サンケン電気のモーター用半導体事業が好調だ。2017年1〜3月に前年同期比20%超の売上高成長を達成した。同社技術本部MCBD事業統括部長高橋広氏は「海外市場での需要増に加え、白物家電に最適な独自低損失パッケージが好評だった」と分析する。「今後は、顧客のさまざまな要求に応えられるソリューションプロバイダーを目指す」という高橋氏に同社モーター用半導体事業の製品/技術戦略について聞いた。
――直近の業績をお聞かせください。
高橋広氏 2017年3月期の連結売上高は1587億円の前年比約2%増となり、サンケン電気半導体デバイス事業については売上高1293億円で前年比3%強の成長を遂げることができた。
――半導体デバイス事業における成長の要因をお聞かせください。
高橋氏 半導体デバイス事業は、3つのBD(ビジネスディベロップメント)と呼ぶ事業部門と光関連のLED部門とで構成している。
BDの詳細は、自動車向け事業を展開するオートモーティブBD(AMBD)、モーター向け事業を展開するモーターコントロールBD(MCBD)、電源用ICおよびパワーディスクリート製品を扱うパワーコンバージョンBD(PCBD)の3つだ。
2017年3月期は、引き続きAMBDが手掛ける自動車向け事業が堅調で、半導体デバイス事業売上高の40%超を占めるようになった。またMCBDも、年度後半は好調に売り上げが成長し、2017年第4四半期(1〜3月)に限れば、前年同期比20%を超える高い成長を達成することができた。
――MCBDのモータードライバー事業が好調だった要因をお教えください。
高橋氏 MCBDの事業は、現状、エアコンなど白物家電向けモータードライバーが主力用途だ。白物家電では中国をはじめとして海外市場でインバーター化が進んでいる。2016年後半からは、それまで1〜2年ほど続いた中国市場でのエアコンの在庫調整が終わり、需要が回復、拡大してきた。そうした需要増に加えてインバーター搭載機が増えてきたことにより、高い成長率で売り上げを伸ばすことができた。
――白物家電市場の成長を上回る急速な売り上げ伸長を達成できた理由はどのように分析されていますか。
高橋氏 1つは、かなり前から中国市場で現地顧客をサポートする現地スタッフを育成、増強し手厚い技術フォローを行ってきたから、成長を遂げられたと考えている。
もう1つは、白物家電市場および、モーター関連市場では普遍的に低損失/高効率化が求められており、低損失/高効率にこだわり、技術を追求し製品開発を進めたことが挙げられる。
――製品開発のポイントはどういったところでしょうか。
高橋氏 モーター・駆動回路の低損失/高効率化は、IGBTやMOSFETといったパワー素子自体の進化はもちろんのこと、制御技術やパッケージ技術を含めた総合力で実現できる。 パワーデバイスや、制御用モノリシックICに加えて、パッケージ開発まで一貫して自社でできるのがサンケン電気の強みだ。 当社では、スーパージャンクション構造のMOSFETを搭載した製品や、フィールドストップ型IGBTを搭載した製品の開発に注力している。また、低熱抵抗、低損失のパッケージラインアップを幅広くそろえている点も、現状の売り上げ拡大に寄与しているだろう。
特に受注が増えているのが、600V耐圧で容量3〜5AのIPM(インテリジェントパワーモジュール)向けに開発したパッケージ「SIM」だ。受注が好調で、生産能力をちょうど2倍に引き上げたところだ。
――SIMパッケージの特徴をもう少し教えてください。
高橋氏 600V耐圧で容量3〜5AのIPMが使用されるのは、エアコンのファンモーターや、冷蔵庫のコンプレッサーなどだ。実は、これまで、IPMのパッケージは、主にスイッチング素子にMOSFETを使用する3A以下向けのパッケージと、IGBTベースの10A以上向けのパッケージに二分され、5A前後の容量に適したパッケージがなかった。これまでは5Aクラスにはオーバースペックといえる10A以上用として開発されたパッケージを流用していた。そこで、3〜5Aの容量クラスに最適化し小型でコストパフォーマンスの良いSIMを開発したところ、大変、好評を得ることができた。 最近では、スーパージャンクションMOSFETを搭載した製品もラインアップに加え、さらなる高効率化も進めている。
SIMについては、スーパージャンクションMOSFETとモータードライバーを集積したIPMのラインアップは一通り、そろった段階。今後は、モーター制御ICをプラスしたより集積度の高い製品を開発していく予定だ。
――2015年度から3カ年の中期経営計画は今期、2018年3月期が最終年度です。
高橋氏 MCBDとしては、2017年度後半からの好調を当面維持できる見通しであり、中期経営計画で掲げた数値目標は達成できる見込みだ。現在は、来期(2019年3月期)からスタートする2020年以降を見据えた、新中期経営計画の策定作業を行っているところだ。
――新たな中期経営計画はどのような内容となりますか。
高橋氏 「エコ/省エネ グリーンエネルギー市場」という成長市場へ注力する2015〜2017年度中期経営計画の基本骨子は維持する見通し。戦略市場と定めた自動車、モーター、白物家電、産機、通信、新エネルギー、LED市場への製品開発を更に強化し、加速していく。また、市場の伸長が期待できるIoT(モノのインターネット)領域と当社が得意とするパワーデバイス、電源制御を組み合わせた「PowerIoT」製品の開発にも力を入れていく。PowerIoT製品は、現状主に電源領域で具体的な取り組みを行っているが、モーター領域でも同様の変化が起こるはず。デジタル技術を生かしたスマートなモーター駆動/制御ソリューションを構築していく。
――モーター事業で今後、注力される用途市場はどこになりますか。
高橋氏 インバーター化やACモーターからDCモーターへの置き換えが進むなど需要増が見込まれる白物家電市場は、これからも主力市場として強化していく。それと同時に、車載向け、産業機器向けのビジネスを拡大していく。
――車載向けビジネスの強化方針をお聞かせください。
高橋氏 これまで車載用途向けのモーター製品は、車載専門の事業部門であるAMBDで行ってきたが、2017年4月からMCBD内に車載向けモーター関連製品の開発部門を新設した。よりモーター駆動、制御に詳しい人員が加わって、車載モーター用製品ラインアップを強化しようという狙いだ。
これまでも車載モーター用製品はあったが、ガソリン車用の従来用途向けが中心だった。新設の開発部門では、電気自動車(EV)/ハイブリッド車(HEV)といった環境車特有のモーター用途に適した10〜50A容量クラスの新製品ラインアップを整えていき、2021年以降の売り上げ計上を目指すことになる。
サンケン電気としては車載向けビジネスは電源用ICやディスクリートなどで40年以上の実績があり、品質管理ノウハウも同時に積み上げてきた。家電で培ってきたモーター向け技術にそれらを取り込み、本格的に車載モーター向けビジネスを立ち上げていく。
――産業機器向けビジネスについては。
高橋氏 数十アンペアの容量が要求される産業用ロボットなどがターゲットになる。IGBTの開発を強化していくが既に一定のラインアップは整っている。今後は、絶縁を強化したパッケージなど産業機器特有のニーズに応じた製品をそろえることが重要になるだろう。車載向けに開発している大型パッケージなどの技術を産業機器向けにも転用するなどし、効率良く開発を進めていきたい。
――今後、モーター関連市場での製品開発の方向性はどうなるでしょうか。
高橋氏 顧客のさまざまな要求に応えられる技術を所持することが重要になってくる。その1つとして、サンケン電気では、モーター用途に応じた高耐圧を備えながら、メモリなど各種回路を高集積できるICプロセスを順次開発している。メモリなどを搭載することにより、顧客側で自由にモーター制御パラメーターを設定できるようになり、さまざまな要求に迅速に対応できるような製品ラインアップを強化していく。
メモリを搭載したソリューション仕様の製品としては、この夏から量産を開始する「センサーレスベクトル制御モーター駆動ソリューション」がある。マイコン相当のモーターコントローラをはじめ、モータードライバー、出力MOSFETを全て1パッケージに収めIPM化したもの。モーター特性に応じて調整が必要になる各種パラメーターを、顧客自らGUIベースの開発ツールで簡単に入力できるようになっている。
――今後の取り組みはどのようなことをされていくのでしょうか。
高橋氏 モーターの消費電力は、全世界における電力消費の40〜50%ほどを占めるといわれている。
モーターおよび、駆動回路の消費電力低減は世界的なニーズであり、これらに対する低損失、高効率化の要求は今後も変わることはなく、サンケン電気は技術的な追求を続けていく。
モーターの低損失、高効率化は、パワースイッチング素子自体の進化だけでなく、パッケージや制御技術の進化も不可欠であり、当社は包括的に技術開発を進め、モーターの低損失、高効率を実現していくという姿勢に変わりない。
特にこれからは、パワースイッチング素子の開発やパッケージのラインアップ強化と並行し、モノ/製品の提供にとどまらない低損失/高効率化につながるシステム提案が行えるようにするために、市場や顧客とのコミュニケーション・対話を重視した、ソリューションプロバイダーを目指していく。
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提供:サンケン電気株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2017年9月21日