日清紡マイクロデバイスは2024年10月、新しいオーディオアンプ「NA1150」の量産を開始した。同社を代表するオペアンプ「NJM4558」の系譜を受け継ぐ製品で、マイコンで音を鳴らすあらゆる用途に適した製品だという。
家電から産業機器、自動車まで、音を鳴らすあらゆる電子機器向けに、小サイズ、簡単設計、安心を実現するオーディオアンプ「NA1150」が登場した。オーディオオペアンプの定番商品として1970年代から広く普及した「NJM4558」の系譜を継ぐ製品で、オーディオアンプの新たな定番商品になることが期待される。
NJM4558は、日清紡マイクロデバイスの前身の一社である新日本無線が1977年に発売した2回路入りのオペアンプだ。新日本無線はNJM4558を発売するまで、当時出資を受けていたRaytheonのオペアンプ「RC4558」を輸入し、販売していた。1961年に日本無線とRaytheonの合弁会社として設立。半導体メーカーとしての実績を積み重ねてきた新日本無線は「自分たちの手で、日本市場で求められる高品質のオペアンプを作ろう」と決断。当時無名のデバイスだったオペアンプ「RC4558」をベースに、高音質と高品質を兼ね備えたオペアンプとして開発したのがNJM4558だ。
RC4558に“安心、手軽、決して誤動作しない”という特長が加わったNJM4558は、発売直後から大きな反響を呼び、シリーズ品含め1980年に出荷数10億個を達成。日本市場のみならず世界中で採用され、オーディオ用オペアンプを代表する定番品の地位を確立した。発売から50年近くたった今も、音質を重視するオーディオ機器を中心に根強い需要がある。
新日本無線はNJM4558を皮切りに、オーディオ市場向けの製品を次々に開発していった。スピーカーアンプやマイクアンプといったオーディオアンプに加え、ボリュームIC、セレクターなど各種オーディオ用信号処理ICをラインアップし、オーディオに強いアナログ半導体メーカーとしての地位を固めていった。
2022年にリコー電子デバイスと統合して日清紡マイクロデバイスとなった今も、オーディオICは主力製品の1つと位置付け積極的な投資を実施し、オーディオ市場に新しい価値を提供する新製品を開発している。
その中でもオーディオアンプでは、オーディオ機器のオン/オフ時に発生する、ボツ音やポップノイズと呼ばれる「ボツッ」という耳障りな音を低減する「ボツ音低減技術」や、携帯電話などの電磁ノイズの音への影響を抑える技術などを確立。オーディオ市場のニーズにいち早く応える製品を投入し、高い評価を受けてきた。
2024年10月に量産を開始したNA1150もその1つで、音を鳴らすあらゆる機器に最適な定番製品になり得る新しいスピーカーアンプとして開発された。
NA1150の最大の特長は、マイコンなどから出力されるPWM変調された音声信号でスピーカーを直接駆動できる点にある。これまで、PWM変調された音声信号はD-Aコンバーター(DAC)でアナログ信号に変換した後、ローパスフィルター(LPF)、電子ボリューム(EVR)といった信号処理を経てオーディオアンプが増幅し、スピーカーを駆動させるという回路が一般的だった。昨今では1つのICでオペアンプ前段の信号を処理する音声処理専用ICなどを使うケースもあるが、いずれにせよPWM信号を処理した上でスピーカーを駆動するオーディオアンプに入力する必要があった。
そうした中で、マイコンなどのプロセッサの高性能化でPWM信号の出力精度が高まり、スピーカーをPWM信号で直接駆動しようとする動きが出てきた。組み込みソフトウェアベンダーであるCRI・ミドルウェアもその一社だ。4つのディスクリートトランジスタで構成するHブリッジ回路だけでスピーカーを駆動するハードウェア構成で、高音質の音声を再生するPWM信号を出力できるソフトウェア「CRI D-Amp Driver」を開発。マイコンと4つのディスクリート部品、スピーカーというシンプルな構成で高音質な音声を鳴らせるソリューションで、家電や車載機器、さらに音響機器などに採用されつつある。ただ、4つのディスクリート部品だけではスピーカーの断線検出や過電流保護といった機能はなく、回路を別途追加する必要がある。そこで日清紡マイクロデバイスはCRI・ミドルウェアと連携して、Hブリッジ回路に代わってPWM信号で直接スピーカーを駆動する専用ICの開発に着手した。そして製品化に至ったのがNA1150だ。
NA1150は負荷診断機能を備えており、スピーカーの断線やショートを検知してマイコンに知らせることができる。過電流検出やサーマルシャットダウンなど「オーディオアンプでは当たり前になっている保護機能や、ディスクリートでは設計が難しいデッドタイムコントロール回路を搭載している。DACやLPFを使った従来型回路と同様の安心、安全を担保しながら、サイズ、部品点数を大幅に削減できるPWM信号直接駆動を手軽に実現できるようになった」(日清紡マイクロデバイス 営業本部 商品企画部 SP商品企画一課 深瀬亘氏)
入力信号は、差動PWM入力だけでなくシングルエンドPWM入力にも対応。より安価なハードウェア構成にもNA1150で対応できる。NA1150のサイズは、リードレスのDFNパッケージ品で2.3mm角、リード付きのVSPパッケージ品で4.0×2.9mm。「外付け部品は、電源のバイパスコンデンサーだけ。マイコンに異常通知信号を送る場合はこれにプルアップ抵抗を追加するだけで済む。DACやLPFを使う従来回路の10分の1程度、ディスクリート構成の回路と比べても3分の1程度に回路を小さくできる見込みだ」(深瀬氏)
シンプルな回路構成でも音質は高く、効果音だけでなくメッセージ読み上げなどの音声も明瞭に出力できる。「PWM信号でスピーカーを直接駆動するので、全てデジタルのまま伝送されるロスレスであり、音質は高い。差動PWM入力であればノイズにも強く、高音質を実現しやすく、さらに省電力となる音声出力方式だ」(深瀬氏)
動作電圧範囲は2.6〜5.5Vで、5V入力時の出力電圧は1.5W(負荷8Ω、全高調波歪率10%時)。スタンバイ時の消費電流は1μA以下に抑えている。動作温度範囲は−40〜+125℃で車載用半導体の品質規格「AEC-Q100」準拠の車載グレード品も2024年10月に量産を開始した。
「既に自動車のメータークラスタやETCシステムなどの車載機器用途も含めて多くの採用が決まっている。エアコンや炊飯器、給湯器といった家庭用機器や火災警報機、自動販売機など幅広い用途での引き合いがあり、かなり良い手応えをつかんでいる。マイコンを使って音を鳴らす機器であれば何でも提案できるオーディオアンプとして、広く販売する」(日清紡マイクロデバイス 営業本部 営業統括部 プロモーション推進課 石田考広氏)
日清紡マイクロデバイスは、NA1150をベースとする複数の応用製品の開発を計画している。単3電池などのバッテリーで駆動する機器用に動作電圧範囲を1.8〜5.5Vに拡張した「NA1150B」の開発はほぼ終わっており、「要望があればすぐに提供を始めたい」(石田氏)。ダイナミックスピーカーよりも価格が安い圧電スピーカー(ピエゾサウンダー)に対応する「NA1180」も開発中だ。圧電スピーカーで十分な音量を確保するにはより高い電圧で駆動させる必要があり、NA1150に昇圧電源回路を追加するなどして対応する計画だ。
「バッテリー動作や圧電スピーカーに対応することで、マイコンで音を鳴らすあらゆる用途でサイズ、コスト、設計の手間を低減できるPWM直接駆動が実現する。新しいスピーカーオペアンプの定番商品になることを目指す」(石田氏)。NJM4558の“安心、手軽で、誤動作がない”という特長をしっかりと受け継いだNA1150の今後に注目だ。
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提供:日清紡マイクロデバイス株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2024年12月20日