リニアテクノロジーは、自動車/産業機器といった注力市場に対し、高性能アナログICに、デジタル/ソフトウェアといった付加価値を加えたソリューションの提案を強化している。2017年はアナログ・デバイセズとの経営統合を予定。「より幅広い技術を融合させたソリューションを提供できるようになる」と語るリニアテクノロジー日本法人代表取締役の望月靖志氏に聞いた。
——2016年のビジネスはいかがでしたか。
望月靖志氏 2017年度第1四半期(2016年7〜9月)以降、好調な状態が続いている。日本法人の売り上げの4割を占める医療機器などを含む産業向けビジネスは、人件費が高騰する中国での生産の自動化に向けた設備投資が旺盛で、産業機器の需要が高水準を保っている。半導体製造装置についても3次元NANDフラッシュメモリ向け製造装置投資が活発で、当社の高性能アナログICの需要を引っ張っている。
通信機器向けも、無線通信インフラ向けは低調な状況が続く一方で、有線、特に光通信インフラ向けは好調。膨大なデータを扱うため、さらに高速な通信が求められ、高性能アナログICがより必要とされるという構図だ。
また日本法人売上高の5割超を占めるようになった自動車向けは、自動車市場自体は堅調な状態が続くが、当社としてのビジネスは、採用用途の拡大により市場を上回る成長が実現できている。
これらの要因により、2017年度は毎月、当初計画を上回る業績で推移し、前年比2桁近い増収を実現できている。
——自動車向けでは、どのような製品で採用用途が拡大しているのですか。
望月氏 現状、自動車には100〜120個のマイコンが搭載され、複数のカメラも備わるようになっている。そのため、電流増やサイズ、コストの問題が顕在化し、より高度なノイズ対策や熱対策が求められている。従って、おのずと、優れたアナログ半導体の需要が高まっている。
例えば「サイレント・スイッチャ」と呼ぶ同期整流式降圧スイッチングレギュレータ製品ファミリがある。このサイレント・スイッチャは、スイッチングレギュレータながら、超低ノイズという特長を持つ。レギュレーターを2つに分け、ノイズが発生するループをわざと2つ作り、フィールドが逆になるようにすることで磁界ループをキャンセルし、低EMI(電磁妨害)を実現している。42V入力、5A品の「LTC8640」では、2MHzという高速スイッチング時でも、EMI放射を25dB以上低減し、自動車のCISPR25 Class5のテストも余裕を持ってクリアできるレベルの低ノイズを達成している。
小電流から大電流までの製品がそろい、あらゆる車載電源での採用を獲得している。最近では“第2世代サイレント・スイッチャ”として、より低ノイズ、小型化要求に応えられるコンデンサを内蔵した高集積タイプも製品化している。
高集積型の製品では、「μModule」も車載用途での好調に採用数が増えている。μModuleは、半導体チップに、コンデンサやコイルなど受動部品を10〜20mm角程度のパッケージに実装したモジュールであり、わずかな外付け部品を加えるだけで高性能な電源や信号処理回路を構築できる。サイレント・スイッチャを採用した製品など、既に7系統、80品種を超える製品バリエーションがあり、まだまだ車載用途での採用拡大が見込める製品だ。
——自動車の電動化により、バッテリーマネジメントシステム(BMS)用ICの需要も伸びているようですね。
望月氏 リニアテクノロジーは、業界に先駆け、1ICで12〜15セルというバッテリーセルを高精度に監視できるBMS ICを投入し、高いシェアを獲得してきた。最近では、環境保護の意識が高まっている中国市場での需要が急増し、さらに採用を伸ばしている。
BMS ICについては、このほど、次世代品として「ワイヤレスBMS」を発表した。これまでセルを監視するBMS ICと、バッテリーコントローラの間は、ワイヤハーネスによる有線接続だったが、ワイヤレスBMSは、その名の通り無線化するもの。自動車の軽量化に貢献する次世代型のBMSとして大きな注目を集めている。
——BMSの通信は、高いレベルの通信安定性が求められます。
望月氏 ワイヤレスBMSの無線には「ダスト・ネットワーク」を採用している。ダスト・ネットワークは、インフラやプラント設備の遠隔監視用無線通信として利用される時間同期型の“切れない無線”という特長を持つ。通信容量こそ大きくはないが、“決まった時間に確実に監視する”という機能に優れ、BMS用途に最適な無線通信技術だ。
商用車での採用は、5年ほど先になるだろうが、リニアテクノロジーの高精度アナログ技術と、無線通信技術を融合させた“ソリューション”として、積極的に提案を行っていく。
——産業機器向けでの好調な製品、期待の製品を教えてください。
望月氏 産業機器市場でも、技術課題を解決する“ソリューション”を提供する製品を強化し、多くの引き合いを得ている。
例えば、高精度デジタル温度測定システムソリューションがある。温度測定は、あらゆる場面で必要になっているが、温度センサーは熱電対やサーミスタ、ダイオードなど千差万別であり、温度センサーごとに測定回路を構築する必要があった。
こうした状況に対し、高精度デジタル温度測定システムソリューションは、1つのICであらゆる温度センサーの入力に対応し、0.1℃単位のデジタル値として出力する。高精度の信号処理アナログ回路と、ARMコアベースのデジタル処理回路の融合で実現したソリューションだ。
現在、温度測定だけでなく、あらゆるセンサーに対応したユニバーサルセンサー対応のソリューション開発も実施している。
また、産業機器市場向けには“ゼロダウンタイム”を実現するソリューションの提案も強化している。
——“ゼロダウンタイム”を実現するソリューションとは、どのようなものですか。
望月氏 製造現場を中心に、多大な損失を生む稼働停止時間を削減、強いてはゼロにする“ゼロダウンタイム”を目指す動きが活発になっている。具体的には、製造装置などを常時監視し、装置故障による稼働停止を未然に防ごうという取り組みだ。
リニアテクノロジーでは、“ゼロダウンタイム・ソリューション”として2つの提案を行っている。1つは、ダスト・ネットワークを使ったセンサーモニタリングソリューションであり、もう1つは「Power System Management(PSM)ソリューション」だ。
機器の故障の予兆を見いだすためには、電源ラインを監視することが重要だ。人間が血液検査でさまざまな体の異常を発見できるのと同様に、電流、電圧といった電流ラインの状態を見ることで、さまざまな異常の予兆を見つけることができる。
PSMソリューションは、アナログである電源と、デジタルであるプロセッサの間に位置し、プロセッサから電源の状態を“見える化”するもの。これにより、さまざまな機器の状態が把握できるようになる。例えば、モーターは劣化が進むと消費電流が増大するため、負荷にモーターが接続された電源の電流値が増大すれば、モーターの故障が近づいていると判断でき、未然に対策が打てるわけだ。
現在、PSMソリューションとして、PSM製品の提供にとどまらず、さまざまなユースケースで、故障の予兆を検知できるソフトウェアアルゴリズムのレファレンスの開発を実施し、2017年は“使えるソフト”とともにPSM製品の拡販を行っていく。
なお、PSM製品は電源の監視だけでなく、シーケンスやダイナミック電圧調整などの制御も行える他、万が一、機器が故障した際に電源関係のパラメータのログを自動的にE2PROMに保存する機能なども備えており、多くの付加価値を提供できるソリューションになっている。
——“ソリューション”の提供が大きなテーマになっていますね。
望月氏 顧客の技術課題はより高度になっており、優れた高性能アナログICの提供に加え、高性能アナログICを使いこなすためのデジタル技術やソフトウェア技術を加えた“ソリューション”の重要性が増していることは確かだ。
各アプリケーションに対してソリューション提案力を強化することを1つの目的に、2015年度から、日本国内の組織体制をアプリケーション別体制に移行した。この組織体制の変更により、自動車、産業機器、通信機器といった各アプリケーションに精通した専門性の高いソリューション提案が可能になった。
2017年は、アナログ・デバイセズとの経営統合を控えている。経営統合実現後は、さらに幅広い技術を組み合わせたソリューション提供が可能になる見込みであり、大いに期待している。
——アナログ・デバイセズとの経営統合による相乗効果はどのようになりますか。
望月氏 繰り返しになるが、リニアテクノロジーは、単なる半導体ベンダーからソリューションプロバイダーへと変わりつつある。アナログICだけでなく、デジタル、センサー、さらにはソフトウェアなどを含めてより多くの価値を提供するため、強化を進めてきた。
同時に、急速な勢いで再編が進む半導体業界において、一定の規模が必要になっている。
そうした中で、アナログ・デバイセズがリニアテクノロジーを買収するという形で経営統合を行うことになったのは、いわば自然な流れだといえる。
アナログ・デバイセズと、リニアテクノロジーは補完的な関係にあり理想的な組み合わせだ。一部、信号系アナログこそ重複するものの、アナログ・デバイセズのセンサーやDSP技術と、リニアテクノロジーの電源が合わさることで、より新しい価値を提供できるようになる。信号系アナログも互いの技術が融合することで、さらに優れた製品を提供できるだろう。統合合意時に両社は「1+1=2.5に向かう」としたが、個人的には、2〜3年後に1+1=3以上の大きな相乗効果を発揮すると考えている。
——統合に向けたスケジュールの見通しをお聞かせください。
望月氏 合意当初は、2017年6月末までとしていたが、順調に各国当局の承認を得ており、現状は中国当局の承認さえ得られれば、完了する状況にある。当初計画よりも早く完了する公算が高くなっている。
——統合後の体制については、どうなりますか。
望月氏 現在、検討が進められている状況であり、詳細の公表は統合完了後になるだろう。ただ、統合後のCEOを務めることになっているアナログ・デバイセズのVincent T. Roche CEOは統合に伴って顧客に迷惑を掛けないよう「統合完了当初は、現在の販売/サポート体制を維持し、日々状況を見ながら最適化していく」としている。
製品供給や新製品開発計画なども両社ともに、維持される見通しだ。
——過去数年、日本でさまざまなイベントを開催されてきましたが、今後の予定は?
望月氏 日本社会の一員として、アナログエンジニアの育成などを目的にした活動を行ってきたが、(統合後も)継続していく方針だ。
2017年は、これまで東京中心だったイベント開催を関西地区にも広げていく。2月には、国内の極めて優秀なアナログエンジニアを招いたアナログソリューションセミナー(招待制)を開催する他、アナログ設計開発支援ツール「LTspice」の普及、啓もうを目的にしたLTspiceユーザーイベントも4月に東京、大阪で実施する予定だ。
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提供:リニアテクノロジー株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2017年2月15日