次世代パワーデバイス、第5/第6世代移動通信(5G/6G)システム、ウェアラブル/ヘルスケア機器、次世代電動飛行体(空飛ぶクルマ)の実現に欠かせない次世代デバイスを実現すべく「フレキシブル3D実装コンソーシアム」が発足、始動した。すでに140社が参画し、次世代デバイス実現に向けた新たな3次元実装技術の開発、実用化を目指した活動を開始している同コンソーシアムについて紹介する。
ぜひ、大学/コンソーシアムをうまく利用して、海外へ羽ばたいてほしい――。
こう呼び掛けるのは、大阪大学フレキシブル3D実装協働研究所の所長を務める菅沼克昭氏だ。
「大学との共同研究やコンソーシアムへの参画に対して、身構えてしまう方が多い。特に中小企業の方は、“大学との協働”に対して“難しい”というイメージを持たれているケースが多い。実際には、とてもハードルが低く、大学/コンソーシアムの開発成果や施設/設備などは気軽に使うことができる。にもかかわらず、利用しないのは、本当にもったいない。ぜひ、協働に参加してほしい」
菅沼氏がこのように強く訴えるのには理由がある。より多くの企業、研究機関の技術を擦り合わせることで、超省エネ社会や超スマート社会の実現に向けた次世代の技術基盤を日本発で創出、構築することを目指しているためだ。
菅沼氏はこれまで大阪大学産業科学研究所の教授として先端実装材料の研究を手掛けてきた。これまで、セラミックスと金属を簡単に接合できる傾斜機能制御の提案(1982年)や、有限要素法による接合デザイン手法を世界に先がけて提案(1983年)するなど、さまざまな研究成果を、数多くの企業との連携、協働を通じて挙げてきた実績を持つ。1994年には、日本初の「鉛フリーはんだ研究会」を立ち上げ、2005年には、今日の「ワイドバンドギャップ半導体(WBG)実装コンソーシアム」につながる産学連携活動を通じて、銀(Ag)焼結接合技術を提案。2011年には現在、90社以上が参画する「プリンテッドエレクトロニクス(PE)研究会」を立ち上げるなど、産学連携を積極的に主導しながらさまざまな成果を創出してきた実績を持つ。
そして2020年にはより一層の産学連携を図るべく大阪大学フレキシブル3D実装協働研究所を設立し、「フレキシブル3D実装コンソーシアム」を始動させた。
「これまでの活動は(菅沼氏が教授を務めた)大阪大学産業科学研究所と企業との連携で、一部クローズドな部分があった。そこで、より完全なオープンイノベーション拠点として大阪大学フレキシブル3D実装協働研究所を設立して、フレキシブル3D実装コンソーシアムを始動させた」と述べる。こうしたオープンイノベーションを目指した大阪大学フレキシブル3D実装協働研究所は、経済産業省から、通称「Jイノベ」と呼ばれる企業ネットワークのハブとして活躍する産学連携拠点「J-Innovation HUB/国際展開型」*)として選抜、評価されている。
*)J-Innovation HUB/国際展開型
経済産業省の「J-Innovation HUB 地域オープンイノベーション拠点選抜制度」に基づく、海外/国内グローバル企業との産学連携活動を積極的に行い、今後のさらなる海外展開を目指している拠点。
2020年に実施された第1回選抜では、大阪大学フレキシブル3D実装協働研究所の他、東北大学国際集積エレクトロニクス研究開発センター、山形大学有機エレクトロニクスイノベーションセンター、金沢工業大学革新複合材料研究開発センター、京都大学バイオナノマテリアル共同研究拠点、大阪大学核物理研究センターの6拠点が選抜されている。
こうして本格始動したフレキシブル3D実装コンソーシアムが目指すのは、超省エネ社会や超スマート社会の実現だ。具体的には、3次元実装技術によるパワー半導体やフレキシブルデバイスといった次世代デバイスの開発に挑んでいる。「もっといえば、パワー半導体、フレキシブルデバイスなどあらゆるデバイスが共通して抱える“接合における技術課題”を解決することが目的」と菅沼氏は語る。
「デバイスの劣化を招く要因のほとんどは、異なる素材の接合部分、すなわち界面で生じている。だが、界面で起こる事象は、そのメカニズムや原因が分かっていないことがほとんど。界面で起こる事象を理解し、界面を制御することができれば、より信頼性のあるデバイスや高性能なデバイスの実用化を実現できる」と接合における技術課題を解決することの重要性を説明する。
「しかし、スマートフォン1台だけでも何万種もの接合技術を使用しており、界面を理解するには、さまざまな知見が必要だ。有機、無機、金属というあらゆる材料の知見はもとより、装置や人工知能(AI)などの知見も結集させて、それらをすり合わせていくことが不可欠になる。だからこそ、多くの企業の参加を募るべく、よりオープンなフレキシブル3D実装コンソーシアムをスタートさせた」と語る。
すでにフレキシブル3D実装コンソーシアムには、140社以上の企業が参加。既存のWBG実装コンソーシアム、PE研究会と連携しつつ、次世代パワーデバイス、第5/第6世代移動通信(5G/6G)システム、ウェアラブル/ヘルスケア機器、次世代電動飛行体(空飛ぶクルマ)の実現に向けた3次元実装技術を開発するワーキンググループが発足し、活動を始めている。「各ワーキンググループでは、NEDOやJEITA、近畿経済産業局などとも連携して、オープンイノベーションに取り組んでいる。また国内の組織/研究機関だけでなく、WBG実装コンソーシアムとつながりが深い欧州のECPE(European Centre for Power Electronics Consortium)やPE研究会で連携実績のあるimecなど海外の組織/研究機関とも積極的に協働していき、グローバルでのオープンイノベーションに取り組んでいく」という方針を掲げる。
世界規模の活動を行う一方で「フレキシブル3D実装コンソーシアムで使用する言語は日本語。気軽に世界中の次世代情報に触れられる場を目指している」とも付け加える。
フレキシブル3D実装コンソーシアムでは、ワーキンググループによる共同開発以外にも、さまざまな活動を実施している。その1つが積極的なセミナー開催で、すでに10回以上のセミナーを開催。その多くは、参加費無料の公開セミナーで、セミナー参加をきっかけにコンソーシアムに合流する企業も多いという。2021年3月11日には、この1年間の活動を総括し成果を報告するセミナーをオンラインで開催する。2021年度も2020年度同様、積極的にセミナーを開催する予定であり、コンソーシアムに興味のある方は、ぜひ参加してほしい」と呼び掛ける。
また、コンソーシアムを主導する大阪大学フレキシブル3D実装協働研究所としても、より多くの企業のコンソーシアムへの参画を募るべく、研究所内各種装置設備の一般開放(有償)も実施。同研究所の基幹企業*)の1社であるヤマト科学製理化学機器、計測機器をはじめ、熱伝導評価装置など開発中の最新鋭装置も利用可能だ。
コンソーシアムへの参加や、セミナーへの申し込み、大阪大学フレキシブル3D実装協働研究所設備の利用などは、全て大阪大学フレキシブル3D実装協働研究所Webサイトで受け付けている。興味がある方は、ぜひ問い合わせてみてほしい。
*)大阪大学フレキシブル3D実装協働研究所 基幹企業:ダイセル、千住金属工業、ヤマト科学の3社。
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提供:国立大学法人大阪大学
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2021年3月25日