レベルの事業見通しはいかがですか。
大久保氏 新製品を積極的に拡販してきた成果として、これまでランクインしていなかった新規企業が顧客リストの上位に入ってきたことが特筆される。部門別に業績をみると、C&C部門ではノートPC向けコアチップ用電源と昇降圧バッテリーチャージャーの拡販に注力してきた。これら2製品により2017年は前年に比べ約40%の伸びを期待している。I&I部門では、DMPとSPSの組み合わせによるチップセットの受注拡大と、電源モジュールの受注獲得に成功した。2017年はこの2製品により前年に比べ4倍の伸びを見込んでいる。
車載関連ではインフォテインメント向けビデオデコーダーICを中心に、2017年は40%成長を期待している。産業機器向けのRS-485トランシーバーICは、2016年に比べ20%の増加を見込んでいる。この他、ディスプレイ製品、光センサー、宇宙機器向け製品は2017年の売上高が前年を下回る見通しだ。
一方、日本市場では主要代理店と協力して展開している拡販キャンペーンが実を結んできたこともあり、2017年における日本の事業見通しは、全体で前年比5%の成長を見込んでいる。
――2017年に注力あるいは期待する製品を教えてください。
大久保氏 1つは電源設計のサポートツールとして新たに用意した「PowerCompass」。アプリケーションに最適な電源構成を比較的容易に構成することが可能となる。PowerCompassはこれまで、267種類のコアチップやFPGAなどをサポートしてきた。「Phase-1」では、Excelベースでコアチップの情報をインターネット経由で提供している。ウェブベースの「Phase-2」についても2016年よりサービスを開始した。新しいコアチップがサポートされると、ユーザーに対してアラートで知らせることが可能となった。
「Phase-3」の開発も進めている。2017年上半期にはサポートを始める予定だ。これまではオンラインで作業しなければならなかったが、Phase-3ではオフラインによる作業も可能となる。モバイル機器での作業環境などを考慮したサービスとなる。
当社は電源設計ツールとしてこれまで、「PowerNavigator GUI」や「iSim Design Tool」を提供してきた。PowerNavigator GUIは、電源のパフォーマンスを見ながら、デジタル電源のパラメーター設定/調整を行うことができる。iSim Design Toolは、電源の負荷変動特性や位相余裕特性などを検証するためのツールである。今後は、PowerCompassとPowerNavigator、あるいはiSimとリンクさせることによって、電源設計を一段とスムーズに行うことが可能となる。
――デジタル電源は大電流の用途も拡大しています。
大久保氏 有線/無線通信インフラやデータセンターなどで活用される機器には、大電流を必要とする高性能プロセッサやFPGA、ASICが搭載されている。このため、デジタル電源には、システムを安全に運転するための監視/通信機能が求められている。
これらの要求に対応したのがDMP「ISL681xx/ISL691xx」とSPS「ISL99227」である。DMPは、「シンセティックカレントコントロール」方式による高速ループを内蔵したマルチフェーズデジタルDC-DCコントローラ。これまで外付けしていたA-Dコンバーターが不要となり、BOMコストや実装スペースの節減が期待できる。製品は対応するインタフェースや出力構成の違いによって12品種を用意した。
SPSは60A電流駆動のパワーステージである。全ライン/負荷/温度範囲で3%の電流検出精度を実現した。ピーク効率は最低95%(入力12V/出力1.8V)を達成している。
――電源モジュールも、出力電流やパッケージのラインアップが豊富ですね。
大久保氏 当社は、IC形状の製品を提供しており、POL電源の設計をより簡単に行うことができる。しかも、小型形状で放熱特性に優れており、あらゆる保護機能を内蔵している。製品群は出力電流が3〜80A、パッケージも外形寸法が4.5×7.5mmのQFNから18×23mmのHDAまで、幅広くラインアップしている。これからも、電源ICから電源モジュールまで、市場や顧客の要求に基づく電源ソリューションを提供していく。
特に、最新FPGAなどに向けたPMBus対応デジタル電源モジュール「ISL8273M」は、業界最高レベルの性能を実現している。シングル出力電流は最大80Aを実現しており、4個並列で動作させると320Aまで対応することができる。GUIにより、シーケンスなどの電源設定も簡素化した。
――USB Type-Cも普及に弾みがつきそうです。
大久保氏 USB Type-C関連では、OTG機能(5〜20V)をフルサポートした昇降圧バッテリーチャージャーIC「ISL9238/A」を用意した。1〜4セルのリチウムイオンバッテリーに向けた製品で、入力電圧範囲は3.2〜23.4V、システム出力電圧範囲は2.4〜18.304Vである。
用意した「ISL9238」と「ISL9238A」の2種類は、同じ機能ながらSMBusアドレスが異なる別チップである。例えばPCにType-Cコネクターを2個実装しておけば、一方では外部電源と接続し、ACアダプターとしてPCを充電、もう一方ではPCから外部のスマートフォンに給電することが同時に可能となることで、Type-C機能の自由度が高まる。
――車載向け事業も好調です。
大久保氏 安全/安心な車社会の実現に向けて、業界では事故などの危険を事前に検知し、回避するための先進運転支援システム(ADAS)への取り組みが本格化している。その1つが、レーザーダイオードを用いたHUD(ヘッドアップディスプレイ)である。フロントガラス上に走行速度や警告信号、ナビゲーション情報などが表示される。運転者は、前方に視線を集中しながら、HUDに表示された情報を確認することができる。将来はバーチャルの矢印などをオーバーレイ表示させることも可能となる。
当社は車載HUD向けに、高速4チャネルレーザーダイオードドライバー「ISL78365」を開発し、サンプル品の出荷を始めた。750mAのレーザーをパルス発振し、解像度がフルHDのビデオ映像をフロントガラスに投影することが可能だ。パルスの立ち上がり/立ち下り時間は1.5ナノ秒と高速である。動作温度範囲は−40〜125℃を保証しており、車載用電子部品の信頼性試験基準である「AEC-Q100 Grade-1」に準拠している。
レーザーHUD市場は、2019〜2020年にも需要が立ち上がると予想している。高級車のみならず、大衆車にもレーザーHUD機能が普及していくことを期待したい。
――エコカーに対する自動車メーカーの開発競争も激しくなってきました。
大久保氏 EUではハイブリッド車は2020年までに48Vシステムを導入することになる。CO2排出量を15%削減するためだ。日本の自動車メーカーも、欧州市場に向けた車両はこの規制に対応しなければならない。ただし、48Vパワートレインに完全移行するまでは、12V/48V共存のシステムをサポートしていく必要がある。
当社では、こうした要求に対して6相双方向PWMコントローラIC「ISL78226」を用意した。車載用12V/48V昇降圧コンバーターに向ける。ISL78226は、ユニット構成で6相のパワーステージを駆動することができ、3.75kWの電力を供給することが可能となっている。効率は最大95%を達成した。ICを並列運転することで最大12相のパワーステージを駆動することができる。出力電流精度は1.5%である。
競合製品の中には、ドライバーICを内蔵したコントローラICもあるが、ISL78226はあえてドライバーICを集積しなかった。その理由は、パワー段のなるべく近い位置にドライバーICを実装したほうが、高い性能が得られるからで、システム構成や回路設計の自由度も高まる。
――ルネサス エレクトロニクスは2016年9月に、Intersilを買収すると発表しました。
大久保氏 両社の合意に基づき、事業統合に向けて作業を進めているところだ。詳細な部分についてはこれから固めていくが、統合によってシナジー(相乗効果)を最大化できるよう取り組んでいく。特に、車載分野ではルネサスとの協業が、電源製品の受注拡大に結び付くと期待している。これまで、Intersilが行ってきた新製品開発や現行製品の安定供給も、引き続き万全な体制で行っていく。
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提供:インターシル株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2017年2月15日