スマートフォンなどのモバイル機器から、車載機器や医療機器まで、あらゆる電子機器間の接続手段として今や当たり前のように、世界中で愛用されている無線通信技術「Bluetooth Low Energy」(BLE)。なぜ、さまざまな無線技術を差し置いて、BLEがあらゆる機器に組み込まれるようになったのか。BLEの技術的特長を詳しく見ていきながら、その魅力を探ろう。
Bluetooth技術は、ユビキタス性とシンプルさを特質とするデバイスの間でのワイヤレス通信に革命をもたらした。これによりさまざまなデバイス(電子機器)は、高レベルのセキュリティを維持しつつ、ケーブルなしで通信できるようになった。低電力と低コストであることからBluetoothは、車載デバイスから複雑な医療デバイスに及ぶさまざまなアプリケーションが革新を遂げる上で、中心的役割を担った。
Bluetooth技術は分かりやすい技術として世界中で受け入れられた。Bluetooth対応デバイスであればどんなデバイスも『ペアリング』と呼ばれるプロセスを介してすぐ近くにある他のデバイスと接続できるということが受け入れられた要因だ。
ペアリングは、デバイスが全二重通信を確立し、ピコネット(Piconets)と呼ばれる近距離アドホックネットワーク上でデータと音声とを伝送することを可能にする。ピコネットは最大8個のデバイスをリンクできる。1つのデバイスがマスターデバイスになり、これに対し、ネットワーク/ピコネット内の残りのデバイスはスレーブデバイスになる。マスターデバイスはハブとして働き、スレーブデバイスが相互に通信するためにはマスターデバイスを介して通信する。Bluetooth技術のもう1つの重要な特長は、干渉の影響を低減するために周波数ホッピングを利用していることだ。
Bluetooth技術の全二重(通信)能力はユーザーに革新的な使い方を提供する。利用例としては「Bluetooth音楽スピーカーにより電話をかける」「自動車運転中に電話に応答する」「ファイル共有のために2台のラップトップを接続する」「Bluetooth対応ゲームコントローラとゲーム機本体と接続する」などが挙げられる。
Bluetooth Low Energy(BLE)は、インテリジェントで電力に優しいバージョンのBluetoothワイヤレス技術だ。このバージョンは既に、スマートな小型機器(=ガジェット)をよりコンパクト、低価格で、使いやすく、スマートな小型機器へ進化させる上で、重要な役割を果たしつつある。
「Bluetooth Smart」とのブランド名称でも市場に出されていたBLEは、Bluetooth 4.0コア仕様の一部として仕様策定がスタートした。当初はNokia(ノキア)が設計し、Bluetooth Special Interest Group (SIG)によって採用されるまでは「Wibree」(ワイブリー)と呼ばれ、特に低コスト、低帯域幅、低電力、単純構成向けに最適化され、可能な限り低い電力消費の無線標準を提供することに焦点が当てられた。こうした設計目標は、コア仕様を見れば明らかなように、BLEが半導体メーカーによって実際に組み込まれ、エネルギーの限られた実世界アプリケーションに最小コストで利用されるように設計することによって、BLEを正真正銘の低電力標準にすることを意図したものだ。それは今や、コイン電池だけで長期間動作するという触れ込みだけでなく、実際に動く技術として広く利用されている。
BLEはそれ自身が独自のメリットをもつ優れた技術であると同時に、それが適切に妥協された技術であり、時代トレンドに合致した技術だったことが、目を見張るような普及速度の原動力になったのである。BLEは比較的初期の段階にある標準ではあるが、これまでに搭載された製品設計の数は、他のワイヤレス技術よりも早いペースで増えている。
Bluetoothクラシックは、電池消耗が激しく、接続切れの頻度が高く、しばしばペアリングないし再ペアリングを要する点が課題であった。こうした課題にうまく対処できたことが、BLEの急速な成長の理由の1つである。そして一層の普及の原動力となっているのが、スマートフォン、タブレットおよびモバイルコンピューティングの目を見張る成長だ。早い段階から“モバイル業界の巨人”が積極採用を決めたことが、その後の“BLEの広範囲な採用”という扉をこじ開けた。これが次に、半導体メーカーにBLE技術を長期的にみれば最も繁栄しそうなものだと認識させ、半導体メーカーの限られた経営資源をBLEに投下させる促進材料となった。
モバイルとタブレットの市場はますます成熟してきたが、これらデバイスと外部世界の間での接続性に対するニーズには、目覚ましい成長の可能性がある。この状況は周辺機器ベンダーにとって、消費者には今日問題になっているとは意識されないような問題を解決する目新しいデバイスを開発する絶好の機会となる。このようにBLEの周りには多くのメリットが集まってきており、小規模だが俊敏な製品設計者がタスク特化型の創造的で革新的な製品をほどほどの経費で設計し、巨大な市場に参入する機会を作り出しつつある。また、こうした開発者は今日ではBLEのおかげで、入手が容易なチップやツールおよび標準を利用し、最新のあらゆるモバイルプラットフォームと通信可能で将来性豊かな製品を設計することが可能になった。
物理設計からモデル使用に及ぶあらゆる面で電力消費を最小に保つよう設計されている。電力消費を低減するために、BLEデバイスは大半の時間がスリープモードに維持される。イベントが発生すると、デバイスは目を覚まし、ゲートウエイやPCあるいはスマートフォンにショートメッセージが転送される。最大/ピーク電力消費は15mA未満、平均電力消費は約1μAだ。アクティブ時の電力消費はBluetoothクラシックのエネルギー消費の1/10に減少した。デューティサイクルの低いアプリケーションでは、1個のボタン電池により5〜10年にわたって信頼性ある動作が可能と想定される。
Bluetoothクラシック技術との互換性および小型電池駆動デバイス向けとしてのコスト効率を実現するため、次の2種のチップセットがある:
BLE技術は、Bluetoothクラシック技術と同じアダプティブ周波数ホッピング(AFH:Adaptive Frequency Hopping)を利用している。これによりBLEは、家電、産業機器および医療用のアプリケーションで見られる雑音の多いRF環境においてもロバストな伝送を実行できる。AFHの利用に伴うコストとエネルギー消費を最少化するために、BLE技術は、チャンネル数をBluetoothクラシック技術の1MHz幅79チャンネルを2MHz幅40チャンネルに減らした。
Bluetooth技術、無線LAN、IEEE 802.15.14/ZigBee、さらにいくつかの独自専用無線機がライセンスフリーの2.4GHz ISM(Industrial, Scientific and Medical)バンドを利用する。同一無線空間を非常に多数の技術が共用することになるので、干渉のためにエラー訂正や再送信を必要とすることになり、ワイヤレス性能が低くなる(言い換えれば、レイテンシの増大とスループットの減少が生じる)。要求の厳しいアプリケーションでは、周波数計画と特殊アンテナ設計を行うことで干渉を減らすことができる。Bluetoothクラシック技術およびBLE技術は両方共に、他の無線技術との干渉を最少化するためにAFHを利用しているので、Bluetooth伝送はロバストで信頼性が高い。
BLE技術はBluetoothクラシック技術とは少し違った変調を使う。この変調微分により最大10dBmのBLE無線チップセット使用時の通信距離が最大300mに達する。
BLEピコネットは通常、多数のスレーブが接続される1つのマスターをベースとする。デバイスは、マスターかスレーブのいずれかであり、両者を兼ねることはない。マスターはスレーブにどの程度の頻度での通信を許容するかをコントロールし、スレーブはマスターからの要求によってのみ通信できる。Bluetoothクラシック技術に比べて新しく付加された特徴が「アドバタイジング」機能だ。この特徴により、スレーブとして働くデバイスは、マスターに通信すべきアイテムのあることを通知できる。また、アドバタイジングされるメッセージには、イベントあるいは測定値も含ませることができる。
データ転送:BLEは、1Mbpsで伝送されるごく短いデータパケット(最小8オクテット(octet)、最大27オクテット)をサポートする。すべての接続において、最新のスニフ‐サブレーティング(Sniff-sub rating)機能が使用され、エネルギー消費を最少に維持するよう超低デューティサイクルが実現される。
周波数ホッピング:BLEは、2.4GHz ISMバンド内の他の技術からの干渉を最少化するため、Bluetoothの全バージョンに共通なアダプティブ周波数ホッピングを利用している。有効なマルチパスを活用し、リンクバジェットと実効的動作距離を増大させるとともにエネルギー消費を最適化している。
ホストコントロール:BLEではインテリジェンスの大半がコントローラに配置される。これによりホストは、長い時間にわたってスリープ状態を維持することができ、何らかのアクションを要する場合にのみコントローラによってウエイクアップされる。この動作の結果、ホストプロセッサが通常はBLEコントローラよりも大きな電力を要することから、最大限の電流節約が可能になる。
レイテンシ:BLEは、3ミリ秒という短い時間での接続セットアップとデータ転送に対応できる。この結果、アプリケーションによっては、短いバースト状通信ならば、わずか数ミリ秒の間に接続を確立し、認証されたデータを転送し、その後素早く接続を切ることができる。
距離:変調指数を大きくすることで、BLEの最大通信距離は100m超に到達した。
ロバスト性:BLEは、干渉に対するロバスト性の最大化を確実にするため、全パケットに対し強力な24ビットCRC(周期的冗長検査、サイクリックリダンダンシーチェック)を適用する。
強力なセキュリティ:ブロック暗号の暗号利用モードの1つであるCCM(Counter with CBC-MAC)を使用した完全AES-128(Advanced Encryption Standard)暗号化がデータパケットの強力な暗号化と認証を提供し、その結果、通信はセキュアになる。
トポロジ:BLEは、各スレーブ向けの全パケットに対し32ビットのアクセスアドレスを利用しているので、何十億個ものデバイスが接続可能だ。この技術は、スタートポロジによる1対多数の接続を可能にするとともに、1対1接続をも最適化する。
仕様 | Bluetoothクラシック | Bluetooth Low Energy |
---|---|---|
最大通信距離 | 100m以下 | 100m超 |
データレート | 1〜3Mbps | 1Mbps |
アプリケーションスループット | 0.7〜2.1Mbps | 0.27Mbps |
セキュリティ | 56/128ビット | 128ビットAES、CCMモード(Counter Mode CBC-MAC)利用 |
ロバスト性 | アダプティブ高速周波数ホッピング、FEC、高速ACK | 24ビットCRC、32ビットメッセージインテグリティチェック |
レイテンシ | 代表値100ミリ秒 | 6ミリ秒 |
時間遅れ | 100ミリ秒 | 3ミリ秒 |
音声対応 | 可 | 不可 |
ネットワークトポロジー | スター | スター |
消費電力 | 1W | 0.01から0.5W |
ピーク電流 | 30mA未満 | 15mA未満 |
携帯用デバイスはどこにでも展開されるものであることから、BLEは、全業界にまたがる全く新しいアプリケーションを可能にする。
例えば、「より効率的に展示会で新しい顧客を獲得したい」というような場面では、次のようなBLEの活用法が考えられる。
ゲーミフィケーション:BLEを使用すれば、展示会ブース内の比較的人気の少ない場所にビーコンを工夫して配置し、それを参加者が発見すると特典をもらえるなど、参加者が人気の少ないブースを探索できるよう誘導できる。
支援(スポンサーシップ):参加者が展示会会場の特定ゾーンを通過すると、そこから最近接のブースの情報をビーコンに送信し、ブースを見学するよう誘導する。
活況度分布:ビーコンがリアルタイム統計にアクセスしてホットスポットを認識し、過剰混雑してセキュリティの破綻しそうな場所を管理者に注意喚起できる。
コンテンツ配信--カンファレンスなどの参加者が、プレゼンテーションスライドのコピーをeメール経由で受け取る場合の長い待ち時間を避けることができる。BLEビーコンが、参加者が参加しているセッションを識別し、プレゼンスライドや電子ブック、その他の販促用品などをセッション中あるいはセッション終了後すぐに、自動的に配信できる。
自動チェックイン:イベント主催者は、カンファレンス会場入り口でのチェックインをビーコンで自動的にできるようにセットアップすることで、イベントあるいは展示会への参加人数などの情報を容易に収集でき、また参加者のプロフィールをリアルタイムに見ることができる。この場合、ユーザーからの手動対応を一切必要としない。ユーザーがアプリをダウンロードし、自身のモバイルデバイスのBluetoothを作動に設定すれば、ユーザーが会場に入場すると直ちに、アプリが自動的にチェックイン処理を行う。
今や成熟したエコシステムがBLE開発に利用可能である。開発者は、BLE対応デバイスのハードウェア、ソフトウェアの開発を加速できる広範囲のチップとモジュールが利用可能だ。
例えば、Cypressは、ARM Cortex-M0コアをベースにアナログフロントエンドやデジタルロジック、CapSenseおよび、BLEをワンチップに統合したPSoC 4 BLEプロセッサを提供している。完全に集積化されたモジュールを望むOEM向けには、10×10×1.8mmサイズの認証済みプログラマブルBLEモジュールのCypress EZ-BLE PRoC Moduleがあり、これは、水晶振動子2個、チップアンテナ、シールド、受動部品を含むCypressのPRoC BLEチップを中心として構築され、使いやすさ、短期間での市場投入を目的として設計されたものだ。
Abhishek Guptaは、Cypress Semiconductorのビジネスアナリストである。インドのHaryana(ハリヤナ州)にあるMaharishi Dayanand University(マハーシ・ダヤーナンド大学)の電子通信部門の工学学士号を取得している。
ロジスティック管理者(RoHS 専門家)としてAgilent Technologiesと協業している。
Imran Mohammedは、Cypress SemiconductorのCIPS認定オペレーションアナリストであり、オペレーションマネージメントの修士号を有している。ビジネス、技術および、スポーツ関連のライターとして熱心なリーダーである。
ライティングへの情熱があり、ビジネスとスポーツのマネージメントに関する幾つかの記事を出版している。
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提供:日本サイプレス株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2017年3月23日
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