Cypress Semiconductorの日本法人社長を務める長谷川夕也氏は「2017年は想定を上回る大きな飛躍を遂げた1年だった」と振り返る。世界的なIoT(モノのインターネット)化の流れを的確に捉え、2016年にBroadcomから引き継いだIoT向け無線通信チップ事業で大きく売り上げを伸ばした。2018年についても、組み込み領域に必要なあらゆる半導体製品をそろえるラインアップをベースに、オートモーティブ、インダストリアル、コンシューマーの3市場で一層の飛躍を遂げるべく、積極的な事業展開を計画する。
――2017年を振り返っていただけますか。
長谷川夕也氏 Cypress Semiconductor、日本法人サイプレス セミコンダクタにとって、2017年は想定を上回る大きな飛躍を遂げた1年になった。
ワールドワイドでの全社売上高は、当初の計画よりも上振れし、23億米ドルと前年比10%増を超える増収となる見込みだ。デザインロケーションベースでみると、全社合計の30%以上を占める日本市場での売上高は前年比20%増の大幅増収を達成している。
――好調だった理由をお聞かせください。
長谷川氏 特に好調だったのが、IoTおよび車載向けビジネスだ。
IoT向けビジネスは、2016年にBroadcom社から事業買収したWi-Fi、Bluetooth、ZigBee製品と、従来から提供してきたPSoC(プログラマブルSoC)ベースのBluetooth Low Energy(BLE)製品などで構成するIoT向け無線通信チップやUSBコントローラなどインタフェース製品を展開する事業だ。このIoT事業が2017年は、当初計画の2倍以上の売り上げを達成し、想定以上の好調ぶりだった。
車載向けビジネスについては、2017年後半になり、一部需要が軟調となることもあったが、全般的には好調を維持した。2017年は最新の車載マイコン製品「Traveo」の量産出荷が本格的に立ち上がった年であり、世界トップクラスのシェアを有しているクラスタ向けを中心に採用が進んだことも好調を維持した理由の1つだ。
――IoT事業の成長が目覚ましいですね。
長谷川氏 白物家電からゲーム機、産業機器、自動車に至るまで、幅広いアプリケーションで、インターネットへの無線接続ニーズが急速に高まってきていることが背景にある。
無線通信チップは、単に売りきりではなく、インターネットと問題なく“つなぐ”ところまでが仕様に含まれているようなもの。Cypressはこの“つなぐ”の部分で競争力を発揮できている。無線の専門知識がなくても容易にソフト開発が可能なSDK「WICED」(ウィキッド)を提供している他、“つなぐ”ためのサポート人員を増強し、時には顧客の開発現場に入り込んで“つなぐ”ための開発支援を行っている。日本では、2017年にIoT事業のサポート人員を倍増させた。また、強化してきたモジュールメーカーとの協業により、すぐにつながるターンキーソリューションが充実してきたことも急速な成長を実現できた一因になっている。
――2018年の目標をお聞かせください。
長谷川氏 日本法人として、2017年に続いて2桁成長を実現し、グローバルでの成長を引っ張っていくことが目標だ。
多くの外資系半導体メーカーの日本市場の売り上げ比率は10%前後だが、Cypressの場合、全社売上高の30%以上を日本市場で占める。Cypressは、日本のマーケットを重要視し、日本に対しての投資も活発であり、その期待に応えたい。
――2018年の事業戦略は?
長谷川氏 2017年から打ち出している「Cypress 3.0」という全社の事業方針を推し進める。
メモリ事業のみだった創業期を「Cypress 1.0」、メモリにPSoCが加わった時期が「Cypress 2.0」とし、Cypress 3.0というのは、Spansion社との合併、Broadcom社からのIoT事業買収を経て、エンベッデッドシステムに必要な半導体製品を幅広く扱い包括的なソリューションを提供できるようになった現状を示す。Cypress 3.0では、オートモーティブ、コンシューマー、インダストリアルという3つの注力市場に対し、ソリューション販売を強めていく。
その中でも、この3つの注力市場に共通提案できるIoT事業への積極投資を継続する。具体的には、日本のIoT事業のサポート人員を2017年からさらに倍増させる。そしてIoT領域でのCypressの存在感を高めていきたい。
――オートモーティブに対する2018年の事業プランをお聞かせください。
長谷川氏 2018年は、40nmプロセスを採用した第2世代のTraveoファミリー「Traveo II」のサンプル出荷が始まる。Traveo IIは現行世代品同様に、クラスタ向けとボディ制御用途向けを展開する予定で、幅広く提案を行っていく。
もちろん、自動車向けでも、Wi-Fi、Bluetoothなど無線通信チップの採用増が期待されており、コンシューマー分野で急速に普及しているUSB Type-Cへの対応が車載インフォテインメントシステムでも加速する見込みで、採用領域を拡大し成長できる余地は大きい。
――インダストリアルに向けては?
長谷川氏 SRAMやFRAM、フラッシュなどメモリ製品から、モーター制御用マイコン、さらにはタッチセンサーコントローラーなど幅広く展開できている。ここに、WICEDやモジュール製品などターンキーソリューションが充実したIoT製品の提案を強め、売り上げをさらに上乗せしていきたい。
――メモリについては、世界的にフラッシュメモリの供給不足が続いています。
長谷川氏 Cypressは、NAND型、NOR型の両フラッシュメモリを手掛け、いずれもフル生産を継続しているが、受注に追い付けない状態が続いている。
特にNORフラッシュは生産から撤退するメーカーが増えている一方で、有機ELディスプレイ向けや自動車のクラスタ向けなどで需要が拡大しており、供給不足が深刻化している。Cypressとしては、可能な限り、NOR型フラッシュの生産能力増強を進めて供給義務を果たす計画だ。
――このところ、USB Type-C、USB PowerDelivery(PD)コントローラ製品をはじめ、40nmプロセスを採用した新世代の低消費電力PSoC「PSoC 6 BLE」、「Traveo II」など新製品リリースが相次いでいますね。
長谷川氏 Cypressでは、メモリ製品を含めて全ての製品で「HOBTO」(Hang On Buss Tape Out)という設計開発思想の下で、開発を進めている。このHOBTOという思想を簡単に説明すると、さまざまなIP(回路設計資産)を限りなく小さく、かつ、信頼性を持ち、競争力のあるものとして開発し、それらのIPを組み合わせて、製品開発するというもの。IPそれぞれを、時間を掛けて確固たるものとして開発、検証しておけば、IPを組み合わせた製品に関しては、低コスト、短期間で開発できる上、顧客要望に応じたカスタム品も容易に提供できる利点がある。
既に、旧Spansionの流れをくむ自動車事業部や、Broadcomから譲受したIoT事業においても、HOBTOに基づいた開発に移行し、異なる事業部のIPでも組み合わせてワンチップ化することが可能になりつつあり、製品面でのシナジーも発揮できるようになっている。
独自の開発思想であるHOBTOは、Cypress最大の強みといえるだろう。2018年以降も、市場のニーズに応じた製品をタイムリーに投入していきたい。
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提供:サイプレス セミコンダクタ
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2018年2月15日