TE Connectivityの日本法人であるタイコ エレクトロニクス ジャパン(以下、TEジャパン)は、ビジネスのボーダレス化に対し、『ONE TEジャパン』をスローガンに掲げ、事業部間の連携強化とそのための組織作り、グローバルな人材の育成に取り組んでいる。2021年1月1日付でTEジャパンの新社長に就任した松井啓氏は、「ONE TEジャパンというマインドセットが花開く年にしたい。そのために、応援団長として社員を全力でサポートしていく」と意気込みを語る。
――社長就任、おめでとうございます。新社長としての抱負をお聞かせください。
松井啓氏 1985年に入社(当時は日本エー・エム・ピー)以来、自動車事業本部に配属され、主に営業とマーケティングを長年担当してきた。
直近の3年間は、日本とASEAN(東南アジア諸国連合)地域を統括する責任者として、さまざまな業務に携わってきた。この間には、多くのオポチュニティをいただいた。
これまで、自身が受けてきたさまざまな恩を、社員に還元していきたい。
――新社長として具体的な目標などはありますか。
松井氏 1つは『ONE TEジャパン』というマインドセットが花開く年にしたい。『ONE TEジャパン』は前社長の上野康之会長がスローガンとして掲げ、その具現化に取り組んでいる。事業部という縦割りの仕組みを残しながら、事業部間の連携を強化し、TEジャパンが保有するあらゆる経営資源を活用することによって、顧客のさまざまな要求に応えていきたい。
業界自体がボーダレス化していることも、『ONE TEジャパン』の取り組みを加速させる理由の1つとなった。例えば自動車業界でも、走行性や安全性、快適性といった基本機能に加え、「電動化」や「自動運転」「コネクティビティ」など、さまざまな機能が新たに搭載されてきた。これらの機能を実現するための製品を提供していくためには、電装部品メーカーも、必然的にボーダレス化が求められている。
『ONE TEジャパン』の実現に向けた取り組みを継続しながら、これまで以上に働きやすい環境を作り上げていくことや、社員のモチベーションを高めていくことが、新社長として重要な使命だと考えている。
――『ONE TEジャパン』を定着させるうえで不安はありませんか。
松井氏 私自身は入社以来、自動車事業本部一筋でここまで来た。視点を少しずらせば他の事業についても、新たなオポチュニティが見えてくるだろう。事業部間の連携により、各事業部のオポチュニティを相互に共有することができる。さまざまな産業向けに開発してきた技術を見直し、このレベルを一層高めて新たな提案を行い、全体の事業拡大につなげたい。そういう意味では不安よりも期待感の方が大きい。
――2020年を振り返って、どのような1年でしたか。
松井氏 2020年は想像もしていなかった新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で、2020年9月期業績は当初の計画を達成できなかった。TE Connectivityグローバル全社ベースの売上高は2019年度比で約10%の減少となった。それでも日本市場は、自動車と家庭用ゲーム機器からの引き合いが強く、マイナス幅を一桁にとどめることができた。厳しい経営環境の中にあっても、開発投資は継続して行ってきた。こうした取り組みが、受注に結び付いた事案もある。
自動車市場は、生産台数が世界的に落ち込んだ。こうした中で当社は、自動車事業においてEV(電気自動車)やHEV(ハイブリッド車)向けの受注を獲得することができた。その分は、売上高の減少率を小さく抑えられたのではないだろうか。
自動車以外の市場では、分散型発電などの再生可能エネルギー関連や、カテーテルなど医療機器向けの事業が拡大した。ファクトリー・オートメーション(FA)関連の需要はアジア地域で回復基調にある。データセンター向けコネクターなどクラウド関連事業も、新型コロナによってリモートワークが進んだことで、売上高は伸びている。
まだ電子部品メーカーとして「空飛ぶクルマ」向けに様々な提案活動も行うことができた。クラウド関連やアーバン・エア・モビリティ(UAM)関連はこれから伸びていく事業領域でもあり、2020年は将来のビジネスにつながる、新たな足がかりをつかんだ年ともいえる。
――リモートワークに関しては、新型コロナが広がる前から準備を進めてこられました。
松井氏 2021年春からの本格導入に向け、以前から「スマートワーク」への取り組みに力を入れてきた。自宅でのリモートワークなど、社員が働きやすい環境を構築するのが導入の狙いである。それがコロナ禍によって、スマートワークへの取り組みも加速した。
顧客もリモートワークに移行している会社が増えた。ただ、オンラインによる商談は決して容易ではない。顧客の課題を解決するための新たな技術やコストダウンにつながる提案など、リモート面談でも十分な成果が得られるよう、顧客へのアプローチ方法などを検討していきたい。
――2021年度の事業見通しなどを教えてください。
松井氏 少なくとも2019年度のレベルには戻したい。気持ちとしては2019年度の実績を上回りたいと考えている。そのためにも、『ONE TEジャパン』の早期実現を目指す。軽量化や低コスト化にもつながる小型化の技術をベースに、高速通信やワイヤレス通信などの技術と組み合わせることで、より最適なソリューションを顧客に提案していくことが可能となる。コネクターやセンサーなど部品単体でのビジネスに加え、有線や無線の通信機能を統合したユニットとして提案することが可能となる。
――2021年度に期待している技術や製品を教えてください。
松井氏 一部製品で量産を始めている湿度センサーなど、センサー製品を伸ばしていきたい。以前からポジションセンサーなどで強みを持っていた。これに有力なセンサー企業の買収なども含めて、湿度センサーや各種ガスセンサーなどが新たに加わり、センサー製品群はかなり拡充された。いずれも市場競争力のある製品である。Wi-Fi対応の車載向けアンテナなども期待している。
――中核事業であるコネクター製品はいかがでしょうか。
松井氏 コネクターの小型化ニーズは依然として高く、特に車載用コネクターは小型化によって自動車の軽量化に貢献できる。これらの要求を満たすことができるコネクターが当社の「0.5シリーズ」である。ECUの薄型化や配線ワイヤの小径化、高密度実装に対応する。当社の防水コネクターで比較すると「0.64シリーズ186極防水コネクター」に比べて、基板専有面積比で約53%、体積比で約40%の削減を実現している。車載用コネクターでは、小型化に加えて高速通信などの新たな付加価値を生み出し、自動車の発展につながるソリューションを提案していきたい。
自動車以外にも超小型の技術を生かすことができる領域がある。例えば低侵襲の「カテーテル」向けメディカル用コネクター「VERSIO」である。シグナル、パワー及びセンサー等の伝送も含むカテーテルも「VERSIO」を用いることで、その接続を「高密度」「小型」「低コスト」で実現することができる。用途によって異なるケーブルの本数や形状に合わせて接続部を設計し、個別仕様で提供することも可能である。
この他、入出力(I/O)用途向けサーマルブリッジも期待している製品の1つである。高性能コンピュータ(HPC)やサーバ、5G(第5世代移動通信)装置などで発生する熱を、より多く放散させることができる。ギャップパッドやサーマルパッドなど、従来の一般的なサーマル技術と比べて、最大2倍の熱抵抗を提供する。レート構造によりヒートシンクとのギャップをほぼゼロとし、熱伝導を最適化している。
――ボーダレス化についての基本的な考え方や、その取り組みを教えて下さい。
松井氏 日本やASEANに中国や韓国も含め、アジア太平洋(AP)を1つのエリアとして捉え、事業戦略などをディスカッションしていく。この中で得られた成果をグローバルに展開していきたい。ASEANなどに進出した日系企業のサポート体制も、従来のように日本からではなく、現地のTEグループが担当し、スピード感を持って顧客の現地生産に対応している。
現地のTEグループとの人材交流や人材育成、短期間のジョブローテーションも効率的に実施している。日本法人の社員はグローバルなビジネスを学ぶため、米国で研修を行うなど、グローバルな人材交流に取り組んでいる。現状でグローバルな取り組みを行っているのは自動車事業のみだが、いずれは他の事業部でも「ONE TE」の方向を目指すことになるだろう。
――グローバル化とONE TEの実現に向けて、人材育成は最重要テーマですね。
松井氏 TEはいろんなオポチュニティを持っている。これをビジネスに結び付けるため、世界の技術者が集まり、最適なソリューションを検討している。多様性を受け入れ、さまざまな考えを許容する「ダイバーシティー&インクルージョン」を目指した活動も行っている。
コロナ禍で、ともすれば下を向きそうになるが、現場で働く社員は、「考える力」や「アイデアを出す力」を持っている。多くの社員と面談することで、現場の声を吸い上げていきたい。そして、いい意味で社員を「鼓舞」しながら、それぞれの業務を「応援」していきたい。
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提供:TE Connectivity
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2021年2月19日