2010年から「インテリジェント・プラネットの実現」というビジョンを掲げ、IoT(モノのインターネット)に向けた戦略転換を図る台湾Advantech。同社日本法人の社長を務めるマイク小池氏は、2017年に向けた新しい組織体制が完成し“完全なるIoTカンパニー”になったと強調する。設立20周年を迎える日本法人の2016年の取り組みと、IoT業界の成長を支える事業戦略について聞いた。
――IoT(モノのインターネット)に向けた取り組みを積極的に行われています。
マイク小池氏 当社は、2010年から「インテリジェント・プラネットの実現」というビジョンを掲げてきた。IoTに向けて戦略転換を図ることを意味しており、その実現までには3つのフェーズがあると考えている。1つ目のフェーズは「IoTデバイス」であり、当社はハードウェアのラインアップ拡充を進めてきた。現在、第2フェーズの「IoT SRP(Solutions Ready Platforms)に差し掛かっており、ハードウェアとソフトウェアを組み合わせたソリューションとして提供する段階となっている。
第2フェーズは今後5〜10年間で大きな成長期に入るが、最終的には第3フェーズの「IoTクラウドサービス」となり、2025年には1000兆円という市場規模になることが予測される。第3フェーズでは、システムインテグレーター(SI)を中心とした当社の顧客がビジネスを進める段階に入る。当社としては、ハードウェアのプラットフォームを提供することにより、IoT業界を大きく支える存在になりたいと考えている。
――第2フェーズに入る中、2016年はどのような展開を進めてきましたか。
マイク小池氏 第2フェーズに向けて、さまざまな取り組みを国内で進めた。2016年2月には、収集したデータをクラウドサービスで活用するためのソフトウェアプラットフォーム「WISE-PaaS」と、日本IBMのPaaS「Bluemix」「SoftLayer」との連携を発表した。特に、スマート・マニュファクチャリング市場向けのIoTソリューションの提供について、協業を進めている状況だ。
同年6月には、ARM、Bosch Sensortec、Sensirion、Texas Instrumentsと提携して展開するセンサープラットフォームのオープン規格「M2.COM」の発表も行った。M2.COMは、マイコン、無線通信機能および、センサーインタフェースをパッケージ化したIoTセンシングデバイス向けプラットフォームだ。
また、Microsoftの「マイクロソフト・グローバル・IoTバリュード・パートナー」の認定を受け、国内でEmbeddedとAzure CSPの正規販売代理店として契約を締結した。組み込みおよびIoTソリューションをワンストップで提供することが可能となっている。
――台湾・林口キャンパスの2期工事も終えました。
マイク小池氏 IoT戦略を加速させるため、台湾・林口キャンパスへの投資を進めてきた。2014年に1期工事が終わり、2016年には2期工事が完了している。林口キャンパスは、IoTインテリジェントキャンパスとなっており、インダストリ4.0を具現化する最新設備を導入した工場が稼働している。
同年10月には林口キャンパスで、顧客やパートナーを対象としたカンファレンス「2016 Advantech Embedded IoT Partner Summit」を開催した。国内からは、日本IBMと富士通に登壇していただき、日本におけるIoTの先進性を世界にアピールできた。
特に富士通には、同社工場におけるインダストリアルIoTに向けた取り組みについて講演をしていただいた。島根富士通の工場では、Intelと共同開発したIoTゲートウェイ「UTX-3115」が採用され、不良品のモニタリングとして活用されている。
同工場では、修理対象製品にビーコンセンサーを取り付け、製品の位置情報などをリアルタイムに確認する実証実験を行った。UTX-3115は、Intelのプロセッサ「Atom E3826」が搭載されており、大量のセンサー情報や画像解析に耐えられる処理性能を持つのが特長である。ビーコンセンサーからの情報を収集する際に実運用で活用され、運送費の削減に貢献することができた。
さらに、2016 Advantech Embedded IoT Partner Summitでは、WISE-PaaSにおいてARMのクラウドソリューション「mbed」と連携を強化することも発表している。
――業績面ではどのような推移となっていますか。
マイク小池氏 2016年上半期の連結純利益は、前年比9%増となる27億台湾ドルと過去最高を実現し、株価も年初に比べて約20%上昇した。蔡英文政権へと変わり、インダストリ4.0などの取り組みを積極的に進めており、今後の政策期待も追い風となっている。
また、成長力や収益性、資本効率などが独自に点数化された「Nikkei Asia300実力企業ランキング」(2016年6月)では、台湾企業の中で5位にランクインした。
――2017年の展望を教えてください。
マイク小池氏 2017年は、IoT時代における組込みコンピューティング産業の変化が起きると思っている。RISCが大きな成長を迎えて納期の短縮や低価格化が進む中、シングルボードコンピュータから統合IoTコンピューティングシステムへの移行が進む。そこで求められるのは「IoTコンセプチャル販売モデル」である。
IoTコンセプチャル販売モデルとは、従来のようなハードウェアだけでなく、上位クラウドソリューションに連携するためのソフトウェアまでを含めたソリューションパッケージとしての投入が重要になることを意味する。当社はソフトウェアのエンジニアを増やし、WISE-PaaSの付加価値向上を進めている。
WISE-PaaSでは、オープンされた形でハードウェアとクラウドサービスをつなげる環境を用意している。先ほども述べたように、AzureやBluemixは正式に連携が可能だ。その他の幅広く活用されるクラウドサービスに対しても機能するようになっている。
2017年からは、新しいコンセプトとなる「EIS(Edge Intelligence Server)」に注力していく。EISとは、WISE-PaaSに接続するためのソフトウェア「WISE-Agent」を組み込んだIoTゲートウェイのことを指す。WISE-Agentを組み込むことによって、WISE-PaaSの機能を活用できるだけでなく、各種クラウドサービスへの接続が容易になる。クラウドサービスに対して、EIS自身がソリューションパッケージとなることを目指す。
――他に注力する分野などはありますか。
マイク小池氏 新しいコンセプトの「WISE-PaaS Marketplace」が挙げられる。
ビッグデータの80%は、エンタープライズ向けに活用されている。それらのビッグデータ解析は現在さまざまな方法で行われているが、体系化されていないのが現状だ。データ解析で鍵となるのは、データを“知識化”することである。当社はアルゴリズムを用いることで、ビッグデータを知識化するAPIのフォーマットをより簡単に、低コストで提供できると考えている。このコンセプトを、WISE-PaaS Marketplaceと呼ぶ。MarketplaceにおけるAPIはオープンなものであり、誰でも参加することができる。
WISE-PaaS Marketplaceでは、エネルギーや農業、医療向けなど各種ドメインで必要とされるAPIの開発環境を用意していく。当社もAPIの拡充を進めるが、SIやメーカーが開発したAPIも流通する形にしていきたい。重要なのは、ユーザーが各種ドメイン向けに開発したAPIに対して、当社のEISを用いるとIoTソリューションが容易に開発できるような場になることである。Appleの「iPhone」のようにハードウェアが軸となり、アプリがどんどん増えていく世界をIoTで具現化することが2017年のビジョンだ。
――WISE-PaaS Marketplaceの位置付けはどこになりますか。
マイク小池氏 SRPの1つとなる。先ほども述べたように、WISE-PaaS Marketplaceによって、多種多様なAPIが世の中に登場する。顧客が、当社のハードウェアと多様なAPIを組み合わせてSRPを開発し、販売するモデルを作っていく。
もちろん当社としてはWISE-PaaSやEISを用意するが、Marketplaceは市場の流れに任せる形となる。最終的には、スマートシティーやインダストリアルIoTソリューションなど、専門領域に強みを持ったSIやエンドユーザーが、第3フェーズとなるクラウドサービスを開発することで、IoTの大きなマーケットが生まれると考えている。
ハードウェアとしてのビジネスも今後増えていくと思うが、2020〜2025年にかけてはSRP/EISが成長のエンジンとなるだろう。2017年がその最初の年になる。
ここまで挙げてきたWISE-PaaSの拡充を、当社は「シェアリングプラットフォーム」と呼んでいる。シェアリングプラットフォームは、パートナーと共同で作り上げるマーケットであり、ここから新しいIoTの市場構造が生まれてくる。アドバンテックは、WISE-PaaSを中心に継続的なイノベーションを行い、IoTマーケット拡大への使命を果たしていく。
――最後に、あらためて2017年の意気込みをお聞かせください。
マイク小池氏 各市場に応じた新しい組織体制が2017年に向けて完成し、当社は完全なる「IoTカンパニー」となった。日本法人に関しても、3年連続で成長率ナンバーワンを記録し、本社からも投資の対象としてトップランクに入っている。私が就任した2012年と比べても社員数は2倍、売り上げ規模は約3倍を実現した。
しかし、これまでの成長は始まりにすぎない。日本法人は、2017年で創立20周年を迎える。これまでの成長を糧に、次の20年を創る最初の年としていきたい。
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提供:アドバンテック株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2017年2月15日