世界の車載半導体やパワー半導体分野で高いシェアを持つInfineon Technologies。世界に拠点があるが、その中で最も成長率の高いリージョンが日本だ。2018年3月に日本法人社長に就任した川崎郁也氏は、車載だけでなく、インダストリアル全般で日本は伸びしろがあると述べる。川崎氏に、2019年の展望と事業戦略を聞いた。
――2018年3月にインフィニオン テクノロジーズ ジャパンの社長に就任されましたが、ここまでいかがですか。
川崎郁也氏 まず、半導体の市況に助けられたこともあり、業績は順調だ。Infineon Technologiesは優れた技術と製品を持つ、良い会社だと感じている。例えばパワー半導体は大変強く、セキュリティ、センサー、そして最近はマイコンも強い。イメージしていた通りの会社だ。
――Infineon Technologies本社からは、どのようなミッションを与えられていますか。
川崎氏 中長期的に日本をどのように伸ばしていくのか。そこに重点を置いていく。現在日本は、最も成長率が高いエリアになっている。日本では競合各社が強いこともあり、インフィニオンの市場シェアは決して高くない。その分、十分な伸びしろがあると考えている。
実際、ここにきてだんだんとシェアが増加している。オートモーティブやインダストリアルなど、われわれが参入している分野で、構造的な改革が起きており、使用する半導体の量が増えているからだ。そのため、市場の成長率を上回る成長率で当社が伸びている。
さらに、日本の競合他社と同等に見られるレベルにまで、われわれの存在感が上がってきたのではないか。パートナーとして見てもらえる関係に変わってきたと感じている。
――パートナーとして見てもらうために、どんな取り組みを行ってきましたか。
川崎氏 最も強力なのは品質関連のラボだ。日本の顧客は、品質に対して特に厳しい。2015年12月に「解析技術センター」を拡張しているが、日本で起きた品質の問題に関しては、かなりの部分を日本で解析し、顧客とInfineonのドイツ本社にフィードバックできる体制になっている。
ドイツ本社では、日本の顧客から学ぶことが多く、日本からのフィードバックによって工場の品質が向上しているという話も聞く。2018年には、トヨタ自動車の広瀬工場(愛知県豊田市)から「品質栄誉賞」を受賞した。
2018年10月には、東京本社オフィスから徒歩圏内に、東京テクノロジーセンター(TTC)を開設した。ここでは、解析技術センターでの品質解析をさらに強化させたものに加えて、顧客のアプリケーションをともに開発するためのサポート体制を整えている。具体的には、ADAS(先進運転支援システム)ソリューションの提案、モーター制御用ICである「iMOTION」のカスタマイズを行うセンターがある。日本には世界的なモーターのメーカーも多く、このようなセンターを日本に置くことは意義があると考えている。
当面はADASとiMOTIONに注力するが、場合によっては、この2つ以外にも広げる必要があるだろう。今後は、“ともに開発していけるパートナー”としての位置付けが、ますます重要になっていく。
10月に立ち上げたばかりなので、取り組みを加速しているさなかだが、システムの共同開発について顧客との交渉も既に始まっているので、2019年には、パートナーとして本格的な開発を始められるのではないか。
――2018年における売上高の成長率と、特に伸びた分野についてお聞かせください。
川崎氏 2018会計年度におけるInfineonの売上高は、前年度比約8%増となる75億9900万ユーロだったが、日本の成長率はそれを上回る。具体的な数字は非公開だが、2桁の増収だった。日本では全体的に伸びているが、もともと大きな売上高比率を占める自動車向けが特に伸びた。
――2018年後半くらいから、中国市場向けの産業機器などで弱含みで推移するとの予測もありますが、市況についてはどう見ていますか。
川崎氏 インフィニオンでは、さまざまな指標を基に市場を注視しているが、今のところ目立った需要の変化は見られていない。
――2019年度の見通しと、注力分野について教えてください。
川崎氏 Infineon Technologiesとしては、2019年度の売上高見通しについて、前年度比で11%になると発表している。日本は、その数字を上回るとみている。
当面は自動車向けでの増収を確実にしていく。自動車はサイクルが長いビジネスなので、計画通りにサンプル出荷を行う、製品出荷を開始するなど、顧客に求められたことや顧客と約束したことを忠実に実行していくことが、非常に重要になる。
インダストリアルも、2019年に伸ばしていきたい分野の一つだ。自動車向けに比べると、売上高が占める規模は小さいが、伸び率の点では自動車と同等あるいはそれ以上が期待できる。
――インダストリアルではパワー半導体に強みを持っていますが、パワー半導体への投資状況と生産能力についてお聞かせください。
川崎氏 パワー半導体のシェアは世界トップを維持していることに加え、300mmウエハーで製造しているのはInfineonだけだ。300mmウエハー生産ラインを持つドイツ・ドレスデン工場の他、200mmウエハー生産ラインを持つマレーシアのクリム工場も、生産能力を増強している。これらの工場のキャパシティーがいっぱいになるのが2021年ごろで、それ以降、オーストリア・フィラッハの新工場での生産を開始する予定だ。フィラッハの工場は2019年の本格的な着工に備えて準備を進めている。
今後、特に自動車分野ではパワー半導体の需要が増加すると予測されており、十分な供給体制が欠かせない。そのため、積極的な投資を続けている。
――パワー半導体において、競合と比較した時のInfineonの強みは何でしょうか。
まずは、200mmウエハーだけでなく300mmウエハーでも製造しているので、コスト競争力が高いということ。さらに、グローバル化がより一層進んでいる日本の顧客にとって、当社が持つ中国市場や欧州市場での知見と経験は大いに役立つのではないか。
SiCとGaNのパワーデバイスにも力を入れている。SiCについては既に製品を市場に投入している。2018年11月には、ウエハー分割技術を持つドイツの新興企業Siltectra(シルテクトラ)の買収を発表した。Siltectraの技術をうまく活用できれば、SiCウエハーのコストを大幅に低減できる可能性がある。
――パワー半導体では、日本独自の戦略である「555(ゴーゴーゴー)ストラテジー」を2017年から進めていますね。
川崎氏 5つのターゲット顧客グループと5つのターゲットアプリケーションを定め、5つの施策を通じて売り上げを上げていく戦略だ。重点施策として明快で分かりやすいので、本社からの理解も得られやすく、現在のところ順調に進んでいる。
――パワー半導体以外のインダストリアル向け製品についてはいかがでしょうか。
川崎氏 パワー半導体以外では、スマートカードやセキュリティ向けソリューションにおいて、既に世界トップクラスのシェアがある。それに加えて、センサーの開発も強化しているところだ。現在は、それらをシステムとして提供することに注力しているので、制御用マイコンにも力を入れている。
システムとして提案することについては、さまざまな仕掛けを作っている。インフィニオンの4つの事業本部である「オートモーティブ」「インダストリアルパワーコントロール」「パワーマネジメント&マルチマーケット」「デジタルセキュリティソリューションズ」をまたいだ取り組みも盛んだ。新しいアプリケーションでは、4つの事業本部をまたいだシステム提案が必要になることが増えている。そうした傾向に対応できるよう全社で活動を行っている。
研究開発の拠点を置いていない日本では、顧客のニーズに応えられるシステムをドイツ本社に提案したり、システムについての商談を国内の顧客と進めたりといった活動が中心となっている。
マイコンについては、単体で販売する製品というよりも、当社がシステムとして提案する際に組み込めるように開発している。
――2019年に、特に注力していきたいセンサーはありますか。
川崎氏 センサーは既に多くの品ぞろえがあるが、今後注目されるのはレーダーやToF(Time of Flight)ではないだろうか。ToFはこれから需要が増えていくとみられるが、当社は競争力を持っていると自負している。こうしたセンサーも、システムとして提案していく。
――セキュリティ関連のビジネスについて、日本での状況を教えてください。
川崎氏 日本での売上高はそれほど大きくはない。注目すべき傾向として、アプリケーションが変化してきたことが挙げられる。従来は、セキュリティIC単体でカードやパスポートに搭載されてきたが、これから増えてくるのは組み込みソリューションだ。自動車、産業機器、ゲーム機器をはじめ、IoT(モノのインターネット)機器の増加とともに、ありとあらゆる機器にセキュリティが入ってくることになる。セキュリティのICやモジュールなどは今後、システム提案する際のキーデバイスになるだろう。
――日本国内で、自動車とインダストリアル以外で注目している分野はありますか。
川崎氏 例えばゲーム機、冷蔵庫のような大型家電、半導体の使用量が増えている電動工具などに注目している。白物家電は日本メーカーが強いところだが、ここにもチャンスはあるとみている。このように、インダストリアルの裾野を広げていく上で、セールスのデジタル化や販売代理店との連携なども強化している。
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提供:インフィニオン テクノロジーズ ジャパン株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2019年2月15日