インストルメントクラスタなど車載ディスプレイでは、よりリッチなグラフィックス表示が求められている。それに伴い、車載ディスプレイで使用する不揮発メモリの大容量化が必要になっている。そうした中で、読み出し速度、信頼性、互換性という車載ディスプレイの必須要件を満たした大容量NANDフラッシュが登場した。
インストルメントクラスタとセンター情報ディスプレイ(CID)、またヘッドユニットなどの自動車ディスプレイは、より大型化し、精彩かつ大量のデータを表示する傾向があります。タブレットやスマートフォンなどモバイルデバイスが普及したことにより、ドライバーも高解像度の大型ディスプレイにカラフルなグラフィックスが映し出されることに慣れてきています。
自動車メーカーは、CIDに7インチ以上のディスプレイを統合することで、この急速に変化する消費者動向に既に対応しています。よりグラフィカルかつ洗練されたスタイルへのユーザーインターフェースへのトレンドは、近い将来、自動車ディスプレイは飛行機のコックピットのようなスタイルとなり、ドライバーの周辺に3つ以上のディスプレイが取り付けられていることが予想されます。
インストルメントクラスタでも同じような傾向が見て取れます。今日の新しいミッドレンジ車は、通常、メカニカルダイヤルと中型2Dグラフィックディスプレイを組み合わせたハイブリッドデザインを採用しています。ハイエンド車では、従来のインストルメントクラスタにおいても計器がグラフィックスとしてデジタル表示され、ドライバーの支援、ナビゲーションおよび、インフォテインメントのグラフィックスが仮想計器とともに表示される大型ディスプレイに置き換えられました(図1参照)。
ユーザーインターフェースのこの劇的な変化は、車内インテリアとドライバーのユーザーエクスペリエンスの向上に役立っていますが、同時に、インフォテインメントシステムのメモリデバイスの仕様を再考する必要も生じさせています。
新しいグラフィックリッチなディスプレイシステムは、小型でシンプルなディスプレイより、地図情報やナビゲーションなどのアプリケーションや、ADAS(Advanced Driver Assistance Systems)を動作させるためのはるかに大きなプログラミングコードが必要です。これまで、車載ディスプレイシステムでは、これまで通常、不揮発性コードとデータ記憶用としてNORフラッシュを使用していました。NORフラッシュは車載システムの設計者が高く評価している2つの属性、つまり高信頼性と高速読み出しを備えているためです。
NORフラッシュは比較的小さい容量帯のメモリですが、512Mビットを超えるコードストレージが要求される場合、システムBOMコストはNORフラッシュに大きく左右されます。ハイエンド車では、スマートフォンやラップトップコンピュータで広く使用されているeMMCソリッドステートメモリ技術(以下、eMMC)を採用されるようになってきています。ただ、多くの車載システム設計者はローエンドおよび、ミッドレンジ車にeMMCを使用することに対して、そのコストと信頼性の問題を抱えています。
このような問題に対して、ウィンボンドは新たに開発されたシリアルNANDフラッシュというオプションをご提案しています。これまでNORフラッシュは、車載ストレージアプリケーションとして、NANDフラッシュよりも好まれる傾向があります。新しいNANDフラッシュが、車載ディスプレイで使用できるような理由は何なのでしょうか?
自動車のディスプレイシステム開発では、記憶装置は3つの重要な要件を満たさなければなりません。
1つ目は、車載システムには高速読み出しを行わなければなりません。これは、自動車メーカーが、よりユーザーにとって使いやすくするため、ディスプレイとインフォテインメントシステムを最大1秒で起動するという目標を設定したためです。通常のアーキテクチャでは、不揮発性フラッシュストレージデバイスからDRAMメインメモリへのコードシャドウイングがあり、そこからコードがホストSoCにロードされます。大量のコードをSoCにロードして1秒未満で実行する場合、フラッシュメモリからの読み出し速度は、高速でなければなりません。これはウィンボンドのSpiFlashのようなSPI NOR製品の強みであり、最大50Mバイト/秒の読み出し速度を提供します。
2つ目に、すべての自動車システムは信頼性が高くなければなりません。ユーザーは、車両寿命が少なくとも10年以上になることを期待しており、品質ランキングや自動車メーカーのブランド価値は、消費者からの信頼に大きく依存しています。
不揮発性メモリの信頼性は、ビットエラーと電子リークによって決まります。ビットエラーは、読み出しと書き込みの両方の動作中に発生する可能性があり、NORフラッシュの動作は無視できるレベルのビットエラーが生じますが、これらのビットエラーは1ビットのECC(Error Correction Code)の実装によって修正できます。
また、フラッシュメモリセルからの電子リークは、一定時間後にデータを消失させ、読み出しエラーが発生する可能性を生じさせます。極端な高温での動作は、電子リークを加速させ、フラッシュメモリのセルの平均データ保持時間を短くしてしまいます。NOR型フラッシュメモリは、メモリセルのサイズが比較的大きいため、各セルが多数の電子を蓄えておくことができ、良好にデータを保持できます。
第3の重要要件は、レガシー製品との互換性です。車載システムの開発は、革命ではなく進化の問題です。新しいハードウェアおよびソフトウェアコンポーネントの導入と、その検証コストが高いため、システム開発チームは使い慣れたSoCプラットフォーム上で動作する既存のコードをベースとし再構築することでパフォーマンスを拡張し、新しい機能を追加することを実現しています。
これらの3つの要素はすべてインストルメンツクラスタおよび、自動車用ディスプレイに相応しい不揮発性メモリ技術として、NORフラッシュに含まれています。これは高速データ転送、低いビットエラー率、長期間に渡るデータ保持および、ホストSoCへのインタフェースとの接続において、最適なプロトコルを提供しています。
しかし、最近では自動車用ディスプレイにNOR型フラッシュを使用することに対して、懐疑的な見方もあります。上述したように、NORフラッシュの低容量およびセルサイズの大きさはデータ保持の点では有利ですが、これはまたメモリチップサイズとコストが、容量の増加とともに急速に上昇することを意味します。NANDフラッシュのセルサイズは非常に小さいため、高容量ではより大きなコードを格納するためのNANDフラッシュが費用効果の高いオプションであることを意味します。
実際に、シリアルNANDフラッシュのビット当たりのコストは512Mビット以上の容量では同等のSPI NORフラッシュの半分以下となります。これまで車載システム設計者は、読み出し速度と信頼性が重要なインフォテインメントシステムにNANDフラッシュを組み込むべきであるという提案に難色を示していました。携帯電話などの家電製品では、音楽や写真などのユーザーデータを格納するためにNANDフラッシュが使用されています。しかし自動車業界では、NANDフラッシュはデータ転送速度が遅く、ビットエラー率が高く、特に車載アプリケーションで一般的に考えられている高温でのデータ保持が限られていると考えられています。これは、モバイル、マルチメディアデバイスに使用される低コスト、超高容量のNANDフラッシュ、20nm以下の先進プロセスノードで製造されるチップに当てはまります。
ウィンボンドが開発した高性能シリアルNANDフラッシュは、大容量化とビット単価の低減により、車載システム設計者が必要とする高速読み出しと高信頼性を実現することに成功しています。
新しい1GビットシリアルNANDフラッシュ、W25N01JWは、ウィンボンドの独自の46nm製造プロセスを使用して製造されたシングルレベルセル(SLC)のNANDフラッシュです。SLC NANDは、消費者向け電子機器で使用されるマルチレベルセル(MLC)および、トリプルレベルセル(TLC)NANDタイプよりも大きなセルサイズを備えています。この大きなセルサイズと比較的大きな46nmの回路特性は、電子リークによるデータ保持が損なわれないことを意味します。
W25N01JWは、1万回のプログラム/消去サイクルの後、連続70℃で10年間データを保持します(図2参照)。これは今日、ハイエンド車のCIDのデータストレージに広く使用され、SLCモードで使用された場合でも、時間のほんの一部のみデータを保持するeMMCのパフォーマンスとはまったく対照的です。
またW25N01JWは発生した1ビットエラーを訂正するために、すべてのリードおよび、ライト動作時に1ビットECC回路を実装し、AEC-Q100規格の耐久性、保持/品質要件および、関連するJEDEC仕様に準拠しています。
また、W25N01JWでは、NANDフラッシュで最高のデータ転送速度を実現するイノベーションを導入しました。これは、今日の車載SPI NORフラッシュの読み出し速度に対応したQSPI(Quad Serial Peripheral Interface)と同じインタフェースで83Mバイト/秒です。また最大データ転送速度が166Mバイト/秒になる2チップデュアルクワッドインタフェースもサポートしています(図3参照)。
次世代ADASおよびインストルメンツクラスタを制御するSoCは、データバス上のデータを最大約200Mバイト/秒でストリーミングします。これは、ウィンボンドの高性能シリアルNANDフラッシュは、デュアルまたはクワッドI/Oモードで、データ転送の80%をサポートできることを意味します。また、1Gビット以上の容量でSPI NORフラッシュよりも大幅にコストを低下させ、車載システム設計者の高速読み出しと信頼性の要件を満たします。また、レガシー製品との互換性も満たしています。
W25N01JWは、標準の8mm×6mmのフットプリントでNORフラッシュと互換性のあるWSONとTFBGAパッケージで提供しています。車載システム設計者が、既存の設計基板にあるNORフラッシュをウィンボンドの高性能シリアルNANDフラッシュで置き換えることができるように、アプリケーションのコードを大幅に書き直すことなく、NORフラッシュ互換プロトコルと標準シリアルNANDプロトコルもサポートしています。
ウィンボンドの高性能シリアルNANDフラッシュは、インストルメンツクラスタや車載ディスプレイシステムで一般的に使用されているSPI NORフラッシュに比べ、コストとパフォーマンス双方に優れた製品です。また、ウィンボンドは、自社の製造により、製造プロセスの完全なコントロールを行うことができるため、自動車用システム開発・製造のお客様に対して、長期的に安定した供給を保証することができます。
【著:神永雄大/ウィンボンド・エレクトロニクス ジャパン フラッシュメモリマーケティング】
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提供:ウィンボンド・エレクトロニクス株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2018年10月11日