インフィニオン テクノロジーズは、産業機器向けマイコン「XMC」の新製品としては6年ぶりになる「XMC7000シリーズ」の量産出荷を開始した。高度なモーター/パワー制御を手軽に実現できるマイコンとして定評のある「XMC」はどのような進化を遂げたのだろうか。詳しく紹介していこう。
高度なモーター/パワー制御を手軽に実現できるマイコンとして定評のある「XMC」に、大きな進化を遂げた高性能製品群「XMC7000シリーズ」が加わった。
XMCは、インフィニオン テクノロジーズが主に産業機器向けに展開する汎用マイコンであり、その登場は2012年にまでさかのぼる。Arm Cortex-M4コアを搭載した「XMC4000シリーズ」を皮切りに、Arm Cortex-M0コアを搭載する「XMC1000シリーズ」が発売され、これまでに176種のデバイスがラインアップされてきた。
いずれのデバイスも、産業機器市場に焦点を当て、同市場で要求される要件を満たす「産業機器に適したマイコン」として採用を拡大してきた。特に、高分解能で多機能なタイマーを多く搭載することなど産業機器用途で広く求められる高度なモーター/パワー制御を手軽に実現できるマイコンとの評価を多く集めてきた。
ただ、そうした中でも産業機器市場では、より高度なモーター/パワー制御を求めるニーズがより強まってきた。産業界全体でカーボンニュートラル、持続可能な社会実現への動きが加速する中で、モーター/電力変換システムのエネルギー効率の改善は避けることのできない課題になっている。より無駄がなく、損失が少ないモーター駆動、電力変換を実現するには、それらを制御するマイコンなどのデバイスの性能向上が求められるわけだ。
さらには性能だけでなく、新たな機能も産業用マイコンに求められつつある。機器間やクラウドコンピュータとの連携を強化しシステムや工場レベルでのエネルギー効率改善を図るために、高速な通信機能を備える必要性が高まっている。またそうした通信や日々のアップグレードを実現するためのソフトウェア更新を安全に実現するためのセキュリティ機能も不可欠である。
こうした産業機器市場で新たに求められる性能、機能を満たすマイコンとして開発されたのが「XMC7000シリーズ」だ。しかも、これまでのXMCとは、一線を画す大幅な進化を遂げている。
というのも、インフィニオン テクノロジーズは2020年4月に、サイプレス セミコンダクタを買収。サイプレスは、プログラマビリティを備え静電容量式タッチセンシング機能などに強みを持つ「PSoC」をはじめとしたさまざまなマイコン製品を手掛けた。その中には、産業機器/家電向けマイコン「FM」も含まれている。FMは2010年に当時の富士通セミコンダクターが開発したマイコンで、XMCと同じくCPUにArmコアを搭載し、大容量メモリの搭載や産業機器や家電市場で要求が強い5V駆動対応などの特長を備え、国内外で多くの採用実績がある。
インフィニオン テクノロジーズ ジャパンでコネクテッド セキュア システムズ事業本部ディレクターを務める細田秀樹氏は「XMC7000シリーズは、サイプレスのマイコン関連技術を融合して開発した製品。特に、XMCと同じ産業機器市場をターゲットにするFMマイコンの良さ、特長を引き継いでおり、XMC7000シリーズはXMCの最新製品であるとともに、FMマイコンの最新製品でもある」という。
このように、FMマイコンの利点も継承し、大きな進化を遂げた「XMC7000シリーズ」を詳しく紹介していこう。
XMC7000シリーズは、マイコン向けCPUコアである「Arm Cortex-Mシリーズ」で現状、最も高性能な「Arm Cortex-M7」を採用。最も高性能な「XMC7200」では、Arm Cortex-M7を2コア搭載したデュアルコア構成と、同1個のシングルコア構成が選べ、いずれの構成でもCPUコア動作周波数は最大350MHzを誇る。「これまでは、ASICやMPUでしか実現できなかった性能領域をカバーできるマイコンになった」(細田氏)。さらに、XMC7000シリーズは、Arm Cortex-M7とは別に、電力効率が高く低消費電力が特長のArm Cortex-M0+コアも搭載。最大でCortex-M7を2個、Cortex-M0+を1個の合計3つのCPUコアを搭載する。
同社IoTインダストリアルソリューション部シニアマネージャーを務める中津浜規寛氏は「1つのCortex-M7コアでモーター制御を、もう一方のCortex-M7コアで産業イーサネットなどの通信処理を行いながら、Cortex-M0+コアでセキュリティ関連処理を実施するなどの使用を想定している。暗号処理などのセキュリティ処理は、他の処理とは別に独立した環境で実施することが望ましく、メインのCortex-M7とは別にCortex-M0+を搭載していることで、容易にセキュリティを高めることができる。メモリ領域についても、Cortex-M7コアからはアクセスできないセキュリティ専用の領域を設定できる」という。
内蔵メモリは、XMC7200がフラッシュメモリで最大8Mバイト、RAMで1Mバイト。CPUコア動作周波数最大250MHzのXMC7100ではフラッシュメモリが最大4Mバイト、RAMが768kバイトと大容量のメモリを搭載する。さらに、シリアルメモリインタフェース(SMIF)を備え、HYPERFLASHやOctal SPI対応フラッシュメモリなど高速なインタフェースを持つメモリを外付けしてメモリ容量を拡張できるようにもなっている。
XMCの大きな特長である「モーター制御」向けの機能も、大きく進化している。モーター制御専用の16ビットTCPWM(タイマー/カウンター/パルス幅変調)を最大15チャンネル、さらに標準の16ビットTCPWMを87チャンネル、32ビットTCPWMを16チャンネルと最大で合計118チャンネル分のTCPWMを搭載。ADコンバーターも12ビット分解能の逐次比較型(SAR)ADコンバーターを3ユニット、最大96チャンネル搭載。1つのマイコンで多数のモーターを制御できるようになっている。
「モーター制御専用TCPWMは、これまで以上に自由度が高く、細かなキャリア周波数制御が行えるようになっている。工業用ロボットやエレベーターなど、かなり高度なモーター制御を要求される分野にも対応できるTCPWMになっており、XMC7000の大きな特長の1つ」(中津浜氏)とする。
TCPWMやADコンバーター以外のペリフェラルも豊富に搭載する。各種産業用イーサネットに対応するギガビットイーサネットや、産業機器用途で利用が拡大しているCAN-FD(最大10チャンネル)など多くのインタフェースを備えている点もXMCの特長だ。
動作温度範囲は−40℃から+125℃までの産業グレードに対応し、動作電圧は2.7〜5.5V。「FMマイコンの大きな特長だった5V駆動をXMCでも継承した」とし、CPUコアの動作周波数が最大350MHzというハイパフォーマンスマイコンでは異例となる5V系電源での使用が可能で、使いやすいマイコンに仕上がっている。
低消費電力化も図られており、低消費電力モード(スタンバイモード)時の消費電流は最大で8μAとかなり低く抑えられている点も、XMC7000シリーズの大きな特長だと言える。
動作周波数最大350MHzの「XMC7200」、同250MHz「XMC7100」ともに、シングルコア構成、デュアルコア構成の2タイプがあり、XMC7000シリーズとしては、メモリ容量、パッケージの異なる17種のデバイスがそろう。一般的にマイコン製品は、段階を踏んで製品の提供が始まっていくケースが多いが、「XMC7000シリーズは、全17種すべて一斉にリリースした」とし既に全種の量産出荷が開始されている。
XMC7000シリーズの発売に合わせ、XMCの開発環境も一新された。これまでXMCの統合開発環境としては「DAVE」が提供されてきたが、このほど、PSoCや無線デバイス製品の統合開発環境である「ModusToolbox」がXMCにも対応。サンプルプログラムなど豊富な開発用リソースがそろうModusToolboxでの開発が可能になり、より容易な開発を実現することができる。「ModusToolboxは、マイコンだけでなく、Wi-FiとBluetoothのコンボチップなど無線デバイスにも対応しているので、無線機能を含めたシステム開発も容易に行える」(同社IoTインダストリアルソリューション部マネージャー 寺島大氏)という。
XMCの特長であるモーター/パワー制御機能をさらに向上させるだけでなく、CPU動作周波数350MHzという高性能を実現し、セキュリティ関連機能が強化され、5V系動作にも対応――。大幅にグレードアップしたXMC7000シリーズは「これまで、マイコンでは性能が不足し、ASICやMPUに頼っていたような超高精度のモーターやインバーター制御用途に使用できるマイコン」とし、産業用ドライブやPLC(プログラマブルロジックコントローラー)など幅広い産業機器分野での採用が見込まれる。
産業機器分野だけでなく、高精度のパワー制御やモーターが要求されるとともに、高いセキュリティ機能が求められるEV(電気自動車)充電システムや、電動バイクや電動フォークリフトなどEモビリティにも最適なマイコンになっている。「省エネ性能が追求されている白物家電用途などからの引き合いも多く、高精度のモーター/パワー制御が求められる用途に対し幅広く展開していく」(細田氏)という方針だ。
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