自動車の「電子化」「電動化」に大きく寄与している車載半導体デバイスは今後、どのような進化を遂げていくのでしょうか。そこで、自動車の「電子化」「電動化」に向けた半導体デバイスを数多く手掛ける東芝デバイス&ストレージに、次世代の車載半導体技術動向と製品開発方針について聞きました。
自動車の「電子化」「電動化」が加速しています。先進運転支援システム(ADAS)を搭載した自動車が普及し、自動運転車の開発も活発になっています。電気自動車やハイブリッド車のシェアも高まっています。こうした自動車の進化に大きく寄与しているのが車載半導体デバイスです。より高性能で高い信頼性を持つ車載半導体デバイスが、自動車の進化に欠かせません。そこで、次世代の自動車の進化を支える半導体デバイス技術について、東芝デバイス&ストレージで車載戦略部シニアエキスパートを務める福岡浩氏に同社の製品開発方針などを交えて聞きました。
――自動車の電子化/電動化が進む中で、車載半導体の重要性は増しています。その中で、東芝デバイス&ストレージは、次世代の自動車に対し、どのような車載半導体技術/製品を提供されるのですか?
福岡氏 自動車産業の今後の成長を引っ張る要素は「環境」「安全」「情報」の3つだと考えています。そして、環境、安全、情報の3つに対し、これから必要になる技術、半導体製品をいち早く提供していくというのが、基本的な考えです。
東芝デバイス&ストレージは、ディスクリート、アナログIC、ロジックLSIという製品を展開し、デジアナ混載のミックスドシグナル製品など複合型製品/ソリューションを提供できる強みを持ちます。自動車市場に対しても、ディスクリート、アナログIC、ロジックLSIを融合させ、長年にわたって自動車産業のニーズに応えてきました。2017年における車載半導体ベンダー売上ランキング(Strategy Analytics社調べ)で世界9位、国内に限ると第3位に入っており“実績”も強みになっています。
今後も「環境」「安全」「情報」という3つの領域それぞれで、東芝デバイス&ストレージの強みを生かした特長ある製品/ソリューションの提供を強化していきます。
――「環境」に対しては、どのような製品を展開されるのでしょうか。
福岡氏 二酸化炭素(CO2)の排出量削減が求められ、電気自動車(EV)やハイブリッド車(HEV)などに代表される“クルマの電動化”が加速しています。この電動化の核であるモーターの制御/駆動部分に対し、さまざまな製品を展開しています。
例えばモーター制御領域では、ブラシレス(センサーレス)でも、ブラシ付きと同様の正弦波駆動により低振動、低騒音、高効率を実現する独自の3相モーター制御技術を有しています。この3相ブラシレスモーター制御技術をベースにして、マイコンを外付けしなくてもモーターを制御できるプリドライバーICソリューションなども用意しています。
また、モーター駆動に欠かせないパワーディスクリートでも、高い放熱性を持ち小型サイズを実現した製品を数多く取りそろえています。
半導体製品に加えて、モーター駆動/制御部分の設計でよく課題になる、“熱問題”の解決を支援するソリューションも提供しています。当社は、ICを基板実装した際に、ICがどのように発熱するかを高精度にシミュレーションする技術を持っています。この技術により、お客さまの基板設計、熱設計を検証するソリューションを半導体製品とともに提供しています。さらに、半導体製品開発にもこの熱シミュレーション技術を駆使し、MCP(Multi Chip Package)など小型化と放熱製を両立したパッケージ開発に役立てています。
――MCP(Multi Chip Package)を用いた製品について、詳しく教えてください。
福岡氏 MCPを使って、モーターの制御駆動に必要なプリドライバーICチップとパワーMOSFET(ドライバー)をワンパッケージ化した製品の開発を進めています。まず、MCP応用製品の第1弾製品群としては、ボディ系のモーターに対応する駆動電流50Aクラスの製品を2019年7〜9月からサンプル出荷する予定です。
プリドライバーとパワーMOSFETをワンパッケージ化することで、ECUの小型化/モジュール化に貢献するだけでなく、最適なプリドライバーとパワーMOSFETを組み合わせて提供するので、ユーザーの設計時の手間も省くことができます。
こうしたプリドライバーとパワーMOSFETをワンパッケージ化したMCP製品は既に市場に出回っています。ただ、その中で、まもなくサンプル出荷を開始する第1弾製品群は、50Aクラスの製品でも9×9mmサイズのWQFN-48パッケージを採用し、世界最小クラスのフットプリントという特長を持っています。低オン抵抗のパワーMOSFETや、高精度の熱シミュレーション技術によるレイアウトの最適化などにより、こうした小型化が実現できました。第1弾製品群を皮切りに、ECUの小型化/モジュール化に貢献するMCP製品のラインアップを拡充していきます。
――「安全」に関しては、ADAS(先進運転支援システム)/自動運転システムによる、事故を起こさない安全なクルマ作りが進んでいます。東芝デバイス&ストレージはどのように、ADAS/自動運転といった予防安全の領域にアプローチされていくのですか?
福岡氏 ADAS/自動運転システムは、「認識」「判断」「制御」という3つの技術要素が必要です。この3つの技術要素の中でも「認識」は、「判断」「制御」に影響するものであり、より重要な技術要素だと考えています。なぜなら「判断」「制御」は、「認識」に基づいて行われるものであり、認識の精度向上がなければ、良い判断、制御は行えずADAS/自動運転システムによる予防安全は実現されません。そこで、東芝デバイス&ストレージは、「安全」の領域では、“認識の精度向上”に重点を置いた製品開発を進めています。
具体的には、カメラ映像を画像処理し、人や車両などのさまざまな対象物とその動きを検出し、その検出結果を出力する画像認識プロセッサ「Visconti™」があります。認識精度の高さと低消費電力を両立するなどの特長を持ち、複数の車載機器メーカーに採用されています。例えば、第4世代の「Visconti 4」は、デンソーの車載向け次世代前方監視カメラシステムに採用されています。背景と対象物の輝度差が少ない状態や夜間における歩行者検知性能を向上させる認識アルゴリズム「Enhanced CoHOGアクセラレータ」などにより、認識精度の高さと低消費電力を両立した点が評価され、採用に至りました。
Visconti以外にも、LiDAR(ライダー)システムの精度向上に貢献する、次世代型受光素子および、測定アルゴリズムの開発を進めています。
現状のLiDARシステムは、照射したレーザーパルスの反射光を受光する素子にアバランシェフォトダイオード(APD)が用いられていますが、われわれが開発している受光素子は、SiPM(シリコンフォトマルチプライヤ)と呼ばれる次世代の受光素子になります。APDよりも高感度で、多チャンネル化しやすく、長距離にある対象物からの微弱な反射光を検知することができます。既に、当社では、独自の計測回路と高解像度測距アルゴリズムを開発し、長距離にある物体を高い解像度で検知する技術を確立しています。さらに開発を進め、2020年までに技術実用化を目指します。
――画像認識領域では、ディープラーニング(深層学習)などいわゆる人工知能(AI)技術の活用が期待されています。
福岡氏 当社も、人工知能技術の開発を進めており、画像認識システム向けの人工知能技術はデンソーと共同開発を行っています。そのデンソーと共同開発した人工知能技術「Deep Neural Network - Intellectual Property」(DNN-IP)を搭載した「Visconti 5」を2019年9月からサンプル出荷します。
人工知能技術は、従来のパターン認識技術が不得意なパターン化しにくいものの認識精度を高めることができます。例えば、駐車空きスペースや走行路などの空間認識や、フォントや形状などが統一されていない海外の道路標識の認識は、人工知能技術ではより高精度に認識できるようになります。
一方で、従来のパターン認識技術は、パターン化しやすいものは高精度かつ、高速、低消費電力で認識できるという長所もあります。
Visconti 5では、これまでのViscontiの特長だった各種認識アクセラレータとともに、DNN-IPを搭載し、従来のパターン認識技術と人工知能技術の双方を組み合わせた画像認識が行える構成になっています。もちろん、各種アクセラレータの強化を図り、空間認識で重要なステレオカメラ処理を追加しています。
Visconti 5のCPUコアは、これまでのViscontiが採用してきたオリジナルコア(MEP)に代わってArm® Cortex®-A53/Arm® Cortex®-R4を採用するなど、より多くの方が開発しやすい画像認識プロセッサになっている点も大きな特長です。他にも、クルマの周囲の物体を量子化して地図化する「Occupancy Grid Map」(OGM)の研究も進めています。
――クルマの「情報」という面に対しては、どのように貢献されるのですか?
福岡氏 自動運転の実現には、車内のECU同士以外にも、車同士やインフラとつながり、情報をやりとりする必要があります。また、クルマとドライバーをつなげ、情報を伝えるということも必要です。こうした「つながる」から「伝える」という部分で、東芝デバイス&ストレージとして貢献していく、という考えです。
人とクルマをつなぐという領域では、人に情報を伝えるためのディスプレイプロセッサを古くから展開しています。また昨今、普及が加速している音声認識ユーザーインタフェース(UI)を実現する音声検出技術「Voice Trigger」もあります。この技術は、クラウドと接続せずにスタンドアロンで登録した単語を高精度に検出できる技術であり、自然に人とクルマをつなげる技術になっています。
さまざまな機器とクルマをつなぐための製品/技術も多くあります。例えば、リモートキーレスエントリー(RKE)やETCなどに向けた無線通信技術で、いずれも日本国内で高いシェアを有しています。RKEでは、社会問題化している、従来のRKEシステムの弱点を突いた“リレーアタック盗難”を防ぐための無線測距技術を開発し2019年中にサンプル出荷予定の製品に搭載する予定であり、最新の市場ニーズに応じた製品をタイムリーに投入していきます。
――クルマが多くの情報をやりとりするようになり、車内の通信、いわゆる車載ネットワークの高速化も進んでいます。
福岡氏 次世代の高速な車載ネットワーク技術の1つとして、車載版イーサネットといえる「Ethernet AVB」の採用が進みつつあります。このEthernet AVBと、さまざまなプロセッサやモジュールをつなぐための車載イーサネットブリッジICを開発、展開しています。このブリッジICは、Ethernet AVBをPCI Express(PCIe)やHSIC、I2C/TDMなど、多くのプロセッサやモジュールが備えるインタフェースに変換するICです。Ethernet AVB非対応のデバイスを採用しながらも、車載ネットワークをEthernet AVBにより高速化できる「使い勝手の良い」製品になっています。
2017年に量産を開始した「TC9560」については、Qualcommの次世代車載向けLTEモデムチップセット「Snapdragon」の標準部品になっているなど、Ethernet AVBを採用するコネクテッドカーへの採用が進んでいます。
2019年1月には、Ethernet AVBとともにTSN規格に対応する「TC9562シリーズ」を発表しました。TSN規格はEthernet AVBに時間同期などの機能を拡張するもので、遅延時間を短縮し、より確実で低遅延の車内ネットワークが実現できます。Ethernet AVBでは、エンド・ツー・エンドで2ミリ秒の遅延が発生しましたが、TSNにより100マイクロ秒まで遅延を短縮できるとされています。Ethernet AVB/TSNは、低遅延のため、車載ネットワークはもとより、産業制御ネットワークでの活用も見込まれており、TC9562シリーズは産業用途でも採用が進む見込みです。
車載イーサネット規格は、現行の通信速度1Gbpsよりも高速な5〜10Gbpsに対応する次世代高速規格や、CANやLINの置き換えも可能な10Mbpsという低速規格の策定が進んでいます。こうした新たな車載イーサネット規格についても、いち早く対応ブリッジICを製品化していく予定です。
・ Visconti™は、東芝デバイス&ストレージ株式会社の商標です。
・Arm、Cortexは、米国および/あるいはその他の国におけるArm Limited (またはその子会社)の登録商標です。
・その他の社名・商品名・サービス名などは、それぞれ各社が商標として使用している場合があります。
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提供:東芝デバイス&ストレージ株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2019年3月31日
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