「自動運転」など自動車の進化は止まらない。「電気自動車」や「コネクテッドカー」など自動車自体のコンセプトも大きく変わる。このため、ECUに実装されるソフトウェアはより複雑で膨大となる。ETAS(イータス)はソフトウェア開発の効率化や万全なセキュリティ対策に向けたソリューションを提案する。その日本法人で社長を務める横山崇幸氏は、「セキュリティを包括的に管理するソリューションを新たに提案したい」と話す。
――2018年はETAS(イータス)にとってどのような年でしたか。
横山崇幸氏 2018年の売上高は、2017年に比べて21%も増加するなど、全体的に好調であった。期初は計画した売上高目標が極めて高い値だと感じていたが、結果的にはその目標値をほぼクリアできそうだ。
車載用ソフトウェア開発の開発量は肥大化を続けている。このため、自動車メーカーもソフトウェアエンジニアの確保に躍起だと聞く。ソフトウェア開発作業の効率化や自動車全体の開発効率をいかに高めていくかも、大きな課題である。これらの課題解決に、当社が提供する開発ツール群やエンジニアリングサービス/コンサルティングといったサポート力が貢献している。
――好調の要因を教えてください。
横山氏 当社の「INCA」は、車載制御ユニットの計測や適合、故障診断、ラピッドプロトタイピングの統合制御開発環境であり、既に圧倒的な市場シェアを獲得している。これらの強みを持つビジネスに加え、HiL(Hardware in the Loop)やAUTOSAR関連のビジネスが拡大した。HiLやAUTOSAR関連の製品は市場でシェアアップを狙っている領域だが、競争力ある製品の投入とサポート体制の充実が受注拡大につながった。
――HiLやAUTOSAR関連のビジネスは今後も成長が期待されます。
横山氏 HiLはこれまで、エンジンやブレーキ、ADAS(先進運転支援システム)などのテストに適用するのが一般的だった。最近は、新車の開発に「ネットワークHiLシステム」を活用して、システムの不具合を事前にチェックする動きが高まっている。例えば、20〜30台のHiLシステムをネットワークで接続すると、車1台分に搭載される全てのECUを一括してシミュレーションすることが可能になる。欧州のOEM(自動車メーカー)が導入を始めており、日本でも同様の動きが出てきた。
AUTOSAR関連のビジネスでは、当社が用意しているエコシステムが高く評価された。特に、AUTOSAR AP(Adaptive Platform)に期待している。当社でも「RTA-VRTEスターターキット」を用意した。既にアーリーアクセスプログラムを実施しており、受注に結び付いている。
――サポート体制はどのように強化されましたか。
横山氏 2017年3月に名古屋オフィスを開設した。現在、10人のスタッフで東海地区の顧客をサポートしている。この効果が2018年の業績拡大に反映されている。2018年も日本法人全体で約10人のエンジニアを増員した。主に、セキュリティやモデルベース開発に関連するエンジニアである。これらの人的投資は、2019年の業績に効果が表れるだろう。
――2019年の市場環境をどのように見ていますか。
横山氏 2019年の市場は、全体で横ばいか微減とみている。日本国内の主要なエレクトロニクス企業にとっては、少し厳しい環境になるだろう。こうした中で、市場を下支えするのは自動車産業である。IoT(モノのインターネット)業界にも期待はしているが、まだ十分なオポチュニティはない。国内では厳しいとみられるエレクトロニクス業界も、世界規模で見るとスマートフォンの需要が拡大している地域があり、2019年も拡大する余地はある。
自動車の販売台数は、2018年8月まで好調だったが、9月から減速傾向にある。2019年は全世界で前年比2%の増加と予測されている。当社の事業環境として重要なのは、販売台数よりもソフトウェアの開発工数である。自動運転車などの開発競争が激化する中で、搭載されるプログラム量が減少するとは想像できない。
こうした状況を踏まえ、2019年の事業環境は2018年と同様に推移すると予測している。2019年の伸長率は前年に比べ18%の増加を目指す。
――車載システムなどのソフトウェア開発工程において、新たな動きや顧客からの要求などはありますか。
横山氏 2019年から採用が本格化する製品として、大きく3つ挙げることができる。1つはAUTOSAR APだ。導入に向けて本格的なプロジェクトがスタートしている。もう1つはBosch HSM(ハードウェアセキュリティモジュール)実装に適合したソフトウェアスタック「CycurHSM」である。2018年は開発元年で、2019年より数十件の開発プロジェクトが立ち上がる見通しだ。3つ目は、車載制御ユニットのテストや適合における作業負荷を軽減し、開発効率を高めることができるバーチャライゼーション関連製品である。
自動車メーカーは、2020年以降の実用化に向けて自動運転車の開発に取り組んでいる。このためのシステム検証が本格化する。ところが、自動運転車について十分なシステム検証を行うには10億kmの走行が必要だといわれている。この大部分をバーチャルテストで行い、実車テストの負荷を軽減しようと考えているようだ。
世界的に法制化が進む、実走行時の排出ガス(RDE:Real Driving Emissions)規制への対応もそうだ。当社のINCAをベースとしたRDE計測ソリューションを活用することで、適合初期段階でのRDE予測から、フリーテストでの全RAM計測、計測データの管理と解析などを効率よく行うことができる。
――2019年の事業計画を具現化するための取り組みを教えてください。
横山氏 有能なエンジニアの確保と顧客のニーズに応えられるサポート体制の強化に尽きる。具体的には、名古屋オフィスの人材をさらに強化したい。セールスチャネルの強化にも取り組む。その上で、セキュリティやAUTOSAR、バーチャライゼーションといった成長領域に向けた製品の拡販を進めていく。
特に、セキュリティ関連では、ETASの子会社であるESCRYPT(エスクリプト)が提供する、自動車向けの包括的なソリューションがある。組み込みシステム用暗号ライブラリー「CycurLIB」やソフトウェアスタック「CycurHSM」に加え、外部からのサーバ攻撃による車内通信への侵入を検知する「CycurIDS」と防御する「CycurGUARD」、ゲートウェイ装置向けファイアウォール「CycurGATE」などを用意した。
さらに、スマートフォンを活用して車両へのアクセスを許可するデジタル鍵共有ソリューション「CycurACCESS」、セキュアなV2X通信を実現する「CycureV2X/CycurV2X-SCMS(セキュリティ証明書管理システム)」などの引き合いも増えてきた。
――セキュリティ機能はこれまで、部分的に実現してきました。これからはシステム全体で包括的に担保することが重要になります。
横山氏 欧州では量産工場単位で包括的なセキュリティを担保するためのソリューションを提供し、サポートを始めた。「キーマネジメントソリューション」と呼ばれている。量産工場内で暗号鍵と証明書の供給を行い、鍵の管理や各モジュールへの書き込みなどを包括的に行うことができる。これまでは部品メーカーなどが個別に暗号キーを管理するなどしてきた。今回のソリューションを導入すれば、自動車メーカー自身が暗号キーなどを管理することができる。これらの詳細な内容については、今後明らかにできるだろう。
セキュリティ関連の事業を拡大するために最も重要なことは、専門知識を有するエンジニアの拡充である。車載システムなどでは、搭載できるハードウェア資源が限られている。これを活用してセキュリティ機能を実現するには、組み込みシステム向けのソフトウェア技術とセキュリティに対する知識が求められる。これらの人材を増やすためには、組み込みシステムのソフトウェア技術者を採用し、社内で育成することも考えている。
全社的にはESCRYPT創業メンバーの出身母体であるドイツのBochum大学を始め、セキュリティ技術にかかわる世界の優秀な学生を採用している。これらの人材が日本を含めグローバルなネットワークで、セキュリティプロジェクトを推進している。
――バーチャルテスト環境「COSYM」や、複雑なシステムの分析や開発を行うためのツール「SCODE-ANALYZER/SCODE-CONGRA」も好評です。
横山氏 COSYMは、コンポーネントモデル「MiL(Model in the Loop)」やソフトウェア「SiL(Software in the Loop)」、ECUテスト装置「HiL(Hardware in the Loop)」をシームレスに接続し、これらが混在した状態で動作検証を行うことができるツールである。特長は、オープンなテスト環境であり、利用可能なモデルはサードパーティーや自動車メーカーに限らず、競合メーカーのモデルも組み込むことが可能な設計となっている。
COSYMを導入したユーザーからは、その効果も報告されている。一例だが、ガソリンエンジンの排ガスシミュレーションに適用したところ、COSYMを使用しない場合に比べてCO2を3〜4%削減し、キャリブレーションの時間を1400時間から33時間に削減できたという事例がある。
SCODE-ANALYZER/SCODE-CONGRAは、ECUソフトウェア開発ツールの分野で「ゲームチェンジャー」といわれている製品だ。SCODE-ANALYZERを用いると、複雑なシステムを設計の初期段階から分析、振る舞いの決定パスやパラメーターの数字的関係性を自動的に検出して評価することができる。導入したユーザーからは、ソフトウェアのソースコードを従来に比べて15%もコンパクトにできたとの報告がある。テストケースの自動生成も可能である。
SCODE-CONGRAを用いると、数学的に記述された関係性をインタラクティブなグラフに表示することができる。しかも、全入力の演算可能性を検証し、バックグラウンドで数学的処理を自動で実行することにより、ソフトウェアの実装を効率的に行うことができる。導入効果として、ソフトウェア開発の効率を50%改善した、という事例も報告されている。
――日本におけるSCODE-ANALYZER/SCODE-CONGRAの反響はいかがですか。
横山氏 既に1社は導入済みで、現在は5社8部門で評価中だ。購入済みの1社は、わずか3〜4カ月の評価期間で採用が決まった。複雑なシステムで質の高い設計を行う場合、これまではエンジニアのスキルに依存していた。こうした課題を解決し、制御設計の複雑さを軽減できるツールである。2018年10月に日本で行ったシンポジウムでも、英語での講演ながら受講者に高く評価されたテーマの1つであった。
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提供:イータス株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2019年2月15日