2023年、自動車と産業機器で堅調に業績を伸ばしたSTマイクロエレクトロニクス。近年はワイドバンドギャップ半導体やエッジAI(人工知能)関連の製品群の拡張と、積極的な工場投資を進めている。2024年は初頭からグローバルでの組織変更を発表し、開発効率の向上やソリューション提案の強化を強調した。同社の日本担当 カントリーマネージャーを務める高桑浩一郎氏に、2024年の市況や戦略を聞いた。
――2023年を振り返っていかがでしたか。
高桑浩一郎氏 2023年第4四半期(10〜12月期)の売上高は、前年同期比で3.2%減となる42億8000万米ドル、2023年通期は同7.2%増の172億9000万米ドルだった。特にオートモーティブが好調で、同分野の売り上げは前年に比べ33.5%増加した。インダストリアルも同11.4%増と好調だった。スマートフォンなどのパーソナルエレクトロニクスを含むコンシューマー製品は市場低迷が続き、需要回復がまだ見えていない。
――2024年の業績予測と市況をどのようにみていますか。
高桑氏 過去3年間、コロナ禍の半導体不足などによって苦しい状態が続いたが、現在は一転して在庫が増加してきている。こうした状況から、2024年第1四半期(1〜3月期)の売上高は前年同期比で15.2%減の36億米ドルを見込んでいる。2024年の市況については、前半はインダストリアルを含めて全般的に調整局面が続くものの、後半にはインダストリアルやコンピュータ関連で回復が期待できるとみている。ただし、2024年通期の売上高は159億〜169億米ドルと、2023年比で減少すると予測している。
――オートモーティブとインダストリアルのそれぞれについて、2023年のハイライトをお聞かせください。
高桑氏 電気自動車(EV)の普及拡大から、オートモーティブに関してはわれわれが強みを持つSiCパワーデバイスの引き合いが強かった。日本では電動化は比較的緩やかに進んでいるという背景もあり、SiC分野での大きなビジネス貢献はまだ少ない。ただし、将来に向けた引き合いは多く、今後は日本でもSiCが伸びるとみている。
製品については、OTAによるソフトウェアアップデートに優位性を持つ相変化メモリ(PCM)を内蔵したArmコアベースの車載用マイコン「Stellar」のラインアップを拡充している。StellarはSDV(Software Defined Vehicle)のE/E(電気/電子)アーキテクチャの実現に向けて開発された車載用マイコンであり、アーキテクチャごとに求められる仕様に合わせて使い分けできるようハイエンドからローエンドまでラインアップを拡充する。
インダストリアルでは、マイクロプロセッサ(MPU)の第2世代製品群「STM32MP2」を2023年5月に発表した。汎用(はんよう)的なMPUだった第1世代の「STM32MP1」よりもセキュリティと演算処理性能を大幅に向上させた製品で、スマートファクトリーやエッジAIをターゲットにしている。64ビットのArmコアを搭載し、専用のNPU(ニューラルプロセッシングユニット)を備えていて、最大1.35TOPS(1兆3500億回/秒)の演算処理が可能だ。
高精度なサーマルMOSFET(TMOS)を搭載した赤外線センサーや新しいToF(Time of Flight)センサーなど、人感センサーやモーション検知システム向けの最新のセンサー群も投入した。従来の方式を用いた赤外線センサーとは異なり、この赤外線センサーは静止している物体でも検出できることが特徴だ。2024年1月に米国のラスベガスで開催された「CES 2024」でこれらのセンサーのデモを展示し、手応えを感じた。
――オートモーティブ分野でSiCの引き合いが強いとお話されていましたが、ワイドバンドギャップ半導体についてはいかがですか。
高桑氏 STは、SiCだけでなくGaNにも注力している。2023年7月には、産業機器向けにエンハンスメント型GaN HEMT「G-HEMT」の量産を開始した。STは、パワー半導体の製品ファミリー「STPOWER」としてIGBTやパワーMOSFET、SiC MOSFETなど幅広いポートフォリオを持っている。G-HEMTは、STPOWERファミリーの初のGaNトランジスタ製品になる。
SiC/GaNパワーデバイスを駆動するためのゲートドライバー「STGAP」の拡充にも力を入れている。STGAPはガルバニック絶縁を内蔵したフォトカプラ不要なゲートドライバーであり、2016年から製品展開を拡充している。最近は、SiCやGaNなどシリコン以外のパワーデバイスの駆動に特化したラインアップを増やしている。
――2024年の日本の戦略をお聞かせください。
高桑氏 2024年2月5日付でグローバルでの組織変更があった。これまで3つあった製品グループを、「アナログ・パワー&ディスクリート・MEMS・センサー製品グループ(APMS)」と、「マイクロコントローラ・デジタルIC・RF製品グループ(MDRF)」の2つに再編した。この製品グループの再編により、製品開発におけるイノベーションを加速し、開発効率とスピードを高めることが狙いだ。
既存の営業/マーケティング組織を補完するために、STが注力するエンドマーケットごとにアプリケーションマーケティング組織を新設した。「オートモーティブ」「産業用パワー/エネルギー」「産業用オートメーション、IoT/AI」「パーソナル電子機器、通信機器、コンピュータ周辺機器」の4つを対象に、ST全体でマーケティング関連の情報を集約できるようになる。これらの情報を基に、日本でもこれまで以上にアプリケーション軸でのソリューション提案を強化する。
――日本の展示会でもデモを披露するなど、エッジAI関連の製品に特に注力しているという印象があります。この分野のソリューションについてはいかがですか。
高桑氏 大きな動きとして、当社の機械学習ライブラリ開発ツール「NanoEdge AI Studio」で開発したソフトウェアライブラリの無償提供を2024年1月に開始した。STが高いシェアを持つ32ビット汎用マイコン「STM32」の全ての品種で無制限にライブラリを利用できる。エッジAIの活用では、設計者から「機械学習のアルゴリズムの開発が難しい」という声をよく頂く。今回のライブラリ無償提供により、より多くの顧客にエッジAIを活用してもらいたい。
さらに、エッジAIの導入を加速するための包括的な開発エコシステム「ST Edge AI Suite」の提供を2024年前半に開始する予定だ。ST製品とともに無償で利用できるソフトウェアやツールを統合したソリューションで、AIを搭載したIoT機器などの設計や導入を迅速に開始できる。STM32の充実したエコシステムを生かし、サポートを強化すると同時に顧客層を拡大してエッジAIアプリケーションの裾野を広げていく。
他にも、STのAIハードウェア・アクセラレータを搭載した汎用マイコン「STM32N6」を開発するなど、ハードとソフトの両面でエッジAIソリューションを強化している。
――工場への投資については、いかがでしょうか。
高桑氏 300mmウエハーやSiC/GaNパワーデバイスの生産能力を拡大するため、積極的な投資を継続している。2023年には41億米ドルの設備投資を実施した。2024年は約25億米ドルを投資する計画だ。
300mmウエハーについては、GlobalFoundriesと共同で運用するフランス・クロルの工場を建設中だ。新工場では、FD-SOI(完全空乏型シリコン・オン・インシュレーター)プロセスを用いて自動車や産業機器、IoT、通信機器などの用途向けのデジタルICを製造する。2026年までにフル稼働することを予定しており、総投資額は75億ユーロになる見込みだ。イタリア・アグラテでは300mmウエハー工場が完成し、2023年に量産を開始した。
SiCパワーデバイスでは、中国の三安光電と中国・重慶に合弁会社を設立する契約を締結した。200mm SiCウエハーを用いて、STのSiCパワーデバイスを中国向けに製造する予定で、量産開始の準備を進めている。イタリアでは既存のカターニャ工場に加え新設したSiC基板工場が完成し、本格量産のための立ち上げを行っている。
フランス・トゥールの工場は、200mmウエハーを用いた「Power GaN」製品の量産を2023年に開始した。
――半導体の製造には大量の電力が必要です。そのような理由から、サステナビリティーやカーボンニュートラルに注力する半導体メーカーも多いです。STマイクロエレクトロニクスの取り組みについてお聞かせください。
高桑氏 STは2027年までに、スコープ1とスコープ2、そしてスコープ3の一部でカーボンニュートラルの達成を目指している。この目標に向けてコーポレートレベルで対応しており、きっちりと進捗(しんちょく)している。2022年には一製品当たりのエネルギー消費量を2016年比で19.8%削減した。2025年までに、2016年比で20%削減するという目標を、現時点でおおむね達成している。シンガポールのアンモキョ工場は、ユースポイント冷却器やドライポンプの導入などによって年間3.7GWh以上の電力削減に成功した。新しいフリークーリングシステムを設置したカターニャ工場でも、年間約4GWhの電力を削減できる見込みだ。
サステナビリティーについては顧客からの注目度も高く、日本でも取り組みや計画について聞かれることが増えてきた。取引先を選択する上で、サステナビリティー経営を重視しているかどうかが重要な判断基準になりつつあると感じている。STはサステナビリティーで先行する欧州のメーカーということもあり、日本法人としてもけん引する存在でありたい。
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提供:STマイクロエレクトロニクス株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2024年4月25日