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すべてのクルマにADASを! 安全と低コストを両立する近未来の車載デバイス開発動向車載半導体大手インフィニオンに聞く

より自動車の安全性を高めるADAS(先進運転支援システム)の新車における搭載率は年々高まってきた。今後は、法制化によって低価格な大衆車にもADAS搭載が義務化される見込みになっている。ただ、大衆車でのADAS搭載を実現するには「コスト」という大きな問題を解決する必要がある。そこで、すべてのクルマへのADAS搭載実現を目指して技術/製品開発を進める車載半導体大手インフィニオン テクノロジーズに、ADASのコスト低減に向けた半導体デバイス開発状況を聞いた。

» 2021年10月19日 10時00分 公開
[PR/EE Times Japan]
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 100年に一度と言われる大変化を遂げつつある自動車。この大きな変化を象徴するシステムの一つが「先進運転支援システム(以下、ADAS)/自動運転システム」だ。

 これまで人に託されていた自動車の運転を、センサーやコンピューティングデバイスで構成される電子機器システムが、補助/サポートしたり、人に成り代わって自律的に運転したりするようになりつつある。こうしたADAS、自動運転システムは、単純に運転が簡便、快適になるだけでなく、社会課題である交通事故を減らすなど自動車の安全性を高めるものとして期待を集めている。

 実際、欧米をはじめ日本を含む世界各国で、自動車の安全性を高めるべく新車アセスメントプログラム(NCAP)や法律で、ADASの搭載を義務化する動きが加速し、地域によっては、AEB(緊急ブレーキ)に代表される一部のADAS搭載義務化が決定されている。

 こうしたNCAPや法律による制度化に伴いADAS/自動運転システムの普及は、今後、一段と加速する見通しである。車載半導体の大手メーカーであるインフィニオン テクノロジーズによると2020年時点で、新車のADAS/自動運転システム搭載率は約50%程度だが、2030年になると、おおよそ90%の新車が何らかの運転動作を支援するADAS/自動運転システムを搭載するという。

新車におけるADAS/自動運転システム搭載数の予測。2030年には約90%の新車がADAS/自動運転システムを搭載する見込み。ただ、2030年時点では、自動運転レベル1およびレベル2のADASの搭載比率が約70%と多くを占めると見られている[クリックで拡大] 出所:インフィニオン テクノロジーズ

 ただ、こうした予測通りに、ADAS/自動運転システムが普及拡大するかどうかは、まだ不透明な部分が残る。

安全に対してコスト高はどこまで許容されるのか

 これまで、ADAS/自動運転システムを積極的に搭載してきたのは、高級車と呼ばれる販売価格の高い自動車である。今後、NCAPや法律による義務化で新たにADAS搭載を迫られるのは、大衆車と呼ばれる相対的に販売価格の安い自動車になる。高級車と異なり、販売価格に占めるADASのコストの割合は、高くなってしまう。しかも、搭載が義務化されるADASは、ユーザーが価値を見いだしやすい快適性ではなく、安全性向上に主眼を置いたものになる。そのため大衆車のユーザーにとっては余計にADASに対して割高感を覚えることになるだろう。

 ADASに関わるコストが現状の水準であれば、大衆車の価格アップは避けることができず、ADAS搭載比率こそ上がるかもしれないが、新車販売そのものが落ち込んでしまう恐れがある。

 こうした背景から、より快適で、より安全にという自動車の健全な進化を今後も継続するには「ADASのコストダウン」が急務だ。もっといえば、より高いレベルの安全性を実現するためには「ADAS自体も進化しながらコストダウンを実現しなければならない」という難問が横たわっているわけだ。

インフィニオン テクノロジーズ ジャパン株式会社 オートモーティブ事業本部ビークルオートメーションアプリケーションマーケティングマネージャー 夏目雅弘氏

 この難問をテクノロジーで解決しようと取り組みを加速しているのが、インフィニオン テクノロジーズだ。同社は、ADAS向けレーダー用チップでトップシェア*)を誇るなど、さまざまなADAS関連技術をけん引してきた実績を持つ。こうした実績を背景に、進化したADASをより低コストで実現できるデバイスの開発を進めているという。そこで、同社日本法人オートモーティブ事業本部ビークルオートメーションアプリケーションマーケティングマネージャーの夏目雅弘氏に、現在、開発しているADAS関連技術を紹介してもらった。

*)Yole DeveloppementのStatus of the Radar Industry 2020

信頼性を備えた上でコストダウンを実現するADASソリューション

――インフィニオンにおけるADAS向け技術開発の方向性を教えてください。

夏目氏 まず、ADAS/自動運転システム向け技術、デバイスを開発、提供する上で、最も重要なことは「Dependability」、つまりシステムに身を委ねられる信頼性を満たすということ。設計や製造などあらゆる面で、信頼できる品質を実現する取り組みや機能安全へのいち早い対応を進めるなど、安全であることを信頼してもらえる技術、製品の提供に努めている。

 この信頼性を満たすということを大前提にした上で、現在、インフィニオンはすべてのクルマにADAS/自動運転システムを搭載できるよう、新しい技術や半導体デバイスの開発を進めている。“すべてのクルマに”という面では、向こう10年ほどを見た場合、自動運転レベルでレベル1、レベル2に相当するADASのシステムコストをいかに低減できるかが重要になる。そこで、インフィニオンでは、特にADASにおいてシステムコストを低減できる技術の開発に注力しているところだ。

インフィニオン テクノロジーズが手掛けるADAS/自動運転向けセンサー製品例。センサー以外にもマイコンやメモリなども展開し、ADAS/自動運転システムを幅広くカバーしている[クリックで拡大] 出所:インフィニオン テクノロジーズ

――システムコストを抑えるための技術は、どのようなアプローチで実施されているのですか。デバイス単体の低価格化だったり、複数デバイスの統合/集積化だったりするのですか?

夏目氏 単純なデバイス価格低減や高集積化だけでなく、「ハードウエア性能の最大化」と「機能の拡張」という2つのアプローチで、システムコスト低減に役立つ技術、製品の開発を進めている。

 例えば、「ハードウエア性能の最大化」というアプローチでの代表的な製品が車載用32ビットマイコン「AURIX」がある。AURIXは、最も高い安全性要求レベル「ASIL-D」に準拠したマイコンで、セーフティホストとしての役割に特化したマイコンとして展開している。

セーフティホストとして進化を続けるマイコン「AURIX」[クリックで拡大] 出所:インフィニオン テクノロジーズ

 近年、ADASは、センサーなどからの情報を元に「解釈」、「判断」を行う場合、マイコンよりも大規模なSoC(システムオンチップ)で実施することが主流になりつつある。ただ、事故寸前でブレーキをかける、車両を安全に制御するなど即座の対応が必要になる場合、リアルタイム性に優れるマイコンがセーフティホストとしての役割を果たすことが求められており、AURIXはそうしたセーフティホストとしての機能が充実している。

 現在、このAURIXでは、並列演算を可能にするSIMD vector DSPから、セキュリティ、通信に代表されるさまざまな処理を行うアクセラレーターを搭載するという形での性能の最大化を進めている。この性能の最大化によって、SoC側の負荷を軽減でき、より安価なSoCを採用できるようになる他、自動運転レベル1やレベル2のADASであれば、SoCを使用せずに、AURIXだけで構成することも可能である。

1つのレーダーで、短距離も、複数出力も

――「機能の拡張」というアプローチで、開発されている技術、製品についても教えてください。

夏目氏 代表的な例として、既に試作デモを公開している次世代77〜81GHzレーダーICがある。

 77/79GHzレーダーはこれまで、数十メートルから数百メートルの長距離の人や物体の検出を得意とし、5m以内という超短距離での検知は行えなかった。そのため、現状の自動車は、77/79GHzレーダーとは別に、超短距離検知用としてソナー(超音波センサー)を搭載してきた。ソナーは検知範囲が狭いという欠点があり、クルマの周囲を検知するには、10個以上のソナーを設置する必要がある。そのため、コストだけでなく外見的な問題も指摘されてきた。

超短距離もカバーできる次世代レーダーの概要[クリックで拡大] 出所:インフィニオン テクノロジーズ

 これに対し、次世代77/79GHzレーダーICは、長距離だけでなく5m以内も検知できるようになり、大幅にソナーの数を減らす、すなわち、コスト削減が行えるようになる。このように、機能を拡張した新たなシステムによって、従来のシステムを置き換え、システムとしてのコストを抑えることを目指している。

――ソナーだけでなく、レーダーも搭載点数が増える傾向にあります。そうした搭載点数増加でもコスト増を抑えるような技術はありませんか。

夏目氏 おっしゃる通り、レーダーは角度分解能が低く、1人で歩いているのか、2人で歩いているのかを区別するというようなことは苦手で、アンテナ数を増やして角度分解能を高めようという動きがある。

 アンテナの数を増やすと、当然、レーダーMMICや制御マイコンをその数だけ増やさなければならなくなる。そこで、現在、これまでのようにレーダーMMICを増やすことなく、1つのレーダーMMICの出力信号を分割、増幅して対応できるようにするパワーアンプICを2022年中のサンプル出荷を目指して開発している。このパワーアンプICが実現できれば、既存のレーダー基板を大きく変えることなく、容易にアンテナを増やしてレーダーの性能を高めることができるようになる。

パワーアンプの概要[クリックで拡大] 出所:インフィニオン テクノロジーズ

 さらにアンテナの搭載コストを低減するシームレスなアンテナ接続を実現するパッケージ技術の開発も進めている。従来、アンテナとレーダーMMICは、基板上の配線で接続され、チップとアンテナが基板上に並ぶ形だった。そのため、一定の面積が必要であり高価な専用の高周波基板が必要だった。これに対し、今回のパッケージ技術では、チップ直下の基板上にアンテナを形成できるようにする。加えて、従来のように金属製アンテナではなく、樹脂表面を金属で覆うような形でアンテナを形成でき、省スペースかつ低コスト化に貢献できる技術になっている。

顧客に寄り添って続々と新技術を開発

――他にも従来のシステムを置き換えられるような新たなシステム、技術はありますか。

60GHzレーダーモジュール(白色基板部分、緑色基板は評価用制御マイコン基板)。小型サイズでスマートフォンなど民生機器領域でも採用が進んでいる 出所:インフィニオン テクノロジーズ

夏目氏 子どもの置き去り防止などの目的で義務化がより早く進みそうな車室内監視システムに向けて提案している60GHzレーダーシステムがある。

 60GHzレーダーは、熱や光の影響を受けず夜間を含め常時監視できる他、透過性が高いという特性からブランケットに覆われた子どもなどを含めて死角なく人を検出することができる。こうした性能により、シートベルトリマインダー用に各座席に設置していた荷重センサーを省略できるようにもなる。

――ADASを含むECU(電子制御ユニット)の搭載点数が増える中で、ドメイン型やゾーン型の新しいE/E(電気/電子)アーキテクチャへの移行により、ECU数の抑制、開発/コスト効率の向上を目指した動きも加速しつつあります。

夏目氏 インフィニオンとしても新たなE/Eアーキテクチャのトレンドを積極的にサポートしていく。各ドメインや各ゾーンに位置するECUでは、セーフティホストの役割に特化したプロセッサが求められるようになり、先述のAURIXがまさに最適なデバイスになる。またレーダーなどさまざまなセンサーにおいても、新たなE/Eアーキテクチャをサポートできるようチップセットレベルでの最適化を図っている。

――これからの時代に向けたADASを開発していくには、自動車メーカーや電装品メーカーなどとの連携、対話も必要ですね。

夏目氏 より価値のあるADASを提案するために、これまでも自動車メーカーや電装品メーカーなど皆さんに寄り添って、さまざまな開発を進めてきた。

 日本市場においても、ミリ波レーダーに特化したADAS技術センターを開設し、スピーディな技術サポートを提供するとともに、同センターの設備を活用したレーダーシステムの共同開発も進めてきた。

東京に開設している「ADAS技術センター」の概要[クリックで拡大] 出所:インフィニオン テクノロジーズ

 今後もこうした取り組みを一層強化しながら、より快適で、より安全なADASを実現すべく関連技術、製品を開発、提供していく。

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提供:インフィニオン テクノロジーズ ジャパン株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2021年11月18日

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