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スペックは求めず「汎用仕様」で勝負! デジタルアイソレータ市場に新規参入したMPSの狙いとは「受注する限り生産継続」、長期供給で勝機をつかむ

高度な集積技術を生かしたパワー系ソリューションを展開するMPS(Monolithic Power Systems)が、2022年から新たな市場で挑戦を始めた。新たな市場とはデジタルアイソレータ市場だ。デジタルアイソレータのサプライヤーとしては後発になるにもかかわらず、突出したスペックは追求せず、あえて“汎用的な仕様”を実現している。その狙いは何か。そして、後発メーカーとしての勝機はどこにあるのだろうか。

» 2022年06月27日 10時00分 公開
[PR/EE Times Japan]
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機器の安全性に欠かせない「絶縁」

 電子機器は、プロセッサやメモリからアナログ/パワーIC、受動部品まで多数の部品で構成されている。その中で、機器の安全性に最も大きく関わっている重要な部品が、アイソレータだ。回路間の絶縁を担うアイソレータは、隣接した回路に定格以上の電流が流れ込むのを防ぎ、破損やショートを防止する。絶縁することで漏電や感電のリスクを防ぐので、特に高電圧を扱う機器や、手で持って使用する医療機器などでは非常に重要な部品だ。他にも、信号ラインのノイズ対策や、ロジックレベルの変換を行うレベルシフタ―としても使われる。

 そのデジタルアイソレータの市場に、2022年から参入した企業が、MPS(Monolithic Power Systems)だ。米国のファブレス半導体メーカーであるMPSは、“Monolithic”という名が示す通り、集積ソリューションを得意とし、パワーマネジメントICや電源モジュールなど、電源系のソリューションを中心に製品を展開してきた。

MPSジャパン シニアFAEマネージャー 岩本純一氏

 小型化の要求が強い電子機器では、ICやモジュールの高集積度への要求は加速している。だが、発熱などの問題もあり、機能を集積することはそれほど簡単なことではない。そこを最も得意にするMPSは、インダクターを搭載し1パッケージで電源システムを構築できるモジュールや、降圧コンバータとモータードライバーを1パッケージに統合した製品などを提供している。特に低圧大電流、高効率のパワーソリューションに強みを持ち、半導体メーカーとしては小規模ながらも、高度な集積/統合技術に加え、フリップチップ実装を業界でも早い段階から採用するなど、最先端の半導体技術を取り入れながら製品の拡充を図ってきた。MPSの日本法人であるMPSジャパンでシニアFAEマネージャーを務める岩本純一氏は、「当社のモジュール化の技術はトップクラスだと自負している」と語る。2021年の売上高は前年比43%増の12億米ドルと、過去最高を記録した。

 日本国内では、サーバやデータセンターなどのコンピューティングパワーや、エンタープライズ/クライアントSSDやHDDなどデータストレージの分野で高いシェアを持つ。近年では電気自動車(EV)用BMS(バッテリーマネジメントシステム)やOBC(オンボードチャージャー)など、オートモーティブ分野の売り上げが急成長している。

もともと、絶縁技術は持っていた

 電源系ソリューションを中心に製品群を拡張してきたMPSが、新たに狙いを定めたのがデジタルアイソレータだ。

 電子回路では欠かせない絶縁だが、特にEVの台頭により絶縁市場は成長が期待される一大市場となっている。市場調査会社であるMarketsandMarketsが2022年5月に発行したレポートによれば、デジタルアイソレータの世界市場規模は2022年に18億米ドル、2027年には27億米ドルに成長すると予測されている。「日本だけでも100億円規模になると想定している」(岩本氏)

 さらに、MPSはもともと優れた絶縁の技術を持っていた。電源ソリューションを扱う上で、絶縁技術は切っても切り離せないほど重要な要素だからだ。「電源モジュール内の絶縁性を向上する技術など、絶縁技術のノウハウは持っていた。その技術をデジタルアイソレータとして製品化することで、当社の既存のパワー製品と組み合わせることができれば、よりよいソリューションを提案できると考え、約5年前に開発に着手した」(岩本氏)

 電源系で蓄積したノウハウを新製品として切り出すという開発方針と、絶縁という成長市場がうまく結び付き、デジタルアイソレータ市場の参入へとつながったのだ。

 アイソレータには、大きく3つの種類がある。従来使われている安価なフォトカプラと、コイルを用いる磁気絶縁方式のデジタルアイソレータ、絶縁層間容量を用いる容量絶縁方式のデジタルアイソレータだ。MPSが手掛けるのは、容量絶縁方式のデジタルアイソレータである。フォトカプラと比較すると、経時劣化が小さく寿命が長い、CMTI(コモンモード過渡耐性)が高い、信号の伝送速度が高速といった利点がある。

 「RS485など比較的低速のインタフェースにはフォトカプラが使用されているケースが多く、1Mビット/秒(Mbps)を超える、より高速なインタフェースや車載など高信頼性分野ではデジタルアイソレータへの移行が進んでいる。例えば、I2C、CAN(Controller Area Network)、LIN(Local Interconnect Network)などではデジタルアイソレータを使用することが多くなっている」(岩本氏)

 MPSは、まずはEVと産業機器の分野に注力する。「EVのチャージステーションでは、高速なデータレートはそこまで要求されないが、長寿命と高いノイズ耐性を求められるので、デジタルアイソレータが強みを持つ。ロボットなどの産業機器では、比較的高速なインタフェースであるSPIを用いることに加え、チャンネル数が多いので、フォトカプラだといくつも並列化して接続する必要がある。チャンネル数が多いデジタルアイソレータを使えば、部品点数を抑えられる」(岩本氏)

MPSは、デジタルアイソレータを含む絶縁製品でEVと産業機器の市場を狙う 出所:MPSジャパン

際立った仕様、あえて「訴求せず」

 第1弾の製品ラインアップでは、市場のボリュームゾーンでもある、絶縁耐圧が3kVと5kVの製品を中心にそろえた。デジタルアイソレータとしては、最大5kV/最大20Mbpsで、チャンネル数が異なる「MP279xx」シリーズを用意。その他、絶縁電源を独自のパッケージ技術で内蔵したデジタルアイソレータ「MPQ278xx」シリーズと、MP279xxシリーズに外付けして使用できる絶縁電源ICもそろえた。2次側に必要な出力電力により、絶縁電源を内蔵したタイプか、外付けするタイプかを選択できるようになっている。

MPSのデジタルアイソレータの製品ファミリ 出所:MPSジャパン
絶縁電源を内蔵したデジタルアイソレータと、絶縁電源ICもラインアップしている 出所:MPSジャパン

 MPSのデジタルアイソレータは、際立ったスペックをあえて訴求していない。より汎用的なスペックの方が、設計者にとっては使いやすいからだ。産業機器向けのアイソレータは長期供給を要求され、かつ、機器メーカーはリスク回避のために複数のサプライヤーから入手している場合が多い。そのため、いざというときに置き換えやすい汎用品の方が使い勝手がよいのである。「競合他社品に比べ、伝搬遅延はやや小さく低消費電力化も図っているが、その他は似たような特性を維持している」(岩本氏)

 ラインアップはまだ少ないが、特に産業機器向けでは、顧客のニーズに合わせた細かい仕様を展開していく。「絶縁耐圧では5kV以下や7.5kVといった要求があり、データレートでも10Mbps〜150Mbpsの範囲で細かいニーズがある。絶縁耐圧とデータレートにはトレードオフの関係があるので、顧客や市場の要求を見ながら、絶縁耐圧とデータレートのバランスを取りつつロードマップを検討していく」(岩本氏)

チャージャーステーションに使用する際の回路例 出所:MPSジャパン

「受注する限り生産を継続」、超長期供給で勝機をつかむ

 デジタルアイソレータのサプライヤーとしては後発になるが、岩本氏は「勝機はある」と言い切る。理由の一つが、MPSの強みである安定供給と長期供給だ。

 MPSは長年、中国をはじめとするファウンドリーで製品を製造していて、強固な信頼関係を築いてきた。それは、堅ろうな生産体制へとつながっている。「われわれは、契約工場を増やして生産量を担保してきた。昨今、半導体の供給難が深刻化しているが、当社は製品を安定して供給できる体制を確保している。半導体製品の不良率も極めて低い」(岩本氏)

 長期供給においては、MPSは「受注する限り生産を継続する」という確固たるポリシーを持つ。通常、半導体の世界では7〜8年間で生産を終了し、顧客には新しい後継品への移行を促すのが一般的だ。だがMPSは、前述のポリシーのもと、長期供給体制を実現している。特に、10年以上長期にわたって使い続けることも多い産業機器にとっては心強い味方となる。

 半導体の供給が世界的にひっ迫している中、MPSの長期にわたる安定供給は大きな強みであり、デジタルアイソレータ市場参入の突破口になるはずだ。不安定なサプライチェーンに懸念を抱くメーカーは、リスク回避から常に代替部品の模索や検討を行っている。その時にこそ、あえて“汎用的な仕様”を追求したMPSの戦略が生きてくるだろう。

 さらにサポートも手厚い。サポート専用のサイトである「MPS Now」では、アプリケーションに適した製品の仕様や基板設計などについて、MPSのエンジニアと直接対話しながらサポートを受けられる。MPSジャパンでも、FAE(フィールドアプリケーションエンジニア)の数は営業員の数を上回る。「当社は高い技術力を有しており、お客さまが抱える技術的な課題に対して最適なアドバイスができると自負している。ぜひ、気軽に相談してほしい」(岩本氏)

“汎用的な”製造プロセスで、新製品をスピーディに展開

 現在、MPSは新しい製品群を積極的に増やしている。その背景として、「非常に汎用的で使いやすい半導体製造プロセスを持っている」(岩本氏)ことが挙げられる。「マスク数を抑えつつ、パワー系では業界トップレベルの性能を実現できるプロセスを持っている。そもそものプロセスが優れている上に汎用性があるので、そのプロセスを他の製品にも適用しやすい。そのため、新しい製品群をスピーディに立ち上げることができる」と岩本氏は語る。

 「電源系で培った技術を生かして、デジタルアイソレータのような新しいラインアップを今後も増やしていく。電源以外でも当社を頼りにしてほしい」(岩本氏)

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提供:MPSジャパン合同会社
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2022年7月15日

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