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積極M&AでIoTの総合ソリューションプロバイダーへ飛躍するSynapticsの狙いとはDisplayLink、DSP Group、BroadcomのIoT無線事業を相次いで買収

ヒューマンマシンインタフェース(HMI)関連半導体メーカーとして成長してきたSynaptics(シナプティクス)は近年、大きな変貌を遂げつつある。積極的なM&Aを展開するなど製品ラインアップを大きく広げ、IoTに付加価値を提供するソリューションプロバイダーを目指すという。同社日本法人 事業本部長 高橋庸輔氏にSynapticsの事業戦略などについてインタビューした。

» 2022年08月22日 10時00分 公開
[PR/EE Times Japan]
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 業界に先駆けPCのタッチパッド向けタッチセンサーやタッチセンサーとディスプレイドライバーを統合したTDDI(Touch Display Driver Integration)を製品化するなどヒューマンマシンインタフェース(HMI)関連半導体メーカーとして成長してきたSynaptics(シナプティクス)は近年、大きな変貌を遂げつつある。

 2020年にHDMIなどの映像系インタフェース向けICに強いDisplayLinkとBroadcomのIoTワイヤレス事業を買収。翌2021年にも、音声制御/音声インタフェース関連製品を展開するDSP Groupを買収した。こうした積極的なM&Aに加え、省電力を特長にしたEdge AI SoC「Katana」を自社開発し展開を開始した。

 急速に製品ラインアップを拡張し続けるSynapticsの狙いは何か。

 「IoT(モノのインターネット)分野で総合的なソリューションを提供できるソリューションプロバイダーを目指す」と語るシナプティクス・ジャパン 日本法人 事業本部長 高橋庸輔氏にインタビューした。

シナプティクス・ジャパン 日本法人 事業本部長 高橋庸輔氏

積極的なM&A、技術開発でIoTに向けた包括的ソリューションを用意

――Synapticsの事業についてご紹介ください。

高橋庸輔氏 1986年に設立して以来、人と物をつなぐHMIに関する技術を基盤にして事業規模を拡大してきた。

 25年以上前に「ニューラルネットワーク研究所」を開設し、HMI関連技術を先行して開発して世の中をリードしてきた。具体的には、PCのタッチパッドなどとして普及したタッチセンサーを世界に先がけ開発した他、静電容量センサーでは世界で最初に携帯電話機に採用されたという実績も持つ。他にも、指紋センサーや、タッチセンサーICとディスプレイドライバーICを統合したTDDIを開発した。

 現在も、タッチセンサーなどはPC/モバイル機器市場で、TDDIなどでは車載機器市場で、それぞれ高いシェアを有している。

 今後も、タッチセンサーやディスプレイドライバーはSynapticsの主力事業として強化を継続していく。そして、これらのHMI技術の付加価値をより高める技術、製品をM&Aを含めて積極的に拡充し、IoT分野で総合的なソリューションを提供できるソリューションプロバイダーを目指している。

 Synapticsでは、コンセプトミッションとして「Engineering Exceptional Experiences」を掲げている。日本語で言い換えれば、「卓越した技術、比類ない技術で人々に感動を与える」ということ。IoT分野で「Engineering Exceptional Experiences」という役割を果たしていきたい。

Synapticsのコンセプトミッションイメージ[クリックで拡大] 出所:シナプティクス・ジャパン

――IoT分野での総合的なソリューション提供、コンセプトミッションの実現に向けた取り組みについて教えてください。

高橋氏 既存領域のセンサーやディスプレイパネルを外部と接続するためのインタフェースを拡充している。その一環として、2020年には、HDMIやUSBといったインタフェース関連技術を持つDisplayLinkを買収した。さらに同じ2020年には、BroadcomのIoTワイヤレス事業を買収し、Wi-Fi、Bluetooth、GPS(GNSS)といったワイヤレスコネクティビティ製品がラインアップに加わった。ご存じの通り、Wi-Fi、Bluetoothは、IoT端末がインターネットにつながるために不可欠なインタフェースであり、IoT分野でのソリューションプロバイダーを目指す上で重要な製品群が加わったと考えている。

Synapticsの事業概要[クリックで拡大] 出所:シナプティクス・ジャパン

省電力に特長を持つコネクティビティ&Edge AI SoC製品

――ワイヤレスコネクティビティ製品はどのような特長があるのでしょうか。

高橋氏 Broadcomのワイヤレスコネクティビティ製品は省電力が特長で、OTT(Over-The-Top)サービス用端末や、セキュリティカメラ、スマートホームデバイスなど幅広いIoT機器で採用されているなど競争力がある。

 最新製品の「Triple Combo Wireless」は、Wi-Fi、Bluetoothに加え、スマートホーム共通規格「Matter」の登場で利用拡大が見込まれる「IEEE 802.15.4」と3つのワイヤレス通信に対応するコンボ製品になっている。先端の16nmプロセスを使用してさらなる省電力化を実現している他、USBインタフェース対応などの特長もあり、スマートホーム用途での採用が期待できる製品だ。

 他にも、最新のWi-Fi規格「Wi-Fi 6E」に対応した製品(型番:SYN43756)など特長ある製品がそろっている。また、次期Wi-Fi規格「Wi-Fi 7」対応製品の開発にも着手しており、IoT向けワイヤレスコネクティビティ分野をリードしていく。

 なお、旧BroadcomのIoTワイヤレス事業の製品には、GPS製品も含まれている。GPS製品についても「L1バンド帯」と「L5バンド帯」という2つの周波数帯に対応する製品を世界に先がけて提供するなど高い技術力を有している。直近では7nmプロセスを採用し、さらに消費電力を低減した製品を投入した。高い測位精度を誇りながら、小型、省電力という特長で、ウェアラブル機器を中心に拡販を進めていく。

コネクティビティ関連製品概要[クリックで拡大] 出所:シナプティクス・ジャパン

――IoT向け製品として、Edge AI SoCも展開されています。

高橋氏 IoT領域では、大規模なGPUを駆使したAI/ニューラルネットワークによる高度な画像/音声の認識、解析を行うソリューションが注目を集めているが、Synapticsではそうした領域ではなく、バッテリー駆動を行うエッジ端末でのAI処理に焦点を絞っている。こうしたエッジでのAI活用は、既存のセンサーの機能に付加価値をもたらす技術として注目され、需要が確実に伸びている領域でもある。

 低消費電力でAI処理を実現するというニーズに対して、開発したEdge AI SoCが「Katana」だ。Katanaは特に画像のAI処理に優れ、入退室検知や室内における人物の数や位置検知、人の転倒検知といった処理が行える。こうした処理性能を持ちながらも単3電池2本で1年以上動作する低消費電力デバイスになっており、幅広いエッジAIニーズを取り込むことが可能な製品になっている。

 Katanaは、画像の他に各種センサーデータのAI処理、音声認識も行えるが、音声認識に特化したソリューションとして「Smart Voice」も用意している。

 Smart Voiceは2021年に買収したDSP Groupのソリューションをベースに、Synapticsがこれまで培ってきた、音声認識率を高めるためのエコーキャンセル技術やノイズキャンセル技術を組み合わせたソリューションだ。端末で登録したユーザーの音声のみに反応する声紋認証や、ガラスの割れた音や動物の鳴き声、火災報知器の警報音といった特定の音のみを検知する「Sound Event Detection機能」も実現できる。音声インタフェースを持つIoT端末の他、セキュリティー機器でも採用を見込んでいる。

Edge AI SoC関連製品概要[クリックで拡大] 出所:シナプティクス・ジャパン

シナジー発揮し付加価値提供する包括ソリューション提案へ

――タッチセンサー、ディスプレイコントローラー、ワイヤレスコネクティビティ、Edge AI SoCなど製品ラインアップがかなり広がりました。

高橋氏 IoT分野でのソリューションプロバイダーとして、一通りの製品、技術がそろったと自負している。今後は、これら技術、製品を組み合わせて、それぞれの価値を高めながら、ソリューションとして提供していく。

 ここ数年の積極的なM&Aはいずれも他の製品との相乗効果、シナジーを発揮できるものばかりであり、特長のあるソリューションが提供できる下地が整った。

――複数の製品/技術を統合して開発したソリューション例はありますか。

高橋氏 まだまだ買収したばかりで、開発中のものが多く、今後に期待してほしい。その中で、先行的に開発したものとして、ワイヤレスドッキングステーションに向けたソリューションがある。これは、DisplayLinkのHDMIなどのインタフェース技術とBroadcomのワイヤレスコネクティビティ技術を組み合わせて開発したソリューションで、PCをドッキングステーションに近づければ、無線通信経由で外部モニターに映像を出力できるような次世代型のドッキングステーションを提案するものになっている。

日本市場比率20%、「Synapticsにとって重要な市場」

――Synapticsにとっての日本市場の位置付けについて教えてください。

高橋氏 Synapticsの全社売上高17億米ドル超(2022年6月期実績)における日本での売り上げ比率は約20%に及ぶ。一般的な外資系半導体メーカーの日本での売り上げ比率は10%前後とされており極めて高い。この点において、Synapticsにとって日本は重要な市場であることが分かってもらえるだろう。

 何より、日本市場には、ゲーム機、家電、自動車、産業機器などの各領域で世界市場をリードする企業が多くある。こうした世界的なリーダー企業に対し、ソリューションを提供していくことがSynapticsの成長に欠かすことはできない。そういった面でも、日本は重要な市場だ。

――日本での販売戦略について教えてください。

高橋氏 日本では顧客に直接、対応する営業、技術、品質の各チームを設け、各種サポートを提供してきた。ただ、取り扱う製品群が増える中で、より幅広い分野や顧客に対してサポートを提供する必要が出てきたので、販売/サポート体制の強化に取り組んでいる。

 具体的には高度な製品を販売できる技術力、提案力を持つ有力な販売代理店との協業が重要だと考えている。そこで、これまで10社以上あった販売代理店をマクニカともう1社に変更し、より強いパートナーシップを結んだ。

マクニカは、高い技術力を強みにして、幅広い顧客層から厚い信頼を得ている技術商社。こうした優秀なパートナーのリソースを活用することで、日本のIoT分野でも確実に採用数が増えつつあり、今後が期待できる状況になっている。

 また外資系半導体メーカーとしては珍しく、日本に技術者が100人以上在籍するデザインセンターを有している。このデザインセンターは(2014年に買収した)ルネサス エレクトロニクスのディスプレイドライバー事業の流れをくむ拠点であるため、現状はディスプレイドライバーなどの製品に開発機能は限られている。ただ、今後は対応できる製品領域を拡大し、日本の市場ニーズに応じたさまざまな製品を開発できる拠点へと強化していきたいと考えている。

――このところ半導体業界は供給がひっ迫し、ユーザーの多くが半導体調達に苦労しています。Synapticsとして安定供給に向けて取り組んでいることはありますか。

高橋氏 半導体不足が深刻化した2021年は、非常に供給に苦労する場面があり、一部の顧客にご迷惑をお掛けすることにはなったが、昨今の半導体不足に先立って、製品製造の委託先の見直しを行い、特定の半導体受託製造企業(ファウンドリー)と戦略的パートナーシップを締結することで、より優先的にSynaptics製品を製造してもらえる環境作りを進めてきていた。そうした事前の対策が功を奏し、顧客への影響を抑えながら、供給を継続することができた。

 長期安定供給性を確保することは半導体メーカーとしての重要な使命と考え、さらなる供給改善に向けて継続的に取り組みを進めていく。

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提供:シナプティクス・ジャパン株式会社、株式会社マクニカ
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2022年9月13日

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