Cypress Semiconductorは、メモリ、マイコン、無線IC、インタフェースIC、電源ICなど組み込み領域をカバーする製品群で実現するシステムレベルソリューションの提案を強化している。特にデザインサイクルが長く、信頼性が要求される車載機器、産業機器、IoT市場にフォーカスした成長戦略を描く。日本法人・サイプレス セミコンダクタの会長を務める布施武司氏に、2019年の事業戦略についてインタビューした。
――2018年の業績はいかがでしたか。
布施武司氏 1年を通じて好調に推移し、業績を伸ばすことができた。
2018年1〜9月のCypress Semiconductor全社売上高は18億7900万米ドルで前年比8.6%の増収となり、2018年の総売上は過去最高となりそうだ。日本法人サイプレス セミコンダクタとしても順調でワールドワイドを上回る成長を遂げることができた。
――オートモーティブ、コンシューマー、インダストリアルの3つの市場に注力されていますが、それぞれの2018年の事業状況について教えてください。
布施氏 3つの注力市場ともに好調だった。
オートモーティブ市場では、車載マイコン製品「Traveo」が急速に立ち上がり、業績に大きく貢献した。最大35mmまでの距離の指を検知可能なホバー機能やフォースタッチ機能を備えたタッチスクリーン向けコントローラー「TrueTouch CYAT817」などの新製品のデザインインも順調に進んだ。
コンシューマー向けでは、特にゲーム機やウェアラブル端末、白物家電向けが好調で、40nmプロセスを用いた最新プログラマブルロジック(PSoC)ファミリ「PSoC 6」やUSB TypeーCコントローラーなどの製品の売り上げが伸びた。
インダストリアル向けでは、Wi-FiとBluetoothのコンボチップや無線機能搭載PSoCなどIoT向け無線通信チップ製品が好調だった。IoT向け無線通信チップ製品については、インダストリアル市場に限らず、オートモーティブ、コンシューマー市場でも想定を上回るペースで採用が進んだ。
メモリ製品についても、全般的に需要が旺盛で、ひっ迫した状態が続いた。
――2019年の市況見通しを教えてください。
布施氏 現状、業績に大きく影響は出ていないが、米中貿易摩擦などの要因から中国市場がスローダウンしつつあり、2018年第4四半期のガイダンスは下方修正した。2019年の市況は厳しいものになることを想定して、事業を進めていくつもりだ。
――2019年の事業戦略について教えてください。
布施氏 全社の事業方針である「Cypress 3.0」を引き続き、推し進めていく。Cypress 3.0とは、メモリのみを手掛けた創設期「Cypress 1.0」、メモリにPSoCが加わった時期を「Cypress 2.0」とし、メモリ、PSoCからマイコン、無線チップ、電源ICなど組み込みシステムに必要な半導体製品を包括的に扱うようになった現在のCypress Semiconductorを指す言葉だ。Cypress 3.0では、組み込みシステムをカバーする製品ラインアップを組み合わせ、ソフトウェアを含めた「システムレベルソリューション」を、オートモーティブ、コンシューマー、インダストリアルの3市場に提供することを目指している。
――どういったシステムレベルソリューションを提供されるのですか?
布施氏 IoT関連では、2018年12月に、Wi-Fi向けのソフトウェアとクラウドサービスを手掛けるCirrent社を買収した。この買収によりIoT向け無線チップを使用するユーザーに対し、よりクラウドに簡単に接続できるソリューションを提供できるようになった。
IoT無線チップ関連では、2019年から新たな開発ツール「Modus Toolbox」の展開を強化する。Modus Toolboxは、無線通信チップの専用開発ツール「WICED(Wireless Internet Connectivity for Embedded Devices)」と、PSoCの開発ツール「PSoC Creator」を統合した開発ツールだ。Wi-Fi/Bluetoothコンボデバイス「CYW4343W」などの無線通信チップとPSoCを合わせて使用するケースが増えている中で、1つの開発環境で扱えるようになる。PSoCと無線通信チップがあたかも1チップに統合されているような感覚で、より容易に開発できるようになるソリューションであり、IoT関連ビジネスの成長に寄与すると期待している。
――オートモーティブ向けのソリューションは、どのようなものを提供されますか。
布施氏 2019年第1四半期に、オートモーティブ向けソリューションの核になるマイコンの新ファミリ「Traveo II」のサンプル出荷を開始する。現世代のTraveoファミリで一部採用している40nmプロセスを全面的に導入し、Traveoファミリが得意としてきたクラスタ向け、ボディ制御向けに投入する。Traveo IIでは、CPUコアを高性能なArm Cortex-M7と、低消費電力のArm Cortex-M4の2種類を使い分け、ローエンドからハイエンドまでをカバーする製品ラインアップを短期間で完成させる方針だ。その他にも、Traveo IIは、『Over The Air』(OTA)によるプログラムアップデート機能を標準サポートし、最大8Mバイトという大容量フラッシュメモリ搭載品もラインアップする予定だ。既に、一部顧客向けに先行サンプルを提供しているが高い評価を得ており、期待が膨らんでいる。
このTraveo IIを核にしながら、高効率パワーマネジメントIC、メモリを組み合わせ、顧客それぞれのニーズに応じた“ジャストフィットソリューション”を提供する。
――自動車業界では自動運転が大きなトレンドになっています。
布施氏 ADAS(先進運転支援システム)の進化や自動運転の実現といった流れに対し、メモリを含み積極的にソリューションを展開していく。ただ、自動運転を実現するAI(人工知能プロセッサ)や大規模SoC(System on Chip)の領域に参入する意図はない。
Cypress Semiconductorとしては、ADAS/自動運転の流れの中で、より高性能化、高信頼化が要求されるクラスタやボディ制御ECUなどの“ビークルエッジ領域”に対して、セキュアやローパワーなどの特長を持ったジャストフィットソリューションを提供することに集中していく。
――メモリ事業の2019年戦略については?
布施氏 メモリ事業では2018年10月にSK Hynix System IC社と合弁会社を設立し、NAND型フラッシュメモリはこの合弁会社で展開する。これにより、Cypress Semiconductorは、比較的デザインサイクルの長い車載、産業機器、IoT市場向けのメモリ、具体的にはNOR型フラッシュメモリ、FーRAM、SRAMといったメモリ製品に集中する体制を整えた。
NORフラッシュでは、機能安全規格「ISO 20262」に適合し、最大4Gビット容量までをそろえる「Semperフラッシュ ファミリ」を投入した。FーRAMでも、書き込み/読み出しサイクル耐久性1015回(=1000兆回)を誇る「Excelon F-RAMファミリ」の量産を2019年に順次開始する。こうした高い信頼性を持つメモリ製品を含めたシステムレベルソリューションを車載、産業機器、IoT市場に対して展開していく。
――産業機器市場での事業方針について教えてください。
布施氏 Cypress Semiconductorにとって、産業機器市場は、伸びしろのある市場だと捉えている。車載や民生機器/IoT市場と同様に、PSoCやメモリを軸にしたシステムレベルソリューションの展開をはじめ、さらなるソリューションの拡充を2019年の課題として取り組んでいく。
――他に、2019年期待の製品/ソリューションはありますか。
布施氏 2018年に大幅成長したUSB TypeーC/USB Power Delivery(USB PD)コントローラー製品は、2019年も一層伸びると期待している。USB TypeーC/USB PDの需要は、民生機器市場にとどまらず、車載機器市場や一部の産業機器市場でも広がっている。USB TypeーC/USB PDコントローラーは業界に先駆けて構築した豊富な製品ラインアップで確実にニーズを取り込んでいきたい。
――最後に、2019年の抱負をお願いします。
布施氏 組み込みシステム領域を包括したシステムレベルソリューションを提供するというCypress 3.0の方針に基づいた取り組みを一層、強化していく。
2019年は次世代に向けた製品/ソリューションを多く投入する年になる。日本法人サイプレス セミコンダクタとして、いま一度、日本国内の顧客に向き合って関係性をより深め、次世代に向けた製品/ソリューションをタイムリーに提案する1年にしたい。
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提供:サイプレス セミコンダクタ
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2019年2月15日