モバイルメモリの進化は常にスマートフォンの進化を支え、新たなアプリケーションの実現をもたらしてきた。Micron Technologyが開発する最新の「LPDDR5X DRAM」では、性能と電力効率がさらに強化され、次世代のモバイル体験へとつながる新しいアプリケーションの登場を支えている。
世界で年間約13億台出荷されるスマートフォン。登場から十数年が経過し、今や日常生活に欠かせない重要なデバイスの一つになっている。特に、スマートフォンメーカー各社のフラグシップ機における機能の進化は目覚ましく、近年は5G(第5世代移動通信)やAI(人工知能)技術の導入と相まって、これまでにないユーザーエクスペリエンスを実現している。
スマートフォンのこうした進化は、モバイルネットワーク、ハードウェア、ソフトウェアといったさまざまな要素が支えてきた。その中でもメモリは、スマートフォンの性能のみならず、新たなアプリケーションの誕生にも深く関わっている部品の一つだ。
プロのように撮れる写真撮影、4K動画のライブストリーミング、オンラインでのゲームプレイ――。こうしたアプリケーションの膨大なデータは全て、メモリを介してプロセッサに送られ、処理される。どれほどプロセッサが高性能になっても、メモリも高性能でなければ、ユーザーが期待するようなスマートフォンの機能やユーザーエクスペリエンスは実現が難しい。
実際、モバイルメモリはLPDDR1から世代を重ねるごとに高性能化していて、JEDECが2021年に発表した最新規格LPDDR5Xでは、データ転送速度は、前世代のLPDDR5の6.4Gビット/秒(bps)から最大33%高速な8.5Gbpsに達する。スマートフォンメーカー各社の最新フラグシップ機には、新しい世代のCPUやSoC(System on Chip)に合わせて最新のLPDDR規格が導入されるのが、今や一般的になっている。スマートフォンの性能を最大限に引き出すためには、最新の高性能メモリが不可欠なのだ。
Micron Technology(以下、Micron)はこのようなトレンドを見据え、いち早くLPDDR5X DRAMの開発に取り組んできた。
現在、スマートフォンメーカー各社のフラグシップ機に搭載されている最新のメモリはLPDDR5 DRAMである。LPDDR5 DRAMとプロセッサを積層したPoP(Package on Package)として搭載されていることが多い。Micronによれば、LPDDR5 DRAMの市場規模は現在、LPDDR DRAMの中で約30%(ビット比率)を占めている。「2023年には50%、そして2026年には90%になると予想されている」(同社)
2023年以降は、LPDDR5X DRAMを搭載したフラグシップ機が市場に投入される見込みだ。
フラグシップ機の一つ下のクラスになるハイエンド機には、LPDDR4 DRAMとNAND型フラッシュメモリを混載したMCP(Multi Chip Package)メモリが搭載されている。
フラグシップ機に搭載されているPoPは通常4チャンネルを備えていて、LPDDR5X DRAMを採用した場合、理論上のデータ転送速度は8.5Gビット/秒(bps)、ピーク帯域幅は68Gバイト/秒になる。有効帯域(約80%)で考えても約54Gバイト/秒になり、かなりの高帯域を実現できる。
一方、LPDDR4 DRAMのMCPは2チャンネルで、有効帯域は14Gバイト/秒だ。フラグシップ機からランクが一つ下がるだけで、メモリの有効帯域には大きな差が出てしまうことになる。「フラグシップの機能を取り入れたいハイエンド機では、メモリ帯域がボトルネックになってくる。特にAIアプリケーションの活用で制約が出てくるので、ハイエンド機ではLPDDR5 DRAMへの移行が強く望まれている」(Micron)
LPDDR5Xのデータ転送速度は、LPDDR4の4.26Gbps、LPDDR5の6.4Gbpsからさらに高速化し、最大8.5Gbpsとなっている。「これはひと昔前のスーパーコンピュータ(スパコン)レベルの転送速度だ」(Micron)
だが特長は転送速度だけではない。「どうしても転送速度に目がいきがちだが、1600M〜3200Mbpsの中低速における低消費電力性能にも注目してほしい」とMicronは述べる。Webブラウジングや動画や音楽の視聴、写真撮影など、多くのユーザーにとって最も使用頻度が高いアプリケーションは通常、中速の転送速度で十分に動作できる。つまり、中速での消費電力を低減することは、スマートフォンの日常的な利用において消費電力を低減できるということなのだ。LPDDR5では、JEDECの仕様に基づくアーキテクチャの改善により、この中速での消費電力がLPDDR4に比べて低減しているが、LPDDR5Xでは、さらなる低消費電力化が実現されている。
消費電力について、もう少し具体的に見てみよう。スマートフォンの消費電力を実生活での使用(DOU:Day of Use)レベルで測定したところ、MicronのLPDDR5X DRAMは、前世代のLPDDR5 DRAMに比べて約20%低かった。
この20%という数値は、スマートフォンで毎日行われる標準的なユースケースとタスクの分析に基づいて算出されたものだ。「Wi-Fi通信やWebブラウジング、ゲーム、カメラの使用、マルチメディアなど、20種類を超えるアプリケーションの動作時間に関する日常使用の統計があり、その統計を活用して分析した」(Micron)
なぜこれほどの低消費電力化を実現できたのか。理由は3つある。1つは、LPDDR5Xの高速化によりSoCとDRAM間のデータ転送が短期間で完了するので、その後すぐにSoCやDRAMがスリープモードに移行できること。
2つ目は、JEDECで策定されたアーキテクチャの改善に加え、Micronが設計の最適化を重ねたことによるもの。
そして3つ目は、Micronの最先端プロセスの採用だ。Micronは、より電力効率の高いダイを小さくするために、新しい先端プロセスノードへの投資と開発を積極的に行っている。LPDDR5で1Znm、LPDDR5Xでは1αnmプロセスを開発した。「低消費電力化の実現には、アーキテクチャ、設計、プロセスの3つが大きく関わるが、設計の最適化と最先端プロセスの採用が、MicronのLPDDR5X DRAMの差異化要因である」(Micron)
さらにMicronはJEDECの規格には満足せずに、「実生活での使用時における速度と消費電力」に重点を置いて開発している。スマートフォンが実際にどう使われているかを分析して、消費電力を最適化しているのだ。「低消費電力性能と、高速動作時の安定性を両立できるよう設計して、使いやすさを追及している」とMicronは強調する。
主要SoCメーカーともいち早く協業し、プリシリコンのシミュレーションやポストシリコンの検証を徹底して行っている。2021年11月には、MediaTekのSoC「Dimensity 9000」とMicronのLPDDR5X DRAMの組み合わせの検証が完了したと発表した。「それ以降、われわれはLPDDR5Xのリーダーとして、SoCメーカーとの共同開発を加速している。MediaTek以外の主要SoCメーカーとも共同開発を進めており、これらは極めて順調だ」(Micron)
基板設計のレビューや製品検証を共同で行うこともある。「8Gbpsを超える高速バスを使うとなると、シグナルインテグリティの維持について懸念を抱く顧客もいる。そうした懸念を払拭するため、当社は基板設計のレビューや製品検証を顧客と共同で実施し、安心して最新のDRAMを使用できるようにしている。こうした取り組みは顧客各社から高い評価をいただいている。高速化するにつれて、顧客と協業して製品開発を行う重要性が増している」(Micron)
Micronは現在、LPDDR5X DRAMで、容量16Gバイトまでの製品をラインアップしている。また、LPDDR5Xの7.5Gbps品と8.5Gbps品を、一部の顧客に向けて、スマートフォンの量産用に出荷中だ。
では、データ転送速度が速くなり、有効帯域が増加したことで、スマートフォンのアプリケーションはどう進化するのだろうか。
まずは画像処理だ。カメラや撮影機能は昨今のスマートフォンで、最も注目される機能である。同時に、処理するデータ量が多いのもこの画像処理だ。「簡単に、失敗なく、プロのような写真や動画を撮りたい」というトレンドは今後も続くとみられ、ここにはメモリの高速化が大きく貢献する。
人物や音声の認識をはじめとするAIアプリケーションも進化するだろう。メモリが高速化すれば、高度なアルゴリズムを使用し、より迅速かつ的確な判断ができるようになる。これにより、ユーザーや状況、さまざまな環境を理解し、それらの変化に応じて対応する「コンテキストアウェアネス」の能力が向上し、スマートフォンがより一層、パーソナライズされていくことも予想される。コンテキストアウェアネスのアプリケーションでは、画像処理のように大量の帯域を消費するというよりも、小さな帯域が継続して消費されると予想されるため、やはり高帯域のメモリは欠かせないだろう。
「新世代のモバイルメモリが登場するたびに、よりパワフルで効率的なモバイル体験の可能性が開花している」とMicronは語る。
2012年にLPDDR3が発表され、スマートフォンの性能は大きく向上した。これによってGPSを活用したスマートフォンでのナビゲーション機能が大幅に進化し、さらにそこから、デリバリービジネスやライドシェアなど、新たなサービスが登場した。「当時は、スマートフォンでのナビゲーション機能が、これほど日常的に使われるようになるとは誰も予想していなかったのではないか」(Micron)
そして2020年、LPDDR5が発表され、ほぼ同時に5Gが導入された。処理できるデータ量は飛躍的に増え、高度なAIを使ったプロ並みの写真撮影や、スマートフォンのスムーズな使用感を維持したままでの4Kライブストリーミングといった、従来は難しかったユーザーエクスペリエンスが実現した。
LPDDR3の登場によるナビゲーション機能の発展を予測できなかったように、LPDDR5Xの導入で、今後の世界がどう変わるのかを明確に予測するのは難しい。だが、思いもよらなかったサービスやアプリケーションが生まれてくるのは間違いないだろう。
「技術とサービスは、鶏と卵に例えられることも多い。だがやはり、メモリを含めハードウェアが進化したからこそ、新たなサービスやユースケースが生まれるのではないか。そう考えると、最新のメモリ開発は、予測できない未来へとつながるエキサイティングな世界でもある」(Micron)
LPDDR5X DRAMの性能と電力効率は、新しいAIと5Gの機能をスマートフォンにもたらすだろう。Micronのメモリは、そうしたイノベーションの一翼を担っているのだ。
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提供:マイクロンメモリ ジャパン株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2022年9月30日