電源IC専業のファブレス半導体メーカーであるトレックス・セミコンダクターは、得意とする低消費電力化、小型化技術をベースに、車載機器/産業機器市場に対応する高耐圧/大電流対応製品の拡充を進めている。直近でも、耐圧数十ボルト、定格電流数十アンペアのDC/DCコンバータとコイルを一体化できる独自DC/DCコンバータ製品「クールポストタイプ“micro DC/DC”コンバータ」を製品化。特長ある製品/技術開発を加速させるトレックス・セミコンダクターの芝宮孝司社長に今後の技術/製品戦略を聞いた。
――2017年度(2018年3月期)の好調な業績を受けて、2018年度業績予想は中期経営計画策定時点(2017年度当初)よりも上方修正されました。
芝宮孝司氏 トレックスグループとして2017年度の売上高は約240億円で前年度比11.3%増の増収となった。特にトレックス・セミコンダクターの子会社で半導体受託製造(ファウンドリー)事業を手掛けるフェニテックセミコンダクターが業績を引っ張った。近年、生産能力増強に向けた投資を継続している中で、フェニテックが主力にするパワーディスクリート、パワーICの需要が旺盛で当初想定を上回る水準での受注を獲得できている。
一方で、電源IC専業のファブレス半導体メーカーというビジネスモデルを敷くトレックス・セミコンダクター単体については、スマートフォンをはじめとした民生機器向けが低調だったため、2017年度売上高は101億円と、前年度横ばいとなった。ただ、重点分野として強化している産業機器、車載機器向けは堅調だった。2017年度は初めて全社売上高に占める産業機器、車載機器向けの比率が50%を超えて53.5%に達したという点でも、順調な1年だった。
こうした状況を受けて、2018年度のグループ売上高予想を当初計画の248億円から260億円へ上方修正した。
――中期経営計画では、トレックスグループとして2020年度売上高300億円という数値目標を掲げておられます。目標達成に向けたトレックス・セミコンダクター、フェニテックセミコンダクターの事業戦略をお聞かせください。
芝宮氏 まず、トレックス・セミコンダクターについては、強みである「低消費電力」でかつ「小型」という特長を持った電源ICが評価される市場に注力するという方針に変更はない。低消費電力・小型という強みは、IoT(モノのインターネット)機器や民生機器市場だけでなく、産業機器、車載機器市場でも高く評価される。こうした市場に重点を置くが、産業機器、車載機器市場では「低消費電力・小型」に加え「高耐圧」「大電流」なども求められる。低消費電力・小型に向けた技術を磨くと同時に、高耐圧、大電流のニーズに応えられる製品ラインアップを継続強化していくことが重要だ。
フェニテックについては、旺盛な需要に応えるための増産体制の構築に重点を置いている。まず立ち上げ途上にある(2015年にヤマハから取得した)鹿児島工場の有効活用を図りたい。さらに本社のある岡山地区工場では、旧工場を代替、増強する新製造棟がまもなく完成し、稼働できる見通しになっている。生産効率を高める取り組みも継続実施し、より多くの需要に応えたい。
――トレックス・セミコンダクターとして追求する“低消費電力・小型”が評価され、DC/DCコンバータ「XC9265シリーズ」の開発者が、第7回ものづくり日本大賞優秀賞を受賞されました。
芝宮氏 名誉ある賞を受賞し、光栄に思っている。これからも一層、低消費電力、小型に向けた開発を進め、“超”の付く低消費電力性能、小型パッケージを実現していく。
リーク電流10nAのプッシュボタンロードスイッチ「XC6192シリーズ」(2017年12月発売)や消費電流を44nAにまで抑えた高精度電圧検出器「XC6135シリーズ」(2018年6月)など、ナノアンペアクラスの製品ラインアップも始まった。これからはDC/DCコンバータなどでも消費電流がナノアンペアクラスの超低消費電力製品の実現を狙う。
――小型パッケージの開発状況はいかがですか。
芝宮氏 ディスプレイや無線通信、センサー機能などを備える「スマートカード」などをターゲットに、高さ0.33〜0.315mmというトレックス独自の超低背モールドパッケージによるDC/DCコンバータなどをラインアップしている。キャッシュカードや電子マネーカードの他、IDカードなどで徐々に需要は拡大しており、さらに薄いパッケージの開発を進め、スマートカード市場で一定のシェアを確保したい。
また独自パッケージでは、DC/DCコンバータICとコイルを一体型のパッケージに収める“micro DC/DC”コンバータでも、新構造のパッケージを用いた製品をこのほど発売した。
――新構造の“micro DC/DC”コンバータとはどのようなものでしょうか。
芝宮氏 これまで“micro DC/DC”コンバータには、パッケージ内にコイルを入れ、ICとともに樹脂封止したスタック型とともに、樹脂封止したICパッケージに、「コ」の字型のコイルを覆いかぶせて一体化させるトレックス独自のポケットコイル型を展開してきた。いずれも基板サイズ、ノイズを削減できる新たなDC/DCコンバータとして、民生機器のみならず、車載情報機器など幅広い用途で採用を伸ばしている。
中でも、ポケットコイル型は、スタック型よりも低ノイズで、放熱性もより大きなコイルを一体化できる利点から高い評価を得ている。ただ、一体化するコイルの形状が特殊なため、コイルを選び、製造コストも割高になりやすいという課題があった。そこで、「クールポストタイプ」と呼ぶ新構造の“micro DC/DC”コンバータを開発した。
クールポストタイプは、ICを封止したパッケージ上に表面実装用コイルを実装し、一体化するもの。コイルは、ICパッケージの両脇に、樹脂を垂直に貫く形で設けた“クールポスト”と呼ぶ銅(Cu)の端子を経由して、プリント配線板(PCB)と接続する。クールポストによる接続は、PCBに直接実装した場合と同様の放熱性を持ち、多くのコイル一体型DC/DCコンバータが抱える熱問題を解消している。その上、ポケットコイル型のようにコイル形状を選ばず、汎用的なコイルをDC/DCコンバータと一体化でき、製造コストを抑えられ、積層コイル以外にも巻き線コイルなど、大型コイルを採用できるメリットがある。現在、ラインアップを強化している車載/産業機器市場に向けた数十ボルト耐圧で、数十アンペアの定格電流を持つDC/DCコンバータICに対応する大型コイルも一体化できる技術であり、高耐圧/大電流版“micro DC/DC”コンバータの開発に着手している。
――車載/産業機器市場向け製品の開発状況について教えてください。
芝宮氏 車載/産業機器市場に向けて、高耐圧、大電流に対応するプロセス、製品の開発を継続して進めており、ラインアップも次第に整ってきている。2018年6月には、入力電圧範囲が3〜36Vと広く、最大出力電流600mAのドライバトランジスタ内蔵の同期整流降圧DC/DCコンバータ「XC9267/68シリーズ」を製品化している。
また車載用半導体向け規格「AEC-Q100」に準拠した車載製品シリーズ「XDシリーズ」についても既に10シリーズを超えて展開しており、2018年秋には、さらに4シリーズを追加する予定だ。
――2016年4月にフェニテックを子会社化して2年以上が経過しました。子会社化によって発揮できている相乗効果はありますか。
芝宮氏 トレックスグループとなったわけだが、あくまでトレックス・セミコンダクターはファブレスメーカー、フェニテックはファウンドリーという立ち位置は変えていない。トレックス・セミコンダクターにとって、フェニテックは多くのファウンドリーの中の1社であり、フェニテックにとってもトレックス・セミコンダクターは多くの顧客の中の1社に過ぎず、過度に依存する関係ではない。
ただ、そうした関係性を維持しつつも、自動車市場に向けた品質保証や、新たなパッケージ技術開発などの面で、着実にシナジーが生まれてきている。
――フェニテックで実施している技術開発などはありますか?
芝宮氏 フェニテックでは、いくつかのパートナーから受託する形で、化合物パワーデバイスの開発を進めている。将来的には、SiC(炭化ケイ素)やGaN(窒化ガリウム)、Ga2O3(酸化ガリウム)などワイドバンドギャップの化合物半導体材料を用いたパワーデバイスの生産を手掛けたいと思っている。
また、フェニテックは、ファウンドリーながら、自社でディスクリートデバイスの企画開発を実施し、OEM(相手先ブランド名製造)供給を行っている。こうしたディスクリートデバイスの企画開発の部分で、トレックス・セミコンダクターの設計やパッケージノウハウ、さらには販売網を生かし、新たなシナジーの創出も目指したい。
――トレックスの強みを生かした特長的な製品、技術がそろってきました。
芝宮氏 低消費電力、小型というトレックスの強みが生きた製品では、欧米のアナログICメーカーを含めた競合に対して、勝る部分が多くなってきたと思う。しかし、全ての部分で競合を上回るには、まだまだ難しいところはある。今後も、強みが生きる部分で“世界最小”や“世界最高”をうたえる優れた製品を多く投入し、トレックスの存在感を高めていきたい。
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提供:トレックス・セミコンダクター株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2018年9月20日