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V2G/V2H時代の電力システムをどう構築すべきか、そのヒントはモデルベース開発に自動車開発だけじゃない! MATLAB、Simulinkは電力システム構築にも

再生可能エネルギーを中心とする新たな電力システムでは、エネルギーストレージとして電気自動車(EV)を組み込むV2G/V2Hが検討されている。だが、こうした次世代の電力システム開発には、さまざまな課題が存在する。家やビルから町、都市レベルでエネルギーを管理するアルゴリズムはどう開発すべきか。新たに電力システムと関わりを持つようになる自動車メーカーは、人材育成を含めどう取り組むべきなのか――。V2G/V2H時代の電力システム開発を取り巻く課題の解決方法を探る。

» 2022年11月15日 10時00分 公開
[PR/EE Times Japan]
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EVをストレージとして取り込む「V2G/V2H」

 持続可能な社会に向け世界的にカーボンニュートラル/脱炭素の実現を目指す動きが活発化している。そうした動きの中心にあるのが、電力システム/電力網の最適化だ。多くの二酸化炭素を排出する化石燃料を使用した従来の発電システムに代わって、太陽光や風力といった再生可能エネルギーの割合を増やそうという動きであり、各国政府は政策として数値目標を掲げ、再生可能エネルギーによる発電量の割合を高めようとしている。

 ただ、再生可能エネルギーの導入には、さまざまな課題が存在する。最も大きな課題が「不安定」という点だ。太陽光や風力など自然の力をエネルギー源とするため、どうしても従来の発電システムに比べ、発電が不安定になってしまう。絶対的な安定供給が必須である電力システムにおいて不安定さは致命的であり、再生可能エネルギーの最大の弱点ともいえる。

 この弱点を補うのが、発電した電力をためておくエネルギーストレージ、すなわち蓄電池だ。だが、再生可能エネルギーの不安定さを補うには、消費者に近いあらゆる場所に蓄電池を配置する必要がある。その量は膨大であり、社会インフラの一つとしてエネルギーストレージを配備することは容易ではない。

 そうした中で、大きな注目を集めているのが、電気自動車(Electric Vehicle/EV)だ。カーボンニュートラル/脱炭素の関連から、ガソリンなど化石燃料に代わり、電気エネルギーで走行するEV開発は加速している。2030年代以降はガソリン車の新車販売を禁止するなど、全面的にEVへの移行を促す国も少なくなく、一気にEVの時代を迎えるとみられている。EVには、当然ながら一定容量の蓄電池が搭載されている。この蓄電池を、電力システムの一部として組み込み、電力システムのエネルギーストレージとして活用する動きが始まっているのだ。全世界で年間1億台近くの新車が出荷される自動車の蓄電池を電力システムとして組み込むことができれば、相当量のエネルギーストレージを確保できるようになる。こうした考え方は「Vehicle to Grid」(V2G:クルマから電力網へ)、「Vehicle to Home」(V2H:クルマから家へ)と表現され、徐々に定着しつつある。

 V2G/V2Hが実現されれば、電力網/電力システムの在り方は大きく変わることになる。従来の発電所、変電所、配電システムだけだった電力網に、各種再生可能エネルギーや多種多様なEV、定置型蓄電システムなどのコンポーネントが加わる。こうしたさまざまなコンポーネントを、技術的にも、経済的にも最適に運用することは、これまでよりも段違いに難しくなることは安易に想像が付く。また、コンポーネントの多様化によって、電力システムサービス提供者が多様化することも予想される。実際、V2G/V2Hの時代を見据え、自動車メーカーが電力システムサービスの提供を模索する動きが活発化しており、電力システム事業への新規参入は相次いでいくだろう。

 複雑なV2G/V2H時代の電力システムをどのように構築すればよいのか。しかも、自動車メーカーのエンジニアなど、これまでエネルギーマネジメントシステム(EMS)との関わりが薄かったエンジニアは、どのように電力システム構築と対峙(たいじ)すればよいのだろうかーー。

電気自動車を含む電力システム開発の課題[クリックで拡大] 出所:MathWorks Japan

 有力な電力システム開発手法として注目されているのがモデルベースデザイン(モデルベース開発、MBD)のプラットフォームであり、技術計算ソフトウェアツール「MATLAB、Simulink」の活用だ。

電力システムの最適化が迅速に行えるMATLAB、Simulink

 自動車開発エンジニアにとって、モデルベースデザイン、そしてモデルベースデザインを実現するツールであるMATLAB、Simulinkは、なじみがあるだろう。開発規模が増大する自動車業界や宇宙航空業界において、効率的に開発を進める手法としてMATLAB、Simulinkを活用したモデルベースデザインが一般化しているのは、ご存じの通りだ。

技術計算ソフトウェアツール「MATLAB、Simulink」の概要[クリックで拡大] 出所:MathWorks Japan

 さまざまな技術領域が必要とされる電力システム開発は、データ収集、AI、最適化、実装などを単一のプラットフォームで実現できるMALTAB、Simulinkの得意領域でもある。そして、V2G/V2Hなど新たな電力システムにおいてはさらにその重要性は増すとみられている。

 電力システム開発にMATLAB、Simulinkが用いられている先進的な事例の1つが、仮想発電所(VPP:Virtual Power Plants)向けEMS(EMS:Energy Management System)ソフトウェアを提供する韓国企業VGENだ。VPPとは、太陽光発電システムや蓄電システムなどさまざまな電力源を、仮想的に1つの発電所と見なして管理、運用する技術であり、V2G/V2H時代の新しい電力システムそのものといえるような存在だ。そのVPPの根幹を成すのが、VGENが提供するEMSソフトウェアになる。VPPの司令塔ともいえるEMSソフトウェアでは、あらゆる要素を考慮する必要がある。独立した各電力源の発電量および蓄電容量、電力需要、さらには電力の市場価格や気象情報など多岐にわたり、なおかつ、その将来を予測しなければならない。

 具体的には、気象情報や電力価格、各発電システム/蓄電システムの実績データの収集、分析(データアグリケーション)を行い、それらのデータから電力需要、発電量や電力価格等の予測モデルを導き出す。その予測モデルに基づいた最適な各システムの運用計画をEMSアルゴリズムが生成し、実際にVPPを運用するのだ。

エネルギーマネジメントシステム開発の流れ[クリックで拡大] 出所:MathWorks Japan

 データアグリケーションから、予測、最適化という一連のEMSアルゴリズム開発においてVGENは、MATLABを活用し、早期製品化に至ったという。MATLAB、Simulinkでは、電力系統、太陽光発電システム、EV、蓄電池など電力システムを構成する各コンポーネントのモデルを構築し、電力シミュレーションが行えることはもとより、AI(深層学習/機械学習)を用いた電力需要や発電量等の予測モデルや各システムの運用を最適化する最適化関数が用意され、「予測」「最適化」もMATLAB、Simulinkで完結する。

MathWorks Japan インダストリーマーケティング部 IA&M インダストリーマーケティングマネージャー 遠山巧氏

 MathWorks Japan インダストリーマーケティング部 IA&M インダストリーマーケティングマネージャーを務める遠山巧氏は「MATLABではStatistics and Machine Learning ToolboxやDeep Learning Toolboxなどが用意されAIによる予測モデルを手軽に開発できる上、豊富な最適化関数ライブラリもあり、各システムの運用最適化のみならず、時間帯で変わる電力取引額など経済指標を用いてアルゴリズムを最適化できる。単に電力消費効率などを追い求めた技術指標だけでなく、電力価格などの経済指標を用いて最適化を図れる点もMATLAB、Simulinkの大きな特長の1つであり、経済指標が重要な要素である新規ビジネス開拓としての電力システムの開発に広くMATLABが活用されている理由の1つだろう」とする。

 電力システムやEMS構築におけるMATLAB、Simulinkの活用事例は日本国内にも多数ある。その1つが、ダイヘンによる「VPPを実現するEMS」の開発だ。

 変圧器やパワーコンディショナーなど電力システム向けのコンポーネント/装置メーカーであるダイヘンは、新たにVPPを実現するためのEMSアルゴリズムの開発に着手。その際、それまでコンポーネント開発で活用してきたMATLAB、SimulinkをEMS装置開発にも適用した。電力系統や受電盤、太陽光発電システム、EVシステム、蓄電池システム、負荷といったEMS装置を取り巻く各コンポーネントのモデルを使用し、ハードウェアを構築することなく、EMSアルゴリズムを短期間で開発。「Synergy Link」という名称の自律分散協調制御技術を構築し、パワーコンディショナーなど各種コンポーネントに搭載して実証を行っている。

 「EMSを開発する際に、実機で検証しようとすると膨大なコストと工数が掛かる。コミュニティレベルの電力システムとなれば、実機での検証はほぼ不可能といってよいだろう。モデルベースデザインによるシミュレーションの利用が不可欠であり、最良の方法だ」(遠山氏)

コンポーネント開発から電力システム開発までシームレスに

 ダイヘンのようにコンポーネントメーカーがEMSや電力システムを構築、開発しようとする動きは活発化しており、EVメーカーやEV関連機器メーカーがEMSや電力システムの構築を目指しMATLAB、Simulinkの活用を模索するケースが増えているという。

 例えば、EV用ワイヤレス給電システムを手掛けるLumen Freedomもその1社だ。EV用ワイヤレス充電システムをMATLAB、Simulinkによるモデルベースデザインを用いて開発してきたLumen Freedomは、同充電システムを核にしながらV2G/V2H領域へのビジネス拡大を検討している。

 遠山氏は「Lumen Freedomのように、電力システム開発領域への参入を狙うEVメーカー/EV関連機器メーカーは増加の一途をたどっており、多くの引き合いを得ている」と語る。

 こうしたコンポーネントメーカーが、新たに電力システムのシミュレーションを始める際に、懸念しがちなのが、シミュレーションモデルの詳細度だ。コンポーネントを開発する際のシミュレーションモデルは、用途に応じて機器内部を高い詳細度でモデリングし、例えば制御応答など、マイクロ秒、ミリ秒オーダーでシミュレーションを実行する。「電力システムのシミュレーションを行う場合にも、こうした詳細度の高いモデリングが必要と思われることがある。しかし、電力システムのアーキテクチャーの検討の際は、各コンポーネントを簡略化したモデルで何百通りものシミュレーションを実行して仕様検討を行う。シミュレーション速度とモデル詳細度はトレードオフの関係にあるため、開発するシステムや解析内容によりシミュレーションモデルの詳細度を検討することが重要だ。MATLABは、さまざまな詳細度に対応する高いモデリング自由度を備えているので、電力システムに応じた最適な詳細度でシミュレーションが行える環境になっている」(遠山氏)

シンプルなモデルから高い詳細度のモデルまでにシームレスに対応するMATLAB[クリックで拡大] 出所:MathWorks Japan

 詳細度の異なるモデルの開発には一定のノウハウが必要になるが、MathWorksではモデル開発をアドバイスするコンサルティングサービスを提供し、早期の開発環境立ち上げをサポートできる体制を整えている。また、電力システム開発向けのサンプルモデルも多数用意しており、サンプルモデルを参考にモデリングを実施することも可能だ。もちろん、既に作成済みの詳細度の高いモデルは、MATLAB上で簡単に詳細度を調整できるので、これまでの開発資産も生かすことができる。

エンジニア育成も含めリスキリングを支援

 MATLAB、Simulinkは、コンポーネントメーカーが新たにシステムとして電気領域の開発を行うようなケースにも対応する高いモデリング自由度を備えており、早期の開発環境立ち上げを実現できるツールになっている。ただ遠山氏は「コンポーネントメーカーがシステムとして電気領域の開発を新たに始める場合、電気領域のエンジニアリソースの確保が大きな課題になっている」と指摘する。

 そこでMathWorksでは、電気領域の開発者の育成をサポートするさまざまなプログラムを用意している。

 「EV開発や電力システム開発には、電気領域の知識が不可欠になる。これまで機械系エンジニアとして自動車を開発されてきた方でも、直感的に電気領域でのモデリングが行える電気領域特化型ツール、Simscape Electricalを提供している。同時に、各種トレーニングやコンサルティングサービスも用意しており、エンジニアリソースのリスキリングについてもさまざまな面で支援できる」(遠山氏)

左=電気領域特化型ツールSimscape Electricalのイメージ / 右=さまざまなプログラムが整う電気領域におけるトレーニングサービスメニュー[クリックで拡大] 出所:MathWorks Japan

 再生可能エネルギーや蓄電池、そしてEVを取り込み、大きく在り方を変えようとしている電力システム。エンジニア育成を含めて、電力システムの早期開発や立ち上げを可能にするMathWorksのMATLAB、Simulinkは、電力システムの進化とカーボンニュートラル/持続可能な社会の実現に大きな役割を果たすはずだ。

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提供:The MathWorks, Inc.
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2022年12月14日

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