TDKは「CEATEC 2023」において、同社が取り組んでいる持続可能な次世代社会の実現に向けた革新的な技術と製品を展示する。中でも注目したいのは、開発中の圧電スイッチ「PiezoTap」だ。競合するタッチスイッチの課題を解決し、新たな用途を広げる可能性が高い。
TDKは「CEATEC 2023」において革新的な技術と製品を展示する。この中から本誌は、開発中の圧電スイッチ「PiezoTap」に注目した。競合するタッチスイッチの課題を解決し、新たな用途を広げる可能性が高い。
CEATEC 2023(会期:2023年10月17〜20日、会場:千葉:幕張メッセ)は、「経済発展と社会課題の解決を両立する『Society 5.0』の実現を目指し、あらゆる産業・業種の人と技術・情報が集い、『共創』によって未来を描く」を開催趣旨に掲げる、国内最大級の技術イベントだ。
TDKは「テクノロジーですべての人を幸福に」というサステナビリティービジョンを具現化した「Seven Seas」をブースコンセプトにして、持続可能な次世代社会の実現に向けた取り組みを紹介する。
タッチスイッチは、スマートフォンやタブレット端末を始め、車載システム、産業機械など、さまざまな機器の操作に用いられている。タッチセンサーとも呼ばれ、人や物が軽く触れたり近づいたりするだけで機器を制御できる。従来のメカ式スイッチに比べて操作に強い力を必要とせず、寿命は原理的に半永久的だ。応用製品はデザイン性に優れ使い勝手も良いなど、さまざまな特長がある。
代表的なタッチスイッチの方式として静電容量方式がある。指先がスイッチ部に近づいたり軽く触れたりすると、静電容量が変化する。この変化を検出して、タッチとその位置を割り出す仕組みだ。非接触でも動作する。感度が高い製品であれば、スイッチから高さ方向に10cm程度離れていても指先を検出できる。
静電容量方式のタッチスイッチにはさまざまな特長がある半面、利用環境によっては誤動作が発生するケースもある。水や汗に弱く、ぬれた状態では操作を正しく認識できなかったり、導電性を有する手袋でないと操作できなかったりする。こうした課題を解決してくれるのが圧電効果を利用した「圧電スイッチ」だ。一般的な手袋を装着していたり、指先や操作面が水などにぬれていたりしても確実に操作できる。
ここで、圧電効果を利用した圧電スイッチの動作原理などについて簡単に触れておく。ベースとなる圧電材料は、機械的/電気的エネルギーを相互に変換できる材料だ。圧電材料を用いて作製した圧電素子は、圧力やひずみといった機械的エネルギーによって変形すると電圧が生じる。この現象は「正圧電効果」と呼ばれている。
反対に、圧電素子に電荷や電圧といった電気的エネルギーが加わると素子が変形する。これは「逆圧電効果」と呼ばれている。
TDKが開発中の圧電スイッチ「PiezoTap」は、圧電素子に圧力を加えたときに生じるひずみによって電圧が発生する正圧電効果を利用した製品だ。PiezoTapは、金属のベース板に圧電素子(PZT:チタン酸ジルコン酸鉛)を貼り付けた構造になっている。外形寸法は7.0×7.0mmで、厚みはわずか0.2mmと薄く、重さは0.046gと軽い。静電容量は0.85nF、動作温度範囲は−10〜50℃だ。
感度(出力電圧)や検知範囲などの課題はあるものの、さらに小型化も可能だという。「面積を現行の試作品の半分にしたり、外形を長方形にしたり、圧電素子を複数個並べたカスタム品に対応させたりすることも検討中」(TDK)だ。
PiezoTapは、タッチスイッチとして多くの特長を備えている。独自の圧電材料を採用したことで、小型・薄型化しつつ高い感度を実現。圧電スイッチの優位点でもあるが、機器や指先がぬれている状況や導電性がない手袋を装着した状態でも操作可能だ。PiezoTap自体に防水性はないが、搭載する機器側で防水加工を施せば水中でもスイッチの操作ができるという。
金属やプラスチック、ガラスなど、さまざまな材質の筐体に取り付けることもできる。筐体が変形して圧電素子にひずみが生じれば、材質を問わずその変化量に応じて電圧を発生させることができるからだ。
しかも、「一般的な静電容量方式のタッチスイッチだと、取り付けられる筐体材料は絶縁体だけ。金属の筐体を用いるのは難しい」(TDK)。このため、取り付ける筐体材質は制限される。逆に圧電素子はセラミックスなので、フレキシブル基板のようなたわみ過ぎる筐体には取り付けにくいという。
筐体への取り付け方法も簡単だ。薄くて粘着性の強い両面テープを用いれば、タップ時の筐体ひずみを効率良くPiezoTapに伝えることができる。貼り付け用の接着剤などは不要だ。押しボタン式スイッチのように突起部分がなく筐体に取り付け穴を設ける必要もないので、シームレスなデザインや防水設計がしやすいことも特長の一つだ。
搭載する筐体の内側にPiezoTapを貼り付ければ、筐体表面を指先で押したときのひずみに応じて電圧が発生する。回路側で出力電圧のしきい値を設定しておけば、出力波形によって、スイッチを「押した(タップ)」ことや「離した(リリース)」ことを判別できる。
TDKは、試作した評価用サンプルを用いてタップ荷重と発生電圧の関係性を検証した。評価用サンプルは、評価基板(直径14mm、厚み1mmのABS基板)に両面テープ(厚み0.03mm)でPiezoTapを貼り付けた。
実験では、加圧端子で評価サンプルの中央部を加圧した。「極めて軽いタップ」(0.1N)、「軽いタップ」(0.3N)および、「強いタップ」(0.5N)で加圧し、そのときの発生電圧をオシロスコープで測定した。この結果、0.3Nという軽いタップでも1.5Vの電圧が発生することを確認した。ニュートン(N)当たりの発生電圧は5.0Vだ。
参考値だが、スマートフォンに実装されているボリュームや電源ボタンなどを操作するには、操作荷重として2.5〜3Nが必要だ。メカ式は比較的軽いスイッチでも1Nの操作荷重になるようだ。PiezoTapは0.3Nという軽いタップ荷重で済むため、そのメリットは大きい。
PiezoTapを使ってタップを検出/判定するための回路設計も比較的容易だ。PiezoTapはタップ荷重に応じた電圧を出力する。この出力電圧をA-Dコンバーター内蔵のマイコンに直接入力する。PiezoTapの出力電圧を汎用I/Oポートで検出する場合は、マイコンの前段に電圧コンパレーターを外付けしてコンパレーターの出力をマイコンの汎用I/Oポートに入力することで、より正確に判定できる。
落下の衝撃などで発生した電圧を判定の対象外とするため、マイコン側には適切な遅延時間を設定しておく。タップ荷重やデバイスの構成によってPiezoTapの出力電圧は異なるため、「タップ」や「リリース」の判定に必要なしきい値は設定しておく必要がある。マイコン側で工夫する必要もあるが、PiezoTapは「ロングタップ」「ショートタップ」の識別/判定も原理上は可能だという。
PiezoTapの応用例としては、スマートグラス、スマートウォッチといったウェアラブルデバイス、冷蔵庫、調理家電、洗濯機、電動歯ブラシ、浴室用リモコンなどのホームアプライアンス、車載用ディスプレイやインパネ用スイッチなど、さまざまな用途を提案していく。自転車用サイクルコンピュータもターゲットとするアプリケーションの一つだ。
CEATEC 2023のTDK展示ブースでは、自転車用サイクルコンピュータを模したデモ装置を用意する。アクリル板の裏面にPiezoTapを貼り付けた評価キットで、手袋装着時や雨天という利用環境でも時間計測などの機能を操作できることを紹介する。
振動センサーとしてのデモ展示も行う。PiezoTapを装着した「へら」で凹凸のある表面をなぞって収集した振動の情報をPCに取り込み、その凹凸感をもう一方の手で体感してもらうハプティクス用デバイスの「PiezoHapt」と組み合わせたデモ展示を予定している。
これらのデモ展示を通じて、圧電素子を用いたタッチスイッチならではのメリットを体感してみてはどうだろうか。静電容量方式のタッチスイッチで悩んでいた課題を解決できるヒントが得られるかもしれない。
TDKは、20年前からフルカスタム対応で圧電セラミックス事業を手掛けてきた。この中で培ってきた圧電素子の技術を応用し、さまざまな情報を計測して数値化するセンシングに特化した製品開発を行っている。PiezoTapも、ベース板の厚みを最適化するなどして7mm角というサイズで出力電圧を最大化することに成功した。
PiezoTapは現在、評価用サンプル対応中だ。
*PiezoTapはTDK株式会社の登録商標です。
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提供:TDK株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2023年11月15日