トレックス・セミコンダクターは、コイル一体型DC/DCコンバータ「“micro DC/DC”」をはじめとした小型、低消費電力を特長とした電源ICで、事業拡大を続けている。同社社長の芝宮孝司氏は「2020年は5G(第5世代移動通信)、IoT(モノのインターネット)の普及で登場する新アプリケーション市場でもトレックスの存在感を示したい。そのためにも開発力を積極的に強化する」と語る。
――2019年の事業を振り返ってください。
芝宮孝司氏 2019年は、当初想定していたよりも、市況回復のペースが遅く、厳しい面があった。特に、子会社・フェニテックセミコンダクターが手掛ける半導体受託製造事業が影響を受けた格好だ。
ただ、受注はトレックスの半導体事業、フェニテックの受託製造事業ともに、2019年4〜6月に底を打ち、ペースは少しゆっくりではあるが、着実に回復を続けていて、足元も明るい材料が増えてきている。
――トレックス単体の2020年3月期上期業績を見ると、車載機器向け売上高が前年同期比26%増と大きく伸びました。
芝宮氏 車載機器向けは、中国市場で新たなビジネスを獲得できたことに加え、あおり運転対策としてドライブレコーダーの需要が急拡大したことで、成長を実現することができた。ドライブレコーダーについては、コイル一体型DC/DCコンバータ「“micro DC/DC”コンバータ」を中心に多くのドライブレコーダーメーカーに採用されている。
車載機器向け以外でも、フルワイヤレスイヤフォンや無線対応補聴器などの需要拡大が著しい新アプリケーションで、しっかりとビジネスを獲得し、業績を支えることができた。
――フルワイヤレスイヤフォンなど新しいアプリケーションでビジネスを獲得できている要因はどのように分析されていますか。
芝宮氏 フルワイヤレスイヤフォンやドライブレコーダーなどに共通する電源ICへのニーズは、より小さく、かつ、より低消費電力であることであり、トレックスの強みと合致していることで採用実績を増やせている。特に“micro DC/DC”コンバータは、電源回路を大幅に小型化できる上、EMI(放射ノイズ)を抑制できるなどの特長から、さまざまなアプリケーションで採用が大きく増えた。その結果、2019年の“micro DC/DC”コンバータの売り上げ規模は、2年前のほぼ2倍に達し、主力製品に成長した。
――2020年の市況見通しをお聞かせください。
芝宮氏 2020年の市況は、足元の回復基調が続き、少なくとも2019年よりも良くなる。加えて、5G(第5世代移動通信)の商用サービス開始に伴い、さまざまな新しいアプリケーションが登場することが予想され、事業を拡大させるチャンスの年だと考えている。
――5Gの商用化でどのようなビジネスチャンスがあるとお考えですか。
芝宮氏 5Gの商用化で、基地局やデータセンターなどのインフラ側で有線通信の高速化が見込まれ、伝送速度100Gビット/秒(以下、100G)を超える高速光通信の普及が見込まれる。そして、100G、400Gといった高速光通信を実現するための光トランシーバモジュールでは、これまで以上に小型で、ノイズを抑えられる電源ICを必要としており、“micro DC/DC”コンバータに強いニーズが存在する。既に、主要な光トランシーバモジュールメーカーのほとんどで採用が決まっており、100G、400Gといった光通信の普及での売り上げ拡大が見込める状況だ。
また5Gの商用化は、IoT(モノのインターネット)をさらに進化させ、新しいアプリケーションを生み出すと期待している。そうした新しいアプリケーションの多くは、バッテリー駆動の端末になるだろうから、「小型」「低消費電力」というトレックスの強みを生かすチャンスはさらに増える。
――ビジネスチャンスを生かすために2020年、取り組むべきことは何でしょうか。
芝宮氏 今後、登場してくるさまざまな新しいアプリケーションに対し、タイムリーに製品を提供していくために、より一層、開発力を高めることが重要だと考えている。2020年は、開発力の強化に取り組み、車載、産業、医療などさまざまな市場でトレックスの存在感を高めることが目標になる。
――開発力強化に向けた取り組みについて教えてください。
芝宮氏 2019年9月に、インドのファブレス電源ICメーカーであるCirel Systems社と、資本業務提携の基本合意に至った。互いの販路を生かした販売強化とともに、開発力の強化を狙って、提携を決めた。
Cirel社は、2013年設立の新興メーカーでまだまだ知名度は高くないが、さまざまなデジタルとアナログ混載の回路IPを持ち、カスタムを中心にした複合電源ICを得意にしている。優秀なアナログ技術者を擁し、その開発力はとても高い。そこで、トレックスの製品開発機能の一部をCirel社に担ってもらい、いわば、トレックスのR&D拠点として活用していく。現在、Cirel社の技術者が来日し、トレックスの開発スタイルを学んで、近い将来、日本、米国に次ぐ第3のR&D拠点として、Cirel社が機能する予定だ。
また、トレックスからCirel社への技術移転だけでなく、デジアナ混載技術などCirel社の技術をトレックスに取り入れていく。安く良いものを作るという考え方など学ぶところは多く、さまざまなメリットがある提携だと考えている。
――他社との連携では、2019年に米国のMATRIX Industries社とも事業協力アライアンスを結ばれました。
芝宮氏 MATRIX社は熱電変換技術を用いた高効率な環境発電素子を手掛ける新興企業で、0.02Vの超低電圧から5Vに昇圧する技術を有している。こうしたMATRIX社の発電素子技術、電圧変換技術に、トレックスの電源管理ソリューションを組み合わせ、エナジーハーベスト、環境発電システムに最適な電源を開発することがアライアンスの目的だ。MATRIX社との共同開発の成果は、将来的に、ウェアラブル機器やIoTデバイス市場に向けて広く提供していきたいと考えている。
MATRIX社以外にも、次世代バッテリーを手掛ける電池メーカーなどさまざまな企業とも連携、協力関係を結び、多くの共同開発を実施している。新たな電源技術を求める素子やデバイスメーカーと連携して開発することで、新しいアプリケーションに対し、いち早く、ニーズに応じた電源IC製品を提供できると考えている。今後も、多くのパートナーと連携し、共同開発を進めていく。
――子会社で半導体受託製造事業を展開するフェニテックの2020年の事業方針をお聞かせください。
芝宮氏 フェニテックについても2019年後半以降、新規受注が増えるなど明るい材料が増え、2020年は回復、成長を見込んでいる。急峻(きゅうしゅん)に市場が回復する可能性もあり、そうした受注増時に材料不足などに陥ることのないように、しっかりとした準備を整えていくことが直近では重要だ。幸い、フェニテックは、岡山の本社工場での新棟建設、鹿児島工場での設備導入など増産に向けた一定の設備投資を終えた段階であり、受注拡大に向けて生産ラインの準備は整っている。
また中長期的な成長に向けたSiCデバイスの開発も継続していく。価格競争力のあるSiCショットキーバリアダイオード(SBD)の他にも、「つくばパワーエレクトロニクスコンステレーション」にも参画し、SiC MOSFETの研究開発を実施している。
鹿児島工場では既にSiCデバイス製造に向けて、高温イオン注入機を導入した。2020年は、SiCデバイスの量産をスタートしたいと考えている。
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提供:トレックス・セミコンダクター株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2020年2月14日