シングルボードコンピュータ(SBC)に新たな選択肢が登場した。イギリスのOKdoがradxaと共同開発した「ROCK」だ。Rockchip製の成熟したチップを搭載し、SSDモデルも用意されているROCKは、欧州では既に多くのユーザーを獲得している。日本の販売代理店であるアールエスコンポーネンツにROCKの特徴を聞いた。
“手のひらサイズのコンピュータ”であるシングルボードコンピュータ(SBC)は、産業機器の組み込みシステムをはじめゲームやタブレット端末などの民生機器、電子工作など、さまざまな用途で使用されている。
代表的なSBCが「Raspberry Pi」、通称“ラズパイ”だろう。2012年に初代が発売されたラズパイは、ホビー用途や教育用途で広く普及し、SBC市場を創成したと言っても過言ではない。その他、「Arduino」や「Jetson」「ASUS Tinker Board」「Libre Computer Board」といったSBCが販売されている。NXP Semiconductors、Texas Instruments、MediaTekなど、SBCを以前から手掛けてきた、もしくは参入し始めた半導体メーカーもある。
市場調査会社のPanorama Data Insightsが2023年7月に発表した予測によると、SBCの世界市場は2022年の15億米ドルから年平均成長率(CAGR)10%で成長し、2031年には35.3億米ドルに達するという。特に、工場の自動化をはじめとする産業分野や医療機器分野での利用増などがSBC市場の成長を後押しすると予測している。
一方で、新型コロナウイルス感染症のパンデミックで発生した半導体不足により、SBCは軒並み供給難に苦しんだ。特にラズパイは入手困難の状況が長く続いた。それ故に他の多くの分野と同様、BCP(事業継続計画)の観点からSBCも代替品が求められるようになっている。そうした中、SBCの新たな選択肢として登場したのが「ROCK(ロック)」だ。
ROCKは、イギリスを拠点とするOKdo(オーケードゥ)がradxa(ラクサ)と共同開発したSBCだ。電子部品や産業用製品の通信販売を手掛ける英RS Groupのグループ会社であるOKdoが独占販売権を持っており、日本ではRS Groupの日本法人であるアールエスコンポーネンツが唯一の販売代理店になっている。
OKdoはSBCやIoT製品の製造、販売を手掛けるファブレスメーカーで、2019年4月に創業した。もともとラズパイの販売を手掛けていたが、コロナ禍で起こったラズパイの供給難を受けて“ラズパイ以外の選択肢”を求める声が欧州を中心に高まったことから、radxaとの協業を進め、2022年7月にROCKの販売を開始した。
ROCKは、中国の大手半導体メーカーRockchipのSoC(System on Chip)を搭載している。このSoCはスマートフォンやタブレット端末などに広く採用されていて十分な市場実績があり、製造プロセス面でもこなれた製品だ。
ROCKは、特にAI(人工知能)とIoTの容易な実現を目指して設計されている。最新の「ROCK 5シリーズ」と、より汎用(はんよう)的な「ROCK 3シリーズ」に搭載されているRockchip製SoCには、推論処理に特化したプロセッサであるNPU(Neural Processing Unit)が集積されている。これにより、組み込み機器でのAI処理、いわゆるエッジAIのアプリケーションを実現しやすい。
UbuntuやDebian GNU/LinuxなどのLinuxとAndroidの両方で動作することも特徴だ。さまざまなOSで動作するので、より多くのモバイルアプリケーションに対応できる。
ストレージもSDカードの他、より信頼性が高く高速データ転送が可能なeMMCやM.2 SSD(ROCK 5シリーズのみ)を選択できる。アールエスコンポーネンツでテクニカルサポート・エグゼクティブを務める簑田史朗氏は、「SSDの搭載はROCK 5の最大の特徴だ」と強調する。SSDにOSを実装すればOSの立ち上がりが格段に速くなる。
現在のラインアップには、ROCK 3シリーズ、「ROCK 4シリーズ」、ROCK 5シリーズに加え、組み込み用途向けの小型モジュールである「ROCK CM(Compute Module)3」がある。
これまでのROCKは、ラズパイからの置き換えを考慮して各世代のラズパイと同等の性能を実現するように設計されてきた。ROCK 3シリーズは「Raspberry Pi 3B+」と、ROCK 4シリーズは「Raspberry Pi 4」と同等の性能を備えている。
だが簑田氏は、「ROCK 5シリーズは、少しずつラズパイとの差別化を図っている」と語る。「フォームファクターを含めてコンセプトをできるだけ維持する方針で開発されているラズパイに対し、ROCKはAIやIoTのアプリケーションを実現しやすいように柔軟なコンセプトで設計されている。ROCK 5がSSDを搭載しているのはその一例と言えるだろう。2023年9月に発表された『Raspberry Pi 5』にはSSDは搭載されていない」
現在のSBC市場には、安価で広く普及しているラズパイと、その対極として高性能かつ非常に高価なJetsonがある。簑田氏は、「ラズパイとJetsonの間には大きなギャップがある。ROCKは今後、“ラズパイの代替”というポジションのみならずラズパイとJetsonのギャップを埋める立ち位置へと進化していくのではないか」と語る。
ROCKのもう一つの特徴は、その高い完成度にある。「動作に何らかの不具合があることが多い初期ロットでもスムーズに動作した。システムとして安定しているという印象を受けた」(簑田氏)
アールエスコンポーネンツのコーポレートアカウントセールスマネージャを務める添野元之氏は、不良返品率の低さを挙げる。「ある産業機器メーカーにROCKを量産出荷しているが、これまでに出荷した1万6000〜1万8000枚のうち、不具合が報告されたのはわずか数枚だった」と述べる。「この産業機器メーカーは、別の製品でもROCKの採用を検討している。一度使うと、ROCKの高い信頼性と堅牢(けんろう)性を実感していただけるようだ」(同氏)
ROCKは、産業オートメーションから電気自動車(EV)の充電ステーション、スマートビルディング、小売りオートメーション、スマート農業まで、幅広い用途に利用できる。簑田氏は「特に、画像処理を伴うアプリケーションで強みを発揮するのではないか」と期待する。ROCKはカメラモジュールやWi-Fiモジュールを実装できるので、生産ラインにおける製品の不具合判定や監視カメラを使った入退室管理といったアプリケーションを容易に実現できる。カメラやWi-Fiモジュールの他、PoE HAT(Power over Ethernet Hardware Attached on Top)、ヒートシンクなどさまざまなアクセサリーもそろえている。
ROCKは欧州では既に多数のユーザーを獲得している。ユーザー数ではラズパイを上回るほどで、「既に一定以上の知名度を得ている」(添野氏)という。「特に、部品の供給難でラズパイが入手しにくかった時期に、出荷台数が飛躍的に伸びた」と同氏は説明する。一方で、日本ではまだ知名度が低い。ただし、「試してみようという顧客は着実に増えている」(添野氏)。アールエスコンポーネンツはリセラーも開拓中だ。
SBCの供給難を経験したユーザーにとっては、サプライチェーンの堅牢性も気になるところだ。ROCKのサプライチェーンはOKdoが全面的に管理している。大手EMS(電子機器製造受託企業)が中国で製造しており、供給体制をより強化すべくベトナムでも製造委託先を探している。さらに、RockchipはROCK用SoCを最優先で供給する体制を整えている。「OKdoはボードメーカーやチップメーカーと強固な関係を構築しており、多くの業界が深刻な部品不足を経験していた時期でも供給が滞ったことはほとんどなかった。それを見ても、ROCKはサプライチェーンの面で優位性があると言えるだろう」(添野氏)
価格は、メモリ容量8GBの「ROCK 5B」で約2万3000円から。より安価な「ROCK 3A」は、4GB品が約9300円で入手できる。量産価格については要問い合わせとなっている。
「産業機器から民生機器、教育分野まで用途は多岐にわたる。一度使ってもらえれば、ROCKの動作の安定性や信頼性、使いやすさを実感していただけると思う。当社はプロフェッショナル向けのテクニカルサポートも提供している。ぜひ安心して使ってほしい」(添野氏)
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提供:アールエスコンポーネンツ株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2024年2月19日