Cypress Semiconductorの業績が好調だ。特に自動車向けビジネスは2017年に売上高2桁成長を見込むという。「メモリ、マイコン/プログラマブルSoC(PSoC)、アナログ、そして無線通信ICというユニークで広範な製品群の組み合わせで生まれる“価値”が支持されている」という同社自動車事業本部長を務める布施武司氏に、自動車向けビジネス戦略を聞いた。
――2016年1〜9月のCypress全社業績を見ると売上高14億米ドル(前年比20%増)と好調です。
布施武司氏 2015年3月に旧Cypress、Spansionが統合した新たなCypress Semiconductorが発足して以来、1年半以上が経過した。技術/製品開発、販売、製造など各部門での統合作業は、いろいろなチャレンジを経て2016年前半には一通り、完了した。そういった意味でも2016年は新生Cypressとして相乗効果を発揮しながら、本格的なビジネスを展開できた1年となった。業績もそうした背景を反映し、全社的に好調に推移した。
――2016年を振り返ると、7月にBroadcomのIoT(モノのインターネット)向け無線通信事業を買収されました。
布施氏 これまでCypressは、民生機器、自動車、産業機器という3つのアプリケーションに注力してきた。今回の事業買収に注力アプリケーションに「IoT」が加わったことになる。製品/ソリューションとしては、メモリや、マイコンなどのロジック、電源を中心としたアナログICに、無線通信用ICが加わった格好だ。もともと、メモリ、ロジック、アナログと、他社にないユニークなカバー領域の広さがCypressの強みの1つだったが、それが一層強化されたと言える。
――2016年8月には、Cypress創業者であるT.J. Rodgers氏がCEOを退任し、新CEOにHassane El-Khoury氏が就任されました。
布施氏 T.J. Rodgersは、Cypress、強いてはシリコンバレーを代表するカリスマ経営者だったが、新CEOのEl-KhouryもT.J. Rodgersの下で学び、その良さを引き継いでいる。El-Khouryは若くエネルギッシュであり、会社全体としてもよりエネルギーが満ちている状況になっている。
――担当されている自動車事業の2016年業績はいかがでしたか。
布施氏 自動車事業も業績は好調だった。
商談獲得ベースでも、旧Cypressと旧Spansionという異なる製品群を展開していた両社の統合により、顧客層が大幅に広がったことがかなり功を奏し、大型の商談を獲得できた。自動車分野では、商談獲得から業績寄与まで数年掛かる場合がほとんどだが、(2016年までに獲得した商談のうち)2017年業績に寄与する大型商談もあり、2017年は前年比2桁成長が見込める状況となっている。
――大型商談を獲得できている理由を詳しく教えてください。
布施氏 Cypressは自動車向け製品として、NOR型フラッシュやSRAMといったメモリ、「Traveo」などのブランドで展開するマイコン、電源IC、そしてプログラマブルSoC(PSoC)を展開している。これらの製品は、相互に組み合わせて使用することで、より高い付加価値、性能を提供できるようになっている。例えば、独自の高速メモリインタフェースである「HyperBus」を用いた「HyperFlash、HyperRAM」メモリでTraveoマイコンの性能をより引き出すことができ、Traveoなどに最適化した電源ICを使えば、電力効率を高めるだけでなく、基板層数を削減するなどシステムレベルの熱、コストを抑制できる。さらに、顧客ごとの要求仕様は、プログラマブルなPSoCで対応できる。
こうした複数のデバイスを組み合わせて価値を創出する、包括的なシステム提案は、競合他社でも一部で見受けられるが、多くの場合、複数の半導体メーカーが連携して提供している。Cypressは、ソリューションとして自社製品で構成できる。そのため、さまざまな要望に対し、スピーディーに対応できる。そういった対応の迅速さもあり、車載システムに必要な多くのデバイスをCypress製品で構成する大型商談を多く獲得するに至っている。
――2017年もこうした大型商談の獲得が望めそうですか。
布施氏 より加速させていきたいと思っている。先述したBroadcomのIoT向け無線通信事業を買収して以降、自動車市場の顧客からも旧BroadcomのWi-Fi、Bluetooth対応無線通信ICへの引き合いを多くいただいている。改めて、Wi-Fi、Bluetooth対応無線通信IC製品の競争力の高さを感じている。
メモリ、マイコン、PSoC、電源ICに無線通信ICが加わることで、さらなるシナジーを発揮し、より広範な商談を獲得できると考えている。
――製品面では、車載マイコンとして2016年1月に40nmプロセス技術を用いた新しいTraveoファミリのサンプル出荷を開始しました。
布施氏 Traveoファミリは、CPUコアにARM Cortex-R5を用いた高性能車載マイコンであり、2014年に90nmプロセスを用いたEV(電気自動車)/HEV(ハイブリッド車)向けの第1弾製品の出荷を開始した。その後、55nmプロセスを用いてクラスタ、ボディー向け製品を中心にラインアップし、2016年1月には40nmプロセス品のサンプル出荷に至った。
40nmプロセス品は、その高集積性を生かした大容量メモリを搭載したクラスタ向け製品や、多くの車載インタフェースに対応したゲートウェイ向けがそろう。既に採用が決定した案件も複数あり、2017年中には量産出荷する予定だ。順調にビジネスが立ち上がっている。
――Traveoは、Cypressが高いシェアを持つクラスタ向けを中心に、ボディー/ゲートウェイ向け、EV/HEVモーター制御向けの製品を揃えています。今後もそうしたアプリケーション向けの製品に注力されるのですか。
布施氏 クラスタ、ボディー/ゲートウェイ、モーター制御向けは継続して強化し、さらなる成長を狙う。同時に、“次世代Traveo”の開発に着手しており、セーフティやセキュア、エコなどを自動車にもたらす新しいアプリケーションにもそのカバー範囲を広げていく。
――次世代Traveoについて教えてください。
布施氏 開発中であり詳しくは話せないが、機能安全やセキュリティ、電力削減技術など、目まぐるしい技術変化にいち早く対応するマイコンとして開発を進めている。そうしたコンセプトを実現するために、新たな設計開発手法を導入している。市場投入は2017年末から順次予定している。
――新たな設計開発手法とはどのようなものですか。
布施氏 Cypressがこれまで、PSoCの設計開発などに用いてきた手法であり、各機能ブロックを個別にIPとして開発、評価し、それら“ロバストなIP”とCPUコア、メモリをレゴブロックの積み木のように組み合わせるというもの。IPの組み合わせを変えることで、さまざまなニーズに応じた製品を短期間に開発できる。
1年ほど前から、旧Spansionのペリフェラルを新設計手法に対応するIPへ移行する作業に着手してきた。次世代Traveoは、そうしたIPや、静電容量タッチ制御機能などPSoCで好評なIPを組み合わせて実現する。
――車載マイコンにおける次世代微細プロセスの導入は計画されていますか。
布施氏 製品投入時期は明かせないが、40nmに次ぐ微細プロセス導入に向けた技術開発に着手している。マイコンに微細プロセスを導入する際に技術的ネックとなるのは、内蔵するフラッシュメモリの微細プロセス対応になる。Cypressは、NOR型、NAND型フラッシュメモリメーカーであり、SONOS、eCT(チャージトラップ)技術、フローティングゲート技術など、あらゆる技術を持ち合わせており、優位性がある。そうした利点から、微細プロセス導入という面でもリードできると考えている。
――マイコン以外の製品開発方針をお聞かせください。
布施氏 電源ICについては、継続してTraveoマイコンなどに最適化し、システムレベルでの電力効率向上、システムコスト削減に貢献する製品を展開する方針に変わりはない。2017年は、より大電流に対応した製品投入などを予定している。
メモリについては、333MB/秒の高速転送速度を実現するメモリインタフェースであるHyperBus対応メモリのラインアップを強化する。HyperBusは、より高精細な映像を扱うインフォテインメント用途の他、複数のカメラ映像を扱うADAS(先進運転支援システム)用途での採用が拡大している。
さらに2017年は、USB Type-C/USB PowerDelivery(USB PD)コントローラーICの車載向け提案を強化する。Cypressは、USB Type-C/USB PDコントローラーICをいち早く製品化し、民生機器市場で先行している。USB Type-C/USB PDは、スマートフォンやPCなどでの普及を背景に、自動車での採用が確実視され、2017年は実際にデバイスの選定段階に移る見通しであり、民生市場同様、車載市場でも先行していきたい。
――車載向け半導体メーカー各社は積極的にM&Aを進め、寡占化が進みつつあります。
布施氏 巨大なビジネス規模を誇る競合が誕生していることは確かだ。ただ、ビジネス規模が大きいだけでは、市場を勝ち抜くことはできない。
自動車業界は、技術変化が目覚ましく、世界規模でダイナミックに動く市場だ。そうした市場で生き残る、勝ち抜くために最も重要なことは、“スピード”と“真のグローバル化”を実現することだと考えている。
Cypressは、本社のある米国の他、旧富士通マイコン/アナログ事業の流れを汲む日本の拠点、さらにはドイツ、イスラエル、インド、ウクライナなど世界各地に設計開発拠点を持つ。拠点が各地に点在していると、マネジメントが難しくなり得るが、各拠点間がシームレスに連携できれば、国境などのボーダーがない真のグローバル化が達成でき、世界規模で動くダイナミックな自動車業界の動きに追従できる大きな強みになる。統合後、各拠点間のコミュニケーションを密に図る取り組みを行ってきた。地味な取り組みだが、着実に拠点間、社員間での相互理解は進み、グローバルで一体となったチームが構築できつつある。
スピードという面では、もともとCypressは経営判断が速い企業文化を持ち、新CEOのEl-Khouryはさらに経営判断の迅速化を掲げている。統合作業の早期完了や、新たな設計手法の導入、IoT向け無線通信事業の買収などを見ても、経営スピードは極めて速い。
スピードの速さ、グローバル体制は、Cypressの強み。この強みがある限り、自動車市場での成長を継続できる。今後も、スピード、真のグローバル態勢を追求していく。
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提供:日本サイプレス株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2017年2月15日