アナログ・デバイセズは、リニアテクノロジーの統合などを通じ、センサーから、アナログ・シグナルチェーン、プロセッサ、通信、そして電源まで、アナログ半導体を中心にIoT(モノのインターネット)時代に必要な半導体を網羅する製品ラインアップを整えた。その上で、2019年、アナログ・デバイセズが目指すのは「半導体を超えた価値」の提供だという。同社日本法人 代表取締役社長の馬渡修氏に2019年の事業戦略を聞いた。
――2018年10月期の業績を教えてください。
馬渡修氏 2018年10月期の全社売上高は62億米ドルと過去最高を記録した。2017年3月のリニアテクノロジーの統合効果も含め、前年比20%を上回る成長を達成した。日本市場に限っても、旧リニアテクノロジーの前年実績全てを含めた実質的な売上高成長率で2桁成長を実現でき、2018年10月期は良い1年だった。
――日本市場での2桁成長を実現できた要因はどのように分析されていますか。
馬渡氏 オートモーティブ向け、インダストリアル向けが好調だった。インダストリアル向けの中でも、特に半導体製造装置関連の需要が旺盛で業績を引っ張った。
通信向けについては、5G(第5世代移動通信)関連の需要が全社業績に貢献したが、日本市場については、2019年以降の業績貢献を期待している。
――2018年後半から、米中貿易摩擦などの影響から産業機器などで一部在庫調整の動きが見られますが……。
馬渡氏 2018年夏以降、中国市場での需要に支えられているACサーボ向けなどで在庫調整に入っているアプリケーションがあるのは事実だ。ただ、中国市場以外の東南アジア、欧米市場などでも大きな需要があるインバーター向けなどは、好調を維持しており、二極化している印象を抱いている。
――2019年の市況はどのようになるとお考えですか?
馬渡氏 WSTS(世界半導体統計)などの予測をみていると、2019年は1桁成長との予測が多いが、それらは消極的な予測だと思っている。メモリなどは2019年前半に調整局面に入り、2018年好調だった半導体製造装置などが影響を受けるだろうが、2019年後半には回復していくだろう。
一方で、センサーからコネクティビティ、クラウドといったIoT(モノのインターネット)関連の需要は、中長期的に継続して伸長していく。そういった意味でも、2019年も2桁成長が可能だと考えている。特にアナログ・デバイセズがターゲットにしているアナログIC、センサーといった領域は、成長できる環境が整っている。2019年10月期も日本市場で売上高2桁成長を狙っていく。
――2019年10月期の売上高2桁成長に向けた事業戦略を教えてください。
馬渡氏 引き続き、成長が見込まれる用途市場別に最適なソリューションを提供する「セグメントフォーカス」という考え方で事業を展開していく。フォーカスするセグメントは、オートモーティブ、インダストリアル、医療/ヘルスケア、通信インフラ、ロボットの5つだ。
――注力するセグメントに対し提供するソリューションとはどのようなものですか。
馬渡氏 CEOのVincent Rocheが常々、話す言葉で、アナログ・デバイセズ共通コンセプトである「イノベーションこそが成功の近道」という言葉の通り、イノベーションで顧客の課題を解決していく。
われわれが実現できるイノベーションには3つの方向性がある。1つ目は、微細化で実現される従来の半導体業界が成し遂げてきたイノベーションである“More Moore”。DSP製品などは引き続き、More Mooreで進化させていく。
2つ目が “More than Moore” であり、微細化とは異なる方向性でのソリューションを指す。具体的にはアナログIC、センサー、RF, パワー、受動部品など製造プロセスの異なるさまざまな製品をインテグレーションしたソリューションの提供であり、アナログ・デバイセズが得意としてきたところだ。特に、リニアテクノロジーの統合によりパワーマネジメント領域が強化され、nWからkW(ナノワットからキロワット)まで、高周波デバイスについても、Hittite Microwave社の統合(2014年)でDCから100GHzまでの製品ポートフォリオが整った。言い換えれば、アナログ領域の全てを網羅し、販売できる“アナログフランチャイズ”が完成した状況にある。
そして3つ目が“Beyond Moore”という半導体デバイスを乗り越えたその先にあるイノベーションだ。半導体のソリューションにソフトウェア、IP、アルゴリズムなどを搭載し、サブシステムとして提供していく。今後は、このBeyond Mooreでのイノベーション、ソリューション提供が重要になると考えており、強化を進めていく。
――システムレベルのソリューションの提供状況はいかがですか。
馬渡氏 さまざまな形でソリューションを提供している。その中でも、最も分かりやすい事例が、リファレンスデザインの提供だ。バイタルサインモニタリングシステム(VSM)やFA機器のコンディションモニタリングシステムなど、すぐに動かせ、試すことのできるリファレンスデザインを用意し提供している。
リファレンスデザインについては、全社として開発しているものだけでなく、日本法人独自に開発する、日本市場向けリファレンスデザインもあり、現時点で10種以上がそろう。もちろん、各リファレンスデザインは、アナログ・デバイセズのセンサー、アナログICがベースだが、ソフトウェアなどの部分はパートナー企業と連携し、構築している。
現状、日本法人ではリファレンスデザイン開発プロジェクトがスタートしており、2019年もさまざまなリファレンスデザインを紹介、提供できるだろう。
――システム提案のベースになるアナログICやセンサー製品の開発状況や、2019年に拡販が期待できる製品について教えてください。
馬渡氏 期待製品の1つが「Silent Switcher®」(サイレント・スイッチャ)と呼ぶ同期整流式降圧スイッチングレギュレータ製品ファミリーだ。この製品は、スイッチングレギュレータながら放射ノイズを大幅に抑制した製品。そのため、外付けのコンデンサの容量を小さくしたり、使用数を大幅に削減できる。セラミックコンデンサの調達が難しい昨今、Silent Switcherの需要が大きく伸びている。このSilent Switcherのダイと、コンデンサやインダクタを同一パッケージに集積した「μModule®」のラインアップも拡張しており、2019年期待の製品になっている。
センサーについては、加速度、ジャイロ、温湿度、圧力、ケミカル、光などの各センサーをラインアップし、個々の開発も継続して行う。ただ、センサーは特に、センサー単体で使いこなすことは難しいので、センサーと信号処理デバイスと組み合わせたシステム提案が重要であり、先ほど、紹介したリファレンスデザインなどの形で提案を実施していく。
――A-Dコンバータ、アンプなど信号処理デバイスについては?
馬渡氏 信号処理用アナログICでは、新たなアプローチでの開発を進めている。
アナログ・デバイセズではこれまでソフトウェアで無線特性を変更できる「SDR(Software-Defined Radio)技術」を応用したRFトランシーバICを提供してきた。この技術を、A-Dコンバータなどの信号処理用アナログICにも応用し、ユーザーがチャンネル構成や特性を変更できる製品を開発中だ。
――リニアテクノロジーの統合から、まもなく2年が経過しようとしています。統合作業の進捗について教えてください。
馬渡氏 統合1年目の2017年に組織的な統合を終え、2年目の2018年にはITシステムなどの統合を行い、ビジネスプロセスとしての統合は1年半という短い期間で完遂することができた。
今回の統合は“1+1>2”という相乗効果を発揮することを目標に作業を進めてきたが、“1+1>2”の相乗効果を本格的に発揮するのはこれからだと考えている。統合により整った“アナログフランチャイズ”を、旧アナログ・デバイセズ、旧リニアテクノロジーという区別なく、1つの新しいアナログ・デバイセズのソリューションとして顧客に提供するためには、販売代理店を含めて販売に携わる者全員が互いの製品、技術を学習していく必要があると考えている。現状、組織やシステムでカバーできる体制を整えているが、本当の意味での“1+1>2”を実現するためにも、1人の担当者であらゆる製品を提供できることが理想であり、トレーニングを継続して行っていく。
――最後に、あらためて2019年の抱負をお聞かせください。
馬渡氏 アナログフランチャイズが完成した今、重要なことはシステムレベルでの価値を提供すること。“Beyond Moore”を掲げ、顧客が抱える最も難しい課題を解決していくパートナーになることを目指す。
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提供:アナログ・デバイセズ株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2019年2月15日