サイプレス セミコンダクタの買収を機に、インフィニオン テクノロジーズのIoT(モノのインターネット)向け事業体制が大幅強化され、IoT市場でのシェア拡大が見込まれている。インフィニオンのIoT事業の現状と今後の成長戦略について、日本法人でIoT事業を統括する針田靖久氏にインタビューした。
インフィニオン テクノロジーズは2020年4月に、サイプレス セミコンダクタを買収した。両社は事業重複、製品重複が極めて少なく、まさに相互補完関係にあり、さまざまな事業領域で体制強化が進んだ。とりわけ、成長著しいIoT(モノのインターネット)システム向けの製品/ソリューション分野は、今回の買収で最も事業体制が強化された分野。インフィニオンが得意としてきたパワーデバイス、セキュリティ、センサーに、サイプレスの無線通信ソリューション、汎用マイコン、組み込みメモリが加わり、IoTシステムに必要な半導体デバイスを網羅する製品ラインアップが整った。
大きく進化したインフィニオンのIoT事業は、どのように買収シナジーを発揮し、飛躍を遂げようとしているのか――。インフィニオンの日本法人であるインフィニオン テクノロジーズ ジャパンでIoT向けビジネスと統括するバイスプレジデント兼コネクテッド セキュア システムズ(CSS)事業本部長の針田靖久氏に聞いた。
――コネクテッド セキュア システムズ(CSS)事業本部について教えてください。
針田靖久氏 CSS事業本部は、インフィニオンに4つある事業本部の中で、2020年4月のサイプレス買収によって最も事業体制が強化された事業本部といえる。
従来、セキュリティ関連製品を展開してきた従来のデジタル セキュリティ ソリューション(DSS)事業本部に、サイプレスが手掛けてきたコネクティビティ製品、汎用マイコン製品ビジネスが加わり、事業本部の名称もそれまでのDSSから、CSSに改めた。
――CSS事業本部の事業規模について教えてください。
針田氏 インフィニオン全体の2020年度(2020年9月期)売上高85億6700万ユーロ(約1兆2000億円)のうち、約14%がCSS事業本部の売上高になっている。ただ、サイプレスの買収は2020年度期中の完了だったため、実質的にはもう少しCSS事業本部の売上高比率は高くなっているだろう。
また、日本での売り上げ比率が高いことも特長だ。インフィニオン全社でも日本市場での売上高は約9%と他の外資系半導体メーカーと比べても高い比率になっているのだが、CSS事業本部に限れば、約18%を日本市場で売り上げている。
――なぜ、日本での売り上げ比率が高いのですか。
針田氏 サイプレス買収に伴い日本の売り上げ比率が大幅に伸びた。
サイプレスは2015年にスパンションとの経営統合を経験している。そのスパンションは旧富士通のマイコンおよび、アナログ半導体事業を継承していたなどの経緯から、しっかりとした日本での事業基盤を有していた。そうした事業基盤が受け継がれ、今に至るというわけだ。
――CSS事業本部がターゲットにする用途市場はどこになりますか。
針田氏 インフィニオンでは、コロナ禍で急速に進んだ「社会変化」や「気候変動」「都市化」「デジタルトランスフォーメーション(DX)」という世界的なメガトレンドに対し、「エネルギー効率」「モビリティ」「セキュリティ」そして「IoT/ビッグデータ」という4つの領域で貢献、事業成長を遂げようとしている。
その中でCSS事業本部としては主に「セキュリティ」「IoT/ビッグデータ」の2領域がターゲットであり、特にIoTはCSS事業本部のビジネスの幹だと考えている。
――IoT市場に重点を置く理由をお聞かせください。
針田氏 IoT市場はご存じの通り、今後もその規模を拡大している。当社独自の集計ではあるが、2020年から2025年までの5年間も年平均10%増で成長し、市場規模は5年で1.5倍に拡大するとみている。
この成長市場であるIoTに対し、インフィニオンは包括的なソリューションが提供できる体制が、サイプレスの買収に伴い整った。サイプレスの事業の多くを引き継いだCSS事業本部としては、このIoT市場でしっかりビジネスを大きくしていく。
――IoTに向けた包括ソリューションについて詳しく教えてください。
針田氏 IoTシステムは、現実世界の事象をセンサーで検知し、そのデータをマイコンで処理し、無線通信を介してクラウドネットワークとやり取りし、その結果を持ってモーターなどのアクチュエーターで出力するといった動作を行う。
CSS事業本部では、マイコン、無線通信用IC、そしてネットワークにつながる際に不可欠になるセキュリティハードウェア/ソフトウェアがそろう。マイコンであれば、プログラマブルSoC「PSoC」をはじめ、産業機器や家電向けの「XMCマイコン」や「FMマイコン」というラインアップがある。無線通信も、Bluetooth/Wi-FiコンボチップなどIoTで主流のBluetooth/Wi-Fiという2つの無線通信をカバーしている。加えてこうした無線通信用ICは、ソフトウェア開発に関するエコシステムが充実している点も特長であり、IoTにおけるコネクティビティはインフィニオンの新たな強みになっている。
なお、センサーやパワーデバイス、メモリといったIoTシステムに不可欠な他のデバイスについてもCSS事業本部以外の事業本部で取り扱っており、インフィニオンとしてIoTシステムを網羅したソリューションが提供できるようになっている。
――サイプレス買収でIoTシステムを網羅する製品ラインアップが整ったわけですが、買収によるシナジーは既に生まれていますか。
針田氏 まず、買収直後から発揮できているシナジーとしては、相互にそれぞれの顧客と接点を持ち、販売機会が増えたという点が挙げられる。インフィニオンとサイプレスでは製品分野がほぼ重複せず、補完関係にあった。そのため、顧客の重複も少なく、互いの顧客に対し、提案、販売できる製品種が増えたという形だ。こうしたシナジーを発揮するために、買収直後から営業チームを統合して“ワンチーム”にしており、その点でもすぐにシナジーを発揮できた。
また、これからになるが、両社の製品やIPを組み合わせたソリューションの提供という点でシナジーを発揮していく。ハードウェアは現在、開発用ボードや両社のIPを融合させたチップなど、ロードマップを作成し開発に着手した段階だが、両製品を組み合わせたソリューション提案は徐々に始めている段階。
例えば、コネクティビティ製品とセキュリティ製品を組み合わせた提案がある。これまでインフィニオンとして、IoTシステムに対し、セキュリティ製品の提供を進めてきたが、セキュリティ製品単体では提案が難しかったケースが多かった。現在は、無線通信の検討段階からセキュリティを含めた提案が行えるようになり、顧客のセキュリティに対する理解を得やすくなったという良い流れが作れている。
――ビジネス拡大に向けて日本市場で独自に取り組まれていることはありますか。
針田氏 CSSジャパンとして「Seven Stars Strategy」と呼ぶ事業戦略を策定して取り組んでいる。
Seven Stars Strategyでは、多種多様なIoTシステムの中でも、特に注力する7つの領域を定めたものだ。具体的には「ゲーム機」「プリンター」「民生機器」「オートモーティブ」「白物家電」「産業機器」「eコマース」の計7領域だ。
「ゲーム機」「プリンター」は、サイプレス時代からコネクティビティ製品を中心に高いシェアを獲得してきた領域で、今後はセキュリティ製品など販売する製品種を増やしていく「Expand(拡張)」領域と位置付けている。
「民生機器」「オートモーティブ」については、サイプレス、インフィニオンのいずれかが強かったり、一部製品で強みを発揮できていたりする領域ながら、伸びしろが多く、「Strengthen(強化)」領域として取り組む。「白物家電」「産業機器」はパワーデバイスなどでは高いシェアを有しているものの、CSSとしてはまだまだビジネスを確立できていない新規領域であり、セキュリティ製品で開拓を始めている「Eコマース」領域と合わせて「Challenge(挑戦)」領域として、攻略していく方針だ。
――戦略を“Seven Stars”と名付けられた理由はありますか?
針田氏 CSSは、幾つものM&Aを経て今の組織になっており、各メンバーの経歴は実にさまざま。そうした多様な人材が同じ目標に向かってビジネスに取り組んでいこうという意味合いを込めて、注力領域が7つだったこともあり、北極星(事業拡張という共通目標)の方角を探す際の目安になっている「北斗七星」をイメージして名付けた。
――CSSジャパンとしての売り上げ目標をお聞かせください。
針田氏 サイプレスの買収に伴い製品ラインアップが整っただけでなく、日本での事業体制が大きく強化されたことは、大きな強みだ。なかなか外資系半導体メーカーでは提供が難しい、日本法人で完結したソフトウェアのカスタマイズ対応など、充実したサポートが提供できるようになった。また、売り上げ規模の面から見ても、CSS事業本部にとって日本市場は重要な市場であり、日本の顧客ニーズが製品開発やソリューション開発に反映されやすい環境になっている。
CSSジャパンとして、やれることはとても増え、今後が非常に楽しみな状況。少なくとも2ケタの成長率で継続的に売り上げ成長を実現させる。そのために、必要な投資も積極的に実施していく。
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提供:インフィニオン テクノロジーズ ジャパン株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2021年9月3日