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AI活用でシステム設計の最適化は激変する! 生産性を10倍にするCadenceの最新ソリューションエンジニアの「経験則」に頼らない

エンジニアの経験則に頼っていた半導体パッケージや基板などのシステム設計が、AI(人工知能)技術の活用で大きく変わりつつある。独自の強化学習エンジンを搭載したCadenceの「Optimality Intelligent System Explorer」は、システム設計の最適化を自動化し、設計時間を大幅に短縮化するソリューションだ。ある事例では、イタレーションを従来の数千回から数百回に削減できたという。

» 2023年11月20日 10時00分 公開
[PR/EE Times Japan]
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エンジニアの「経験則」に大きく依存するシステム設計の最適化

 電子機器や電子システムの開発において最も時間がかかる工程の一つが、半導体パッケージやPCB(プリント配線板)といったシステムレベルの最適化だ。性能やコスト、信頼性などさまざまな要因を考慮して設計をブラッシュアップする最適化は、意図した通りにシステムが機能するかどうかを決める極めて重要な工程になる。個々のデバイスがどれほど進化しても、それらを適切に組み合わせ、適切な位置に配置して実装できなければシステムとしての性能向上につながらないこともある。電子機器やシステムの小型化に伴って半導体パッケージや実装基板の高密度化が進む中、電気的特性、熱特性、機械的特性、エネルギー効率、信頼性など多くの項目を考慮する最適化はますます複雑化している。

CadenceのR&D Multiphysics System Analysis部門でCorporate Vice Presidentを務めるBen Gu氏

 SoC(System on Chip)といったLSIの設計ではRTL設計や論理合成、レイアウト設計など多くの工程が自動化されているのに対し、最適化は自動化が進んでいないことも時間がかかる要因の一つだ。CadenceのR&D Multiphysics System Analysis部門でCorporate Vice Presidentを務めるBen Gu氏は、「最適化は、いまだにエンジニアの経験や知識に大きく依存している部分が多い」と語る。

 あるシステムの設計において、10〜20個のパラメーターを調整して最適化するとしよう。各パラメーターには10個の変数がある。すると、検討すべき組み合わせは少なくとも10の10乗、つまり100億通りに上る。これだけの数を全てシミュレーションするのは現実的に考えて不可能だ。そこで、エンジニアは経験的に「良さそうな変数」を各パラメーターで選択してシミュレーションを行う。その結果を基に変数を調整し、再度シミュレーションを実行する。この作業をひたすら繰り返すのだ。つまり、最適化はほぼ“手作業”で、かかる時間も仕上がりも、そのエンジニアの経験値に大きく左右される。

 さらに、近年はテクノロジーの進化によってそうした「エンジニアの経験値」さえ追い付かなくなっている。メモリ規格は、LPDDR3まではエンジニアの経験則でも何とか最適化できていた。だが、アーキテクチャが大きく異なり転送速度が2倍になったLPDDR4以降では、これまでの経験に頼った設計は不可能だ。

 開発期間のさらなる短縮が求められ、エンジニア不足が深刻になる中、最適化は開発のボトルネックになっているのだ。

 Cadenceは、エンジニアの経験値に頼っている部分をできる限り減らして最適化にかかる時間を大幅に短縮するソリューション「Optimality Intelligent System Explorer」(以下、Optimality Explorer)を2022年6月に発表した。

AIを駆使して最適化の時間を大幅短縮

 Optimality Explorerの最大の特徴は、AI(人工知能)技術、具体的には強化学習によって最適化を自動化していることだ。Cadenceが開発した機械学習アルゴリズムとAIモデルを用いている。

 設計者は、「リターンロスが、あるしきい値以下になるようにする」などのように、最適化したいパラメーターとゴールを設定する。すると、Optimality Explorerが設計データからパラメーターの変数を生成し、最適化を開始。設定したゴールに到達したら最適化は自動で完了する。これにより、最適化を従来の“手作業”に比べて平均で10倍、一部の設計では最大100倍高速化できるという。

従来の最適化(左)と、Optimality Explorerを用いた最適化の比較 提供:Cadence

 Optimality Explorerに採用されている機械学習アルゴリズムは、Cadenceが2021年に発表したSoC向けのデジタル設計ソリューション「Cadence Cerebrus Intelligent Chip Explorer」(以下、Cadence Cerebrus)で初めて導入したものだ。Cadence Cerebrusは、このアルゴリズムを使うことでフロアプランなどの最適化の自動化と高速化を実現。設計者は、より短い時間で、PPA(Power、Performance、Area)を改善したチップを開発できるようになったという。

「Sigrity」や「Clarity」のアドオンで使える

 Optimality Explorerは独立したツールではなく、他の解析ソルバーのプラグインとして使用する。現時点でOptimality Explorerを適用できるのは、Cadenceの3D(3次元)電磁界(EM)解析ソルバー「Clarity 3D Solver」とSI(Signal Integrity)/PI(Power Integrity)解析ソルバー「Sigrity X」だ。

 このように、Cadenceが展開する他のツールにアドオンできることもOptimality Explorerの特徴だ。従来の最適化ツールは独立して使用するのが一般的だった。そのため、解析ツールと連携するには解析ツールの結果を記録したスクリプトを作成し、それを最適化ツールで実行する必要があった。Optimality Explorerは、Clarity 3D SolverやSigrity Xのプラグインなので解析上で最適化を自動化することに成功している。

 今後は、数値流体学(CFD:computational fluid dynamics)ソリューション「Cadence Fidelity CFD Software」にも適用できるようにする予定だ。これにより、自動車のボディーの設計などで空力解析と最適化を自動化できるようになる。

 Cadenceは今後、EM、SI、PI、CFDの解析ソルバー全てにOptimality Explorerを対応させてマルチフィジックス解析を最適化できるようにする。

Optimality Explorerと他の解析ソルバーは、連携して使用できる 提供:Cadence

 例えば、Optimality Explorerによって得られた最適化の結果は、データとしてソルバーのバックグラウンドに蓄積される。このデータはCadenceの基板設計ツール「Allegro」などに設計制約条件として反映できるので、解析のみならず設計の段階でもOptimality Explorerを生かせる。

 最適化を自動化したことで、Cadenceが提供するツール全般で最適化のデータを活用でき、設計、解析、最適化のループが加速する。

数千回のイタレーションがわずか数百回に

 Optimality Explorerを使うと、これまでよりも大幅に少ないイタレーションでEMやSI/PI、熱といった各特性に最適な基板レイアウトが実現する。

 基板のビアの接合係数とパラメーターを50%で最適化するケースでは、従来のダウンヒルシンプレックス法などでは約1500回のイタレーションでようやくゴールにたどり着く。Optimality Explorerを使うと、約200回のイタレーションで到達できたという。かかった時間は6時間から1時間に短縮できた。さらにそこから、AIが過去に学習したデータを用いてより良いパフォーマンスを実現するための自動チューニングを行う。この事例では、従来と同じ1500回のイタレーション後は接合係数が55%くらいまで上がっている。

Optimality Explorerを使うと、最適化にかかる時間が劇的に減少した。左のグラフはイタレーション回数、右は所要時間を比較している 提供:Cadence

 利点はそれだけではない。イタレーションのたびにOptimality Explorerにデータが蓄積されるので、AIモデルはこれらのデータを使って機械学習アルゴリズムをチューニングし、アルゴリズムの精度を上げていく。これにより、最適化の性能をさらに向上させられる。「基板設計では、人間では気付けないような、より最適な配線パターンを導き出してくれる」(Gu氏)

 さらに、より多くの設計で最適化ができるようになる。手作業と経験則に頼るしかない現在、エンジニア1人当たりが携われる最適化作業は限られている。Optimality Explorerによって最適化をほぼ自動化できれば、1人のエンジニアが複数の設計の最適化を並行して進められる。「設計チームの生産性を大幅に向上させられる」とGu氏は強調する。

 2022年6月のリリース以来、既に約40社がOptimality Explorerを採用している。「当初、顧客の多くは最適化をAIで自動化して設計時間を短縮できることに懐疑的だった。だが、結果を見ると満足していただける」

 Optimality Explorerの登場は、システムレベルの最適化を大きく変えるだろう。Gu氏は「われわれは今後もAIを活用してシミュレーションを加速し、設計者を支援し続ける」と強調する。「ツールで、“最適化開始”のボタンをクリックして家に帰る。次の日に出勤すると、より良い最適化が完了している。そんな時代がすぐそこまで来ているのではないか」

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提供:日本ケイデンス・デザイン・システムズ社
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2023年12月19日

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