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チップもパッケージもすごい! インフィニオンの「新世代・車載用SiCパワーMOSFET」電力密度を向上させシステムコスト低減に貢献する

インフィニオン テクノロジーズは2023年6月、車載向けSiC(炭化ケイ素)パワーMOSFETの新世代製品「1200V CoolSiC MOSFET」を発売した。オンボードチャージャーやDC-DCコンバーター、インバーターなど各種車載電力変換システムの最新ニーズに応える次世代型のSiC-MOSFETとして開発された1200V CoolSiC MOSFETの特徴を詳しく紹介する。

» 2023年08月22日 10時00分 公開
[PR/EE Times Japan]
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 インフィニオン テクノロジーズは2023年6月、車載向けSiC(炭化ケイ素)パワーMOSFET(以下、SiC-MOSFET)の新世代製品「1200V CoolSiC MOSFET」を発売した。その外形は、一見すると表面実装(SMD)パッケージ「TO263-7」(D2PAK)で、より高速なスイッチングを可能にするケルビンソースピンを備えた、最近よく見掛けるパワーMOSFETという印象を受けるだろう。

車載向けSiC-MOSFETの新世代製品「1200V CoolSiC MOSFET」 提供:インフィニオン テクノロジーズ ジャパン

 だが、その外見とは裏腹にインフィニオンは「車載市場のさまざまな要求に応えた“次世代型SiC-MOSFET”」と位置付ける。この新世代1200V CoolSiC MOSFETの特徴を詳しく見ていこう。

車載市場のニーズに応える新世代1200V CoolSiC MOSFET

 新世代1200V CoolSiC MOSFETがターゲットにする車載市場では、SiC-MOSFETの採用が急速に拡大している。従来のシリコンMOSFETからSiC-MOSFETへの置き換えが特に顕著なのが、オンボードチャージャーやDC-DCコンバーターなどの用途だ。電気自動車(EV)などの搭載バッテリー電圧は従来の300〜400Vから800Vに高まりつつある。耐圧が600V程度のシリコンMOSFETではこれに対応できず、耐圧が高いSiC-MOSFETを使用せざるを得なくなっているためだ。また、バッテリー電圧が300〜400Vだとしても、オンボードチャージャーの高出力化によって、1200V耐圧のSiC-MOSFETが必要となるケースも増えてきている。

 インバーターの用途にもSiC-MOSFETの採用が広がっている。従来のシリコンMOSFETに比べ、電力密度を高めることで各種車載システムを小さく、軽くでき、電力変換効率も高められるからだ。電力密度、電力変換効率を高めることは、EVにおいて1回の充電による走行距離の延長に直結する。そのため、EVを中心にSiC-MOSFET採用の動きが加速している。

 車載市場は、電力密度を高められ、電力変換効率が高いSiC-MOSFETを求めている。当然のことながら、自動車の安全性を確保するためにSiC-MOSFETにも高い安全性が要求される。その上で、車載システムのコスト低減に貢献することもSiC-MOSFETに期待されている。

 こうした多様な車載市場のニーズに応えるSiC-MOSFETとして開発されたのが、新世代1200V CoolSiC MOSFETというわけだ。

独自トレンチ構造チップで「低スイッチング損失&ユニポーラ駆動」を実現

 MOSFETの性能は、オン抵抗とスイッチング損失の大きさで決まる。それぞれ小さい方が電力変換効率を高められる。ただ、オン抵抗とスイッチング損失はトレードオフ関係にある。オン抵抗はチップサイズを大きくすることで低減できるが、スイッチング損失を低減するにはチップサイズを小さくしなければならないのだ。従って、オン抵抗とスイッチング損失の両方を低減する方法は、面積当たりのオン抵抗を低減することだ。

 面積当たりのオン抵抗を低減する一つの手法として、トレンチゲート構造の採用がある。ゲートを深い溝(トレンチ)の構造にして、微細化を可能にすることでオン抵抗を低減するというものだ。トレンチゲート構造はシリコンMOSFETで広く採用され、昨今ではSiC-MOSFETでもトレンチゲート構造のチップが登場している。新世代1200V CoolSiC MOSFETもこの最新のトレンチゲート構造を採用するが、一般的なトレンチゲート構造ではなく独自の「片側トレンチゲート構造」を採用している。

SiC-MOSFETの構造比較[クリックで拡大] 提供:インフィニオン テクノロジーズ ジャパン

 一般的なトレンチゲート構造MOSFETは左右対称だが、片側トレンチゲート構造は左右非対称。一般的なトレンチゲート構造の半分だけでMOSFETを構成しているような構造になっている(上図参照)。この構造によってさまざまな利点が生まれる。

 その一つが、ゲート−ドレイン間容量の低下により、スイッチング損失が小さくなることだ。ほぼ同じオン抵抗の競合SiC-MOSFETに比べ、スイッチング損失を約50%低減している。スイッチング損失が小さければ、電力損失を抑えながらスイッチング周波数を高めることができる。スイッチング周波数が高ければインダクターやコンデンサーを小さくできるため、電力変換システムの小型化、すなわち電力密度を高めることができるというわけだ。もちろん、インダクターやコンデンサーの小型化によるコスト低減も見込める。

「1200V CoolSiC MOSFET」(オン抵抗80Ω品)と競合製品のスイッチング損失/寄生ターンオン指数比較[クリックで拡大] 提供:インフィニオン テクノロジーズ ジャパン

 片側トレンチゲート構造のもう一つの大きな利点が「寄生ターンオンが抑制される」ということだ。オンボードチャージャーやDC-DCコンバーターなどの電力変換用途では、一方のMOSFETがオフしているときにもう一方のMOSFETがオンするというように、MOSFETは必ず2個1組で使用される。2個1組で使用する場合、オフしているMOSFETにゲート−ドレイン間のミラー容量を介して電流が流れる。その電流が大きいとゲートがオンするほどの電圧がゲートで発生してしまい、誤ってオンしてしまうということが起こる。

 こうした意図しないオン動作である寄生ターンオンを防ぐには、寄生容量を最適化(入力容量[Ciss]を大きくし、帰還容量[Crss]を小さく)すると同時にゲートしきい値電圧[Vgsth]を大きくする必要がある。多くのSiC-MOSFETは寄生ターンオンを防ぐだけの特性を持たず、ゲートに負電圧を印加してオフさせることで寄生ターンオンを防ぐ駆動方式を推奨している。これに対し、片側トレンチゲート構造を採用する新世代1200V CoolSiC MOSFETは、寄生ターンオン指数*)が同等の競合品よりも60〜80%低い。そのため「スイッチング周波数次第ではあるが、負電圧を印加するバイポーラゲート駆動ではなく、0Vでターンオフさせるユニポーラゲート駆動を採用できるケースが大幅に増える」(インフィニオン テクノロジーズ ジャパン 大岡篤志氏)という。ユニポーラゲート駆動は、バイポーラゲート駆動よりも回路構成がシンプルになり、部品点数も大きく削減できる。「国内のある顧客から『0Vでターンオフできる点が新世代1200V CoolSiC MOSFETを採用する大きな決め手になった』という評価を頂いている」(大岡氏)と、寄生ターンオンに強い点が新世代1200V CoolSiC MOSFETの大きな強みになっている。

*)寄生ターンオン指数:(帰還容量[Crss]/入力容量[Ciss])×(1/ゲートしきい値電圧[Vgsth])

独自接合技術で「高放熱&沿面距離5.8mm」を実現

 新世代1200V CoolSiC MOSFETの特徴はチップだけではない。パッケージにもさまざまな特徴がある。冒頭に触れたように、ケルビンソースピンを備え、自動実装に対応するSMDパッケージである点に加え、放熱性が高く、TO263-7パッケージとしては異例の沿面距離5.8mmを実現しているのだ。

「1200V CoolSiC MOSFET」の主な特長[クリックで拡大] 提供:インフィニオン テクノロジーズ ジャパン

 一般的なTO263-7パッケージと比較して、新世代1200V CoolSiC MOSFETのTO263-7パッケージは熱抵抗が約25%も小さく、放熱性に優れる。この放熱性の良さは、独自のチップ実装技術「.XT接合技術」による部分が大きい。.XT接合技術は、チップとパッケージリードフレームを拡散はんだ付けによって接合する技術だ。チップとパッケージリードフレームのはんだ層の厚みは一般的な接合技術だと60〜70μmだが、.XT接合技術は10μmで均一にはんだを塗布できる。そのため熱抵抗が小さく、放熱性が良くなる。

独自のチップ実装技術「.XT接合技術」[クリックで拡大] 提供:インフィニオン テクノロジーズ ジャパン
インフィニオン テクノロジーズ ジャパン オートモーティブ事業本部 ビークル・モーションセグメント プロダクトマネージメント 大岡篤志氏

 放熱性に優れることで、もう一つの特徴を生んだ。TO263-7パッケージにおいて、パッケージ側面に位置するドレイン端子は基板に熱を逃がす放熱パッドの役割を果たす。放熱性が良ければ、この放熱パッドでもあるドレイン端子を小さくできる。従って、低電圧を扱うゲートおよびソース端子と高電圧を扱うドレイン端子の距離(沿面距離)を従来の5.4〜5.6mmから5.8mmまで延長することが可能になった。大岡氏は「IEC60664-1の規格で定められている5.6mmを上回る沿面距離を実現した。これにより、樹脂コーティングなどの追加処理をしなくても高い絶縁性を実現できる」と話す。

 このように、新世代1200V CoolSiC MOSFETは電力密度と安全性を高めつつ、オンボードチャージャーやDC-DCコンバーター、インバーターなどの各種車載システムの高効率化、低コスト化に貢献するという特徴を備える。製品ラインアップも、バッテリーチャージャーやDC-DCコンバーター用途に最適なオン抵抗60mΩ品、80mΩ品だけでなく、10mΩ品から160mΩ品まで幅広く取りそろえる。「TO263-7パッケージ品は、主にオンボードチャージャーやDC-DCコンバーターで多く使われる形状ではあるが、昨今は、10mΩなど低オン抵抗が好まれるインバーターやコンプレッサー用途でも引き合いが増えている」(大岡氏)という。

新世代1200V CoolSiC MOSFETに最適な安全重視のゲートドライバ

 インフィニオンは、新世代1200V CoolSiC MOSFETなどの各パワーデバイスに適した非絶縁型ゲートドライバやレベルシフトゲートドライバなども豊富に用意している。その中で、新世代1200V CoolSiC MOSFETに最適で、最も高い安全性が求められるインバーターなどの駆動系用途に対応するゲートドライバ製品「EiceDRIVER 1EDI302xAS」「同1EDI303xAS」(第3世代)を紹介する。

 このゲートドライバは一次側と二次側でチップが分かれる2チップ構成で、両チップはトランスによる電磁誘導で接続される絶縁タイプだ。他にも安全に関するさまざまな機能を盛り込み、機能安全規格「ISO 26262」に準拠する出力20Aのゲートドライバとして最小クラスパッケージをコンセプトに開発された。

ゲートドライバ製品「EiceDRIVER 1EDI302xAS」「同1EDI303xAS」(第3世代)の主な特徴[クリックで拡大] 提供:インフィニオン テクノロジーズ ジャパン
インフィニオン テクノロジーズ ジャパン オートモーティブ事業本部 ビークル・モーションセグメント プロダクトマネージメント 「泳敏氏

 パッケージサイズは10.3×6.4mmで、ノンプログラミングでホスト(マイコン)とPWM経由で診断機能の情報をやりとりできるなど「プラグ&プレイ」を実現している。特徴であるISO 26262対応機能として、ゲートモニタリング機能や短絡検知機能がある。マイコンに異常が発生した際に備えて、マイコンに電源を供給するパワーマネジメントIC(PMIC)から信号を受ける端子も別途備えている。

 インフィニオン テクノロジーズ ジャパンの「泳敏氏は、「PMICからの信号受信機能は、マイコンの動作が止まった際にその情報をPMICから受け取り、ゲート駆動を安全に停止できる。インフィニオン製のPMICはゲートドライバへの信号送信機能を内蔵しているので、外付け回路不要でこの機能を利用できる」とする。

 「10.3×6.4mmの小さなパッケージに、機能安全準拠に必要な機能を網羅しているゲートドライバIC。“機能安全に強いインフィニオン”らしい製品になっているので、1200V CoolSiC MOSFETと一緒に使ってほしい」(「氏)

 EiceDRIVER 1EDI302xAS/1EDI303xAS(第3世代)には、SiC-MOSFET対応品と同時にピン互換のシリコンIGBT対応品も用意されている。

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提供:インフィニオン テクノロジーズ ジャパン株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2023年9月21日

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