LTE-MなどセルラーIoTの登場で、セルラー系ネットワークに対応する端末の種類は増えつつある。またプライベートLTEやローカル5Gなど、企業や団体が独自にセルラー系ネットワークを構築するケースも今後、一層加速することが予想されている。しかし、セルラー系ネットワークの構築や端末の開発にはいくつかの課題がある。その1つがテスト/評価に要するコストが高いということだ。この課題に対し、基地局負荷試験装置などを手掛けるアルチザネットワークスが「これまでよりも大幅な低コスト化を実現した」というテスト/評価ソリューションの展開を始めた。
IoT化の流れの中で、あらゆる機器でインターネット接続が当たり前になりつつある。そうした中で、機器とインターネットをつなぐ通信手段は多様化している。これまでは、Wi-FiやBluetoothといったネットワーク構築に免許取得の必要がない周波数帯を利用した近距離無線通信を用いるのが一般的だった。ただ、こうした近距離無線通信では、広範囲でのデータ取得が行えず、利用できる周波数帯が限られていることから相互干渉などの問題や多数の端末をネットワークに接続できないといったさまざまな課題、制約を抱えている。
そうした中で、世界的に利用が拡大しつつあるのが、携帯電話通信技術をベースにしたセルラー系無線通信技術だ。セルラー系無線通信技術は多岐にわたる。第3世代移動通信(3G)や4G/LTEといった既存のセルラー通信だけでなく、3G、4G/LTEをベースにした、IoT用途向けに低消費電力で通信可能なNB-IoTやLTE-Mといったセルラー通信が規格化され商用化されている。また自動運転システムなど大容量、低遅延といった高速通信を求める用途では、5Gの利用が検討され、一部利用が始まりつつある。
セルラー系無線通信は、これまでは大手通信事業者がネットワークを構築しサービス提供する形が一般的だったが、昨今では法整備が進み、企業や自治体などが独自にセルラーネットワークを構築できるようになった。プライベートLTEやローカル5Gなどがそれだ。
このように、セルラー系無線通信は多様な通信規格が存在し、さらに独自にネットワークを敷設できるため、さまざまなワイヤレスネットワークニーズに応えることが可能であり、世界的に利用が広まりつつあるのだ。
一方で、セルラー系無線通信の導入には高いハードルが存在している。その1つが、ネットワーク構築や対応端末開発に欠かせない「テスト/評価」だ。
セルラーネットワークを構築する場合、コアネットワーク機能を持つ装置(EPC、5GC)および、基地局(eNB、gNB)を用意し、それら基地局/コアネットワークが正常に動作するか、端末を接続してテスト、評価しなければならない。しかも単に接続するだけではなく、どのような利用状況でも不具合が生じないように、あらゆる利用シーンを想定したテストを行う必要がある。セルラーネットワークに接続する端末(UE)を開発する場合も同様だ。基地局/コアネットワークと正常に接続できるかどうか、接続テストを行い評価しなければならない。こうしたテスト、評価を怠ってしまうと、サービス開始後に通信障害が起こり多大な損害が生じる可能性もある。
端末を接続した負荷試験やネットワークとの接続試験といったテスト/評価は、重要性が高く、そのため、専用試験装置が存在する。だが、既存のセルラー系無線通信向けの試験装置は、大手通信事業者が展開する大規模な携帯電話通信網や、数十万台、数百万台といった大規模量産が前提のスマートフォンなどモバイル機器での利用を見込んだものであり、高性能かつ多機能で、高額な試験装置ばかりがそろう。プライベートLTEやローカル5Gのネットワーク検証ではオーバースペックであり、スマートフォンに比べ量産規模が小さいIoT端末の開発現場では、なかなか手が届きにくい金額になっている。
大手通信事業者、そしてスマートフォン以外にも広くセルラー系無線通信が利用されつつある昨今の事情に応じた新たなテスト/評価環境が待ち望まれる中で、基地局向け負荷試験装置メーカーであるアルチザネットワークスが「これまでの評価/テスト装置よりも1桁、コストを抑えられる」というテストソリューションの提案を開始した。
アルチザネットワークスは1990年に創業した日本の企業で、世界に数社しかない、基地局をテストするための負荷試験装置メーカーだ。国内大手携帯電話キャリアをはじめ、国内外の基地局メーカーで負荷試験装置が採用され、2021年7月期売上高は40億円に上る。積極的な技術開発投資を通じ、いち早く5Gに対応した基地局負荷試験装置「DuoSIM-5G」を製品化。1台の負荷試験装置で、数十セルの基地局に数万台の端末が同時接続される状況のシミュレーションテストが行えるなど圧倒的なハイスペックを誇り、世界の基地局負荷試験装置市場をリードしている。
ただ、DuoSIM-5Gは紹介した通り、超ハイスペックであり、プライベートLTEやローカル5Gといったエリア限定の小規模ネットワークには不向きな部分がある。「ニーズが増えつつあるプライベートLTEやローカル5Gなどのネットワーク構築や、セルラー対応IoT端末/無線モジュールの開発用途に向けたテストソリューションを用意したい」という狙いから、フランスに本社を置くAmarisoftのシミュレータ製品「AMARI UESimbox」(端末を疑似)および、「AMARI Callbox」(基地局を疑似)の国内販売を開始した。
Amarisoftは2012年に設立し従業員数十人の小規模な新興企業だが、46カ国/600社以上の顧客に製品を供給。短期間でこのような豊富な実績を残してきた背景には、AMARI UESimbox/AMARI Callboxの独自性がある。
一般的なテストソリューションは、専用ハードウェアで構成される「ハードウェア製品」である中で、AMARI UESimbox/AMARI Callboxは「ソフトウェア製品」であり、汎用的なサーバ上で動作する。コスト高を招く専用ハードウェアを必要としないため大幅な低コスト化を実現。さらにアルチザが長年にわたって通信業界で培ったノウハウで試験シナリオの作成やテストの請負、試験要員の貸し出し、日本語でのサポートといった付加価値とともに提供することで、低コストでかつハイグレードなテスト/評価環境を構築できることになる。
テストソリューションとしての機能も、専用の試験装置に劣らず、逆に上回る部分も存在する。専用試験装置の多くは対応する周波数帯が限られるが、AMARI UESimbox/AMARI Callboxは、あらゆる周波数帯に対応可能だ。というのも、AMARI UESimbox/AMARI Callboxは、無線の送受信を行うRF部の設定をソフトウェアで自在に変更できるSDR(Software Defined Radio/ソフトウェア無線)技術を採用。汎用サーバの拡張スロットに、SDRカードを差し込むことで、基地局/コアネットワークを疑似するAMARI Callboxであれば、ミリ波を含むあらゆる周波数帯に対応する。複数の端末を疑似し基地局のテストに適するAMARI UESimboxでも、Sub6と呼ばれる6GHz帯未満のあらゆる周波数帯の電波を送受信できる。
アルチザネットワークスでAmarisoft製品の技術サポートを担当する堀佑多氏は「SDR技術により、周波数帯に応じて製品を買いそろえる必要がなく、そういった面でもコストを大きく抑えることができる」とする。
ハードウェアを選ばず、あらゆる周波数帯に対応するフレキシブルさを持つAMARI UESimbox/AMARI Callboxだが、使い方も至ってシンプルだ。堀氏が「AMARI UESimbox/AMARI Callboxには、20種類ほどの設定例がプリインストールされている。テストしたい無線規格、内容を選べばすぐに、試験を開始できる。私自身、モバイルネットワークに関する知識が浅かった新卒入社から間もない頃に、AMARI UESimbox/AMARI Callboxの社内評価を任されたが、迷いなく使用することができた」と振り返るほどだ。
SDR技術によりあらゆる周波数帯に対応しながら汎用サーバが使用でき、使いやすさも兼ね備えるというAMARI UESimbox/AMARI Callboxは、さまざまなセルラー系無線通信のテスト/評価が行える。いくつかのテスト評価事例を紹介していこう。
1つ目の使用例は、ある自動車メーカーでの事例だ。この自動車メーカーでは、これまでも基地局シミュレータを用いてテレマティクス用LTEモジュールの評価試験を行っていて、「より多くのシミュレータを用いて評価試験を加速させたい」との要望を持っていたが、シミュレータ導入費用がネックになっていた。そうした中で、基地局シミュレータであるAMARI Callboxの低価格に着目。従来の基地局シミュレータより半額以下の「AMARI Callbox mini」を試してみたところ、従来の基地局シミュレータで実施していた評価試験が行えることが判明。さらに軽量で持ち運びも容易ということで採用を決定した。従来の基地局シミュレータ1台分のコストで、AMARI Callbox miniを複数台導入し、評価試験系を無事に増やすことができたという。
AMARI Callbox miniについては、スマートメーターメーカーでも採用された事例がある。アルチザネットワークスでAmarisoft製品の営業を担当する福井望斗氏は「このメーカーでは、LTE Cat.M端末を採用するにあたり、実フィールドで起こる弱電界やノイズ、干渉時の評価、検証に困っていたが、AMARI Callbox miniを試用したところ、容易に接続確認ができ、評価検証がスムーズに行えたことで採用に至った。今後はアルチザとしても工業製品向けに拡販していきたい」という。
「まだ採用検討段階だが、AMARI CallboxのTDD Configを柔軟に変更できる機能に興味を持つユーザーも多くいる」(堀氏)という。なお、TDD Configの変更とは、TDDにおける上り通信用スロットと下り通信用スロットの比率を変えること。4K動画など大容量データをアップロードするような場合、制度化されているスロット割り当てでは、上りスロットの容量が足りず、上りスロットを追加し比率を高めなければならないケースがある。AMARI Callboxでは、このTDD Configの変更が柔軟に行えるため「ローカル5Gなどを使用して、4K動画伝送を試みる自治体など複数のユーザーで興味を持ってもらい採用検討が進んでいる」(福井氏)というわけだ。
基地局やコアネットワークの評価検証に使用する端末シミュレータであるAMARI UESimboxの採用事例としては、ある基地局開発ベンダーでの例を紹介しよう。このベンダーでは、既存のLTEコアネットワークを活用して5Gサービスを提供するための基地局「gNB」の開発を手掛けており、その評価に用いる端末シミュレータを探していたところ、安価なAMARI UESimboxに興味を持ち検討。無線受信信号の確認(コンスタレーション)やプロトコルログの解析ができる点や、1台のAMARI UESimboxで2つの基地局と接続できる点などが決め手になり、採用が決定した。「この顧客では、従来よりも短期間で検証作業が終えて基地局を納入できたと好評で、他の開発、研究用途でもAMARI UESimboxの活用検討が進んでいる」(福井氏)という。
このように、アルチザネットワークスがAMARI UESimbox/AMARI Callboxの取り扱いを開始してわずか2年ほどだが、順調に採用が進んでおり日本国内でも浸透しつつある状況だ。アルチザネットワークスでは、さらなるAmarisoft製品の利用拡大を目指し、新たな提案活動を開始している。Amarisoft製品を使用した「受託テスト評価サービス」の提案だ。
アルチザネットワークスは、2021年に岩手県滝沢市にある自社開発拠点の隣接地に「滝沢テレコムテストセンター」(通称:T3C)を開設。T3Cは、最新鋭の設備を備え、基地局のテスト評価が行えるラボが複数あり、受託テストやユーザーに施設/ラボを貸し出すビジネスを展開。これまでは、DuoSIM-5Gなど自社製品をベースにしたサービスを展開してきたが、このほど、AMARI UESimbox/AMARI CallboxについてもT3Cに導入、利用可能な体制を整えた。
堀氏は「4G/LTEや5Gの応用範囲が拡大しニーズも大きく多様化している中では、基地局/端末のテスト/評価は一時的というケースもあるだろうし、ネットワークに関する知識を持ち合わせていないというような場合も多々あるだろう。そこで、AMARI UESimbox/AMARI Callboxを購入せずに一時的に利用できる選択肢や、テストシナリオの作成も含めてテスト/評価自体を委託できる選択肢を用意した。こうしたサービスの提供でより幅広いニーズに応えていく」とする。アルチザネットワークスでは、T3Cの拡張に向けた取り組みを進めており、「2023年には電波暗室を備えた施設になり、実際に電波を飛ばしたテストも行えるようになるだろう」(堀氏)。アルチザネットワークスではこの他にも、基地局/端末のテスト/評価に精通するエンジニアを、ユーザー側に派遣するサービスも展開している。
さらにアルチザネットワークスでは、こうした技術サポート体制を強化するため、現状160人ほどのグループ人員数を2025年度までに1.5倍程度までに増やす計画。積極的な採用活動を展開するとともに、エンジニアの育成に取り組んでいる。アルチザネットワークス執行役員の永井英樹氏は「AMARI UESimbox/AMARI Callboxの取り扱いを始めたのは、ユーザーニーズに応えるとともに、自社のエンジニアに自社製品だけでなく、他社の最先端技術や製品に触れる機会を作りたかったという狙いもある。エンジニアにとって学びやすく、働きやすい環境を作ることで優秀なエンジニアを獲得、育成し、ひいては、顧客に優れた製品、エンジニアリングサービスを提供したい」と語る。なお、同社は2025年7月期売上高目標として、2021年度比2倍になる80億円を計画している。
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提供:株式会社アルチザネットワークス
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2022年9月26日